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広島高等裁判所松江支部 平成15年(ネ)42号 判決 2003年10月24日

主文

1  原判決中,控訴人A及び同Cに関する部分を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は,控訴人Cに対し,40万円及びこれに対する平成13年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被控訴人は,控訴人Aに対し,10万2275円及びこれに対する平成13年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  控訴人A及び同Cのその余の請求をいずれも棄却する。

2  控訴人Bの控訴を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人C,控訴人A及び被控訴人に生じた費用の各10分の1を被控訴人の負担とし,控訴人C及び控訴人Aに生じたその余の費用を同控訴人らの負担とし,被控訴人に生じたその余の費用を控訴人らの負担とし,控訴人Bに生じた費用を同控訴人の負担とする。

4  この判決第1項(1),(2)は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は,控訴人Cに対し,1042万2431円及びこれに対する平成13年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は,控訴人Aに対し,200万4550円及びこれに対する平成13年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人は,控訴人Bに対し,100万円及びこれに対する平成13年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

6  第2ないし4項につき仮執行宣言

第2事案の概要

本件は,当時小学校5年生の控訴人Cが被控訴人の飼犬に咬まれて傷害を負い,後遺障害が残ったとして,被控訴人に対し,控訴人Cが民法718条に基づき,その両親である控訴人A及び控訴人Bが民法709条,710条に基づき,損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。これに対し,被控訴人は,控訴人Cが被控訴人の飼犬に咬まれたことを否認し,仮に被控訴人の飼犬が控訴人Cを咬んだとしても,被控訴人において相当な注意をもって飼犬の保管をなした旨,仮に被控訴人において飼犬の保管につき不注意があったとしても,控訴人Cにも過失が認められるので過失相殺がなされるべきである旨主張する。

その他事案の概要は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決2頁9行目から同17行目までを削除する。

2  原判決3頁2行目の「以下」の前に「当時4歳,」を加え,「飼っていた。」を「飼って占有していた。」と改める。

3  原判決4頁6行目の「主張するが,」の次に「これはせいぜい「犬をいじめるな。」という趣旨にしか理解できないのであり,」を加える。

4  原判決4頁17行目から同20行目までを削除する。

5  原判決5頁1行目の「ない状況であり,」を「状況であり,夜も熟睡できず,」と改める。

6  原判決5頁8行目の「見られる。」を,「見られるもので,美容上違和感のある傷痕が現存している。」と改める。

7  原判決6頁11行目の「原告Aと同様,固有の慰謝料を求める。」を「控訴人Bは,本件咬傷事件の発生により,控訴人Cの治療,看護にあたるとともに,学校等への連絡や告訴等に忙殺され,平成13年度は前年度に比べて大幅な減収となったので,この点も考慮して固有の慰謝料あるいは逸失利益として請求するものである。」と改める。

第3当裁判所の判断

当裁判所の判断は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決7頁17行目から同23行目までを削除する。

2  原判決7頁24行目の「(2)」を「(1)」と,8頁20行目の「(3)」を「(2)」と,「前記2(2)ア」を「前記2(1)ア」と,9頁18行目の「(4)」を「(3)」と,10頁8行目の「(5)」を「(4)」とそれぞれ改める。

3  原判決8頁9行目の「その後,」から同10行目の「至っている。」までを削除する。

4  原判決9頁3行目の「第三者」の次に「特に年少者」を,同7行目の「児童」の次に「等」をそれぞれ加える。

5  原判決9頁9行目の「必要である。」の次に「しかるに,被控訴人は,これらの事故防止措置を講ずることを怠り,本件咬傷事故を引き起こしたものと認められる。」を加える。

6  原判決9頁13行目の「人を咬む」の前に「年少者の接近が十分考えられる場所に繋留されており,」を加える。

7  原判決9頁16行目の「よって,」から同17行目の「理由がない。」までを「そうすると,被控訴人は,本件の犬の種類,性質に従い相当の注意をもってその保管をなしたものとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。よって,被控訴人は控訴人Cに対し,民法718条により同控訴人が本件咬傷事故により被った損害を賠償する責任がある。」と改める。

8  原判決10頁5行目の「より注意深く」の前に「状況いかんによっては本件の犬に咬まれるかもしれないことに用心して」を加え,同6行目の「手を差し出した」を「手を差し出し,顔を近づけるなどした」と改める。

9  原判決10頁8行目の「本件事故」から同9行目の「いなかったこと,」までを削除し,同10行目の「近づいたことであった」から同12行目の「相当である。」までを「近づくなどした行為が本件咬傷事故を誘発したものと認められるので,後記控訴人C及び同Aの損害額から5割を過失相殺として控除すべきである。」と改める。

10  原判決10頁16行目の「原告Cは」の次に「本件咬傷事故により,上口唇部挫創(犬咬傷),鼻部擦過創の傷害を負い,」を加え,同17行目の「通院」から「治癒したこと」までを「5針縫うなどの通院治療を受けたこと」と改める。

11  原判決10頁21行目から同24行目までを次のとおり改める。

「前記のとおり,控訴人Cは,本件受傷後通院12日間(実日数8日)の治療を余儀なくされたものであるが,特に当時の同控訴人の年齢,性別,傷害の部位・程度を考えると,その間の精神的苦痛は大なるものがあったことが認められ,傷害慰謝料は20万円をもって相当というべきである。」

12  原判決10頁25行目から11頁15行目までを次のとおり改める。

「イ 後遺障害慰謝料

証拠(甲2,9,控訴人B本人)によれば,D病院の医師Eは,傷害保険後遺障害診断書(甲2)において,控訴人Cには上口唇部に7ミリメートル×7ミリメートル大の瘢痕が存在し,隆起があり,知覚障害等はないが,美容上違和感がある旨診断していること,控訴人らは,控訴人Cの成長が止まる20歳ころに再手術をするよう医師に勧められていることが認められ,そうすると,控訴人Cには上記の後遺障害が残っているというべきであるところ,以上に,後記のとおり逸失利益が認められないこと,その他本件にあらわれた諸般の事情を加味すると,後遺障害慰謝料は60万円と認めるのが相当である。

ウ 逸失利益

控訴人Cには上記の後遺障害が残っていることが認められるが,その部位・程度からみて,これが労働能力に影響を与えると認めるのは困難であるから,控訴人Cの逸失利益の主張は理由がない。

エ したがって,控訴人Cの損害額は,上記ア,イの合計額である80万円となる。

オ 過失相殺

前記2(4)のとおり,上記エの損害額80万円から5割の過失相殺をすると,過失相殺後の控訴人Cの損害額は40万円となる。」

13  原判決11頁17行目から同23行目までを次のとおり改める。

「ア 控訴人Cの治療費

前提事実によれば,控訴人Aは,控訴人Cの本件咬傷事故による治療費4550円を負担したことが認められ,この費用は本件咬傷事故と相当因果関係のある控訴人Aの損害と認められる。

イ  慰謝料

直接被害者が生命を害された場合に比肩すべき,またはこれに比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けた近親者は,固有の慰謝料請求権を取得するというべきところ,控訴人Cの受傷の部位・程度,顔面醜状の状態等からすると,控訴人Aがいまだこのような程度の精神的苦痛を受けたとは認められないので,控訴人A固有の慰謝料請求は理由がない。

ウ  過失相殺

そうすると,控訴人Aの損害額は上記アの4550円となるが,損害の公平なる分担の見地から,前記控訴人Cの過失は控訴人Aに対する賠償額を定めるについても斟酌すべきであるといえるから,上記アの損害額4550円から5割の過失相殺をすると,過失相殺後の控訴人Aの損害額は2275円となる。

エ  弁護士費用

控訴人Aが控訴人ら代理人に本件訴訟追行を委任したことは記録上明らかであり,本件事案の内容,審理経過,控訴人Cの認容額等にかんがみると,控訴人Aが控訴人ら代理人に支払った弁護士費用のうち10万円は本件咬傷事故と相当因果関係にあるものとして被控訴人に負担させるのが相当である。」

14  原判決11頁25行目から同26行目までを次のとおり改める。

「前記のとおり,直接被害者が生命を害された場合に比肩すべき,またはこれに比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けた近親者は,固有の慰謝料請求権を取得するというべきところ,控訴人Aについて述べたところと同様に,控訴人Bがこのような程度の精神的苦痛を受けたとは認められないので,控訴人B固有の慰謝料請求は理由がない。なお,控訴人Bは,同請求の中で,本件咬傷事故により控訴人Cの治療,看護にあたるなどして減収となったことによる損害をも主張するが,同事故による控訴人Cの傷害の内容・程度,治療の内容・程度等に照らすと,本件咬傷事故と控訴人B主張の減収(OA機器の販売等)との間に相当因果関係を認めることはできないというべきであるから,控訴人Bのこの点に関する主張は理由がない。」

15  原判決12頁2行目から同9行目までを次のとおり改める。

「以上によると,控訴人らの本訴請求は,控訴人Cにつき40万円及びこれに対する本件不法行為の日である平成13年4月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し,その余の請求は失当であるから棄却し,控訴人Aにつき10万2275円及びこれに対する上記平成13年4月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し,その余の請求は失当であるから棄却し,控訴人Bにつき理由がないので棄却すべきである。」

第4結論

よって,控訴人C及び同Aの本件控訴はいずれも一部理由があるから,原判決中,同控訴人らに関する部分を上記のとおり変更し,控訴人Bの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 廣田聰 裁判官 吉波佳希 裁判官 植屋伸一)

<以下省略>

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