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広島高等裁判所松江支部 平成24年(行コ)3号 判決 2013年10月23日

主文

1  控訴人の控訴に基づき原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  上記取消しに係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  被控訴人の附帯控訴を棄却する。

4  訴訟費用は,第1,2審,控訴及び附帯控訴を通じて被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴及び附帯控訴の趣旨

1  控訴

主文第1,2項と同旨

2  附帯控訴

⑴  原判決の被控訴人敗訴部分を取り消し,次のとおり変更する。

⑵  鳥取税務署長が被控訴人に対して平成20年3月14日付けでした被控訴人の平成16年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1272万1014円,還付金の額に相当する税額341万3690円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

⑶  鳥取税務署長が被控訴人に対して平成20年3月14日付けでした被控訴人の平成17年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1520万0391円,還付金の額に相当する税額288万7856円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

⑷  鳥取税務署長が被控訴人に対して平成20年3月14日付けでした被控訴人の平成18年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1336万8936円,還付金の額に相当する税額304万3988円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

第2事案の概要等

1  事案の骨子

本件は,税理士業を営む被控訴人が,その妻Aを青色事業専従者として,平成16年分から平成18年分までの各年分(以下「本件各年分」という。)に係るAの各給与(以下「本件各専従者給与」という。)を事業所得の金額の計算上必要経費に算入して,別表1ないし3<省略>の各「A 原告申告額」欄記載のとおりにした各確定申告について,鳥取税務署長(以下「処分行政庁」という。)が,本件各専従者給与のうちAの労務の対価として相当であると認められる金額を超える部分の金額は必要経費に算入できないとして,同各「B 更正処分額」欄記載のとおり本件各年分に係る所得税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と本件各賦課決定処分とを併せて「本件各処分」という。)を行ったことに対し,被控訴人が,本件各専従者給与の金額はAの労務の対価として相当であり,本件各処分は違法であると主張して,本件各処分の取消しを求めた事件である。

原審は,平成16年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1507万2608円,還付金の額に相当する税額271万3190円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち7万円を超える部分,平成17年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1680万0235円,還付金の額に相当する税額240万7856円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち4万8000円を超える部分並びに平成18年分の所得税の更正処分のうち総所得金額1570万1362円,還付金の額に相当する税額234万4388円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分のうち6万9900円を超える部分を各取り消し,その余の被控訴人の請求を棄却するとの判決をした。

原判決に対し,控訴人は,本件各処分は適法であると主張して被控訴人の請求の棄却を求めて控訴した。

被控訴人は,控訴人の控訴を受けて,原審における請求と同旨の判決を求めて附帯控訴した。

2  前提事実

当事者間に争いがないか,証拠<省略>により容易に認定できる本件の前提となる事実は,次のとおりである。

⑴  当事者等

ア 被控訴人は,昭和58年4月19日に税理士の登録を受け,開設した事務所(以下「被控訴人事務所」という。)において税理士業を営む税理士である。

イ Aは,昭和54年4月に被控訴人と結婚し,被控訴人が昭和58年4月に被控訴人事務所を開設した当初から被控訴人事務所で勤務しており,本件各年分において,いずれも年間を通じて被控訴人の事業に従事していた(証拠<省略>)。

Aは,税理士資格を有していない。

ウ 被控訴人は,昭和59年2月9日,処分行政庁に対し,所得税の青色申告承認申請をするとともに,Aを青色事業専従者とする届出をし,同年以降の所得税の青色申告承認を受けた(証拠<省略>)。

⑵  本件各処分等の経緯

ア 被控訴人は,本件各年分において,Aが被控訴人の事業に従事したことの対価として,平成16年分は1240万円,平成17年分及び平成18年分は各1280万円の青色事業専従者給与を支給した(本件各専従者給与)。

イ 被控訴人は,本件各専従者給与について,それぞれ全額を本件各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入し,処分行政庁に対し,別表1ないし3<省略>の各「A 原告申告額」欄のとおり記載した本件各年分の各確定申告書を,平成16年分については平成17年1月26日に,平成17年分については平成18年1月24日に,平成18年分については平成19年1月29日に,各提出した(証拠<省略>)。

ウ 処分行政庁は,平成19年4月から被控訴人の本件各年分の所得税について税務調査を実施し,平成20年3月14日付けで,Aは税理士資格を有していないから,その労務の性質は税理士の補助事務の域を出るものではなく,被控訴人事務所に勤務していた他の従業員(以下「本件各使用人」という。)及び類似同業者の専従者の労務の性質と同様なものと認められること,Aが事業に従事した時間を正確に記録したものはないから,その労務提供の程度も本件各使用人及び類似同業者の専従者と比較して大きな差異がなかったと認めるのが相当であること,そうすると,本件各専従者給与は,Aの労務の性質及び労務提供の程度が本件各使用人及び類似同業者の専従者と大きな差異がないにもかかわらず,類似同業者の専従者給与の最高額である663万円の2倍を超える著しく高額なものであり,労務の対価として不相当であることを理由に,本件各年分のAの青色事業専従者給与として認められる額は,平成16年分については609万9000円,平成17年分については601万1000円,平成18年分については612万3000円であるとして,別表1ないし3<省略>の各「B 更正処分額」欄記載の内容の本件各処分を行った(証拠<省略>)。

エ 被控訴人は,処分行政庁に対し,平成20年5月12日付けで本件各処分の取消しを求めて異議申立てをしたが,処分行政庁は,同年8月8日付けでこれを棄却する旨の決定をした(証拠<省略>)。

そこで,被控訴人は,国税不服審判所長に対し,審査請求を行ったが,国税不服審判所長は,平成21年6月3日付けでこれを棄却する旨の裁決をした(証拠<省略>)。

オ 被控訴人は,平成21年12月1日,本件訴えを提起した。

3  争点及び争点に対する当事者の主張

本件の争点は,被控訴人の事業所得の金額の算定に際し,必要経費として控除されるべき相当な青色事業専従者給与の額は,本件各更正処分において処分行政庁が認めた平成16年分は609万9000円,平成17年分は601万1000円,平成18年分は612万3000円を超えるか否か,換言すれば,被控訴人がAに支給した本件各専従者給与はAの労務の対価として相当であるか否かという点である。

⑴  控訴人の主張

ア 法令の定め

所得税法57条1項は,青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者が青色事業専従者に対し支給した給与の金額で,その労務に従事した期間,労務の性質及びその提供の程度,その事業の種類及び規模,その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他政令で定める状況に照らしてその労務の対価として相当であると認められるものは,その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る事業所得の金額の計算上必要経費に算入することとし,同条の委任を受けた同法施行令164条1項は,①所得税法57条1項に規定する青色事業専従者の労務に従事した期間,労務の性質及びその提供の程度,②その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況及びその事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況,③その事業の種類及び規模並びにその収益の状況と定めている。

本件各専従者給与がAの労務の対価として相当と認められるか否かは,上記の法令の規定に照らして判断されるものであるところ,本件各専従者給与は,類似同業者給与比準方式及び使用人給与比準方式のいずれにおいても,Aの労務の対価として相当とは認められないものである。

イ 類似同業者給与比準方式

控訴人は,①本件各年分において,税理士資格のみで「税理士業」を営んでいる者であること(ただし,各年分の中途において,開廃業,休業又は業態を変更した個人,各年分の期間が12か月に満たない個人,各年分において,更正又は決定の各処分が行われた個人のうち,国税通則法又は行政事件訴訟法所定の不服申立期間又は出訴期間が経過していない個人並びにこれらの争訟が係属している個人を除く。),②本件各年分において,所得税法143条(青色申告)の承認を受けており,所得税青色申告決算書を提出している者であること,③本件各年分において,「税理士業」に係る売上金額(税込金額)が被控訴人の売上金額(税込金額>の2分の1以上2倍以下(いわゆる倍半基準)の範囲内にある者であること,④会計法人あるいは税理士法人を有していないこと,⑤税理士の資格を有していない配偶者のみを事業専従者としていること,⑥本件各年分を通じて専従者給与を支払っていることという条件により,被控訴人事務所と近隣の鳥取税務署,倉吉税務署,米子税務署及び津山税務署管内の被控訴人の類似同業者を抽出したところ,その配偶者に係る青色事業専従者給与の平均額は,別表4<省略>記載のとおり,平成16年分(類似同業者7人)が571万6356円,平成17年分(同9人)が545万0462円,平成18年分(同8人)が525万5915円であった。

したがって,平成16年分が1240万円,平成17年分及び平成18年分が各1280万円という本件各専従者給与は,いずれも上記平均額の2倍を上回る金額ということができる。

なお,被控訴人は,類似同業者の抽出過程が恣意的であるとか,抽出基準が不合理であるなどと主張するが,本件における類似同業者の抽出は,被控訴人事務所と近隣の地域を管轄する鳥取税務署,倉吉税務署,米子税務署及び津山税務署の各税務署長に対し,広島国税局長が,「「同業者調査票」の作成及び提出について(指示)」(証拠<省略>。以下「本件通達」という。)を発遣する方法により,上記のとおりの合理的な抽出基準を設定してされたものであり,本件通達を受けた各税務署長は,本件通達における抽出基準をすべて満たす者を機械的に抽出したのであるから,抽出過程に恣意性が介在する余地はなく,また,いわゆる倍半基準は,一般的に抽出の基準として合理的であると認められているし,「青色事業専従者が会計業務を統括していること」などという条件は,確定申告書や青色申告決算書には青色事業専従者の担当業務や職責を記載する項目がないためにその条件に基づく抽出が不可能である上,一定の評価を伴うものであり,これを抽出条件に入れるとすれば,抽出基準の客観性が失われることになるから,被控訴人の主張は,理由がない。

ウ 使用人給与比準方式

Aは,税理士資格を有していないから,その業務は被控訴人の税理士業務の補助といわざるを得ないところ,その業務の内容は,Aが記載していた税務日誌(証拠<省略>)の用語によれば,申告書及び明細書を各3部作成し,被控訴人の印鑑がもらえる状態に置く「セット」,法人税の決算書に添付する明細書を会計ソフトで作成する「ワープロ」,帳簿の会計入力をする「入力」,本件各使用人が行った会計帳簿を点検する「チェック」,領収証の貼り付けや補助簿の整理をする「整理」といったものであるから,その性質は,税理士の補助事務に従事する本件各使用人の労務の性質と同等であると認められる。もとより,税理士又は税理士法人でない者は,原則として税理士業務を行うことはできないから,税理士資格を有しないAが行う備品の管理等の庶務的な労務をもって,事業者ないし共同経営者に相当すると評価することはできない。

また,Aが本件各年分において被控訴人の事業に従事した時間数を正確に記録したものはなく,Aの供述によっても,繁忙期以外は特に残業をしていないということである上,本件各年分のうち,平成17年2月22日から平成18年12月31日までの被控訴人事務所におけるA及び本件各使用人の各専用のパソコンの起動時刻及び終了時刻の記録(証拠<省略>。以下「パソコンログ記録」という。)によれば,A専用のパソコンの稼働時間は,本件各使用人のうちで最も稼働時間が長いBの専用パソコンの稼働時間の約1.21倍程度であるから,Aの残業の状況は,本件各使用人と特段変わるところはないと認めるべきであり,Aの労務の提供の程度も,本件各使用人と大きな差異はなかったと認められる。

本件各年分において年間を通じて被控訴人の事業に従事した本件各使用人の1人当たりの給与額の平均は,別表5<省略>記載のとおり,平成16年分は357万9167円,平成17年分は384万2250円,平成18年分は360万8375円である。

したがって,平成16年分が1240万円,平成17年分及び平成18年分が各1280万円という本件各専従者給与は,いずれも本件各使用人の平均給与額の3倍以上の高額なものということができる。

エ まとめ

類似同業者給与比準方式及び使用人給与比準方式から検討したとおり,Aが支給を受けた本件各専従者給与は著しく高額であるから,不相当であることは明らかであり,本件各専従者給与のうちAの労務の対価として相当であると認められる金額は,類似同業者給与比準方式及び使用人給与比準方式により算出した金額を超えるものではないとみるのが相当である。そこで,類似同業者給与比準方式及び使用人給与比準方式により算出した金額を比較すると,類似同業者給与比準方式により算出した金額の方が高額であるため,被控訴人がAに支給した本件各専従者給与のうち,本件類似同業者青色事業専従者給与平均額(平成16年分は571万6356円,平成17年分は545万0462円,平成18年分は525万5915円)を超える部分の金額(平成16年分は668万3644円,平成17年分は734万9538円,平成18年分は754万4085円)は,被控訴人の事業所得の金額の計算上,必要経費としては算入できない金額になるというべきである。

以上によれば,被控訴人が本件各年分において納付すべき各所得税の額は,別表1ないし3<省略>の各「D 被告主張額」欄記載のとおり,平成16年分は還付金の額が141万3590円,平成17年分は還付金の額が62万8766円,平成18年分は還付金の額が78万0788円となるところ,これは,本件各更正処分における納付すべき税額となる平成16年分の還付金の額152万8490円,平成17年分の還付金の額83万5966円,平成18年分の還付金の額104万0888円をそれぞれ上回るから,本件各更正処分は,いずれも適法である。

そうすると,本件各年分につきいずれも国税通則法65条所定の過少申告加算税の賦課要件に欠けるところはないから,本件各賦課決定処分も,適法である。

よって,本件各処分は,適法である。

⑵  被控訴人の主張所得税法57条は,本来法人であれば従業員の給与は当然に必要経費として算入される以上,法人化していない事業であっても極力法人と同様の税務処理をするべきであり,それこそが税の公平な負担に資するという考えを根底におく規定であるから,青色事業専従者給与は,法人における給与と同様に原則として必要経費に算入され,相当と認められない部分に限って例外的に必要経費に算入されないものであって,青色事業専従者の労務とその給与との対価関係が明確であることまでは要求されていないと解すべきである。

その上,本件各専従者給与は,以下のとおり,Aの労務の性質及びその提供の程度等に照らし,その全額がAの労務の対価として相当である。

ア 労務の性質

Aは,昭和52年から他の税理士事務所で勤務を始め,昭和58年以降は被控訴人事務所において,一貫して,税理士業務の補助のほか,財務書類の作成,会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務(税理士法2条2項に規定されている税理士資格がなくても行うことが可能な事務。以下「会計業務」という。)に従事してきたものであり,平成16年の時点では経験年数が27年になる熟練の会計業務者である。そのため,Aは,被控訴人事務所において,本件各使用人が作成した会計帳簿の内容を最終的に検討して完成させるなど,会計・税務書類の作成を統括する事務を行っていた。税理士事務所を税理士業務を行う税理事務所と会計業務を行う会計事務所に分離する場合には,税理士事務所が顧客から受注した業務のうち,会計業務を会計事務所に外注委託することになるが,その際税理士事務所が会計事務所に対して支払う対価は受注額の約80%に及ぶことが一般的である。すなわち,税理士事務所の売上高の約80%は会計業務の経費というべきなのであり,このことは,税理士事務所の業務における会計業務の重要性を物語っているところ,Aは,被控訴人事務所において,会計業務の責任者であった。

また,学校法人については,その会計業務は常に予算との対比で会計処理を行わなければならず,特殊な会計帳簿の作成等が必要となること,極めて煩雑で短期間に作成することが求められる補助金の申請業務をもしなければならないことといった特徴があり,医療法人については,その会計業務及び税理士業務の補助業務は病院会計準則に対応した決算書等を作成しなければならないこと,保険診療収入の非課税規定により事業税の計算が一般法人と異なっていることなどの特徴があるところ,被控訴人事務所では,これらの特殊専門的な業務を担当し得るのはAだけであったことから,Aは,上記業務をすべて担当していた。

その上,Aは,被控訴人の事業所得の申告のための会計帳簿の作成及び決算手続に関する事務並びに本件各使用人に対する給与の支払及び社会保険手続等の労務管理一切を担っていた。

このように,Aは,被控訴人事務所の会計業務の統括責任者であるとともに,副所長という立場にあったものであるから,被用者というよりむしろ事業者ないし共同経営者として被控訴人の業務に従事してきたものであり,Aの労務の性質は,本件各使用人とは大きく異なるものであった。

イ 労務提供の程度

被控訴人事務所は,午前9時から午後5時までを勤務時間とし,土曜日,日曜日及び祝日並びに盆と年末年始期間を休業日としているが,Aは,繁忙期を除く通常の時期であっても,午前7時30分ころには出勤し,午後6時ころまで被控訴人の事業に従事しており,繁忙期については,深夜まで働いた上,自宅に持ち帰って仕事をしたり,場合によっては徹夜で仕事をしたりしていたのであって,パソコンログ記録によっても,本件各使用人のうちの従事時間が最も長いBより少なくとも1.21倍程度長く仕事に従事していることが認められるところ,実際には,被控訴人事務所で勤務するほか,自宅でも仕事をしていたのであるから,パソコンログ記録よりも大幅に長い時間被控訴人の事業に従事していた。

ウ 控訴人が主張する使用人給与比準方式について

以上ア,イのとおり,Aは,被控訴人事務所において非常に重要な要素を占める会計業務の責任者として本件各使用人を統括し,Aにしかできない特殊な会計業務その他の関連業務に従事していたのであるから,その労務の内容は,本件各使用人と全く異なるものである上,Aは,被控訴人事務所の設備備品の管理のほか,購入に関しても決定権を持っていたのであり,長時間に及ぶ労務の提供をしても残業代等が支給されていないことからしても,Aは,従業員ではなく,被控訴人と共に被控訴人事務所を経営する共同経営者の地位にあったといえるのであり,したがって,本件各使用人に支給されていた給与と比較することは,全く意味がない。

そして,前記アのとおり,一般的な税理士事務所の売上高の約80%は会計業務のための経費というべきところ,被控訴人事務所の事業収入(別表3<省略>のとおり平成18年分では5888万5555円)の80%に相当する額(4710万8444円)から必要経費(別表3<省略>のとおり同年分では3206万1174円)を差し引いた額(1504万7270円)が会計業務の受ける収入となり,被控訴人事務所の事業規模からすれば,その額までが会計業務の統括責任者であるAの給与として許容される額となる。そうすると,本件各専従者給与の金額は,低額とさえいい得るものである。

エ 控訴人が採用した類似同業者給与比準方式について

控訴人が行った類似同業者の専従者給与の平均の算出方法は,いわゆる通達回答方式によるものであるが,通達を受けた各税務署の具体的な抽出過程は明らかになっていないから,その過程において担当者の恣意が入り込む余地は排除されていないし,恣意が入らなかったとしても,単純ミスにより過誤が生じている可能性も否定できないから,控訴人が採用した類似同業者給与比準方式には信用性がない。

その上,控訴人が設定した類似同業者の抽出基準は,売上金額がいわゆる倍半基準の範囲内にある者,会計法人あるいは税理士法人を有していないことというのであるが,前者については,余りに範囲を拡大し過ぎているし,後者については,被控訴人事務所では,Aが会計業務の責任者として本件各使用人を使用しており,当該会計業務で集計された帳簿をもとに被控訴人が税務申告業務を行うこととなっていたのであって,会計法人を有しているのとその実態において異ならなかったから,別法人としているか否かはさておくとしても,少なくとも「専従者が会計業務の責任者として従事していること」という抽出基準を設定しなければ,被控訴人事務所の実態を反映したものとはいえない。加えて,被控訴人は,行政書士の資格を有しているのに,控訴人が設定した類似同業者の抽出基準には,税理士資格のみで「税理士業」を営んでいる者との基準が付加されている。このように,控訴人が設定した類似同業者の抽出基準は,被控訴人事務所の実態とかけ離れており,不合理なものである。

したがって,類似同業者給与比準方式により控訴人が算出した青色事業専従者給与の平均額は,本件各専従者給与には妥当しない。

第3当裁判所の判断

1  本件各専従者給与の水準について

⑴  本件各専従者給与及び本件各使用人の給与

ア Aが本件各年分において被控訴人の事業に従事した労務の対価として,被控訴人が平成16年分は1240万円,平成17年分及び平成18年分は各1280万円の青色事業専従者給与を支給したこと(本件各専従者給与)は,当事者間に争いがない。

イ 他方,本件各年分において,Aと同様に年間を通じて被控訴人事務所で被控訴人の事業に従事していた本件各使用人の1人当たりの給与を平均すると,平成16年分は357万9167円,平成17年分は384万2250円,平成18年分は360万8375円であることが認められる(証拠<省略>。別表5<省略>参照)。

⑵  本件各専従者給与の相当性の判断基準

以上のとおり,Aが支給を受けていた本件各専従者給与は,本件各年分における本件各使用人の給与の平均額と比較すると3倍以上の極めて高額なものであったことが認められる。

そうすると,所得税法57条1項及び同法施行令164条1項(前記第2の3⑴ア参照)に照らして,本件各専従者給与全額がAの労務の対価として相当であると認められるためには,すなわち,被控訴人の事業所得の金額の算定に際し,本件各専従者給与全額を必要経費として控除することが認められるためには,Aの労務の実態が本件各使用人のそれとは質的に異なる程の大きな差異があることが必要であって,そのような差異が認められない場合には,被控訴人の事業所得の金額の算定に際して必要経費として控除し得るAの青色事業専従者給与の額は,Aの労務の対価として相当であると認められる金額に減額されなければならないというべきである。

これに対し,被控訴人は,本来法人であれば従業員の給与は当然に必要経費として算入されるのであるから,法人化していない事業であっても極力法人と同様の税務処理をするべきであり,それこそが税の公平な負担に資するという考えを根底におく所得税法57条の趣旨からすれば,青色事業専従者給与は法人における給与と同様に原則として必要経費に算入され,相当と認められない部分に限って例外的に必要経費に算入されないと解すべきであり,青色事業専従者の労務とその給与との対価関係が明確であることまでは要求されていないと主張する。

しかしながら,所得税法57条1項及びそれを受けた同法施行令164条1項は,親族に対する給与はとかく労務との対価性の有無を問わずに高額になりがちであって,無制限にこれを必要経費として認めると課税の適正公平を損なう危険性が高いことから,青色申告承認者に限り,かつ,提供された労務との対価関係が明確であるものに限り,必要経費として事業所得の金額の算定に際して控除することを認めたものであると解されるから,被控訴人の主張は,採用できない。

2  Aの労務の実態について

⑴  労務提供の程度

ア そこで,Aの労務の実態について検討するに,本件において,Aが被控訴人の事業に従事していた時間を客観的かつ明確に明らかにするに足りる証拠は見当たらない。

Aは,この点について,自己が記載していた税務日誌(証拠<省略>)によって被控訴人の事業に従事していた時間が明らかになる旨証言する(証拠<省略>)が,同税務日誌の記載と被控訴人事務所のA専用のパソコンのパソコンログ記録(証拠<省略>)とを対比すると,税務日誌の記載によればAが被控訴人の事業に従事している旨記載されているのに,Aのパソコンは稼働していなかったという場合が多々あるのみならず,Aのパソコンが稼働しているにもかかわらず,税務日誌にはAが被控訴人の事業に従事している旨記載されていない場合もあることが認められる(証拠<省略>)から,税務日誌の記載は正確であって,それによればAが被控訴人の事業に従事していた時間が明らかになる旨のAの証言は,採用し難い。

他方,被控訴人事務所のA及び本件各使用人の各専用パソコンの平成17年2月22日から平成18年12月31日までの間のパソコンログ記録によれば,Aは,本件各使用人のうちで最も稼働時間が長いBの専用パソコンの稼働時間の約1.21倍の時間にわたってAの専用パソコンを稼働させていたことが認められる(証拠<省略>)。

この事実に加えて,A及び本件各使用人は,専ら被控訴人事務所の各自の専用パソコンを使用して税務会計事務を行っていたこと,A自身,繁忙期以外はほとんど残業をしていない旨証言していること(証拠<省略>)を併せ考えれば,Aが通常本件各使用人よりも早く被控訴人事務所に出勤し,遅く退出していたことを考慮しても,Aの被控訴人の事業に従事していた時間が本件各使用人に比して異質となる程に大幅に長かったとは認められないというべきである。

イ これに対し,被控訴人は,Aは繁忙期には資料を自宅に持ち帰るなどして深夜や休日を問わずに仕事をしていたので,その労務の提供の程度は本件各使用人の比較にならない程長時間であり,Aが繁忙期以外はほとんど残業をしていない旨証言したのは,自身のことではなく,一般的な勤務時間に関する質問であると誤解したためであるなどと主張する。

しかしながら,Aや被控訴人の陳述や証言を除けば,Aが自宅で被控訴人の事業に日常的に従事していたことを明らかにする証拠は見当たらず,かえって,Aが学校法人の補助金申請事務の関係で特に繁忙であると証言する3月末から4月10日にかけての期間(証拠<省略>)等においては,Aの専用パソコンのパソコンログ記録(証拠<省略>)によれば,Aは,土曜や日曜日であっても被控訴人事務所に出勤して作業を行っていたことが認められるから,Aが資料を持ち帰るなどして自宅で長時間にわたって被控訴人の事業に従事していたとの事実は,認めるに足りないといわざるを得ない。また,Aは,「あなたの勤務時間についてなんですけれども,」と確認された上での「残業することも,よくあったということなんですかね。」との質問に対し,「繁忙期以外はほとんどないです。」と答えたものである上(証拠<省略>),直後の「あなたの働いていた時間を資料とかで証明するとすれば,先ほど示されたパソコンのログの記録というものになりますか。」との質問に対して,「いえ,私は,税務日誌に書いております。」と,自己に関する質問であると正しく理解して回答しているのである(証拠<省略>)から,残業の有無に関する上記の質問について,一般的な勤務時間に関する質問であると勘違いをして回答したものとは認め難く,Aがその後に上記証言を否定し,A自身は繁忙期以外でも残業をしていた旨証言していること(証拠<省略>)を考慮しても,Aの証言に関する被控訴人の主張の不自然さは払拭できない。

ウ 以上によれば,Aが被控訴人の事業に従事していた時間は,本件各使用人よりは一定程度長時間に及んでいたとは認められるものの,本件各使用人とは質的に異なるといえる程に長時間ではなかったと認められ,そうすると,Aが被控訴人の事業のために提供していた労務の程度は,基本的に本件各使用人と同程度のものであったと認めることが相当である。

⑵  労務の性質

ア 被控訴人は,税理士として被控訴人事務所を開設し,被控訴人の責任において顧客から税務,会計事務の委任を受け,それに係る業務を遂行していたものであり,Aは,税理士資格を有していなかったのであるから,被控訴人事務所におけるAの労務の性質は,基本的に税理士業務の補助と認めることが相当であり,このことは,Aを青色事業専従者とする届出等において,被控訴人自身がAの仕事の内容を「事務」,「税理士業務補助」等と記載していること(証拠<省略>)からも裏付けられるところである。

したがって,被控訴人の事業に従事していたAの労務の性質は,本件各使用人や,類似同業者において税理士業務の補助事務に従事している青色事業専従者の労務と同質であったというべきである。

イ これに対し,被控訴人は,Aは経験年数27年の熟練の会計業務者であり,被控訴人事務所において非常に重要な要素を占める会計業務の責任者として本件各使用人を統括しつつ,Aにしかできない学校法人や医療法人という特殊な会計業務その他の関連業務に従事していたのであるから,Aの労務の内容は本件各使用人と全く異なるものである上,Aは被控訴人事務所において設備備品を管理するほか,購入の決定権をも有していたのであるから,実質的に被控訴人と共に被控訴人事務所の共同経営者の立場にあったものであるとして,Aの労務の性質は,単なる税理士業務の補助という本件各使用人とは質的に異なる旨主張する。

確かに,Aが税務会計事務に従事した期間が平成16年12月31日時点で27年を超えていることは認められる(証拠<省略>)から,Aは,会計業務に熟達していたといい得るけれども,前記のとおり,被控訴人は,税理士の資格を有する被控訴人の責任において顧客から税務,会計事務の委任を受けてその業務を行っていたのであるから,税理士資格がなくても可能な会計業務についてはAが責任者となっており,被控訴人はほとんど関与していなかったとは想定し難く,かえって,被控訴人事務所で被控訴人に雇用されていたC,D,E及びBが,それぞれの作成した書類のチェックは被控訴人が行っていた旨一様に陳述していること(証拠<省略>)に照らしても,被控訴人事務所では,会計業務に関しても,被控訴人の監督の下で遂行されていたと認めることが合理的である。したがって,Aが被控訴人事務所における会計業務の統括責任者であった旨の被控訴人の主張は,採用できない。

また,学校法人や医療法人に係る会計業務が通常の会計業務と異なる特殊性を有すること,学校法人の補助金申請に関する業務が極めて煩雑な上に短期間での対応を要求される業務であること,被控訴人事務所においてはAのみがそれらの業務を担当していたことは認められる(証拠<省略>)が,学校法人や医療法人に係る会計業務が通常の会計業務とは全く異なる会計処理の基準に基づいて処理されるものであるとはおよそ認められない(証拠<省略>)し,学校法人の補助金申請に関する業務も,煩雑ではあるとしても,特殊専門的な会計知識が必要な業務とは認められず(証拠<省略>),したがって,これらの業務は,基本的に被控訴人が委任を受けた税務,会計事務に含まれる業務であって,異質な業務であるとは認め難いというべきである。その上,法人が約130件,個人が約120件に上る被控訴人事務所の関与先(証拠<省略>)の中で,学校法人は2件,医療法人は3件にすぎず(証拠<省略>),Aが日常的に学校法人や医療法人に係る会計業務その他の関連業務に従事していたとは認められないことを併せ考えると,Aが学校法人や医療法人に係る業務を1人ですべて担当していたことをもって,Aの労務の内容が本件各使用人と大きく異なるものとなると認めることも困難である。

さらに,納税者と「生計を一にする配偶者その他の親族」である青色事業専従者(所得税法57条1項参照)が,納税者の事業の庶務的な面の責任者となることはごく一般的な事態であると認められるから,Aが被控訴人事務所における設備や備品を購入する決定権を有していたとしても,被控訴人事務所におけるAの労務の性質が税理士である被控訴人の補助事務であることを超えて,被控訴人事務所の共同経営者のようなものに変質するとは認められない。

なお,被控訴人は,本件各処分後の平成23年2月15日,被控訴人事務所の会計業務部門を独立させ,A及び被控訴人を代表取締役とするa社という法人を設立し(証拠<省略>),被控訴人事務所が委任を受けた税務,会計事務のうちの会計業務その他の付随業務を請け負わせるようにしたが,a社の代表取締役となったAの業務内容や所得は,被控訴人事務所における本件各年分中のAの業務内容や所得と変わらない(証拠<省略>)から,Aが従前から被控訴人事務所の会計業務の責任者であり,被控訴人事務所の共同経営者的な立場にあったことはこの事実からも認められる旨主張する。

しかし,上記のとおり,Aがa社設立前の被控訴人事務所において会計業務の統括責任者の立場にあったとは認められないし,その当時のAの業務と,a社代表取締役としてのAの業務とに変化がないことを認めるに足りる客観的な証拠も見当たらない。また,a社の代表取締役としてのAの報酬額と本件各専従者給与とが異ならないとしても,本件各専従者給与がAの労務の対価として相当であることを裏付けることを企図して,被控訴人が両者を同額に定めることは極めて容易なことであると考えられる。そうすると,これらの事実が,被控訴人事務所におけるAの労務の性質が本件各使用人のそれと異なるものであったとの被控訴人の主張の根拠となるとは認められず,被控訴人の主張は,採用できない。

ウ 以上によれば,被控訴人の事業に従事していたAの労務の性質は,税理士業務の補助であって,基本的に本件各使用人と異なるものではないと認められる。

⑶  まとめ

〔判示事項〕以上のとおりであるから,その労務提供の程度,労務の性質等に照らして,被控訴人事務所におけるAの労務の実態は,本質的に税理士業務の補助として,本件各使用人のそれと同様,同等であって,大きな差異はなかったと認められる。

3  Aの青色事業専従者給与として相当な額について

⑴  本件各専従者給与の過大性

以上によれば,Aが被控訴人の業務に従事していた対価として支給された本件各専従者給与は,高額に過ぎて不相当であるといわざるを得ない。

そこで,所得税法57条1項及び同法施行令164条1項に照らして相当と認められるAの労務の対価の額について,以下,検討する。

⑵  使用人給与比準方式による認定

ところで,本件各年分においてAが被控訴人の事業のために提供していた労務の程度については,本件各使用人を含めて本件各年分において被控訴人の事業に従事した者の従事時間数を正確に記録したものは存在しないから,客観的な証拠によって具体的に認定できるものはなく,前記2⑴アのとおり,平成17年2月22日から平成18年12月31日までの期間の被控訴人事務所のA及び本件各使用人の各専用パソコンのパソコンログ記録によって,Aの専用パソコンの稼働時間が本件各使用人のうちで最も稼働時間が長いBの専用パソコンの稼働時間の約1.21倍であることが明らかになるにすぎない。

そうすると,被控訴人事務所におけるAの労務の性質が基本的に本件各使用人と同等であったとしても,本件各使用人との労務提供の程度の差異が明確ではない以上,本件各使用人の給与との比較によってAの労務の対価として相当な額を認定することは,適当でないと認められる。

⑶  類似同業者給与比準方式による認定

ア 本件においては使用人給与比準方式による認定が相当でない以上〔判示事項〕,Aの労務の対価として相当な額を認定するには,上記所得税法57条1項及び同法施行令164条1項に照らし,類似同業者における青色事業専従者の給与の金額との比較において認定することが相当である。

イ 控訴人は,①本件各年分において,税理士資格のみで「税理士業」を営んでいる者であること(ただし,各年分の中途において,開廃業,休業又は業態を変更した個人,各年分の期間が12か月に満たない個人,各年分において,更正又は決定の各処分が行われた個人のうち,国税通則法又は行政事件訴訟法所定の不服申立期間又は出訴期間が経過していない個人並びにこれらの争訟が係属している個人を除く。),②本件各年分において,所得税法143条(青色申告)の承認を受けており,所得税青色申告決算書を提出している者であること,③本件各年分において,「税理士業」に係る売上金額(税込金額)が被控訴人の売上金額(税込金額)の2分の1以上2倍以下の範囲内(いわゆる倍半基準の範囲内)にある者であること,④会計法人あるいは税理士法人を有していないこと,⑤税理士の資格を有していない配偶者のみを事業専従者としていること,⑥本件各年分を通じて専従者給与を支払っていることという抽出条件を設定し,被控訴人事務所と近隣の鳥取税務署,倉吉税務署,米子税務署及び津山税務署管内の被控訴人の類似同業者を抽出したこと,上記各税務署管内で,平成16年分は7人,平成17年分は9人,平成18年分は8人の類似同業者が抽出されたこと,その類似同業者の配偶者に係る青色事業専従者給与の平均額は,平成16年分が571万6356円,平成17年分が545万0462円,平成18年分が525万5915円であったことがそれぞれ認められる(証拠<省略>。別表4<省略>参照)。

控訴人が設定した上記の抽出条件は,配偶者が税理士業務の補助事務者として納税者の事業に従事している被控訴人の事業態様と類似の同業者を選定する上で合理的であり,抽出された件数も,類似同業者の特殊性ないし個別事情を平均化するに足りるものというべきである。

ウ これに対し,被控訴人は,各税務署の具体的な抽出過程において担当者の恣意が入り込む余地や単純ミスにより過誤が生じる可能性があるから,抽出作業の基礎資料となった類似同業者とされる者の青色申告決算書等が明らかにならない限り,控訴人による類似同業者の抽出結果を信用することはできないと主張する。

しかしながら,本件における類似同業者の抽出は,広島国税局長が,被控訴人事務所と近隣の地域を管轄する鳥取税務署,倉吉税務署,米子税務署及び津山税務署の各税務署長に対し,本件通達を発遣する方法によりされたものである(証拠<省略>)から,本件通達を受けた各税務署長ないし担当者は,訴訟に使用されることを前提に(証拠<省略>),基礎資料である青色申告決算書を精査し,本件通達における抽出基準をすべて満たす者を機械的に抽出したと認められ,特段の事情がない限り,その抽出過程に恣意等が介在することは想定できないというべきところ,本件において,そのような事情は認められない。

被控訴人は,本件各処分時において処分行政庁が行った類似同業者の抽出では鳥取税務署管内に類似同業者は存在しないと回答されたにもかかわらず,当訴訟のためにされた類似同業者の抽出においては同税務署管内において類似同業者が抽出されたことをもって,抽出過程における担当者の恣意やミスを否定できないとし,控訴人が採用した類似同業者給与比準方式の信用性を弾劾するが,控訴人は,具体的な回答の作成要領を示して鳥取税務署その他の税務署長に対して回答を求めており,それによって抽出基準がより明確となったことなどのために上記の差異が生じたと考えられるから,被控訴人が指摘する事態が当訴訟のためにされた類似同業者給与比準方式の信用性を疑わしめることになるとは認められない。

したがって,その抽出過程や基礎資料が明らかでないことから控訴人が採用した類似同業者給与比準方式には信用性がないとの被控訴人の主張は,採用できない。

エ また,被控訴人は,控訴人が類似同業者を抽出する条件として,売上金額について被控訴人のそれの2分の1以上2倍以下という倍半基準を設定したこと及び「青色事業専従者が会計業務の責任者として従事していること」という抽出基準を設定しなかったことにおいて,その抽出基準は被控訴人の事業実態とかけ離れており,不合理であるなどと主張する。

しかし,いわゆる倍半基準は,類似同業者を抽出するに当たってその事業規模の類似性を画定する基準として一般的に合理的であると考えられるから,倍半基準は余りに範囲を拡大するものとして不当であるとの被控訴人の主張は,採用できない。また,前記2⑵イで認定したとおり,Aは,被控訴人事務所における会計業務の責任者であったとは認められないのであるから,控訴人が「青色事業専従者が会計業務の責任者として従事していること」という抽出基準を設定しなかったことは極めて合理的であって,被控訴人の主張は,その前提において失当である。

被控訴人は,さらに,被控訴人は行政書士の資格を有しており,同資格においても業務を行っているから,控訴人が設定した税理士資格のみで「税理士業」を営んでいる者との類似同業者の抽出基準は,被控訴人の事業実態と齟齬しており,不合理であると主張する。

しかし,被控訴人が行政書士として業務を行い,それによる報酬を得ていたとしても,被控訴人自身,本件各年分の所得の内訳書において,「税理士報酬」と区分して「行政書士報酬」と記載していないように(証拠<省略>),被控訴人が得ていた行政書士としての業務による報酬は,被控訴人事務所の売上金額のうちのごくわずかなものにすぎなかったと推認されるから,控訴人が類似同業者の抽出基準として,税理士資格のみで「税理士業」を営んでいる者との条件を付したことにより,控訴人の類似同業者抽出基準が不合理となるとまでは認められない。

被控訴人は,その他,類似同業者を抽出するについて津山税務署管内を加えたことは不当であるなどとも主張するが,独自の立場に基づく主張であって,採用できない。

オ 以上のとおり,控訴人が採用した類似同業者給与比準方式は合理的でかつ信用できるものであり,それによって導かれた本件各年分の類似同業者の配偶者に係る青色事業専従者給与平均額は,税理士業務の補助として被控訴人の事業に従事する配偶者たるAの給与の額として相当であると認められるから,本件各年分におけるAの労務の対価として相当な額は,同平均額である平成16年分が571万6356円,平成17年分が545万0462円,平成18年分が525万5915円と同額と認定することが相当であると認められる。

4  本件各処分の適法性について

⑴  被控訴人が本件各年分において納付すべき各所得税の額

前記3⑶オのとおり,本件各年分における青色事業専従者であるAの労務の対価として相当な額は,平成16年分が571万6356円,平成17年分が545万0462円,平成18年分が525万5915円であるから,被控訴人がAに支給した本件各専従者給与のうち,それぞれ同額を超える部分の金額(平成16年分は668万3644円,平成17年分は734万9538円,平成18年分は754万4085円)は,被控訴人の事業所得の金額の計算上,必要経費としては算入できない金額となる。

そうすると,被控訴人が本件各年分において納付すべき各所得税の額は,別表1ないし3<省略>の各「D 被告主張額」欄記載のとおり,平成16年分は還付金の額が141万3590円,平成17年分は還付金の額が62万8766円,平成18年分は還付金の額が78万0788円となると認められる。

⑵  本件各処分の適法性

上記⑴で算出された被控訴人が本件各年分に納付すべき各所得税の額は,いずれも本件各更正処分において納付すべき税額とされた平成16年分の還付金の額152万8490円,平成17年分の還付金の額83万5966円,平成18年分の還付金の額104万0888円を上回るから,本件各更正処分は,いずれも適法である。そして,適法である本件更正処分に基づく国税通則法65条所定の過少申告加算税の額は,平成16年分が22万1500円,平成17年分が21万円,平成18年分が21万2000円となるから,本件各賦課決定処分も,適法である。

よって,本件各処分は,すべて適法である。

5  結論

以上のとおりであるから,被控訴人の請求はすべて理由がないのでこれを棄却すべきところ,被控訴人の請求を一部認めて本件各処分を一部取り消した原判決はその限度において相当でないので,控訴人の控訴に基づいて原判決の控訴人敗訴部分を取り消して同部分に係る被控訴人の請求を棄却し,被控訴人の附帯控訴は理由がないのでこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判官 塚本伊平 小池晴彦 高橋綾子)

別表1~5<省略>

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