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広島高等裁判所松江支部 平成13年(行コ)5号 判決 2002年9月20日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が,Aに対し,平成11年12月17日付けでした島根県江津市a町b番地から同市c町d番地への酒類販売場移転許可処分を取り消す。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

事案の概要は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決3頁5行目の「組合法の規定」の次に「,とりわけ,後記平成9年の同法改正による1条,42条5号の文言の変更(別紙「対照表(内容に着目)」記載のとおり)等」を加え,同8行目の「をも図ることを目的」を「を図ることを並立的な目的」と改める。

2  原判決3頁8行目の次に改行して次のとおり加える。

「なお,酒税法の条文の実際的な構造からして,「酒税の保全」に直接関わるのは,酒類業者のうち酒類製造業者のみで酒類販売業者ではないから,組合法のみならず酒税法上も,酒類販売業者に関しては,「酒税の保全」という目的はその実質が形骸化し,希薄なものとなっているというべきである。」

3  原判決5頁10行目の次に改行して次のとおり加える。

「(ウ) 酒類業組合は,組合法上,酒類業免許を受けた者の組合加入を拒めないし(組合法10条),かつ酒類業免許を受けた者の総数の3分の2以上を確保しなければ,その設立,存続が許されないもので(同法14条3項),かかる組合法上の規定に従えば,酒類業組合が酒類免許の付与につき法律上の利害関係を有するのは当然である。」

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人らは本件訴えにつきいずれも原告適格を有しないもので,控訴人らの本件訴えはいずれも却下すべきものと判断するが,その理由は,次のとおり補正するほか,原判決中の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断(争点(1)について)」記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決9頁11行目の次に改行して次のとおり加える。

「なお,控訴人らは,酒税の保全に直接関わるのは,酒類業者のうち酒類製造業者のみで酒類販売業者ではないから,酒税法上,酒類販売業者に関しては,酒税の保全という目的はその実質が形骸化し,希薄なものとなっているというべきである旨主張するが,酒税法がいわゆる庫出税方式により酒類製造者にその納税義務を課しているとはいえ,酒税の保全は,酒類製造者から酒類販売業者,そして消費者へと流れる酒類の流通過程における円滑な酒税の転嫁なくしてはその目的を達しがたいと考えられることに照らすと,酒税の保全という目的実現に向けての酒類販売業者の地位を軽くみることはできず,酒税法上,酒類販売業者に関し,酒税の保全という目的がその実質において形骸化し,希薄なものとなっているとの控訴人らの見解に容易に賛同することはできない。」

2  原判決10頁25行目の「できる任意団体であり,」を「でき(組合法5条2号),」と改める。

3  原判決11頁1行目の「42条4号」の次に「,これは後述のとおり,酒類業組合による密造酒の販売禁止の宣伝,広告等を念頭に置いたものと解せられる。」を加える。

4  原判決11頁5行目の「制定されたものである。」の次に次のとおり加える。

「そして,組合法制定当時の参議院大蔵委員会会議録には,組合法に関し,次のような内容の政府委員の答弁がある。「酒税が国税収入のうちに占める地位に顧み,酒税の保全と酒類の取引の安定を図ることが肝要であると存ぜられますので,この際,酒類製造業者等が組合を組織し,酒類の自主的な需給調整を行うことができることとすると共に,酒税の保全のため必要な措置を講ずることができるようにするため,この法律(組合法)案を提出した次第であります。」「・・最近漸く生産の面につきましては規制を図らなければ酒税の滞納となり,或いは脱税となり,酒税全体ががたがたになるというようなことが言われておるわけであります。で,酒税はなんと申しましても国税収入中に占める割合も大きいわけでございます。酒類の価格の8割,7割というものは酒税でございますので,業者よりもむしろ大蔵省のほうがこの酒類の取引についての安定を図る要求が強いわけでございます。しかもこういうような情勢がありますと同時に,最近独占禁止法も緩和され,・・・最近では或いは重要産業につきましての独禁法の除外規定等が作られるように聞いております。そんなような空気を感じまして,原則的には酒税の保全を図るというような建前,それと同時に業界自体も酒税保全の見地から取引の規制を図ろうと,こういうような趣旨でこの法律を作ったわけでございます。・・・制度の許される限度内の取引の規制を製造業者,販売業者についてやっていく,而も業界だけの力でやって行けないような場合には,これは何といっても酒税が大きな要素を占めておりまするので,政府がその場合には発動するというような建前をとっております。もうひとつ,酒類の表示義務,或いは酒税滞納の場合の特殊な勧告,こういうような制度も盛り込みまして,酒税法の補完法といたしまして酒税の賦課徴収の完全を期したい,こういうような趣旨がこの法律(組合法)の狙いである,こういうふうに私ども考えておるわけでございます。」「第2章酒類業組合となっております。・・・従来も任意的な団体があるわけでございますが,これを酒税の徴収補助の見地から団体を結成させ,団体の力によって酒税保全のために取引の規制をいたそう,こういう趣旨でございまして,製造業者,販売業者が酒税の保全に協力し,及び共同の利益を増進するため,それぞれ酒類業組合を作ることができることにしたのが3条の狙いでございます。」「7条の組合の地区でありますが,・・而もこの狙いは酒税の保全でございますので,何といっても賦課徴収の第一線であります税務署を単位にして作るというのが原則でございますが・・・」「第3節は設立でございます。第14条が組合の構成要件,・・・酒税の保全に協力するという意味で国から交付金が若干出ております。そういう組合の構成も僅かなものでは酒税の保全もつとまるまいという趣旨で,一定数以上の者が入っていなければならない,その資格を有する者の総数の3分の2以上入らなければ設立することはできない。・・・」「42条が若干重要でなかろうかと思いますので・・特に申し添えます。・・・酒造組合,酒類組合は何をやるかということでございますが,ここに列挙してありますように,何と言いましても酒税保全の見地が第一でございますので,酒税保全の協力ということで趣旨が出ております。・・・それから酒税法違反の自発的予防というような,4号に変な文句がありますが,密造酒の取締り,密造酒の販売をやめようじゃないかというような宣伝,広告,こんなことも考えております。」(乙2)。」

5  原判決11頁5行目の「当時は,」を「このように,」と改める。

6  原判決11頁17行目の「「(乙1,弁論の全趣旨)。」の次に次のとおり加える。

「すなわち,この改正は,第140回国会において提出された「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律案」によるものであるが,この法律案の提出理由は,「我が国経済社会をより開かれ,自己責任原則と市場原理に立つ自由なものとしていくためには,規制緩和の推進とともに競争政策の積極的展開を図ることが不可欠であることにかんがみ,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等を行い,公正かつ自由な競争を一層促進する必要がある。」というものである(乙5)。また,この法律案要綱には,組合法の一部改正として,(1)過度の販売競争を防止するための酒販業組合による酒類の製造数量等の規制に関する協定に係る独占禁止法の適用除外制度を廃止すること,(2)酒類業者の経営の合理化を遂行するための酒類業組合による原材料の購入数量,購入価格,購入方法等の規制に関する協定に係る独占禁止法の適用除外制度を酒類の販売のための施設に関する規制,酒類の容器に関する規制その他の酒類の販売方法の規制に関する制度に縮減すること,(3)酒類製造業者が販売業者との間において締結する再販売価格維持契約に係る独占禁止法の適用除外制度を廃止すること,以上が掲げられている(乙6)。そして上記(1)の関係で,旧組合法42条5号が削除され,これに伴い,同法1条(目的)中,「酒類業者が組合を設立して酒類の適切な需給調整を行うことができる」とあるのが「酒類業者が組合を設立して酒税の保全に協力し,及び共同の利益を増進する事業を行うことができる」と改められた。上記(2)については,従前「合理化カルテル」に関する規定として旧組合法42条6号(「品質の改善,原価の引下げ,能率の増進その他組合員の酒類製造業の経営の合理化を遂行するため特に必要がある場合において,酒類の原材料の購入数量,購入価格又は購入方法に関する規制,酒類の販売方法に関する規制及び販売される酒類の品種又は意匠に関する規制を行う。」との規定)があったが,今までに使用実績がなく,価格・数量カルテル等の市場制約要因の強いものについては今後の使用見込みもないためこれを廃止することとし,他方,酒類の販売方法に関する規制については,現在の酒類業界が直面している,①未成年者飲酒防止等酒類の社会的規制の要請,②酒類容器のリサイクルの推進の要請,③酒類販売業界の構造改善事業への積極的な取組み等の要請に対し,今後酒類業組合が中心となって十分に対応していくために活用しうる制度に改めることとしたものであり,この趣旨に沿って,前記42条6号の「酒類の原材料の購入数量,購入価格又は購入方法に関する規制」及び「販売される酒類の品種又は意匠に関する規制」が削除され,これに伴い柱文の合理化カルテルの目的中,「品質の改善」が削除されるとともに,柱文の「経営の合理化」に「(酒類の取引の円滑な運行及び消費者の保護に資するために必要なものを含む。)」との文言が加えられ,酒類の社会的規制の観点が追加されるとともに,「酒類の販売方法に関する規制」に「酒類の販売のための施設に関する規制,酒類の容器に関する規制」という例示が加えられ,自動販売機の撤廃や容器リサイクルに関する規制が実施できるように改められ,新たに42条5号として規定された(乙1)。」

7  原判決12頁2行目の「組合法1条が」の次に「平成9年の改正前後を問わず,」を,同3行目の「規定内容」の次に「,平成9年の組合法改正の経緯」をそれぞれ加える。

8  原判決12頁4行目の「組合法は,」から同22行目までを次のとおり改める。

「組合法は,もともと,酒税の国税収入中に占める割合の大きさにかんがみ,酒税徴収補助の見地から酒類業組合なる団体を結成させ,団体の力によって酒税保全のための規制をさせるなどして酒類業界の安定を図り,もって,酒税法の補完法として,酒税の賦課徴収の完全を期そうとの趣旨で制定されたものと認められ,そうすると,同法は,酒税の確実な徴収をその本来的な目的としており,酒類業組合の自主的な規制によってもたらされる酒類業界の安定はそれに資するものとして位置づけられているものと考えられ,平成9年の改正も,規制緩和の推進等の動きの中で,酒類業組合による上記自主的規制に係る独占禁止法の適用除外制度の廃止,縮減を狙いとしたものであって,酒類業組合による酒類の販売方法に関する社会的規制に関する条文が新たに盛り込まれたものの,前記組合法制定の趣旨に変更を加えるものではないと解される(上記改正の際,同法1条に「及び共同の利益を増進する事業を行うこと」との文言が付加された事実(なお,前示のとおり,組合法制定時の政府委員の発言の中にすでにその文言がみられる。)もこれを左右するものではない。)。

このように,酒類業組合の制度は,そもそも組合法が酒税徴収補助の見地から設けたものであり,同法の酒類業組合による自主的な規制に関する諸規定(平成9年の改正により,酒類の販売方法に関する上記社会的規制が加わったものの,全体として同組合の規制権限は大幅に縮減されたといえる。)も,これによってもたらされる酒類業界の安定それ自体を直接保護しようとするものではなく,酒類業界の安定を通じての酒税の確実な徴収を確保しようとするものであると解せられること,このことは,平成9年の組合法の改正により,酒類業組合に酒類の販売方法に関する社会的規制の権限が与えられたことによっても変わりはないと考えられること(なお,この改正により酒類販売業の経営の合理化が前面に打ち出されたと評する控訴人らの主張は,前記改正の経過に照らし,直ちに採用できない。),組合法の全規定をみても,酒類業組合が,本件処分はもとより,酒税法に基づくいかなる処分に対しても,意見を述べたり,承諾を与えるような規定はなく,上記組合法制定の趣旨にかんがみても,組合法が,酒類業組合に,行政機関の違法な措置を是正するという権能を付与したとの趣旨を読みとることはできないこと,以上の諸事情を総合すると,酒類販売業者の販売場の移転が許可されないことによって酒販組合たる控訴人組合が得る利益は,酒税法はもとより,組合法によっても,その保護されるべき個別的利益とはいえず,酒税の徴収確保という財政目的から設けられた酒類販売業免許制度による反射的利益ないし事実上の利益にすぎないというべきであるから,控訴人組合には,行政事件訴訟法9条に定める本件処分の取消しを求めるについての「法律上の利益」がなく,控訴人組合は本件処分の取消しを求める適格がないというほかない。」

9  原判決14頁21行目から15頁7行目までを次のとおり改める。

「しかし,これらの主張が採用できないことは,前示のとおりである。

また,控訴人らは,酒類業組合は,組合法上,酒類業免許を受けた者の組合加入を拒めないし(組合法10条),かつ酒類業免許を受けた者の総数の3分の2以上を確保しなければ,その設立,存続が許されないもので(同法14条3項),かかる組合法上の規定に従えば,酒類業組合たる控訴人組合が酒類免許の付与につき法律上の利害関係を有するのは当然である旨主張する。

しかしながら,控訴人組合において,このような組合法の規定から,何ぴとが酒販免許を受けるかということについて組合員の変動にとどまらず,組合員の法定数を欠くことになって組合の存続そのものが問題となる場合はさておき,①酒類業組合の組合員たる資格を有する者の加入,脱退は任意であること(組合法5条2号,12条,17条),②酒類業組合は,同組合に加入せず,脱退した者に対しては,組合法に基づく自主的規制(権限であり,義務ではない(同法42条本文))を行うことはできないこと,③前に述べたように,組合法が酒類業組合の自主的規制による酒類業界の安定それ自体を直接保護しようとするものとは解せられず,また,同法の全規定をみても,酒類業組合に,行政機関の違法な措置を是正するという権能を付与したとの趣旨を読みとることはできないこと等に照らすと,酒類販売業者の販売場の移転が許可されないことによって控訴人組合が得る利益が組合法によって保護されるべき個別的利益とはいえないとする前記判断を左右するものではない。控訴人らのこの点の主張も採用できない。」

10  原判決15頁8行目から16頁8行目までを削除する。

第4結論

よって,原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本定雄 裁判官 吉波佳希 裁判官 植屋伸一)

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