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広島高等裁判所松江支部 平成13年(う)53号 判決 2003年3月24日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役12年及び罰金500万円に処する。

原審における未決勾留日数中750日をその懲役刑に算入する。

その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

第1  本件控訴の趣意は,弁護人吾郷計宜作成の控訴趣意書及び意見書記載のとおりであるからこれを引用する。

第2  所論は,被告人を懲役14年及び罰金500万円に処した原判決の量刑は重きに失し,被告人に対しては懲役5年ないし6年程度の判決が言い渡されるべきである,というのである。

そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討するに,覚せい剤の密輸入という本件の罪質,大規模,計画的かつ組織的な犯行であるという本件の態様,輸入しようとした覚せい剤の量が約101kgと極めて多量であること,とりわけ,被告人は,本件貨物船A号の多数の乗務員らを本件犯行に巻き込み,覚せい剤を隠した大型消火器2本の本件貨物船への積み替えにも自ら立ち会い,本件貨物船の出航後はいち早く来日して,他の共犯者と連絡を取り合いながら,日本での本件覚せい剤の受取り,保管について綿密な準備をし,本件貨物船がa港に入港後も,同船に乗り込んで船長と打ち合わせをするなど,末端価格にして約10億円(1グラム1万円として)にものぼる本件犯罪の遂行に向けて主導的かつ中核的な役割を果たしていること等の事情を総合すると,被告人の刑事責任は極めて重大である(なお,所論は,被告人は,本件の首謀者であるBに雇われ,その指示,命令を受けて本件犯罪に関与したにすぎない旨主張するが,Bが本件貨物船の乗組員らに対し,被告人をビッグボスと紹介するなどしていること,被告人は,2万米ドルの報酬での覚せい剤の密輸を一旦は拒絶したC船長に対しもっともっと金を出す旨の動作をして密輸を説得するなどしていることに加え,前記のとおり被告人は本件犯行の多くの重要な部分に自ら積極的に関与していること等の事実に照らすと,被告人が単にBの指示,命令により覚せい剤の密輸に向け行動していたとは断定し難い。)。

そうすると,本件は覚せい剤取締法違反の点が未遂,関税法違反の点が予備に止まり,幸いにして覚せい剤が社会に拡散すること自体は未然に防止されたことなど被告人のために斟酌すべき事情を十分考慮しても,原判決の量刑は,その宣告時においてみる限り,罰金額も含めて重きに過ぎて不当であるとまではいえない。

しかしながら,当審における事実取調べの結果によれば,被告人は,原審では,犯行を否認し,本件貨物船に積み込んだ大型消火器2本の中に覚せい剤が隠してあったことを全く知らなかったなどと主張して本件公訴事実を争っていたが,原判決後,本件の重大性にあらためて気づき,当審においては一転して公訴事実を認めるに至り,反省を深めていると考えられること,また,原判決後,D協会に200万円,E協会に400万円の合計600万円の贖罪寄附をしていること,香港にいる被告人の妻が当公判廷に出廷し,遠い故郷から一日も早い被告人の帰国を子供らとともに心から待っている旨証言していることが認められ,これらの点も加え,あらためてその量刑を検討すると,現時点でなお原判決の量刑を維持することは酷に過ぎ,これを破棄しなければ明らかに正義に反するものといわねばならない。

第3  よって,刑事訴訟法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い,直ちに当裁判所において自判することとし,原判決が適法に認定した事実に原判決挙示の各法令を適用し,その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役12年及び罰金500万円に処し,刑法21条により原審における未決勾留日数中750日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,なお原審及び当審における訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用してこれを被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本定雄 裁判官 吉波佳希 裁判官 植屋伸一)

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