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広島高等裁判所松江支部 平成13年(行コ)1号 判決 2002年9月27日

控訴人 鳥取税務署長

代理人 吉川浩平 楫屋光男 阿井賢二 ほか6名

被控訴人 X1(仮名) ほか1名

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、被控訴人らが控訴人に対し、亡X1及び被控訴人X2の各平成8年分所得税につきなされた各過少申告加算税賦課決定は、国税通則法65条5項該当事由があるのにもかかわらず、これがないものとしてなされたものであるから違法であるとして、これらの賦課決定の取消しを求めた事案である。

2  争いのない事実等(証拠により認定した事実については、証拠を掲記する。)

次のとおり訂正するほかは、原判決4頁1行目から6頁11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決4頁2行目の「原告X1」を「亡X1」と改め、以下原判決引用部分中の「原告X1」をいずれも「亡X1」と改める。

(2)  原判決4頁4行目の「原告X2」及び5頁8行目の「原告X2」をいずれも「被控訴人X2」と改める。

(3)  原判決4頁5行目の「妻である。」の後に改行して、次を加える。

「亡X1は、平成13年5月20日死亡し、その子である被控訴人X3がその余の相続人の相続放棄により、単独で相続した。」

(4)  原判決4頁7行目以下原判決引用部分中の「原告ら」をいずれも「亡X1及び被控訴人X2」と改める。

3  争点

本件各修正申告における各修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)の提出が、国税通則法65条5項に定める「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるか否か

4  争点についての当事者の主張の要旨

(1)  被控訴人ら

原判決8頁1行目の「原告ら」を「亡X1及び被控訴人X2」と改める他は、原判決7頁8行目から8頁8行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(2)  控訴人

国税通則法65条5項の解釈としては、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手してその申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識したうえで修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないこと、言い換えれば同事実を認識する以前に自ら進んで修正申告を確定的に決意して修正申告書を提出することを必要とし、かつ、それをもって足りると解すべきであるが、修正申告書の提出が調査の前記段階後になされたときは、修正申告の決意は同段階後になされたものと事実上推定すべきであり、この推定を破るためには、例えば、調査の着手後でかつ調査が前記段階に至る前に、修正申告の決意とその内容を税務職員に進んで開示する等のことが必要であると解すべきであり(東京高裁判決昭和61年6月23日税務訴訟資料152号419頁参照)、この事実上の推定を破るための事情としては、経験則上、「調査が前記段階に至る前における修正申告の決意とその内容の自発的開示行為(またはこれに匹敵する税務職員に対する客観的行為)」が必要であると解すべきである。

本件においては、平成9年3月28日ころ、税務職員の調査は本件各長期譲渡所得の申告漏れの事実を把握したうえで、亡X1及び被控訴人X2が本件各確定申告を依頼したA税理士の事務所に電話して問い合わせをする等しており、調査はこの時点で更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達しており、本件各修正申告書が提出されたのは、その後である同年4月24日であるから、亡X1及び被控訴人X2の本件各修正申告の決意は、調査が前記段階後になされたものと事実上推定される。そして、この事実の推定を破るべき税務職員に対する客観的行為はなされていないから、本件各修正申告書の提出は、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には該当せず、本件各賦課決定は適法である。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、本件各修正申告における本件各修正申告書の提出が、国税通則法65条5項に定める「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に当たるものであり、同条項の適用がないものとしてなされた本件各賦課決定は違法な処分であるから、いずれも取り消されるべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決9頁8行目の「<証拠略>」を「<証拠略>」と改め、9行目の「<証拠略>」の次に「<証拠略>」を加える。

(2)  原判決10頁3行目以降引用部分の「原告X1」をいずれも「亡X1」と改める。

(3)  原判決10頁3行目の「原告X2」を「被控訴人X2」と改める。

(4)  原判決10頁5行目の「B」の次に「(以下、C及びBを併せていう場合は「B夫妻」という。」を加える。

(5)  原判決10頁5行目の「等分の」を削除し、同行の「共有地」の次に「(持分各4分の1)」を加える。

(6)  原判決10頁9行目以降引用部分の「原告ら」をいずれも「亡X1及び被控訴人X2」と改める。

(7)  原判決11頁5行目の「証人A」を「A」と、同行以降引用部分の「証人A」をいずれも「A税理士」とそれぞれ改める。

(8)  原判決12頁2行目の「賛同した。」を「賛同したため、亡X1及び被控訴人X2は、B夫妻とともに平成8年分の所得税について、本件土地の売却代金による長期譲渡所得を除外して確定申告し、その後に同所得について修正申告をすることにより高額納税者の公示の対象とならないようにすることとした。」と改める。

(9)  原判決12頁4行目の「証人D」を「D」と改め、同行の「(以下「証人D」という。)」を削除する。

(10)  原判決12頁10行目から13頁2行目までを削除する。

(11)  原判決13頁10行目の「誤信し、」の次に「確定申告期限までに本件土地の譲渡所得を除外してB夫妻の各確定申告をし、その後」を加える。

(12)  原判決13頁11行目の「修正申告書」の前に「各」を加える。

(13)  原判決14頁3行目の「後日」を「平成9年5月16日」と改め、同行の「公示された」の次に「(この公示の内容は、同月17日新聞報道された。)」を加える。

(14)  原判決14頁7行目の「証人E」を「E」と、同行以降引用部分の「証人E」をいずれも「E調査官」とそれぞれ改める。

(15)  原判決14頁8行目の「始めるとともに」を「始め、平成9年3月26日には本件各確定申告について本件各長期譲渡所得が除外されていることを認識し」と改める。

(16)  原判決16頁7行目の「まず、」から25頁10行目の「いうべきである。」までを、次のとおり改める。

「国税通則法65条5項によれば、過少申告がなされた場合であってもその後修正申告書の提出があり、その提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときには過少申告加算税を賦課しないこととされており、その趣旨は、過少申告がなされた場合には、修正申告書の提出があったときでも原則として過少申告加算税は賦課されるものであるが、「申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知」することなく自発的に修正申告を決意し、修正申告書を提出した者に対しては、例外的に過少申告加算税を賦課しないこととし、もって、納税者の自発的な修正申告を歓迎し、これを奨励することを目的とするものというべきである。また、同条項の文理からすれば、申告に係る国税についての調査が開始された後に修正申告書の提出があった場合においても、それが当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでない場合には過少申告加算税を賦課しないとされていることも考慮すると、同条項の解釈としては、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手してその申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識したうえで修正申告を決意し修正申告書を提出したものでないこと、すなわち、同事実を認識する以前に自ら進んで修正申告を確定的に決意して、これに基づいて修正申告書を提出することを必要とし、かつ、それをもって足りると解すべきである。

2  そこで、これを本件についてみるに、亡X1及び被控訴人X2は、B夫妻とともに、高額納税者として公示されることを回避するために、A税理士が税務署において高額納税者の公示のための資料収集手続が終了すると考えていた平成9年4月20日ころにその終了を確認したうえで、本件各長期譲渡所得についての修正申告をする決意をしたうえで本件各長期譲渡所得を除外して本件各確定申告をし(同年3月13日)、この決意に基づいて同年4月24日本件各修正申告書を控訴人に提出して、本件各修正申告をしたものと認められるというべきである。すなわち、亡X1及び被控訴人X2としては、意を通じていたB夫妻が予定どおり修正申告をすれば、本件各長期譲渡所得を除外して本件各確定申告がなされていることは税務職員に容易に発覚するものであることは自明であったというべきであり(実際にもB夫妻の平成9年3月25日の各修正申告によりE調査官は翌日の同月26日には亡X1及び被控訴人X2の本件各確定申告において、本件各長期譲渡所得が除外されていることを認識している。)、本件各長期譲渡所得に係る所得税を免れる可能性はほとんどなかったものであって、亡X1及び被控訴人X2のみが予定に反して本件各修正申告をしないという事態は想定し難いものといえるから、亡X1及び被控訴人X2は、本件に関するE調査官の調査開始以前から修正申告をする決意をしていたものと認められ、また、本件各修正申告がE調査官による問い合わせから約1か月後になされている点は、A税理士のいささか怠慢を思わせる点はあるものの当初の予定からするとそれほど遅延しているものではなく、本件に関するE調査官の調査開始以前からの修正申告の決意に基づいて本件各修正申告がなされたものと解することの妨げにはならない。

なお、亡X1及び被控訴人X2は、本件各確定申告の時点において、これらが過少申告となることは当然認識していたものであるから、本件に関してE調査官から問い合わせがあった平成9年3月28日の時点で、将来の更正の可能性を予知したものということができるが、前記のとおり、本件各修正申告の決意はそれ以前になされていたものと認められる本件においては、同事実は前記判断に差違をもたらさない。

控訴人が引用する東京高裁判決の、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手してその申告が不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後調査が進行し先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、修正申告書の提出がなされたときは、修正申告の決意は同段階後になされたものと事実上推定すべきであり、この推定を破るためには、例えば、調査の着手後でかつ調査が前記段階に至る前に、修正申告の決意とその内容を税務職員に進んで開示する等のことが必要であると解すべきである旨の判示は、国税通則法65条5項の適用による過少申告加算税を賦課しないことが例外的な処置であることからして、傾聴すべきで、事実上の推定をいう点は当裁判所も異論がないが、事実上の推定を破る事情についての例示は、一つの例であるというにすぎず、同推定を破るためには必ず税務職員に対する関係で修正申告の決意と内容を開示することが必要であると解するものであるとすれば、裁判所の自由なる心証形成を、特段の法的根拠もなく制限するものであってこれは取り得ないというべきである。」

(17) 原判決25頁11行目の「(なお、被告は」から26頁11行目の「与えない。」までを、次のとおり改める。

「被控訴人らは、平成9年3月13日、亡X1が本件各確定申告書に押印するためにA税理士事務所に来所した際、亡X1の面前で、A税理士が鳥取税務署の資産課税部門に電話して、後日修正申告する旨を担当の統括国税調査官に伝言してくれるよう申し入れたと主張し、これに沿う証人A、証人Dの各証言部分及び亡X1の供述部分等が存するが、確定申告書の提出前に修正申告する旨を伝えたという点の不自然さからして、他に客観的裏付けのない前記各証言部分及び供述部分はそのままには採用できず、認めるには至らない。しかし、同事実は、前記判断に影響を及ぼさない。」

(18) 原判決28頁6行目の「(なお、」から9行目の「付言しておく。)」までを削除する。

(19) 原判決28頁11行目から29頁1行目にかけての「ことは否定できない」を削除する。

2  よって、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本定雄 吉波佳希 植屋伸一)

〔参考〕 第1審 鳥取地裁 平成11年(行ウ)第1号 平成13年3月27日判決

主文

一 被告が原告らの平成八年分の各所得税について平成九年五月一六日になした各過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一 本件は、原告らの平成八年分所得税につき被告がそれぞれ過少申告加算税賦課決定をしたことについて、原告らが、国税通則法六五条五項の適用により過少申告加算税を賦課することはできないから、右条項の適用はないものとしてなされた右過少申告加算税賦課決定は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

二 争いのない事実等(証拠等により認定した事実については、その認定に用いた証拠を適宜掲記した。)

1 当事者

原告X1は、平成九年当時、学校法人鳥取県東部自動車学校(以下「東部自動車学校」という。)の理事長の地位にあった者であり、原告X2は、原告X1の妻である。

2 本件訴訟に至る経緯

(一) 原告らの平成八年分の各所得中にはそれぞれ土地譲渡による長期譲渡所得(以下「本件各長期譲渡所得」という。)が含まれていたが、原告らは、別表一<略>及び二<略>のとおり、平成九年三月一三日、原告らの平成八年分の各所得について本件各長期譲渡所得の金額を記載しないまま、それぞれ確定申告(以下「本件各確定申告」という。)をした(<証拠略>)。

その後、原告らは、別表一<略>及び二<略>のとおり、平成九年四月二四日、本件各長期譲渡所得の金額をそれぞれ二億五二六五万円と記載して、それぞれ修正申告(以下「本件各修正申告」という。)をした(<証拠略>)。

これに対し、被告は、別表一<略>及び二<略>のとおり、同年五月一六日、原告らに対し、原告X1については過少申告加算税の額を一〇〇九万九〇〇〇円とし、原告X2についてはその額を一〇四三万七五〇〇円として、それぞれ過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をした(<証拠略>)。

(二) そこで、原告らは、同年七月一五日、本件各修正申告は、いずれも、国税通則法六五条五項所定の「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもの」ではないから、同条一項に基づく過少申告加算税を賦課することはできないと主張して、本件各賦課決定について、それぞれ異議申立てをしたが、被告は、同年一〇月一三日、右各異議申立てをいずれも棄却する旨の異議決定をした(<証拠略>)。

原告らは、右異議決定を不服として、同年一一月一二日、国税不服審判所長に対し、それぞれ審査請求をしたが、同所長は、平成一〇年一〇月三〇日、右各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした(<証拠略>)。

(三) そこで、原告らは、平成一一年一月二九日、本件訴訟を提起した。

三 争点

本件各修正申告における修正申告書(以下「本件各修正申告書」という。)の提出が、国税通則法六五条五項に定める「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもの」であるか否か。

四 争点についての当事者の主張の要旨

1 原告ら

本件各修正申告は、東部自動車学校における経営上の事情があって所得税法上の高額納税者公示を避けるため、当初より確定申告日から時期を遅らせて修正申告する計画の下に、確定申告日から三九日後に自発的になされたものであり、本件各修正申告書を提出するまでの間、被告から一、二度、本件各長期譲渡所得につき、原告らの関与税理士へ問い合せ等があったが、それらとは無関係に、右のとおり、当初の計画に基づいて自発的になされたものであるから、本件各修正申告書の提出が、国税通則法六五条五項の「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもの」でないことは明白であって、過少申告加算税を賦課することはできず、本件各賦課決定は、同条項の解釈適用を誤った違法な処分であり、いずれも取り消されるべきものである。

2 被告

原告らは、本件各修正申告書提出時において、被告によって原告らの平成八年分所得税についての調査がなされていることを知っており、いずれ更正があるべきことを予知していたといえるから、原告らの主張する国税通則法六五条五項の適用の余地はなく、同条一項に基づいてなされた本件各賦課決定はいずれも適法である。

第三証拠

書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する判断

一 <証拠略>によれば、本件各修正申告に至る経緯の概要に関して、次のような事実が認められる。

1 現在、東部自動車学校の学校用地となっている鳥取市松並町三丁目<番地略>ほか四三筆の合計一万五三四七・四二平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)は、もともとは、原告X1、原告X2、原告X1の実姉であるC及びその夫であり東部自動車学校の元理事長でもあるBら四名の等分の共有地であったが、平成八年一〇月二五日、右四名から東部自動車学校に対し、総額一二億円で売却譲渡されたものである。

原告X1は、右譲渡による所得である本件各長期譲渡所得が高額となるため、いずれは高額納税者の公示により原告らの名前が公表されることになるが、そうなれば、右譲渡の事実が東部自動車学校の労働組合に知れるところとなり、今後の労使交渉においてそのことが話題に取り上げられて経営者側が窮地に立たされかねないと考え、高額納税者の公示に名前が載らないようにしたいと思い、そのことをBにも相談していた。

2 ところで、原告らは、本件各長期譲渡所得については、平成九年三月の確定申告を予定し、税理士である証人Aに対し、右確定申告の手続を依頼していたが、同年二月下旬ころ、原告X1は、東部自動車学校の実質的な関与税理士であるF税理士とBから、このままでは高額納税者の公示に名前が載るので、それを避けるために修正申告する方法をとるのがよい旨の教示を受けた。

そこで、原告X1は、証人Aに対し、F税理士の右提案について相談したところ、証人Aは、過去に同様の方法をとったことがある旨の説明をして右の修正申告の方法について賛同した。

当時既に、証人Aの税理士事務所(以下「A税理士事務所」という。)の担当事務員である証人Dは、本件各長期譲渡所得を含めて計算した確定申告書の草案を作成するなどの準備を開始していたが、右の修正申告の方法により、本件各長期譲渡所得を記載しないで確定申告をすることとなったため、A税理士事務所においては、その旨の計算をした本件各確定申告書を作成し、同年三月一三日、これらを被告に提出した。

証人Aは、同日、本件各確定申告書に押印するためにA税理士事務所に来所した原告X1の面前で、鳥取税務署の資産課税部門へ架電し、原告らの確定申告については事情があって後日修正申告する旨を担当の統括国税調査官に伝言してくれるよう申し入れた。

なお、証人Aは、被告においては毎年四月二〇日ころに高額納税者の公示のための資料収集手続を終了するものと思っていたので、同年四月二〇日ころにその終了を確認した上で、本件各長期譲渡所得についての修正申告をする予定としていた。

3 ところで、右の修正申告の方法の発案者であり、B夫妻の関与税理士でもあったF税理士は、同年三月一五日の確定申告期限を経過すれば、それ以降になされた申告については、高額納税者の公示の対象とならないものと誤信し、同月二五日、証人Aと連絡をとることなく、B夫妻の修正申告書を添付書類とともに被告に提出したが、右公示の対象となるのは、所得税法施行規則一〇六条により、三月三一日までになされた申告とされていたため、B夫妻の修正申告後の納税額等は、鳥取県における第一位及び第二位の納税額として後日公示された。

4 B夫妻の右修正申告書の添付書類である売買契約書(<証拠略>)等により、本件土地の共有者であった原告らの平成八年分所得に本件各長期譲渡所得があったことを知った鳥取税務署の統括国税調査官である証人Eは、直ちに被告内部での資料等の検討の調査を始めるとともに、平成九年三月二八日、A税理士事務所に電話を架け、原告らの本件各長期譲渡所得について問い合せをしたが、同事務所の事務員は、その時証人Aが出張で不在だったため、証人Aが出張から帰り次第連絡させる旨答えた。

同年四月二日、出張から帰った証人Aは、右問い合せに対する回答として、鳥取税務署の資産課税部門に電話を架け、原告らが高額納税者として公示されると、東部自動車学校の労働組合との問題が生じて困るので、後日、本件各長期譲渡所得について修正申告書を提出する旨を証人Eに伝言して欲しいと連絡した。

5 そして、同年四月二〇日ころ、証人Aは、被告において高額納税者公示のための資料収集手続が終了したことを知ったが、その際、B夫妻が高額納税者の公示の対象となっていることや同年三月三一日までの申告分が公示対象となることも知った。

同月二一日、証人Eから証人Aに対し、原告らの修正申告書の提出を催促する電話があったので、証人Aは、近日中に修正申告書を提出する旨回答した。

同月二三日、証人Aは、証人Eに電話を架け、同月二四日に原告らの各修正申告書を提出すると説明した。

6 同年四月二四日、証人Aは、原告らの本件修正申告書を被告に提出した。

二 前記争いのない事実及び右一に認定した事実に基づいて検討する。

1 まず、国税通則法六五条五項に規定する「その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたもの」という要件について検討するに、同条項が「その提出が、・・・調査があったことにより・・・更正があるべきことを予知してされたもの」と規定されていることからすると、<1>客観的要件としては、「調査なければ修正申告なし」という関係(相当因果関係)の存在が必要であり、<2>主観的要件としては、修正申告者において、調査があったことを認識し、その認識に基づいて、将来において更正がなされる可能性があると予測したことが必要であると解するのが相当である。そして、右<2>の更正可能性を予測したか否かの判断基準時については、修正申告がなされた時点における修正申告者の内心は、通常、修正申告の意図(動機)を最もよく表しているものといえ、修正申告がいかなる認識のもとに提出されたのかを解明するためには、その時点における当事者の内心を探求するのがもっとも合理的であるといえること、同条項は「修正申告書の提出があった場合において、その提出が、・・・予知してされたものでないときは、」と規定されており、現実になされた修正申告の提出が予知してなされたものであるか否かを問う形式となっていることなどからすると、修正申告書の提出時を基準として、当該修正申告者が、更正の可能性を予測して修正申告書を提出したものであるか否かを判断するのが相当である(なお、右<2>の更正可能性の予測の有無の判断は、結局のところ、修正申告者が、過少申告の状態にあることを認識していたか否か、課税庁の調査の段階ないし程度についてどのような認識をしていたか、などの事情を総合的に勘案した上でせざるを得ない。そして、過少申告であることを認識していた者については、調査があったということさえ認識すれば、その調査の段階ないし程度についての認識がどのようなものであったとしても、通常は、将来の更正の可能性を予測したものといえるが、過少申告であることを過誤等により認識していなかった者については、その者が認識した調査の段階ないし程度の内容により、将来の更正の可能性を予測したか否かが分かれるといえる。また、右<1>と<2>の要件の関係については、<2>の主観的要件が充たされる場合には、通常、<1>の要件があることが推認されるが、特段の事情がある場合、例えば、調査とは無関係に修正申告を提出する意思を確定的に有していてそれに基づいて申告書を提出した場合や調査とは無関係に修正申告をせざるを得ない客観的状況下において修正申告を提出した場合等、調査がなくても修正申告がなされたであろうということが推認できる場合には、「調査なければ修正申告なし」という関係が認められないから、<1>の要件が充たされたことにはならないというべきである。)。

なお、被告は、確定申告が過少申告となっていることを認識している者が、調査があったことを認識した以上、将来における更正を予知したといえるのであり、そのような心理状態で修正申告をした以上は、それ以前の時点において確定的に修正申告をする意図を有していたことがあったとしても、将来の更正を予知して修正申告を提出したことになる旨主張する。

しかしながら、修正申告の意図(動機)として複数のものが併存し得ることは否定できないし、また、その併存し得る複数の意図(動機)の強さや程度もそれぞれ異なり得るのである。そして、国税通則法六五条五項が、結果としては課税のための調査にかかるコストをできるだけ少なくするという機能ないし効果を有していることは否定できないとしても、その趣旨が、申告納税方式による課税においては、納税者が正確な納税額を自発的に申告することを基本としており、たとえ確定申告日を経過して事後的になったとしても、なおも納税者による正確な納税額の自発的申告を奨励することにあると解されるのであって、同条項の主眼は、あくまで申告者による正確な納税額の自発的申告を奨励するところにあるといえる。したがって、右のような場合においても、同条項の適用がなく、過少申告加算税が賦課されるとすると、かえって納税者の自発的修正申告の意欲を減退させることにもなりかねず、相当ではないから、被告の右主張を採用することはできない。

2 次に、国税通則法六五条五項に規定されている「調査」について検討するに、同条項の趣旨が、前記説示のとおり、納税者による正確な納税額の自発的申告を奨励することにあると解されることからすれば、同条項に規定する「調査」とは、調査が自発的でない修正申告を決意させる事情となったものであれば、その内容や程度を問わないとするのが右趣旨に合致するから、右調査とは、当該申告者の申告義務の要否等について課税庁がなす一連の思考ないし判断過程の一切をいうものと解すべきである(なお、原告は、調査が更正に至ることを認識する端緒となるものである以上、その調査自体が、客観的な段階として、やがて更正に至ることが確実であるという状態にまで至っている必要があり、かつ、そのような状態にあることが外部的にも認識し得る状態になっている必要があると主張するが、そのように解さなければならない論理的必然性があるわけではなく、また、仮に、原告のような見解に立てば、納税者が何らかの事情でそのような程度ないし状態に至っていない調査がなされたことを知ったことにより、更正を免れようとして自発的ではない修正申告をした場合にも、過少申告加算税が賦課できないという不都合も生じかねないから、原告の右主張は採用することができない。)。

3 以上を本件についてみるに、原告らは、高額納税者の公示を回避するために、当初から、修正申告をする意図(動機)を持った上で、本件各長期譲渡所得を記載しないまま本件各確定申告をした後に、本件各長期譲渡所得について本件各修正申告をしたものであること、本件土地の共有者であるB夫妻が現実に自発的な修正申告をしたこと、そのため、本件各確定申告当時の時点において、既に、その後のB夫妻による修正申告によって原告らの本件各長期譲渡所得の申告漏れが被告に対して明らかになるのはほぼ確実な状況であったといえること、したがって、原告らが、本件各修正申告をしなければ本件各長期譲渡所得に係る所得税を免れることができるという状況にあったとはいえないことなどの事情が認められ、これらの事情からすると、被告による調査がなされなくても、原告らがいずれは修正申告をしたであろうことが推認できるから、本件における被告の調査の程度がいかなるものとしても、調査なければ修正申告なしという関係は認め難いといわざるを得ない。

そして、本件各修正申告が、被告の調査がなされたことによって、当初の計画より早くあるいは逆に遅く提出されたというような事情もうかがわれないところ、たとえ、原告らが、本件各修正申告書の提出時においては、自らが過少申告の状態にあることを知っていたため、本件についての被告の調査を認識したことにより、将来の更正の可能性を予測したとしても、それは、原告らが当初から修正申告書提出の意図(動機)を有していたことからするとむしろ当然のことであって、被告の調査を認識したことが本件各修正申告書提出の決定的な意図(動機)になったものとは認め難いのである。

そうすると、結局のところ、本件においては、右1の<2>の要件は認められるが、右1の<1>の要件は認められないから」本件各修正申告の提出は、調査があったことにより更正を予知してなされたものとはいえず、本件については、国税通則法六五条五項の適用により、同条一項に基づく過少申告加算税を賦課することはできないというべきである。

三 なお、被告は、本件に関する事実関係を一部争い、平成九年三月一三日に証人Aが鳥取税務署の資産課税部門に架電したことも同年四月二一日に証人Aが証人Eに架電したこともないなどと主張し、その他本件各修正申告に至る経緯について前記一の認定と異なる主張をしているが、その裏付けとなる書証としては、証人Eほか作成の調査メモ(<証拠略>)があるものの、それらの記載は重要な箇所において不正確な記載があり、その信用性については疑問が残るし、証人Eの証言や同人作成の陳述書の記載は、いずれも、右のとおり、その裏付けとなるべき客観的証拠の信用性に疑問があるので、直ちに採用することはできないから、被告の主張に係る事実をそのまま認めることもできないし、仮に、被告の主張に係る事実が認められたとしても、右説示のとおりであるから、本件の結論に何ら影響を与えない。

また、被告は、当初から適法な確定申告をしないままに修正申告をした者については、国税通則法六五条五項が適用されるべき状況にあると評価することはできない旨主張するので検討するに、確かに、申告納税方式においては、確定申告期日までに正確な納税額を申告することが義務づけられており、理由のいかんを問わず、意図的に不正確な納税額を申告をすることは、右法制度の趣旨に沿わない行為であることは否めないが、同条項の解釈適用に関する限りにおいてみれば、同条項は、確定申告が客観的に過少申告であったときに修正申告書が提出された場合について規定しているのであって、当該過少申告が過誤によるものなのか意図的になされたものなのかを問わない文言となっていること、同条項の適用がある場合には、重加算税も賦課されないが(国税通則法六八条一項参照)、この場合は、むしろ意図的に納税を免れようとした場合も含むものと考えられること、また、意図的に過少申告した者であっても、後に改心して自発的に修正申告をしたのであれば、その者に対し国税通則法六五条五項による過少申告税免除の恩恵を与えるのが自発的な納税申告を奨励するという同条項の趣旨や税政策により沿うものであるともいえることなどからすると、被告の右主張を採用することはできない(なお、同条項の要件の解釈については、前記説示のとおりであって、申告者が、事前に、課税庁に対し、後日修正申告を提出する予定であることを通知しただけで直ちに同条項の要件が充たされるわけではないことを付言しておく。)。

四 よって、本件各賦課決定は、いずれも、国税通則法六五条五項の解釈を誤ってなされたものであって、その点についての違法があることは否定できないから、取消しを免れない。

第五結語

以上によれば、原告らの本訴請求は理由があるから、これを全部認容することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内藤絋二 一谷好文 三島琢)

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