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広島高等裁判所松江支部 平成18年(行コ)1号 判決 2006年10月11日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1本件控訴の趣旨

1  原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。

2  上記取消しに係る被控訴人の請求部分を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

鳥取県知事Bは,平成17年5月10日,鳥取県情報公開条例(平成12年鳥取県条例第2号-以下「本件条例」という)に基づき,その実施機関。として,鳥取県内に住所を有する第三者の請求により,同第三者に対し,宗教法人法25条4項等の規定に基いて,被控訴人から所轄庁(鳥取県知事)に提出された被控訴人の規則並びに,平成14年3月31日及び平成15年3月31日当時の代表役員名簿,責任役員名簿及び財産目録,平成13年度及び平成14年度の通常会計収支計算書(ただし,一部を除く。)を開示する旨の公文書部分開示決定をした(第200500012484号-以下「本件開示決定」という。)。

被控訴人は,上記公文書には,本件条例が不開示事由とする,法令等の規定又は実施機関が従わなければならない各大臣等の指示その他これに類する行為により公にすることができない情報が,また,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれのある情報が含まれている,また,本件開示決定は憲法20条に違反すると主張して,控訴人に対し,本件開示決定の取消しを求めた。これに対して,控訴人は,上記公文書の開示を禁止する法令等の規定はない,宗教法人から所轄庁に提出された書類の管理事務は,法定受託事務ではないから,文部科学大臣等が地方自治法245条の9第1項所定の処理基準を定めることはできない,本件開示決定は信教の自由を侵害していないと主張して,被控訴人の請求を争った。

2  訴訟経緯

原審裁判所は,宗教法人から所轄庁に提出された書類の管理事務について,上記事務自体は法定受託事務ではないものの,法定受託事務である書類の提出を受ける事務に附随し密接に関連するものであることなどから,文部科学大臣等は,地方自治法245条の9第1項に基づき,法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準の一部として,法的拘束力を有する一般的基準を定めることができると説示した。そして,原審裁判所は,文化庁次長が各都道府県知事に対し,本件開示決定以前に,宗教法人法25条4項の規定により宗教法人から所轄庁に提出された書類について,情報公開条例等に基づく開示請求があった場合,登記事項等の公知の事項を除いて,原則として不開示の取扱いをするよう通知しており,同通知は上記処理基準に該当し,したがって,本件開示決定に係る公文書の情報は,本件条例の規定上,実施機関が従わなければならない各大臣等の指示その他これに類する行為により公にすることができない情報に該当するとし,本件開示決定中,被控訴人の平成14年3月31日及び平成15年3月31日当時の責任役員名簿及び財産目録並びに平成13年度及び平成14年度の通常会計収支計算書の開示部分を取り消した。なお,原審裁判所は,本件開示決定中,その余の部分については,被控訴人が違法性を主張していないとして,同部分の取消請求を棄却した。

これに対して,控訴人が本件控訴を提起した。したがって,当審における審判の対象は,本件開示決定中,被控訴人の平成14年3月31日及び平成15年3月31日当時の責任役員名簿及び財産目録並びに平成13年度及び平成14年度の通常会計収支計算書の開示部分の取消請求の当否である(なお,本件開示決定中,その余の取消請求棄却部分については,被控訴人は不服を申し立てていないから,当審の審判の対象ではない。)。

3  前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実〔証拠の掲記のない事実は争いがない。〕)

原判決2頁12行目から同4頁25行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,次のとおり補正する。

(1)  原判決2頁17行目から18行目にかけての「鳥取県情報公開条例(平成12年鳥取県条例第2号。以下「本件条例」という。)」を「本件条例」に改める。

(2)  原判決3頁18行目から19行目にかけての「(以下「本件開示決定」という。)」を「(本件開示決定)」に改める。

4  争点

(1)  本件開示決定は本件条例9条2項1号に違反するか(本件文書は,法令等の規定又は実施機関が従わなければならない各大臣等の指示その他これに類する行為により公にすることができない情報か。)。

(2)  本件開示決定は本件条例9条2項3号アに違反するか(本件文書は,公にすることにより,当該法人等の権利その他正当な利益を害するおそれがある情報か。)。

(3)  本件開示決定は憲法20条に違反するか。

第3争点に関する当事者の主張

原判決5頁9行目から同10頁1行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決7頁3行目の「地方分権推進という地方分権一括法」を「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成11年法律第87号-以下「地方分権一括法」という。)」に改める。

第4当事者の当審における補充主張

1  控訴人の原判決批判

原審裁判所は,書類を管理する事務自体は自治事務に該当するとしながら,法定受託事務である書類の提出に附随し密接に関連するものであり,上記書類の公開に関して,国が所轄庁に対する法的拘束力を有する一般的な基準を示す必要性が認められるとして,文部科学大臣等は,地方自治法245条の9第1項に基づき,法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準の一部として,法的拘束力を有する一般的基準を定めることができると説示した。

しかし,以下のとおり,上記解釈は,地方自治法,地方分権一括法,ひいては憲法の地方自治の趣旨に反する,明らかな法令の解釈の誤りである。また,上記解釈は,一般的な基準を示す必要性があるというのみで結論を導いており,利益考量として不十分であって,一方の価値である憲法21条1項から導かれる「知る権利」を具体化した本件条例等に反する。

(1)  原判決の解釈が地方自治法に反することについて

ア 地方自治法245条の9に反すること

地方自治法245条の9第1項は,法定受託事務の処理について,各大臣が上記事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができると規定しているのであるから,その反対解釈として,自治事務の処理については,上記基準を定めることはできないことになる。原判決は,書類を管理する事務を自治事務であると解したのであるから,本件通知中,自治事務である書類を管理する事務に関する部分は無効又は法的拘束力がないと解するほかないはずである。

イ 地方自治法245条の2等に反すること

地方自治法245条の2は,普通地方公共団体は,その事務の処理に関し,法律又はこれに基づく政令によらなければ,普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け,又は要することとされることはないと規定し,関与の法定主義を採っている。しかるに,原判決は,「法定受託事務に付随し密接に関連する自治事務」という法律にない概念を作り出し,各大臣に都道府県の自治事務に対する関与を認めたことになる。また,自治事務について,国が関与する手段は,同法245条の5所定の「是正の要求」である。しかるに,原判決は,上記以外の方法での自治事務への関与を認めたことになる。

上記のとおり,原判決の解釈は,関与の法定主義に反するものである。

ウ 地方自治法2条8項,9項に反すること

地方自治法2条8項は,自治事務とは地方公共団体が処理する事務のうち,法定受託事務以外のものと規定し,同9項は,法定受託事務を規定している。原判決が説示する「付随し密接に関連する」という曖昧な概念は,自治事務と法定受託事務の範囲を不明瞭にし,地方自治における法的安定性を著しく損なうものであり,上記解釈は,地方自治法に反するものである。

(2)  原判決の解釈が「知る権利」を具体化した本件条例に反することについて

公文書の開示請求権は,憲法21条1項から派生する「知る権利」に由来する抽象的権利であるが,本件条例の定めによって,具体的権利として発生する。そして,法律の留保(行政の活動は法律に基づかなければならない)の観点からして,上記開示請求権を制約するためには,法律(条例を含む)が必要である。しかるに,本件通知は,文化庁から鳥取県に対してされた通知にすぎず,法律や条例ではないし,それらから委任を受けた規則や命令でもないから,それだけでは法規範性を有するものではなく,上記のとおり,書類を管理する事務は自治事務であるから,文部科学大臣等が一般的な基準を定めることができないのである。

本件条例によって,信者以外の県民が,宗教法人の事務所で閲覧できなかった書類を,開示請求によって入手できることが可能となる場合がある。しかし,これは,宗教法人法で,都道府県への書類提出制度を設けた時点で,法人内部の管理運営に関する私文書が都道府県の管理する公文書に変容することにより当然生じることが想定されている。そこで,控訴人は,信教の自由と県民の知る権利の調和・均衡を図るため,本件条例の趣旨に沿い,かつ,宗教法人法25条5項の規定に留意して,宗教法人の信教の自由を妨げると思われる部分は不開示として本件開示決定を行ったのである。

(3)  原判決の解釈が憲法等に反することについて

地方自治法245条の9第1項が法定受託事務の処理について規定しているにもかかわらず,これを拡張解釈して,法定受託事務と密接に関連する自治事務についても同条項の適用を認める原判決の解釈は,法律による行政(法治国家)の基本原理に反し,本件条例によって具体化された国民の知る権利,すなわち国民の情報公開請求権(憲法21条1項)を侵害するものである。また,上記のとおり,原判決の解釈は,地方自治における法的安定性を著しく損なうとともに,法律に基づかない不明瞭な基準によって国が自治事務を制限することを許し,地方分権一括法の趣旨に反するばかりか,憲法の地方自治の本旨(憲法92条,94条)に反するものである。

2  被控訴人

本件開示決定中,本件文書に係る部分の開示を取り消した原判決の結論は相当である。

ただし,原判決は,宗教法人法25条3項,4項が本件文書の開示を禁止した規定ではない,また,書類を管理する事務は自治事務であると説示するが,上記解釈には誤りがある。その解釈は,上記第3の被控訴人の主張のとおりである。

第5当裁判所の判断

1  争点(1)(本件開示決定は本件条例9条2項1号に違反するか)中,本件文書は法令等の規定により公にすることができない情報かについて

被控訴人は,宗教法人法25条3項,5項の各規定により,本件文書の開示が禁止されている旨主張する。

しかし,宗教法人法25条3項は,信者その他の利害関係人の宗教法人に対する,当該宗教法人の事務所に備えられた書類又は帳簿の閲覧請求に関する規定であって,所轄庁が宗教法人から提出を受けた書類(公文書)に関する規定ではない。また,同条5項も,所轄庁が上記提出書類を取り扱う場合の留意事項を規定するに止まり,上記文書の開示を一般的に禁止したり,開示に関する具体的基準を定めたものではない。

したがって,被控訴人の上記主張は採用できない。

2  争点(1)中,本件文書は実施機関が従わなければならない各大臣等の指示その他これに類する行為により公にすることができない情報かについて

(1)  地方自治法245条の9第1項は,都道府県の法定受託事務について,各大臣は,上記事務を処理するに当たりよるべき基準(以下「処理基準」という。)を定めることができると規定している。そして,上記のとおり,文化庁次長は,鳥取県知事を含む各都道府県知事に対し,本件開示決定以前に,平成16年2月19日付け「宗教法人法に係る都道府県の法定受託事務に係る処理基準について(通知)」をもって,宗教法人法25条4項の規定により宗教法人から提出された書類につき情報公開条例等に基づく開示請求があった場合,登記事項等の公知の事項を除き,原則として不開示の取扱いをするよう通知している(本件通知)。

そうすると,本件通知が,書類を管理する事務についての処理基準を含むものといえるか,いいかえれば,書類を管理する事務が法定受託事務に該当し,上記通知が処理基準に当たるかが問題となる。

(2)  宗教法人法25条4項,5項の規定の文言解釈

まず,宗教法人法25条4項,5項の規定の文言解釈が問題となる。すなわち,文言解釈上,上記書類管理事務が法定受託事務に該当すると解する余地がなければ,その余を検討するまでもなく,同事務は法定受託事務ではなく,自治事務であるといわざるを得ない。

宗教法人法25条4項は,「宗教法人は,毎会計年度終了後4月以内に,第2項の規定により当該宗教法人の事務所に備えられた同項第2号から第4号まで及び第6号に掲げる書類の写しを所轄庁に提出しなければならない。」と規定し,同条5項は,「所轄庁は,前項の規定により提出された書類を取り扱う場合においては,宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し,信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならない。」と規定している。そして,同法87条の2は,25条4項を第一号法定受託事務と規定し,25条5項は第一号法定受託事務と規定していない。

宗教法人法25条4項は,上記のとおり,宗教法人の所轄庁への書類提出義務を規定しているのであって,文言上,これに対する所轄庁の事務を具体的に規定していない。そこで,上記書類提出義務に対応する所轄庁の事務(法定受託事務)は何かを合理的に解釈する必要がある。この点,書類の提出を受ける事務であると限定的に解釈することも可能ではある。しかし,書類の提出を受ければ,同書類を保管し管理する事務が当然に発生するのであるから,上記のように限定的に解釈することが当然であるとはいえない。

同法25条5項は,同条4項を前提として,宗教法人から提出された書類を所轄庁が取り扱う場合の留意事項を規定したものにすぎないと解されるから,同条5項の規定は,同条4項が,書類を管理する事務を含めて規定していると解することの妨げとなるものではない。

そうすると,法定受託事務の趣旨や宗教法人法25条4項の趣旨等,さらには,事務遂行上の合理性等を考慮して,結論を出すしかない。

(3)  法定受託事務の趣旨

地方自治法2条9項1号は,法定受託事務(第一号)について,「…国が本来果たすべき役割に係るものであって,国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの」と規定する。

そうすると,宗教法人の所轄庁への書類提出義務に対応する所轄庁の事務について,単なる受領行為や事務的な保管行為のみを観念することは,上記法定受託事務の趣旨からは外れるといわざるを得ず,実質的な管理行為を観念することが,上記法の趣旨により合致すると考えられる。

(4)  宗教法人法25条4項の趣旨等

ア 宗教法人法25条4項の趣旨

宗教法人の所轄庁は,宗教法人に関して,規則の認証及びその取消し(宗教法人法14条,80条),公益事業以外の事業の停止命令(同法79条),解散命令の請求(同法81条)などの権限を有する。なお,上記権限は,いずれも第一号法定受託事務として規定されており(同法87条の2),平成11年法律第87号による地方自治法の改正によって,法定受託事務が創設される以前においては,いずれも機関委任事務とされていたものである。

宗教法人法25条4項が規定する宗教法人の所轄庁への書類提出義務は,平成7年法律第134号による宗教法人法の一部改正によって創設されたものである。そして,同項の趣旨は,上記改正によって同じく創設された宗教法人に対する報告徴収等の制度(同法78条の2)とともに,所轄庁が規則の認証及びその取消しなどの上記権限を適正に行使するには,当該宗教法人の業務又は事業の管理運営の実態を継続的に把握することが必要であるから,その判断資料として,宗教法人にその提出を義務づけたものである(弁論の全趣旨)。

上記のとおり,所轄庁が宗教法人から書類の提出を受ける趣旨は,法定受託事務である規則の認証及びその取消しなどの所轄庁の上記権限を適正に行使させるためのものである。そうすると,書類の提出のみに意義があるのではなく,むしろ,提出された書類を所轄庁が適切に保管して利用することによって,当該宗教法人の業務又は事業の管理運営の実態を継続的に把握することに重要な意義を有するといえる。

イ 宗教法人法のその他の規定との関係

宗教法人法25条3項は,「宗教法人は,信者その他の利害関係人であって前項の規定により当該宗教法人の事務所に備えられた同項各号に掲げる書類又は帳簿を閲覧することについて正当な利益があり,かつ,その閲覧の請求が不当な目的によるものでないと認められる者から請求があったときは,これを閲覧させなければならない。」と規定し,同規定は,平成7年法律第134号による宗教法人法の一部改正によって創設されたものである。上記規定の趣旨は,宗教法人として適正な管理運営を行い,その結果を書類として整えて事務所に備え付け,一定の信者その他の利害関係人に閲覧請求権を認めることにより,これらの者の利便を図るとともに,宗教法人の民主性,透明性を高めるというものである(弁論の全趣旨)。そして,上記規定は,宗教法人及びその関係者の信教の自由が害されることがないように配慮して,閲覧請求権者を信者その他の利害関係人に限定するとともに,閲覧の目的に正当な利益があり,閲覧請求が不当な目的によるものではないことを要件としており,閲覧請求を制限している。上記1の説示のとおり,同条3項は,所轄庁が宗教法人から提出を受けた書類に関する規定ではないものの,宗教法人の有する書類について,その閲覧によって当該宗教法人及びその関係者の信教の自由が害されることがないように配慮すべきであるとの宗教法人法の原則的な立場を示したものであるといえる。

そして,宗教法人法25条5項が,所轄庁が宗教法人から提出を受けた書類の取扱いについて,宗教法人の宗教上の特性及び慣習を尊重し,信教の自由を妨げることがないように特に留意しなければならないと規定していることを併せ考慮すれば,所轄庁が宗教法人から提出を受けたことにより,提出された書類は公文書として管理されることになるが,同文書の閲覧や開示についての宗教法人法の(宗教法人及びその関係者の信教の自由を害することのないように配慮すべきであるとの)上記原則的立場には変化がないといえる。

(5)  事務遂行上の合理性

宗教法人法5条1項は,宗教法人の所轄庁は,その主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事とする旨規定し,同条2項は,2以上の都道府県で宗教活動を行う宗教法人等の所轄庁は文部科学大臣と規定している。また,同法80条の2第1項は,規則の認証及びその取消し等の権限の行使については,所轄庁が都道府県知事であったとしても,国の機関である宗教法人審議会の答申を要件としており,地方自治法255条の2第1項は,上記処分に対する行政不服審査法による審査請求は文部科学大臣の所管と規定している。つまり,宗教法人法が規定する事務については,都道府県知事と文部科学大臣がそれぞれ所轄庁となる場合があり,都道府県知事が所轄庁である場合においても,文部科学大臣等が関与することがあり得るのである。

上記のとおり,宗教法人法の事務について,都道府県知事と文部科学大臣等が関与する仕組みになっていることからすると,宗教法人から提出された書類の管理,特に,その開示についての取扱いは,上記(4)イで説示した宗教法人法の原則的立場に照らしても,全国一律の基準に基づいて処理されるのが合理的であり妥当性を有すると認められる。また,上記取扱いについて,地方の特殊事情を考慮すべき特段の必要性があるとは考え難い。

(6)  総合的検討

上記の検討によれば,宗教法人法25条4項は,その文言解釈からも,書類の提出を受ける事務にとどまらず,提出された書類の管理についても規定したものと解釈する余地があるところ,同項の事務が法定受託事務であると規定されていることとの整合性,宗教法人法の上記基本的立場,上記書類の管理については,上記立場を考慮した上で,全国一律の基準に基づいて処理するのが合理的かつ妥当であると考えられることからすれば,書類を管理する事務は,法定受託事務であると解するのが相当である。

3  本件通知は,文部科学大臣から文化庁次長に対して与えられた職務権限に基づいて定められた処理基準であると認められ(乙3),本件条例9条2項1号にいう「実施機関が従わなければならない各大臣等の指示その他これに類する行為」に該当する。本件通知は,登記事項等の公知の事項を除き,原則として不開示の取扱いをするものとしているところ,本件文書は,いずれも一般に公開されていない非公知の事項であり,本件において,本件文書を例外的に開示すべき特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

したがって,本件文書は,実施機関が従わなければならない各大臣等の指示その他これに類する行為により公にすることができない情報と認められ,これを開示した本件開示決定は,本件条例9条2項1号に違反する。

第6結論

以上のとおりであり,その余を判断するまでもなく,本件開示決定(ただし,原判決で取消請求が棄却された部分を除く。)は取り消されるべきものである。これと結論において同旨の原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 橋本眞一 裁判官 次田和明)

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