広島高等裁判所松江支部 平成23年(行ス)1号 決定 2011年2月21日
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨及び理由
本件抗告の趣旨及び理由は,別紙「即時抗告申立書」<省略>の写し記載のとおりである。
第2当裁判所の判断
1 「本件事件の概要及び訴訟経過」「申立て及び当事者の主張」は,原決定2頁1行目から6頁4行目までを引用する。
本件申立ては,抗告人が相手方に対し,民事訴訟法(以下「法」という。)220 条1号及び4号に基づき,相手方が所持するもので,所得税の更正処分等の本件各処分に先立ち調査抽出した複数事業者の青色申告決算書(以下「本件文書」という。)のうち,住所,氏名等個人を特定できる部分を除いたものの提出を命ずるよう求めるというものであり,相手方は,本件文書が法 220 条4号ロ所定のいわゆる公務秘密文書に該当するなどと主張して争っている。
ところで,文書が法 220 条4号ロ所定の公務秘密文書に当たる場合には,文書の所持者は,法 191条及び 197 条1項1号の各規定の趣旨に照らし,法 220 条1号による申立てに対しても,当該文書の提出を拒むことができるものと解するべきである(最高裁判所平成 16 年2月 20 日第二小法廷決定参照)。
そこで,本件文書が法 220条4号ロ所定の公務秘密文書に当たるか否かをまず検討する。
2 当裁判所も,【判示事項】本件文書は,仮に住所氏名等の個人を特定できる部分を除いたとしても,法 220 条4号ロに該当すると解するが,その理由は,原決定が適切に説示するとおりであるから,原決定7頁 12行目から 10頁1行目までを引用する。
この点,抗告人は,本件文書を訴訟上提出するとしてもその閲覧等を制限(法 92条)すれば,訴訟当事者の目に触れるに止まり,全面的に公開されるわけではないこと,申告者の申告内容非開示の期待は抽象的なものに過ぎないこと,本件文書の提出により業務の遂行に著しい支障が生じるおそれの存在することが具体的に認められないこと,守秘義務の過剰重視により裁判を受ける権利が侵害されていることなど縷々主張する。
しかし,法 92 条による閲覧等の制限については,同条1項各号が当事者の私生活上の利益あるいは当事者の保有する営業秘密に着目していることから,本件文書で問題となる公務秘密を考慮できるか疑問なしとせず,また,仮に同条を類推するとしても,申告者の信頼に反しひいては一般納税者の信頼を失う具体的な危険があることに変わりなく,青色申告決算書については,申告納税制度を根幹とする我が国の税制のもとでは,私人が任意に申告することが決定的な重要性を持っているということを十分考慮する必要があり,抗告人がいう裁判を受ける権利については,類似同業者の抽出過程等を証人尋問等の証拠方法により間接的に点検することは可能であり,さらに,抗告人は,本件申立てにより,類似するとされた同業者の業務形態等を調査しようとしていることが窺えるから,個人の特定可能性を大幅に低下させるため多数の項目を抹消して開示することはそもそも申立の趣旨の範囲外と解され得ることも考慮すると,抗告人の上記主張はいずれも採用できない。
3 以上によれば,本件文書が法 220 条1号に該当するか否かを検討するまでもなく,本件文書提出命令の申立てには理由がないことになる。
第3よって,本件抗告には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。
(裁判官 中野信也 裁判官 上寺誠 裁判官 池田聡介)