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広島高等裁判所松江支部 平成14年(う)24号 判決 2002年9月30日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

1  本件控訴の趣意は,弁護人松原三朗作成の控訴趣意書記載のとおりであるから,これを引用する。

2  所論は,原判示第2の1及び2の公職選挙法違反の事実に関し,比例代表選出議員選挙において,その議員候補者のポスターを民家等に貼る行為は選挙運動に該当しないから,被告人は無罪である旨主張する。

しかし,本件のアルバイトの者らが行ったような,特定の比例代表選出議員候補者のために,そのポスターを,宣伝に有効な場所,方法かどうかを自ら判断選択したうえ,その適当と認めた場所,方法で,当該場所の所有者もしくは管理者の承諾を得て貼付する行為は,単に他人に命じられた場所,方法でこれを貼付する行為と異なり,機械的労務の範囲を超越するもので,特定の候補者のため投票を得させる目的をもってこれに必要かつ有利な行為を自ら判定実行するものとして,同法にいう選挙運動に当たるというべきであり,これと同旨の原判決に事実誤認はなく,論旨は理由がない。

3  次に,所論は,被告人がAから受け取った115万円は,比例代表選出議員候補者のためのポスター貼りに対するものではなく,選挙区候補者のためのポスター貼りに対するものであり,公職選挙法197条の2に定める実費弁償ないし報酬にあたるから,被告人は原判示第2の2の事実につき無罪である旨主張する。

しかし,原判決が【弁護人の主張に対する判断】5において説示するとおり,被告人がAから受け取った115万円が,比例代表選出議員候補者のポスター貼りに対するものであることは,被告人が平成13年7月31日にB選挙事務所に持参した同月25日付け請求書2通の内訳欄にそれぞれ「比例ポスター貼り」,「比例47名看板」と記載されていること,被告人はこの日Aから132万2945円(うち17万2945円は比例代表47名用の看板作成費用)を受け取ったが,その場で,うち115万円の領収書の但書欄に自ら「比例」と書き込んでいること,Aは,その後すぐに,前記領収書に「内金」「比例分」と記入するとともに,内訳欄に「比例ポスター貼り」と記された方の前記請求書に「内分 1150、000」と書き入れていることから推して,明らかであるといえる。Aから受け取った115万円が,選挙区候補者のためのポスター貼りに対するものであるとする被告人の供述は,これらの事実に照らし,信用できないものである。原判決に所論指摘の事実誤認はなく,論旨は理由がない。

4  よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却し,当審における訴訟費用につき同法181条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本定雄 裁判官 吉波佳希 裁判官 植屋伸一)

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