広島高等裁判所松江支部 平成14年(行コ)3号 判決 2003年3月14日
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人に関する部分をいずれも取り消す。
2 被控訴人の控訴人に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,被控訴人が控訴人に対し,被控訴人が鳥取県情報公開条例に基づき,同条例の実施機関である控訴人が保有する公文書の開示を請求したところ,控訴人が開示請求に係る文書の一部について,同条例所定の非開示情報に該当するとして,同部分を非開示とする旨の処分をしたため,同非開示部分の一部は,同条例所定の非開示情報には該当しないと主張して,その部分に係る非開示処分の取消しを求めた事案である。(なお,被控訴人の第1審被告鳥取県に対する,控訴人がした前記非開示処分により被控訴人の知る権利が侵害されたことによる損害賠償請求については,第1審において請求を棄却されたが,控訴がなく,同判決は確定している。)
2 争いのない事実等
次のとおり訂正するほかは,原判決3頁1行目から6頁11行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁7行目の「り,被告鳥取県」から8行目の「地方公共団体であ」までを削除する。
(2) 原判決6頁9行目の「以外の部分」の次に「(①本県警察職員のうち警部補及び同相当職以下の職にある者の印影,②本県警察職員の職員コード番号,③旅行業者の印影,④職員の取引金融機関名及び口座番号,⑤捜査活動用務に係る支出負担行為書及び支出仕訳書のうち,捜査中の事件に関する部分,⑥警察装備品関係用務に係る支出負担行為書及び支出仕訳書のうち,用務先が明らかになる部分)」を加える。
(3) 原判決6頁10行目の「外の部分」の次に「(①本県警察職員のうち警部補及び同相当職以下の職にある者の印影,②警察庁職員のうち警部及び同相当職以下の職にある者の氏名及び印影,③本県警察職員の職員コード番号,④警察庁職員の連絡コード番号)」を加える。
3 争点
原判決6頁13行目から20行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
4 争点に関する当事者の主張
原判決6頁24行目から12頁8行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人がした本件処分1ないし3は,いずれも違法であり,取り消されるべきものであって,被控訴人の控訴人に対する請求はいずれも理由があるものと判断するが,その理由は,次のとおり訂正するほかは,原判決12頁24行目から21頁24行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決13頁16行目の「したがって,」から21行目の「いうまでもない。」までを,次のとおり改める。
「 したがって,本件条例のこのような基本構造に照らすと,ある情報が同条例9条2項各号に規定された非開示情報に該当することについては,その立証責任は実施機関側にあり,当該情報が非開示情報に該当することが証明されなかった場合には,当該情報を非開示とすることは許されなかったものであって,非開示とする旨の処分は違法なものというほかなく,当該処分は取消しを免れない。」
(2) 原判決14頁18行目の「部分である」の次に「。」を加え,同行の「が,これらの」から22行目の「とおりである。」までを削除する。
(3) 原判決14頁26行目の「明らかである。」の後に改行して,次を加える。
「本件条例9条2項3号アに該当するというためには,当該情報を開示することによって当該事業者の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることを要するところ,元来は事業者が内部限りにおいて管理して開示すべき相手方を限定する利益を有する情報であっても,事業者がそのような管理をしていないと認められる場合には,これが開示されることにより正当な利益等を害するおそれがあることにはならないものというべきである。」
(4) 原判決15頁4行目から16頁25行目までを,次のとおり改める。
「本件非開示部分1及び4の各情報のうち事業者の取引金融機関名及び口座番号(以下「口座番号等」という。)は,証拠(乙3の1・2,5の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,飲食業者等が飲食代金等(食糧費として支出されるもの)の請求書に飲食業者等である債権者が記載したものであり,代金の振込送金先を指定する趣旨のものであると認められる。そして,一般的な飲食業者等の業務態様をみれば,不特定多数の者が新規にその顧客となり得るのが通例であり,代金の請求書に口座番号等を記載して顧客に交付している飲食業者等にあっては,口座番号等を内部限りにおいて管理することよりも,決済の便宜に資することを優先させているものと考えられ,請求書に記載して顧客に交付することにより,口座番号等が多数の顧客に広く知れ渡ることを容認し,当該顧客を介してこれが更に広く知られ得る状態に置いているものということができる。このような情報の管理の実態にかんがみれば,顧客が鳥取県であるからこそ債権者が特別に口座番号等を開示したなどの特段の事情がない限り,本件非開示部分1及び4の各情報のうち口座番号等は,これを開示しても債権者の正当な利益を害するおそれがあるものには当たらないというべきである。そして,本件において,上記の特段の事情があることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本件非開示部分1及び4の各情報のうち口座番号等は,いずれも本件条例9条2項3号アに該当するとはいえない。」
(5) 原判決17頁1行目から18頁3行目までを,次のとおり改める。
「証拠(乙18,27の1・2)によれば,鳥取県会計規則147条に,「証拠書類に押す印鑑は,法人その他の団体にあっては,その代表者の職員,その他の者は実印又は認印とする。」と規定され,鳥取県会計規則の運用方針及び留意事項についての定めにより「(鳥取県会計規則147条に定める証拠書類に押す印鑑は)法人その他の団体にあっては,定款等により,社印及び職印(法人登録に使用された印)をもって請求及び領収させること。」とされていることが認められるが,本件条例においては,公文書開示の方法について,閲覧又は写しの交付等の方法によるものとされている(本件条例8条)から,印影が開示されることにより飲食業者等の印影を偽造し,これを不正の目的に使用することはほとんど考えられず,前記口座番号等について述べたところからすれば,請求書に押捺されている飲食業者等の印影は,これを開示しても債権者の正当な利益を害するおそれがあるものとはいえない。
したがって,本件非開示部分1及び4の各情報のうち印影は,いずれも本件条例9条2項3号アに該当するとはいえない。」
(6) 原判決18頁20行目から26行目までを削除する。
(7) 原判決19頁1行目の「イ」を「ア」に,15行目の「ウ」を「イ」に,21頁18行目の「エ」を「ウ」に,それぞれ改める。
(8) 原判決20頁8行目の「数件にわたる」を削除する。
(9) 原判決20頁9行目の「乙10」の次に,「,19」を加える。
(10) 原判決21頁4行目から5行目にかけての「明確で合理的な説明ができていない」を「合理的な理由は見出し難い」と改める。
(11) 原判決21頁22行目の「であると断定することはできない。」を次のとおり改める。
「ということはできない。
控訴人は,本件条例9条2項4号の文言に基づき,非開示情報該当性について,実施機関に裁量権がある旨主張するが,同号の非開示情報に該当するというためには,公共の安全と秩序の維持等に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由があるといえる場合なのであって,相当の理由の有無についての判断には実施機関の裁量が働く余地はなく,この点についての控訴人の主張は採用できない。」
(12) 原判決21頁24行目の「ものと解するのが相当である」を削除する。
2 よって,本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮本定雄 裁判官 吉波佳希 裁判官 植屋伸一)
<以下省略>