広島高等裁判所松江支部 平成15年(ネ)86号 判決 2004年1月30日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人に関する部分を取り消す。
2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,292万2100円及びこれに対する平成5年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
4 仮執行宣言
第2事案の概要
被控訴人鳥取県が開設した鳥取県立中央病院(以下「中央病院」という。)で人工骨頭置換手術を受けた患者であるE(以下「故E」という。)が,同病院の泌尿器科に転院後,鎖骨下静脈穿刺手術(IVH(中心静脈栄養)穿刺手術)を受けた翌日死亡した。本件は,故Eの妻である控訴人他3名が,故Eが死亡したのは,中央病院の医師である被控訴人F,同G(以下「被控訴人ら医師」という。)が,IVH穿刺手術を施行するに際して適切な経過観察を行わず,同手術の手技に失敗した過失によるものであり,また故Eの容態が急変した際に適切な救命治療を怠る過失があったなどと主張して,被控訴人らに対し,不法行為又は債務不履行による損害賠償を求める事案である。原審は,被控訴人ら医師に控訴人他3名が主張する過失は認められないとして,控訴人らの請求をいずれも棄却するとの判決をしたところ,控訴人はこれを不服として控訴した(その余の3名については,控訴がなく,同判決は確定した。)。
事実関係の概要は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」欄に記載(ただし,控訴人に関する部分)のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決3頁4行目の「同病院」の次に「の泌尿器科」を加える。
2 原判決3頁14行目の「再入院」から同行の末尾までを「再入院し同病院(被控訴人鳥取県)との間で上記傷病の治療を目的とする診療契約を締結した(以下,この入院を「本件入院」と,この契約を「本件診療契約」と,各いう。)。」と改める。
3 原判決6頁16行目の「手術」の前に「上記のIVH穿刺」を加える。
4 原判決7頁17行目の「生じさせ,」の次に「交感神経が昂進し,血管が収縮して」を,同19行目の「遅れにより」の次に「脳出血を起こさせ,」をそれぞれ加える。
5 原判決8頁5行目の「新鮮血」の次に「の下血」を,同11行目の「術後」の前に「人工骨頭置換」をそれぞれ加える。
6 原判決13頁21行目の「種大」を「腫大」と改める。
7 原判決24頁6行目の「胃」を「腎」と改める。
8 原判決27頁12行目の「2100万円」を「2100円」と改める。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが,その理由は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第5 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決28頁2行目の「故Eは,」から同7行目の「以上によると,」までを削除し,同11行目の「数回の」を「同年9月3日及び同月8日に」と,「同年9月13日」を「同月13日」とそれぞれ改める。
2 原判決28頁14行目の「中央病院」の前に「翌14日に」を,同22行目の「症状として,」の次に「同月16日ころには」を,同23行目の「手指」の前に「両」をそれぞれ加える。
3 原判決29頁1行目の「であったこと,」を「であり,腎不全に対する術前の全身コントロールを要したこと,」と改め,同7行目の「処方された。」の次に「同月24日の血液検査の結果は,前記「第3 争点に関する当事者の主張」1,(2)ア(ア)d(原判決11頁18行目から同23行目まで)に記載のとおりである。」を,原判決29頁9行目の「(本件手術)。」の次に「同手術後(同月30日)の血液検査等の結果は,前記「第3 争点に関する当事者の主張」1,(2)ア(ア)e(原判決12頁2行目から同9行目まで)に記載のとおりである。」をそれぞれ加え,原判決29頁14行目の「本件手術後の」を「本件手術後に血圧が低下するなどしたため,翌」と,同21行目の「同月4日」を「同月3日」とそれぞれ改める。
4 原判決30頁6行目の「投与することとした」の次に「(翌4日には投与中止)」を加え,同16行目の「濃厚赤血球(A型)」を「貧血解消のため濃厚赤血球(A型,400ml)2パック」と改め,「嘔気,嘔吐」の前に「絶飲食をしているにもかかわらず,」を,同22行目の「胆嚢腫張」の前に「リンパ節腫大はなかったが,」をそれぞれ加える。
5 原判決31頁5行目の「示された。」の次に「なお,内科診断に基づいて同日行われたアミラーゼ検査では,アミラーゼ上昇はごく軽度で,尿中アミラーゼも高値ではなかった。」を加え,同19行目と20行目との間に改行して次のとおり加える。
「セ 故Eが泌尿器科に転科,入院した平成5年10月1日から同人が死亡した同月8日までの間の故Eの血液検査の結果,尿量の変化,脈拍・体温の変化,症状の経過は,前記「第3 争点に関する当事者の主張」1,(2)ア(イ)c,d(a)ないし(d)(原判決14頁25行目から20頁5行目まで)に記載のとおりである。」
6 原判決31頁20行目の「セ」を「ソ」と,32頁4行目の「ソ」を「タ」と,同10行目の「タ」を「チ」と,33頁6行目の「チ」を「ツ」と,同18行目の「ツ」を「テ」とそれぞれ改める。
7 原判決31頁24行目の「同人に対し」を「控訴人の承諾を得て,故Eに対し,」と改める。
8 原判決32頁5行目の「同日ころ」を「平成5年10月7日の午前11時ころ」と改める。
9 原判決32頁16行目の「瞳孔も散大し,同日」を「瞳孔が散大(左>右)し,対光反射も消失して同日午前」と改める。
10 原判決33頁20行目の「カルテ(乙9)には,」を「被控訴人Fが作成したカルテの同日欄には,「IVH挿入す→うまく入らず,外科DrJに挿入してもらう」との記載があり(乙9),」と改める。
11 原判決34頁15行目の「なさて」を「なされて」と改め,同22行目から同23行目までを次のとおり改める。
「イ 以上によると,もともと故Eは,脳血管障害を引き起こしやすい慢性腎不全(平成5年9月以降およそ一週間に1回の割合で人工透析を受けていた。),高血圧症(前記のとおり,故Eの容態が急変する直前ころの収縮時血圧は190mmHg近くを持続していた。),脳梗塞症など種々の基礎疾患を有しており,これに本件手術(人工骨頭置換手術)を経て泌尿器科転院後の,腎不全(尿量減少など),麻痺性イレウス,消化管潰瘍による出血状態,低栄養状態などの不良な全身状態が加わって,急激な意識喪失等の発症経過をたどる脳幹付近の脳出血を起こし死亡したものと推認するのが相当である。
この点,控訴人は,故Eの死因について,人工骨頭置換手術後ストレス状態にあった故Eに対し,長時間にわたるIVH穿刺手術を試みたため,故Eに極度の精神的ストレスを生じさせ,これが原因で同人を脳出血により死亡させた旨主張する。
確かに,控訴人の日記をみても,人工骨頭置換手術後,故Eがかなりのストレス状態にあったことがうかがわれるが(甲8),前記のとおり,IVH穿刺手術の際に被控訴人Fにおいてカテーテルの挿入がうまくいかなかったため外科医であるJ医師が交代してこれを施行するなどしているものの,手術自体は,気胸,血胸など,ショックを引き起こす合併症を発症することなく終了しているうえ,同手術前後で,血圧,脈拍などのバイタルサインにも急激な変化はなく(むしろ手術後の血圧,脈拍とも手術前より一時低下している。),控訴人主張のIVH穿刺手術の四肢振戦も,すでに手術前から断続的かつ著明に出現していたものであり(乙9),同手術から約11時間が経過した後に,故Eの容態が全身けいれんを起こすなどして急変していることなどの事実にかんがみると,控訴人主張のように,IVH穿刺手術が故Eに極度の精神的ストレスを生じさせ,これが原因で同人を脳出血により死亡させたとまで認めるのは困難であるというべきである。控訴人のこの点に関する主張は理由がない。」
12 原判決35頁20行目の「の欄に,」の次に「『・・・本人は随分とイライラしている様子幻覚症状きびしいたまりかねてF先生と看護に状態を訴える月曜日脳内の先生へ診察していただこうと云ってくださる-安心だ』とあるように,控訴人が」を加える。
13 原判決37頁15行目の「上記(1)スのとおり,」の次に「IVH穿刺手術前に」を加え,同17行目の「じていた。」を「じており,術前に控訴人に対し,故Eに同手術を行うことについて承諾も得ていた。」と改め,同21行目から38頁12行目までを削除する。
14 原判決38頁13行目の「(ウ)」を「(イ)」と改める。
15 原判決39頁5行目の「あることが確認されている。」を「あって,気胸,血胸など,ショックを引き起こす合併症を発症したことをうかがわせる兆候も見当たらなかったことが確認されているうえ,前記のとおり,IVH穿刺手術前後で,血圧,脈拍などのバイタルサインに急激な変化はなく,控訴人主張の同手術後の四肢振戦もすでに手術前から断続的かつ著明に出現していたものである。」と改める。
16 原判決40頁2行目の「同日」の次に「午前」を加え,同13行目の「主張するが」から14行目末尾までを「主張するところ,救急措置をとった当直医は,主治医の被控訴人F医師と交代して病室を去ってはいるが,同被控訴人が亡Eの状況を把握できない場所に移動したとは認められない。」と,同18行目の「脳出血」から19行目の「照らすと」までを「急激な意識喪失等の発症経過をたどる脳幹付近の脳出血であって,生命中枢には既に回復困難な重篤障害が及んでいたと推認されることなどを総合すると」とそれぞれ改め,同20行目の「作為,不作為」を「過失」と改める。
17 原判決40頁26行目の「以上によれば,」の次に「被控訴人F医師及び同G医師に控訴人主張の医療行為上の過失があるとはいえず,また,本件診療契約に関し債務不履行があるともいえないから,」を加える。
第4結論
よって,原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 廣田聰 裁判官 吉波佳希 裁判官 植屋伸一)