大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 平成13年(う)42号 判決 2002年2月04日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中150日を原判決の懲役刑に算入する。

理由

1  本件控訴の趣意は、弁護人野島幹郎作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

2  所論は、要するに被告人が共謀して覚せい剤を密輸したと認定するには、なお合理的な疑いがあり、共謀の事実を認定した原判決には事実誤認があって、被告人は無罪であるというのである。

そこで、所論に鑑み記録を調査し、当審における事実取調べの結果を参酌して検討するに、被告人が立川満こと梁鐘萬、松波源こと鄭智源及び具箕本らと共謀の上、覚せい剤約100kgを営利目的で輸入したこと(うち、麻袋在中の覚せい剤約99kgに関する関税法違反罪〔禁制品輸入罪〕については未遂)を認定しうることは、原判決が適切に説示しているところであり、原判決に所論指摘の事実誤認があるとは認められない。すなわち、被告人の本件覚せい剤密輸入の謀議の内容を立証する証拠である具箕本の大韓民国の公判廷における供述を記載した公判調書は、具が国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであると認められるのであり、また、その公判供述は、大韓民国の裁判官、検察官及び弁護人が在廷し、公開の法廷で、質問に対し陳述を拒否することができることを告げられた上でなされたものであり、かつ、覚せい剤の密輸ないしあっせんに関する共謀及び故意を否認する立川及び松波と両名の弁護人も在廷し、その反対尋問を経ており、特に信用すべき情況の下にされたものであることも認められるから、刑事訴訟法321条1項3号により証拠能力が認められ、同公判調書の翻訳文は同法323条1号により証拠能力が認められる(以下、具の公判調書及びその翻訳文を併せて「具供述」という。)。

具供述は、被告人らによる本件覚せい剤の密輸入についての謀議の内容を具体的、明確に述べたものであり、具、立川及び松波の出入国状況、本件犯行に使用された船舶である林洋冷2号の航行状況とも符合しており、矛盾はないこと、林洋冷2号が境港に入港した後に、同船内から発見押収された日本製携帯電話による具及び松波との交信記録が残されていること、被告人から具及び金弼の名刺のほか、立川及び松波の携帯電話の番号等が記載された手帳が押収されていること等、具供述を裏付ける証拠もあり、具供述は十分に信用することができる。

また、被告人は林洋冷2号から下船する際に黒色鞄を携帯していたが、これはその在中物等により被告人の所有するものであると認められること、同鞄内に覚せい剤約1kgがあったこと、同覚せい剤はその余のシジミ入り麻袋に入れられていた覚せい剤約99kgと、その成分も同じで、同じ材質のビニールテープが包装に使用されており、被告人が林洋冷2号の急速冷凍庫内に隠匿していた黒色ビニール袋に入った粒状の物一塊りの一部であることが認められるのであり、被告人が林洋冷2号により運んできた覚せい剤約100kgの中から約1kgの覚せい剤を別に前記黒色鞄に入れ、これをその余の約99kgの覚せい剤とは別の方法で陸揚げしようとしたものであると認められる。

以上によれば、被告人の本件覚せい剤密輸入の故意及び共謀の事実が認められることは明らかである。論旨は理由がない。

3  よって、刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却し、刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中150日を原判決の懲役刑に算入し、当審における訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例