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広島高等裁判所松江支部 平成24年(ネ)72号 判決 2013年1月30日

控訴人

被控訴人

大田市

同代表者市長

同訴訟代理人弁護士

熱田雅夫

廣澤努

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、一七〇万〇五五九円及びこれに対する平成二三年二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  事案の骨子

本件は、被控訴人の設置管理する市道山崎稲用線(以下「本件市道」という。)を走行していた控訴人の運転する車両(以下「控訴人車両」という。)が路面の凍結によりスリップしてガードレールに衝突し損傷した事故(以下「本件事故」という。)について、控訴人が、路面凍結による走行車両の危険を防止する措置が不十分であったために本件事故が発生したものであり、本件市道の設置又は管理に瑕疵があったと主張して、被控訴人に対し、国家賠償法二条一項に基づく損害賠償として、控訴人車両の修理代金相当額である一七〇万〇五五九円及びこれに対する本件事故の後であり訴状送達の日の翌日である平成二三年二月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求した事件である。

原判決は、本件事故発生の時点における本件事故現場付近の路面凍結の可能性は一般的抽象的な可能性の程度を超えるものではなかったから、本件事故現場を含む本件市道区間において、路面凍結に備えた対策が執られていなかったとしても道路として通常有すべき安全性に欠ける状態にあったとまではいえないとして、控訴人の請求を棄却したので、控訴人が控訴した。

二  当事者の主張

(1)  控訴人(請求原因)

ア 本件事故の発生

次のとおり、本件事故が発生した。

(ア) 日時 平成二三年二月三日午前八時〇五分ころ

(イ) 場所 島根県大田市<以下省略>付近の本件市道上

(ウ) 態様 控訴人が、通勤のため、控訴人車両を運転し、本件市道を島根県大田市長久町稲用方面から同市大田町大田の山崎地区方面に向けて走行中、路面に氷が張っていた状態であったために本件事故現場付近でスリップして進路左側に設置されていた本件市道のガードレールに衝突し、控訴人車両が損傷した。

イ 被控訴人の責任

本件事故現場付近は山に面している急斜面であって、気象条件や時間帯によれば路面凍結の発生し易い場所であるところ、被控訴人は、本件事故現場近辺の本件市道の三か所に凍結防止剤を置いていたことからも、本件事故現場付近における路面凍結の具体的な可能性を十分に認識していた。それにもかかわらず、被控訴人は、以下のとおり、凍結した路面の危険性に対する対応を怠った。

(ア) 被控訴人は、本件事故現場付近の本件市道区間に、「凍結注意」の表示をするなど、路面凍結が発生する危険性について、住民に十分な情報提供をしなかった。

(イ) 被控訴人は、自らあるいは業者に委託するなどして凍結防止剤を散布することをしなかったばかりか、そのような計画を立てることもなく、また、凍結防止剤の散布について不可欠な地域住民の協力を得るための地域住民に対する使用方法の告知や説明を全く行っていなかった。

(ウ) 被控訴人は、事故が起こった際に後続事故を防ぐために警察と連携したり、緊急時の連絡体制を整備したりすることをしていなかった。

以上のような被控訴人の怠慢は、いずれも本件市道の設置又は管理の瑕疵に当たり、本件事故は、かかる瑕疵により不可避的に発生した。

ウ 控訴人の損害

控訴人は、本件事故により、控訴人車両の修理代として、一七〇万〇五五九円の損害を被った。

エ まとめ

よって、控訴人は、被控訴人に対し、国家賠償法二条一項に基づく損害賠償請求として、一七〇万〇五五九円及びこれに対する本件事故の後であり訴状送達の日の翌日である平成二三年二月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2)  被控訴人

ア 本件事故の発生について

本件事故の発生日時、場所、態様の外形的事実は争わないが、本件事故は、控訴人の一方的な過失により発生したものである。

すなわち、控訴人車両が衝突したことにより、ガードレールとその支柱とを接合する金具が破断し、当該支柱は元の位置から約五〇cm移動していること、控訴人車両は、バンパー等を激しく損傷していること、のみならず、右後部をも損傷しているから、控訴人車両は、本件事故の際、スピンしたものであること、上記ガードレールとの衝突位置から本件市道を島根県大田市大田町大田の山崎地区方面に約二九m進行した地点のガードレールに控訴人車両と同色の塗料が付着しており、その付近に控訴人車両と同一車種の車両部品の破片が落ちていたことから、控訴人車両は、ガードレールとの第一の衝突では止まれず、第二の衝突を引き起こしていることなどの事実に照らし、控訴人は、本件市道を通勤経路として利用し、本件事故現場付近の路面が冬期には凍結しやすいことなどを知っていたにもかかわらず、十分な減速をしないままに漫然と本件市道を走行し、本件事故を惹起した。

したがって、本件事故は、路面凍結により不可避的に発生したものではなく、控訴人の一方的な不注意によって発生したものである。

イ 被控訴人の責任について

(ア) 被控訴人が本件事故現場近辺の本件市道の三か所に消雪剤を設置していたこと、本件事故当時、被控訴人が本件事故現場付近の本件市道に「凍結注意」等の表示をしていなかったこと、本件事故当時、被控訴人が本件事故現場付近の本件市道に凍結防止剤を散布していなかったこと、被控訴人が地域住民に消雪剤の散布について特段告知や説明をしていなかったことは認めるが、その余は否認し、以上の事実が被控訴人の本件市道の設置又は管理の瑕疵に当たるとの主張は争う。

なお、警察との連携、緊急時の連絡体制の不備は、仮にそれが認められるとしても、本件事故発生とは因果関係がないから、被控訴人の責任を基礎づけるものではない。

(イ) 被控訴人は、本件事故前から、本件市道の三か所に消雪剤を設置し、そのうちの二か所には、消雪剤である旨記載した看板を設置していたのであるから、特に凍結注意の看板等が設置されていなくても、運転者らは、本件市道が降雪等により凍結する可能性があることや、凍結した場合には設置された消雪剤を散布して凍結を解消すればよいことを認識できたはずであり、本件事故当時において凍結注意の看板を設置していなくても、道路管理上の瑕疵に当たらない。

また、本件市道がある島根県大田市は積雪地帯ではないし、本件市道は高速道路や主要幹線道路でもなく車両の高速走行は想定されていないから、被控訴人に凍結防止剤の散布義務はなく、本件事故当時、控訴人が凍結防止剤を散布していなくても、道路管理上の瑕疵に当たらない。

さらに、被控訴人は、平成二三年一月一二日、同月一八日、同月三一日の三回、本件市道に設置された上記消雪剤の補充を行っているが、このことは、近隣住民等が消雪剤を適宜使用していることをうかがわせる事実であるから、消雪剤の使用方法について近隣住民に対する説明会を実施しなくても、道路管理上の瑕疵に当たらない。

(ウ) 自動車運転者は、当該車両のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならず(道路交通法七〇条参照)、道路管理者は、自動車運転者に社会通念上要求されるそのような一般的な運行態度を前提とした管理を行えば足りるものであるところ、前記アのとおり、本件事故は、控訴人の一方的な過失により発生したものであり、被控訴人には予見可能性ないし結果回避可能性がなかったから、本件市道の設置又は管理において、被控訴人に瑕疵はない。

ウ 控訴人の損害について

不知。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の原因について

(1)  本件事故の発生日時、場所、態様の外形的事実については当事者間に争いがないものの、控訴人は、本件事故現場付近の路面が凍結していたために本件事故が不可避的に発生したと主張するのに対し、被控訴人は、路面状況等をわきまえない控訴人の不注意な運転によって本件事故が発生したと主張するので、まずこの点について判断する。

(2)  控訴人は、本件事故発生の機序等について、要旨、十分スピードを落として走行していた、正確な速度はメーターを見ていないので分からない、ちゃんとハンドルを握って見通しの良い穏やかなカーブを過ぎて急に滑り出した、ハンドルを右に切ってもハンドル操作が効かない感じで左斜め前の方向に滑って進行し、控訴人車両の前の部分がガードレールにぶつかったと供述しているものの、ガードレールと衝突したのが控訴人車両前部の右側であるのか左側であるのかについては、「はっきり憶えておりません。」と供述し、さらに、ガードレールと衝突した後の控訴人車両の挙動についは、「ぶつかりました。それで回転はしていません。道路上に停車しました。」といったんは供述しながら、「えっと、前がぶつかってその後、後ろがぶつかったかも知れません。」、「衝突して、そうなったと思います。前がぶつかって後ろにぶつかったんだと思います。」、「…推測ですが、初めに前の部分がぶつかって、そのショックで車が回転して、後ろがぶつかったのではないでしょうか。」と従前の供述を変遷させ、回転しなかったと答えたのではないかとの質問には沈黙して答えなかった。そして、どのように控訴人車両が回転したのかという質問に対しては、「ガードレールに一箇所に、一箇所というか、修理箇所が何メートルかあるはずです。その中でぶつかったんです。その中で、具体的に言うと、ハンドルが効かずにぶつかるでしょ、で、仮に回転したかははっきり記憶してないけれども、そこの中で交互にぶつかって停車したということです。」と、ガードレールと衝突した後に回転したか否かははっきりしないけれども、控訴人車両の何か所かがガードレールと衝突したかのような説明をした。

このように、控訴人は、控訴人車両を運転していたにもかかわらず、本件事故時における控訴人車両の挙動に関しては極めて曖昧な供述しかし得ていないから、このような控訴人の認識に照らすと、控訴人の供述によって本件事故の態様を認定することは、合理性を欠くといわなければならない。

(3)  他方、証拠によれば、控訴人車両は、本件事故によって、前部のバンパーや左右のヘッドライト等に強度の損傷を受けて取替えが必要となったほか、後部のバンパーや後部右側のテールランプについても取替えが必要な程の損傷を受けたこと、本件事故により、ガードレールとその支柱とを接合する金具が破断し、当該支柱は元の位置から約五〇cmも移動したこと、このガードレールとの衝突位置から本件市道を島根県大田市大田町大田の山崎地区方面に約二九m進行した地点のガードレールに控訴人車両と同色の塗料が付着しており、その付近に控訴人車両と同一車種の車両部品の破片が落ちていたこと、控訴人車両は、本件事故時点では日本全国で約六六〇〇台しか走行しておらず、かなり希少な車種であることがそれぞれ認められる。

これらの事実に照らすと、スピードを落として走行していたとの前記控訴人の供述にもかかわらず、本件事故の際、控訴人車両は、相当高速でガードレールと衝突し、止まりきれずに回転して約二九m先のガードレールと再度衝突して停車したものであると推認することが合理的である。確かに、本件事故においては、控訴人車両に装着されているエアバッグは作動していないが、エアバッグは、時速約二〇kmないし約三〇km以上の速度で固定した壁に対して正面から衝突する場合に作動するように設定されていると認められるところ、上記のとおり、本件事故においては、控訴人車両は衝突後に回転したと推認されるから、控訴人車両はガードレールと正面から衝突したのではなく、斜め前方方向から衝突したと考られる上、ガードレールの支柱も衝突の衝撃により移動しており、それが「固定した壁」の状態ではなかったことからすると、控訴人車両のエアバッグが作動しなかったことは、前記推認を妨げるものではない。

(4)  以上に加えて、控訴人は、本件市道を平成一五年五月ないし六月ころから通勤経路として利用していた上、本件事故以前から本件市道に消雪剤が設置されていることを知っていたことが認められ、そうすると、控訴人は、本件事故現場付近を含む本件市道の路面が季節や気象条件、時間帯等によっては凍結するおそれがあることを認識し、又は認識し得たというべきであるから、控訴人は、そのような認識に応じて他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない義務を負っていたと認められる。

(5)  本件事故は、前記(3)のとおり、控訴人車両が相当程度の速度でガードレールと衝突し、その後回転して約二九m先のガードレールと再度衝突してようやく停車するというそれなりに激しい衝突事故であったと認められるから、控訴人が上記(4)の義務を尽くして控訴人車両を運転していてもなお本件事故が発生したと直ちに認めることは困難であり、したがって、本件事故は、控訴人が路面の状況に応じた運転をするという自動車運転者として一般的に求められる義務を尽くすことなく控訴人車両を運転したことによって惹起された、すなわち、本件事故は、控訴人の不注意により発生したとの疑いを払拭し得ないというべきである。

よって、本件事故が専ら路面の凍結によって不可避的に発生したものであるとの控訴人の主張事実は、認めるに足りないといわざるを得ない。

二  被控訴人の責任について

(1)  前記一で検討したとおり、本件事故が路面凍結によって不可避的に発生したとの控訴人の主張する本件事故の態様が認定し得ない、すなわち、被控訴人が本件市道の管理者として本件事故現場付近を含む本件市道では路面凍結による交通事故を防止する措置を執るべき義務を負っていることの前提となるべき事実が認めるに足りない以上、本件事故に関する被控訴人の責任を検討することはできないはずであるが、事案に鑑み、被控訴人に本件市道の設置又は管理における瑕疵があると認められるか否かについて、更に判断する。

(2)  ところで、国家賠償法二条一項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、当該営造物の使用に関連して事故が発生し、損害が生じた場合において、当該営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、その事故当時における当該営造物の構造、用法、場所的環境、利用状況等諸般の事情を総合して個別的具体的に判断すべきである(最高裁昭和五三年七月四日第三小法廷判決・民集三二巻五号八〇九頁、最高裁平成二二年三月二日第三小法廷判決・裁集民二三三号一八一頁等参照)。

(3)  そこで検討するに、本件においては、① 本件市道は、島根県大田市大田町大田の山崎地区と同市長久町稲用地区を結ぶおよそ一・五kmの片側一車線の舗装された道路であり、両地区の間は山間部で、本件市道の中間付近は峠となっており、本件事故現場は、上記山崎地区と上記山間部の境目付近で、上記峠から上記山崎地区に向かう下り傾斜の路面となっていること、② 平成一八年四月から本件事故当日である平成二三年二月三日までの間に、本件市道で路面凍結によるガードレール等の道路施設の毀損事故の報告はなく、また、本件事故より前に本件事故現場付近で路面凍結による自動車のスリップ事故があったことを裏付ける客観的な証拠もないこと、③ 控訴人も、本件市道の上記峠付近では雪によるスリップ事故が発生しているが、本件事故現場付近で路面凍結によるスリップ事故が発生したことは聞いたことがないし、控訴人自身も本件事故現場付近で路面凍結による危険を感じたことはなかったとの認識を示していること、④ 本件事故前から、被控訴人は、本件市道の上記山間部の区間の三か所に凍結防止剤を設置しており、うち二か所には、「消雪剤」との表示をしていたが、本件事故当時、本件事故現場付近に凍結注意の看板等は設置していなかったこと(争いがない。)、⑤ 本件事故現場付近には、漏水や溢水、湧水の原因となるような施設、構造物、自然物は見当たらず、本件事故当時、側溝からの溢水等もなかったことがそれぞれ認められる。

以上の事実に加え、本件市道のある島根県大田市は、冬期には積雪があって気温も氷点下になることがあることからすると、気象条件によっては、本件市道においても路面が凍結する可能性のあることは否定できないと認められる。しかし、単に路面が凍結するという可能性自体は、本件市道に限らず、気温が氷点下になることがある地域の道路では等しく認められるものであるから、その意味で、このような可能性は、一般的抽象的なものに止まるというべきである。そして、このような一般的抽象的な可能性のある道路ないし道路の部分が膨大な数に上ることからしても、一般的抽象的な可能性がある以上は、常に路面凍結が生じた場合にはそれによる交通事故の発生を防止する具体的な措置が執られていなければ直ちに道路として通常有すべき安全性を欠いていることになると解することは、現実的でない。そうすると、過去に路面凍結による交通事故が発生したことがあるとか、漏水、溢水、湧水等のために気象条件によっては路面凍結が発生し易くなっている場所があるなど、当該道路における路面凍結による事故の可能性が具体的な可能性の程度をもって認められ、かつ、それが予見できるといえる場合に初めて、路面凍結について車両運転者の注意を喚起し得る標識等を設置したり、凍結防止剤を散布するなど路面凍結による交通事故の発生を防止する具体的な措置が執られていなければ、道路として通常有すべき安全性を欠くものとして、その設置又は管理に瑕疵があると解することが相当である。

この理を本件についてみるに、上記②、③及び⑤のとおり、本件市道の本件事故現場付近の区間においては、本件事故発生より前の時点で路面凍結を原因とする交通事故により道路施設が毀損されたという事故の報告はなく、また、漏水や溢水、湧水等のために路面凍結が発生し易くなっていたという事実も認められないから、本件事故現場付近での路面凍結の可能性は、少なくとも本件事故発生の時点までは、一般的抽象的な可能性の域を超えるものではなく、路面が凍結して車両の運行に危険を来す客観的具体的な蓋然性は発生していなかったと認められる。

(4)  これに対し、控訴人は、前記(3)④のとおり、被控訴人は本件事故前から本件市道の本件事故現場近辺に凍結防止剤を設置していたのであるから、被控訴人は本件市道の路面が凍結する可能性を具体的に予見していたと主張する。

確かに、被控訴人は、本件市道の敷設場所や冬期における島根県大田市の気象条件等から、本件市道においても路面が凍結する可能性のあることを認識していたから、本件事故現場付近の三か所に凍結防止剤を設置し、うち二か所には「消雪剤」との表示をしていたものであるとは認められる。しかし、被控訴人としては、いつ、どのような条件になれば本件市道の路面が凍結するのかまでの具体的な予測をし得なかったからこそ、単に本件市道脇に凍結防止剤を設置してその旨表示し、その散布については地域住民の任意の協力に期待するに止めたものであると考えられる。

したがって、被控訴人が本件市道の本件事故現場近辺に凍結防止剤を設置していたことをもって、被控訴人には本件事故発生時に本件事故現場付近において路面が凍結するとの具体的な予見可能性があったとの控訴人の主張は、採用し難い。

(5)  以上によれば、本件事故現場を含む本件市道においては、三か所に凍結防止剤が設置され、うち二か所には「消雪剤」との表示がされていた以上には路面凍結による交通事故の発生を防止する措置が執られていなかったとしても、それをもって本件市道が一般道路として通常有すべき安全性に欠ける状態にあり、その設置又は管理に瑕疵があったと認めることはできないというべきである。

したがって、被控訴人が国家賠償法二条一項に基づいて本件事故について損害賠償責任を負うとの控訴人の主張は、認めらない。

三  結論

以上のとおりであるから、控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は以上と同旨をいうものとして相当であり、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塚本伊平 裁判官 小池晴彦 髙橋綾子)

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