広島高等裁判所松江支部 平成21年(く)14号 決定 2009年6月29日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
1 本件抗告の趣意
本件抗告の趣意は,弁護人ら提出の別紙「即時抗告申立書」の写し(略)記載のとおりである。論旨は,証拠開示に関する裁定の請求を棄却した原決定は不当であるというものである。
2 判断
(1) 本件の経緯
本件は,弁護人らが検察官に対し,刑訴法316条の15に基づき,原決定別紙証拠目録(略)記載1及び2の各証拠(以下「別紙目録記載1の証拠」などと記載する。)につき類型証拠の開示を請求したところ,検察官は,別紙目録記載1の証拠は開示済みのものを除き不存在であると回答し,別紙目録記載2の証拠は請求対象が不特定であるとした上で不存在であると任意に回答し,いずれも不開示としたので,弁護人らが警察発表に関する報道内容に照らして検察官の回答は信用できないとして原審に証拠開示に関する裁定を求めた事案である。原審は,検察官に意見を求め,さらに弁護人らが指摘する警察発表等について検察官に対し釈明を命じその回答(平成21年6月18日付け意見書)を得た上で,弁護人らが開示を求める別紙目録記載1及び2の各証拠は存在しないものと認定し,請求を棄却した。
弁護人らは,警察発表に関する報道内容に照らせば開示請求に係る証拠が存在しないとは通常考えがたく,検察官の警察発表等に関する説明は不合理であり,捜査機関は不利な証拠をあえて秘匿する可能性があるから,証拠の存在を推認すべきであるなどとして,原決定の取消しと開示命令を求めて,本件即時抗告を申し立てた。
(2) しかしながら,検察官が証明を予定する事実ないし判断(被害者の死因,被害者の死亡推定時刻)については,ひととおりの証拠(解剖結果を踏まえた鑑定書,同鑑定医の供述調書,救急搬送先病院医師の供述調書,死体体温に関する実況見分調書)の取調べが請求されており,その他に検察官が弁護人らに開示した関連する証拠(死体検案書,被害者救急搬送先病院宛の捜査照会及び同回答)があるが,弁護人らが今回請求する証拠は,それら以外の証拠であり,殺人事件の捜査において通常収集作成される証拠であるとは言い切れないものである。
以上を前提に,弁護人らの主張を踏まえ,警察発表に関する報道内容を含む一件記録を精査しても,原決定が適切に説示するとおり,既に開示している証拠のほかに被害者の死因に関する鑑定書及びこれに準ずる書面は存在しないとの検察官の主張や,本件に関する記者発表の際,発表を担当した警察官が記者に対し司法解剖の際に行った検査を説明するため「病理学検査」ないし「検査」という言葉を用いて説明したに過ぎないとの警察発表に関する検察官の説明が不合理であると認めるに足る証拠はなく,ほかに別紙証拠目録記載1及2の各証拠が存在すると推認するに足る証拠も認められないといわざるを得ない(所論において,既に開示済みの証拠中において引用されるなど,その存在が窺われる開示未了の証拠があるなどの具体的な指摘はない。)。
なお,平成19年4月ころに押収物を還付し一度は捜査を終了させていたのに,平成21年1月になって被告人が逮捕されるに至ったのは,平成19年4月以降に新証拠を入手したからであると見るのが自然であるから,本件各証拠が存在するはずであるなどと弁護人らは主張するが,被害者の死因や死亡推定時刻に関連して取調べが請求されて既に開示済みの証拠のうち鑑定医の供述調書,救急搬送先病院医師の供述調書は平成20年9月から平成21年2月にかけて作成されているのであり,仮に,主張どおり捜査が平成19年4月ころ一時中断していたとしても,既に開示済みの証拠以外に今回弁護人らが主張する原決定別紙証拠目録記載1及び2の各証拠が存在することを推認するには不十分である。
3 以上によれば,弁護人らからの証拠開示に関する裁定の請求を棄却した原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから,刑訴法426条1項後段によりこれを棄却することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 古川行男 裁判官 上寺誠 裁判官 池田聡介)