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広島高等裁判所松江支部 平成20年(行コ)3号 判決 2009年3月13日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  事案の概要は,次のとおり付加,訂正するほかは,原判決2頁7行目から10頁13行目までを引用する。

原判決は,本件パチンコ店における遊技機の購入,交換等の権限を全く有せず,遊技機の管理等の職務に従事していたわけでもないA及びBは,遊技機の主基板を交換するということに関与し得べき地位に置かれていたとは到底言い難く,被控訴人にとってみれば,A及びBの行為は,その職務や権限とは無関係であるばかりか,Cを主犯とする不正出玉行為の被害者であるというべきであるから,A及びBの行為の外形をとらえて客観的に観察したとき,被控訴人のパチンコ店営業に関して行われたものと認めることはできない等と判断し,そうすると,本件違反行為は,被控訴人の従業者が「当該営業に関し」法令(法20条10項,9条1項)に違反したものとは言えないとして,被控訴人の請求を認容し,本件処分を取り消した。

これに対し,控訴人が,原判決は「営業に関し」(法26条1項)の解釈適用を誤った不当なものであるなどと批判し,本件控訴を提起した。

2  控訴人の補充主張

(1)  原判決は,「①本件違反行為は,いずれもCを主犯とするグループによる不正出玉行為の一貫としてなされたものであり,その中で,Aは,Cらが遊技機の主基板を交換することを可能とするために,勤務時間後にカードキーを利用して防犯システムを作動させるのを遅らせるなどし,Cらの本件パチンコ店への侵入を容易にするとともに,主基板交換作業中,見張りをしていたにすぎない」と,Aの関与の程度について低く認定している。

しかし,当時,Aは本件パチンコ店の班長の地位にあった者であるが,被控訴人の業務上の処遇においては,班長以上の従業員は一般従業員とは区別して責任ある仕事(勤務時間中は班長以上の者が必ず1人いなければならないことと決められていた。)を任されていたところ,本件パチンコ店における班長以上の従業員は,マネージャーのDと班長のEとAの3人であった。このうち防犯システムのカードキーを貸与されていたのは,DとAのみであり,Aは本件パチンコ店の管理について高い責任を有していた。原判決においては,Aは勤務時間後にカードキーを利用して防犯システムの作動を遅らせるなどしたと認定しているが,Aは単に防犯システムの作動を遅らせたものではなく,自らに与えられた地位を利用して防犯システムの作動を解除し,Cらを本件パチンコ店店内に導き入れたものであり,その関与の程度は高い。また,Aは,班長の地位にあったことから,パチンコ台の入替情報について,作業の約2週間前には入手できたことを悪用し,その情報をBらに伝え,Cらの違法行為を助長していた。

他方,原判決においては,Bの違法行為について認定を避けているが,Bは,主基板の違法改造が行われる際,Cの指示により,ホール北側にある倉庫の工具箱の中から,不正改造に使用するニッパー,ドライバー及びペンチ等の工具並びに手元を照らすライトを取り出して準備し,また,Cが主基板の交換作業中は,Cの手元をライトにより照らすとともに,遊技機内の全部の配線(コネクター)の取り外しや接続を行っており,本件違反行為に積極的に関与している。

(2)  原判決は,「②本件パチンコ店を含む被控訴人経営のパチンコ店内の遊技機の購入,変更については,被控訴人本社の営業部長に一任されており,本件パチンコ店の班長であるAや一般従業員であるBには,遊技機の購入,交換等を行う権限は一切与えられていなかった」と認定し,これをもとに「A及びBは,遊技機の主基板を交換することに関与し得べき地位に置かれていたとは到底言い難い」と判示している。

しかし,遊技機の扉を開け閉めするいわゆる台鍵については,ホール担当の従業員全員に貸与されており,主目的はコインの補充等とされているが,同一の台鍵により,遊技機が故障した場合の補修や出玉率の設定変更等も行えるものである。Bは,この台鍵を貸与されている地位を利用して,①本件違反行為に関し,主基板の交換をする準備行為として,開店準備中の朝や(営業時間中であっても)パチンコ台でパチンコ玉が詰まった等のトラブルが発生したとき(またはそう見せかけて),パチンコ台を開けて主基板に表示されている主基板番号を持っていたメモ帳に書き写し,それを携帯電話でCに対してメール報告していた,②主基板の交換を行ったパチンコ台が,(来店客が使用中に)電気回路がショートして故障した際,マネージャーに対して店の2階の倉庫にある予備のパチンコ台を使って応急措置すると嘘を言い,自分が車の中に保管していた正規な主基板を持ってきて,不正な裏基板と取り替えた(なお②の行為は,本件処分に係る不正改造事案ではないが,Bによる不正改造は,その地位を濫用して,外形上も通常業務(配線調整等)と何ら変わらない形態で行われていたものと認められる。)。

また,Aは,閉店後に,この台鍵を貸与されている地位により,スロット台の設定変更を行っていたものであり,主基板の変更も容易に行い得る状態にあった。

そうすると,B及びAには,遊技機の購入,交換等を行う権限は一切与えられていなかったとしても,「遊技機の主基板を交換することに関与し得べき地位に置かれていたとは到底言い難い」とは言えない。

(3)  原判決は,「パチンコ店の遊技機の購入,交換等の権限を有せず,遊技機の管理等の職務に従事していたわけでもない者は,遊技機の主基板を交換するということに関与し得べき地位にない」ことを理由に,「営業に関し」法令違反をしたものとは言えないとしているが,これは,一従業者による違法行為であれば営業者の責任を刑事上も行政上も一切問えないと判示するものであり,パチンコ営業や不正改造の実態,法の趣旨等に鑑みれば,この解釈は狭きに失する。「営業に関し」については,従業者の職務等も踏まえ,事実上,その地位の濫用により法令違反行為をなし得る地位(法令違反行為が想定される地位)にあるか否かにより判断されるべきものである。すなわち,「営業に関し」の判断は,一般的外形的に当該行為が営業主の業務に関するかを判断すれば足り,従業員の職務の内容や権限の範囲によって「営業に関し」の該当性が異なると解するのは誤りである。本件の不正改造は,本件パチンコ店における営業時間外の遊技機の点検,補修等の業務と外形上何ら異なるところがない。

(4)  A及びBは,不正改造された遊技機の存在を認識しながら,敢えてそのままにし,長いもので8か月近く本件パチンコ店内において営業に供していたのであるから,同人らの行為は,著しく客の射幸心をそそるおそれがある遊技機を設置してその営業を営んだとして,法20条1項にも該当する。したがって,Aらの行為は,法20条10項,9条1項の不正改造行為に該当するほか,法20条1項違反にも該当し,Aらの行為が営業に関してなされたものであることも,著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害することも明らかであるので,この点からも法26条1項の営業停止処分は免れ得ないことになる。なお,本件処分において,島根県公安委員会は本件処分の理由を島根県公安委員会の承認を受けないで遊技機の変更を行ったこととしていたが,取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であり(最高裁判所昭和49年7月19日判決参照),処分理由は攻撃防御方法に位置づけられるのであるから,行政庁は,原則として処分の効力を維持するための一切の法律上・事実上の根拠を主張できる(最高裁判所昭和53年9月19日判決参照)。したがって,控訴人が本件訴訟において,処分理由として法20条1項違反の主張を追加することに違法はない。

3  被控訴人の補充主張

(1)  本件処分の理由となった遊技機の基板交換は,Cを主犯とする犯罪グループによる不正出玉行為(窃盗)の準備行為としてなされたものである。その行為態様は,C及び氏名不詳者が,夜間,A及びBをして本件パチンコ店の機械警備を解除させて,同店に不法に侵入し,鍵箱内の台鍵で遊技機の扉を開けて,遊技機の基板を不正交換したものである。これらは,建造物侵入,偽計業務妨害,窃盗(正規基板の窃取)に該当する犯罪行為であり,その態様は,外形的に見てもおよそ正規の業務遂行とはかけ離れた異常なものと言わざるを得ない。したがって,この基板不正交換行為(不正改造)が「一般的,外形的に業務に属する」ものとは言えない。

また,本件で,業務主である被控訴人は,Cを首謀者とする犯罪(不正出玉行為など)の被害者である。部外者であるCの犯行は,被控訴人にとって,損害を被りこそすれ,利益になるものでもなく,その営業目的達成に資するものでもない。この点からしても,本件の基板不正交換行為(不正改造)は「一般的,外形的に業務に属する」ものとはなりえない。

Cは,窃盗(不正出玉行為)を目的とした不正基板交換を実行するため,元部下のBに働きかけた上,機械警備のカードキーを管理していたAを抱き込んで,機械警備を解除させて,不法に本件パチンコ店に侵入したものである。このように,Cが,A及びBを抱き込んだのは,夜間,同店の機械警備を解除させるためであった。そのため,A及びBが現に行った行為は,機械警備の解除により,C及び氏名不詳者の侵入を容易にさせたほか,せいぜいいわゆる見張り等の補助的な行為をしたに過ぎない。換言すると,A及びBは,機械警備の解除等により,Cらの不法侵入を助け,不正基板交換を幇助したに過ぎず,Cと共同して基板の交換をしたものではない。

このように,A及びBの行為は,それ自体において,基板を不正に交換したものとは言えず,両名の行為は「一般的,外形的に業務に属する」ものと言うことはできない。

(2)  本件パチンコ店の運営管理は,F営業部長(以下「F部長」という。)に一任され,同人が遊技機の購入,交換等の管理を行っており,A及びBは,遊技機の購入,交換等を行う権限を与えられていなかった。遊技機基板の交換に関与し得る職責,権限のないA及びBの行った行為は,当然にその職務と無関係になされたものであり,「一般的,外形的に業務に属する」ものとは言えない。

(3)  控訴人は,「営業に関し」の判断は一般的外形的に当該行為が営業主の業務に関するかを判断すれば足り,従業員の職務の内容や権限の範囲によって「営業に関し」の該当性が異なると解するのは誤りであると主張するが,業務主に対して行政処分を科すに当たっては,当該業務主に責任を問うことのできる合理的な根拠を要するところ,控訴人の主張するところは,およそ従業者が関与すれば当然に業務主に対して行政処分を科することができるとするものであって,行政処分の本質及び両罰規定による業務主の刑事責任に関しいわゆる過失推定説をとることを明らかにした最高裁判例(最高裁判所昭和32年11月27日判決等)の趣旨に照らし,容認することはできない。また,控訴人は,本件の不正改造は本件パチンコ店における営業時間外の遊技機の点検,補修等の業務と外形上何ら異なるところがないと主張するが,上記行為は,建造物侵入・偽計業務妨害・窃盗(正規基板の窃取)に該当する犯罪行為であり,その態様は,外形的に見てもおよそ正規の業務遂行とはかけ離れた異常なものである。

(4)  控訴人は,A及びBの行為は法20条1項の「著しく客の射幸心をそそるおそれのある遊技機を設置してその営業を営んだ」ものであるとし,本件処分の処分理由として法20条1項を追加すると主張する。

しかしながら,法20条1項は,無承認変更された遊技機の継続的設置を直接に禁止するものではなく,同項をもって独立の処分理由とすることはできない。

仮に,控訴人主張のように法20条1項が別個の処分理由となり得るとしても,A及びBの権限,地位からして,また,両名が現に行った行為態様からしても,両名の行為をもって,上記の遊技機を「設置して」「その営業を営んだ」ものには該当しない。本件処分は,A及びBが,「被控訴人の営業に関し,公安委員会の承認を得ないで遊技機の変更を行った」ことを理由とするものである。他方,A及びBが「被控訴人の営業に関し,著しく客の射幸心をそそるおそれのある遊技機を設置してその営業を営んだ」というのは,控訴人の主張によれば,本件処分理由である「遊技機の無承認変更」とは別個の事実ということになるから,聴聞手続を経る必要があるところ,聴聞手続を経ていない。したがって,本件訴訟において,控訴人がこれを処分の理由として追加することは許されない。

仮に,法20条1項が別個の処分理由となり得るとしても,その主張には理由がない。控訴人は,「A及びBは,不正改造された遊技機の存在を認識しながら,敢えてそのままにし,・・・当該店舗において営業に供していた」というが,A及びBの権限・地位からしても,また両名が現に行った行為態様からしても,両名の行為をもって,上記の遊技機を「設置して」,「その営業を営んだ」ものに該当しないことは明らかであり,「営業に関し」に該当しないこともまた疑いない。

4  原判決の訂正

(1)  原判決3頁20行目から末行目までを以下のとおり改める。

「ア Cは,本件パチンコ店の遊技機の主基板を不正ロム(いわゆる「裏ロム」)が内蔵された主基板(以下「裏ロム主基板」という。)に取り替えて,複数の打ち子と称する者をして不正に改造された遊技機で遊技させ,不正に出玉させて利得することを企てたところ,正規の主基板を裏ロム主基板に取り替えるためには客や従業員がいない閉店後の店内に侵入し,交換作業をしなければならなかった。Cは,閉店後は店の機械警備のカードキーがなければ店内に入ることができないことを知っていたことから,カードキーを持っている者を仲間に引き入れる必要があると考え,かつての部下である一般従業員(場内)のB及びカードキーの所持,管理をしている班長のAに手引きをさせようとした。本件当時,本件パチンコ店において防犯システムのカードキーを貸与されていたのは,マネージャーのDと班長のAのみであった。Bは,元店長のCから主基板の不正交換の協力要請を受け,これを承諾し,Aも,B及びCから主基板の不正交換の協力要請を受け,Cは気性が荒く,粗暴的傾向があることを知っていたことなどから,これを断り切れず,主基板の不正変更に協力することを承諾した。

Aは,Cらが裏ロム主基板の交換作業をする当日,カードキーを使用して機械警備を解除するなどして,C,Bらを店内に招き入れた。Aは,交換作業の直接の手伝い等はしなかったものの,Cらが交換作業をしている間,事務所に他人が入ってこないように見張りをした。また,Aは,パチンコ台の入替予定の情報が2週間くらい前に判る班長の地位にあったことを利用し,パチンコ台の入替予定の情報が入ると,その情報をBを通じてCに伝えた。

Bは,不正改造するパチンコ台を開けて主基板番号等をメモ帳に書き写し,携帯電話からのメールでCに知らせるなどし,Cは,Bからの報告に基づいて正確に裏ロム主基板を注文することができた。Bは,裏ロム主基板の交換作業をする当日,Aから従業員全員が帰ったことの連絡を受けると直ちにそのことをCに伝え,Cらと一緒に本件パチンコ店内に侵入し,遊技機内の配線(コネクター)の取り外しや接続を自ら行い,また,Cの手元をライトで明るく照らしたり,ペンチ,ニッパー等の工具を準備してCに手渡すなどしてCらの作業を手伝った。

以上の経過で,Cは,Aのカードキーを使用して,氏名不詳の者数名とともに,営業時間外の本件パチンコ店に侵入するなどし,後記(5)イ(ア)ないし(ウ)のとおり,複数回にわたって遊技機の正規の主基板を裏ロム主基板に交換した。

また,Bは,Aからパチンコ台の入替予定の情報を受け取ると,直ちにCに伝えるとともに,入替予定のパチンコ台を店内移動し,取り付けていた裏ロム主基板を取り外し,Cのマンションに保管してある正規の主基板を再度取り付けて元に戻し,取り外した裏ロム主基板を入替の対象になっていないパチンコ台に取り付けて不正改造したことや,不正改造した遊技機の電気経路がショートして故障した際,Cの指示で,不正改造が発覚するのを防ぐため,マネージャーに対して店の2階の倉庫にある予備のパチンコ台を使って応急措置をすると嘘を言って,取り付けていた裏ロムを取り外し,保管していた正規の主基板を取り付けたこともあった(以上,甲3の1・2・5・12・25ないし33,乙4ないし7)。」

(2)  原判決4頁末行の「同年」を「平成19年」と改める。

第3当裁判所の判断

1  A及びBは,「当該営業に関し」て,法20条10項,9条1項に違反したと言えるか

(1)  原判決10頁15行目から12頁4行目までを引用する。

(2)  本件において,被控訴人の従業員であったAは,本件違反行為当時,本件パチンコ店の班長として,本件パチンコ店の防犯システムの作動及び解除をすることができるカードキーを管理する地位にあり,本件違反行為も,Aが管理している上記カードキーを利用して本件パチンコ店に侵入した上で行われ,また,被控訴人の従業員であったA及びBは,本件パチンコ店内にある遊技機の扉を開け閉めするいわゆる台鍵を使用し得る立場にもあったのであり,これらの事情からすれば,A及びBには,その従事していた職務の内容や与えられていた職務上の権限の範囲等から違反行為をおよそ行い得る地位になかったとは言えない。

しかしながら,本件違反行為は,いずれも本件パチンコ店の元店長であったCが,本件パチンコ店の遊技機の主基板を裏ロムが内蔵された主基板に取り替えて,複数の打ち子と称する者をして上記不正改造された遊技機で遊技させ,不正に出玉させて利得することを企て,本件パチンコ店のカードキーを所持,保管している班長のA及び一般従業員(場内)のBを内部協力者として誘い入れ,Aがカードキーを使用して施錠する日などを見計らい,氏名不詳の者数名とともに営業時間外の本件パチンコ店に侵入し,複数回にわたって遊技機の主基板を裏ロムに交換したというものであり,本件違反行為はCを主犯とするグループによる不正出玉行為の一環であって,被控訴人の従業員であるA及びBの関与の程度は軽微であるとは言えないものの,社会通念に照らし,全体として見た場合,もはや代理人等による法令違反行為であると評価できないと言うべきである。

よって,本件違反行為は,被控訴人の「代理人等が」「当該営業に関し」法令(法20条10項,9条1項)に違反したものとは認められないから,法25条に基づく指示処分,法26条1項に基づく営業許可取消処分及び営業停止処分をすることはできないものと言うべきである。

(3)  控訴人は,控訴理由として,本件パチンコ店において防犯システムのカードキーを貸与されていたのは,マネージャーのDと班長のAのみであり,Aは本件パチンコ店の管理について高い責任を有していた者であり,Aは単に防犯システムの作動を遅らせたものではなく,自らに与えられた地位を利用して防犯システムの作動を解除し,Cらを本件パチンコ店店内に導き入れたものであり,また,Bも,主基板の違法改造が行われる際,Cの指示により,ホール北側にある倉庫の工具箱の中から,不正改造に使用するニッパー,ドライバー及びペンチ等の工具並びに手元を照らすライトを取り出して準備し,また,Cが主基板の交換作業中は,Cの手元をライトにより照らすとともに,遊技機内の全部の配線(コネクター)の取り外しや接続を行っており,本件違反行為に積極的に関与しているなどとし,A及びBの関与の程度は高いと主張する。

なるほど,A及びBの具体的な行為態様は前記認定のとおりであり,それなりの役割を果たしたことは否定できないが,これらの点を考慮しても,本件違反行為が代理人等により本件パチンコ店の営業に関し行われたものとは言えないとの前記判断を左右するものではない。

2  法20条1項違反の主張について

控訴人が,A及びBは,不正改造された遊技機の存在を認識しながら,敢えてそのままにし,長いもので8か月近く本件パチンコ店内において営業に供していたのであるから,同人らの行為は,著しく客の射幸心をそそるおそれがある遊技機を設置してその営業を営んだとして,法20条1項にも該当するとし,Aらの行為は,法20条10項,9条1項の不正改造行為に該当するほか,法20条1項違反にも該当し,Aらの行為が営業に関してなされたものであることも,著しく善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害することも明らかであるので,この点からも法26条1項の営業停止処分は免れ得ないと主張するのに対し,被控訴人は,本件のような不利益処分において,法20条1項の処分理由は,従前の法20条10項,9条1項の処分理由とは別個の処分であるから,新たに追加するのは許されないと主張する。

仮に,控訴人からの追加主張が許されるとしても,そもそも不正改造された遊技機が本件パチンコ店に置かれていたのは,Cを主犯とするグループによる不正出玉行為の一環であって,被控訴人の従業員であるA及びBの関与の程度は軽微であるとは言えないものの,社会通念に照らし,全体として見た場合,もはや代理人等による法令違反行為であると評価できず,被控訴人の「代理人等が」「当該営業に関し」法令に違反したものとは認められないことは,法20条10項,9条1項に関し説示したところと同じであるから,控訴人の主張は失当である。

3  その他,原審及び当審における控訴人提出の各準備書面記載の主張に照らして,原審及び当審で提出された全証拠を改めて精査しても,引用にかかる原判決の認定部分を含め,当審の認定判断を覆すほどのものはない。

4  以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,被控訴人の本訴請求には理由がある。

よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古川行男 裁判官 上寺誠 裁判官 池田聡介)

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