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広島高等裁判所松江支部 平成26年(ネ)38号 判決 2015年5月27日

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別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  原判決中,控訴人X1の被控訴人学園に対する請求部分及び控訴人X2の被控訴人学園に対する請求部分を,それぞれ次のとおり変更する。

(1)  控訴人X1が,被控訴人学園に対し,雇用契約上の地位を有することを確認する。

(2)  被控訴人学園は,控訴人X1に対し,22万4411円及びこれに対する平成22年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被控訴人学園は,控訴人X1に対し,平成22年11月から本判決確定日まで(ただし,先に平成28年3月31日が経過した場合は,同月まで),毎月21日限り,月額40万8032円の割合による金員及びこれらに対する毎月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(4)  被控訴人学園は,控訴人X1に対し,被控訴人Y2と連帯して,金110万円及びこれに対する平成22年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(5)  被控訴人学園は,控訴人X2に対し,平成22年11月から平成23年9月まで,毎月21日限り,月額3万円及びこれらに対する毎月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(6)  控訴人X1の被控訴人学園に対するその余の請求を棄却する。

(7)  控訴人X2の被控訴人学園に対するその余の請求を棄却する。

2  控訴人X1の被控訴人Y2及び被控訴人Y3に対する控訴を棄却する。

3  控訴人X2の被控訴人Y2に対する控訴を棄却する。

4  控訴人X1と被控訴人学園との間では,訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その2を控訴人X1の負担とし,その余を被控訴人学園の負担とし,控訴人X1と被控訴人Y2との間では,控訴費用は,控訴人X1の負担とし,控訴人X1と被控訴人Y3との間では,控訴費用は,控訴人X1の負担とし,控訴人X2と被控訴人学園との間では,訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを8分し,その7を控訴人X2の負担とし,その余を被控訴人学園の負担とし,控訴人X2と被控訴人Y2との間では,控訴費用は,控訴人X2の負担とする。

5  この判決は,主文1(2)ないし(5)に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人X1が,被控訴人学園に対し,雇用契約上の地位を有することを確認する。

3  被控訴人学園は,控訴人X1に対し,22万4411円及びこれに対する平成22年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人学園は,控訴人X1に対し,平成22年11月から本判決確定日まで,毎月21日限り,月額40万8032円の割合による金員及びこれらに対する毎月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人らは,控訴人X1に対し,連帯して,550万円及びこれに対する平成22年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6  被控訴人学園は,控訴人X2に対し,平成22年11月から平成23年9月まで,毎月21日限り,月額3万円及びこれらに対する毎月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7  被控訴人学園及び被控訴人Y2は,控訴人X2に対し,連帯して,220万円及びこれに対する平成22年10月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,(1)被控訴人学園と雇用契約を締結した控訴人X1が,平成22年10月15日に懲戒解雇(以下「本件解雇」という。)されたところ,控訴人X1が,本件解雇を不服として,被控訴人学園に対し,雇用契約上の地位を有することの確認,本件解雇後の賃金として,同月分につき,22万4411円及びこれに対する弁済期の翌日である同月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,同年11月分以降につき,同年11月から本判決確定日まで,弁済期である毎月21日限り,月額40万8032円の割合による金員及びこれらに対する弁済期の翌日である毎月22日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めるとともに,被控訴人学園の理事長であった被控訴人Y2と元鳥取県議会議員であった被控訴人Y3が,控訴人X1に対し,共同して,違法な退職勧奨及び違法な本件解雇をした旨主張して,被控訴人Y2及び被控訴人Y3に対しては,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,被控訴人学園に対しては,私立学校法29条・一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づき,連帯して,損害金550万円及びこれに対する最後の不法行為日である同年10月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(原審甲事件),また,(2)被控訴人学園の理事であった控訴人X2が,平成22年10月15日に懲戒解任(以下「本件解任」という。)されたところ,本件解任を不服として,被控訴人学園に対し,本件解任後の報酬として,同年11月から理事の任期が満了する月の前月の平成23年9月まで,弁済期である毎月21日限り,月額3万円及びこれらに対する弁済期の翌日である毎月22日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,違法な本件解任をした被控訴人学園及び本件解任を主導した被控訴人Y2に対し,共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,連帯して,220万円及びこれに対する不法行為日である平成22年10月15日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(原審乙事件)事案である。

原審は,原審甲事件に係る控訴人X1の請求について,被控訴人Y2が控訴人X1に対して違法な退職勧奨を行ったことを認め,被控訴人学園及び被控訴人Y2に対し,連帯して,損害金110万円(慰謝料100万円及び弁護士費用10万円)及びこれに対する不法行為日後である平成22年10月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容したが,その余をいずれも棄却し,原審乙事件に係る控訴人X2の請求を全部棄却する判決をした。

そこで,上記判決について,控訴人らが原判決につき,それぞれ敗訴した部分に不服があるとして控訴を申し立てた。

2  前提事実(争いがない事実並びに後記証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

(1)  当事者

ア 被控訴人学園は,私立a高校(以下「a高校」という。),b第一幼稚園ないしb第五幼稚園の各幼稚園及び専門学校c学院を経営する学校法人である(証拠<省略>)。

イ 控訴人X1(昭和25年○月○日生)は,平成17年11月に公立中学校の教員を退職した後,平成18年4月1日,被控訴人学園に参事として採用され,被控訴人学園との間で雇用期間を2年と定めて雇用契約(以下「第1次雇用契約」という。)を締結し(証拠<省略>),平成19年4月1日,a高校の副校長(以下,単に「副校長」という。)に昇任し,被控訴人学園の理事に選任された。

被控訴人学園の理事会は,平成20年3月31日までに,第1次雇用契約を更新するかどうかについての決議をしなかった。しかしながら,控訴人X1は,同年4月1日以降も,副校長として勤務を継続し,被控訴人学園及び被控訴人Y2は,この控訴人X1が勤務を継続したことについて,何ら異議を述べなかった。そのため,第1次雇用契約は,黙示に更新された(以下,この更新された契約を「第2次雇用契約」という。なお,第2次雇用契約が期間の定めのある雇用契約か否かについては,後記のとおり,争いがある。)。

また,第2次雇用契約について,平成22年4月1日に明示的な更新はされず,控訴人X1は,同日以降も,副校長として勤務を継続した(以下,便宜同日以降の控訴人X1の雇用契約を「第3次雇用契約」という。)。

控訴人X1は,平成22年3月31日,理事を退任し,同年10月15日,被控訴人学園から懲戒解雇(本件解雇)された。控訴人X1の本件解雇時における給与は,月額40万8032円であり,給与支払日は,毎月21日であった(証拠<省略>。なお,控訴人X1は,本件解雇時までの同年10月分の給与として18万3621円を支給された。

ウ 控訴人X2は,平成17年10月7日,被控訴人学園の理事に選任され,平成20年10月7日,被控訴人学園の理事に再任され,その任期は,平成23年10月6日までとなっていた。

控訴人X2は,平成22年10月15日,被控訴人学園の理事を解任(本件解任)された。控訴人X2の本件解任時における報酬は,月額3万円であり,報酬の支払日は,毎月21日であった(証拠<省略>)。なお,控訴人X2は,同年10月分の報酬を支給された。

エ 被控訴人Y2は,平成17年4月1日,a高校の校長に就任し,平成18年4月1日から被控訴人学園の理事長を兼任していた(証拠<省略>)。その後,被控訴人Y2は,平成24年3月31日,被控訴人学園の理事長及び校長の職を退いた。

オ 被控訴人Y3は,鳥取県議会の元議員であり,本件以前に被控訴人学園を巡り教職員と経営側が紛争となった際に,解決に尽力した者である。

(2)  本件に関する被控訴人学園の規程,規則及び寄附行為

ア 定年退職者の管理職採用に関する規程(証拠<省略>,以下「本件管理職規程」という。)

(ア) 第1条

この規程は,国又は地方公共団体等の退職者及び「教職員の定年に関する規程」による定年退職者を管理職として採用する場合に必要な事項を定めるものとする。

(イ) 第3条

a 第1項

この規程に基づく管理職は,理事長が理事会に諮って採用することができる。

b 第2項

前項に基づき採用する者の任用期間は2年以内(前任者が任期の途中で退職した場合は,前任者の残任期間とする。)とし,理事長が必要と認めたときは,理事会に諮ってその者の任用期間を更新することができる。

但し,更新による任用の期限は,満65歳の到達日の属する年度までを限度とするが,特段の事情がある場合は,後任の者が採用されるまでその職務を行うことができる。

イ 教職員の服務に関する規則(証拠<省略>,以下「本件服務規則」という。)

(ア) 第1条

この規則は,本学園に勤務する教職員の服務規律及び待遇に関する基準,その他就業に関する事項について定めることを目的とする。

(イ) 第2条

この規則において教職員とは,本学園に常時勤務する教育職員,事務職員及び技術職員,現業職員(以下「教職員」という。但し,休職等の代員を除く。)とする。

(ウ) 第28条

教職員の懲戒の種類及び程度は,譴責,訓戒,停職,降格,論旨免職,懲戒免職の6種とし,次の各号に定めるところにより,理事会で審議の上処分する。(柱書)

a 1号ないし4号につき省略。

b 諭旨免職は,退職願の提出を勧告し即時退職を求め,催告期間内に応じない場合は懲戒免職とする。(5号)

c 懲戒免職は,予告期間を設けないで即時解雇し,退職金を支給しない。(6号)

d 訓戒,退職,降格,諭旨免職,懲戒免職は,次の各号の一に該当する場合に,審議の対象とする。(7号柱書)

(a) 本学園の教育方針に違背する行為をなしたとき。((ア))

(b) 公務上又は管理上の正当な指示命令に反抗し,学園の秩序を乱したとき。((イ))

(c) 故意又は過失により,本学園に重大な損害を与えたとき。((ウ))

(d) 職務に関し,不当に金品その他の利益を収受し,又は詐取したとき。((エ))

(e) 重大な反社会的行為があったとき。((オ))

(f) 経歴を詐り,勤務に関する手続,その他の届を怠ったとき。((カ))

(g) その他,前各号に準ずる不都合な行為があったとき。((キ))

ウ 役員等に関する規程(証拠<省略>,以下「本件役員規程」という。)

(ア) 第2条

役員とは,理事及び監事をいう。

(イ) 第8条1項

役員の任期は,3年とする。ただし,再任することができる。

(ウ) 第16条

役員は,次の事項を遵守しなければならない。これに違反した場合の懲戒等については,理事会で決定する。

a 学園に対する背信行為により,学園及び学園の方針を傷つけ又は学園全体の不名誉となるような行為をしないこと。(1号)

b 学園の内外を問わず,業務上の機密事項のほか,学園の不利益となる事項を他に漏洩しないこと。(2号)

c 学園と利害関係のある取引先から,不当に金員を接受し又は飲食等のもてなしを受けないこと。(3号)

d 理事会の承認なく,他の会社等の役員に就任し又は社員として雇用契約を締結しないこと。(4号)

e 理事会の承認なく,学園の利益と相反する行為をしないこと。(5号)

f 前各号のほか,役員として相応しくない行為をしないこと。(6号)

エ 学校法人Y1学園寄附行為(以下「本件寄附行為」という。)第11条1項(証拠<省略>)

役員が次の各号の1に該当するに至ったときは,理事総数の4分の3以上出席した理事会において,理事総数の4分の3以上の議決及び評議員会の議決により,これを解任することができる。(柱書)

(ア) 法令の規定又はこの寄附行為に著しく違反したとき。(1号)

(イ) 心身の故障のため職務の執行に堪えないとき。(2号)

(ウ) 職務上の義務に著しく違反したとき。(3号)

(エ) 役員たるにふさわしくない重大な非行があったとき。(4号)

(3)  本件解雇及び本件解任の前提となる事実

ア(ア) 控訴人X1は,平成22年2月1日,被控訴人Y3の自宅の郵便受けに,以下の内容を含む同日付けの手紙(以下「本件手紙」という。)を投函した。

(イ) 本件手紙には以下の記載が含まれていた(証拠<省略>)。

a 被控訴人Y2が被控訴人学園の教職員に対して不公平な扱いをしていること。

b 被控訴人Y2が不当にa高校の校舎改築を強行していること。

c 被控訴人Y2が不当に理事長兼校長の給与の増額を求めていること。

d 被控訴人Y2には,相撲場の建設工事及び部室の新築工事の資金について悪い噂が広まっていることから,このままでは,被控訴人学園が被控訴人Y2に都合よく利用されてしまうことになるだけでなく,被控訴人Y2が近いうちに警察沙汰になってしまう可能性もあるため,控訴人らは「倒閣運動」を進行させており,ついては,被控訴人Y3にも,控訴人X2と面会して,この「倒閣運動」についての話を聞いて欲しいこと。

(ウ) また,本件手紙には,平成22年2月当時の理事10名のうち,被控訴人Y2とF理事を除く8名の理事は,被控訴人Y2に反対している旨が記載された書面が添付されていた(証拠<省略>)。

イ(ア) 控訴人X1は,控訴人X2の許可を得て,以下の内容を含む全29枚の文書(以下「29枚の文書」という。)を作成した。

(イ) 29枚の文書は,以下の書面を含むものであった(証拠<省略>)。このうち,dないしlは控訴人X2が作成又は収集した書面である。

a 控訴人X1が副校長として作成した平成22年2月10日付け「学校法人Y1学園a高等学校の理事長兼校長Y2氏に関する報告書」(被控訴人Y2が①a高校の管理職全員に「辞職願」提出を求めたこと,②控訴人X1に退職勧奨をしたこと,③その他の職員に対して言葉遣いが非常に荒く悪いこと等を内容とするもの。ただし,末尾には「この報告書についての内容は一切部外秘でお願いしたい。」と記載されている。)

b 平成22年2月10日付け「a高等学校20代の若き専任教諭に聞く」と題する文書(控訴人X1が20代の教師から被控訴人Y2に対する不満を聞き取ったというものをまとめたもの。ただし,末尾には「この内容はこのような形で第三者に公表することを前堤としたものではないので,秘密厳守で取り扱いをお願いするところである。」と記載されている。)

c 「副校長への退職勧奨について」と題する文書(平成22年2月22日,控訴人X1が被控訴人Y2から退職勧奨を受けた際の会談内容の反訳文)

d 学園問題対策委員会の委員長D,同委員K,同委員控訴人X2作成の平成22年2月21日付け被控訴人学園理事長被控訴人Y2宛の「a高等学校校舎建築,並びに理事長給与増額に関する件,等について(報告)」と題する文書(a高校校舎建築実施の決定を近々行うのは無理であること,理事長給与の増額は無理であること等を内容とするもの)

e 学園問題対策委員会の委員長D,同委員K,同委員控訴人X2作成の平成22年2月21日付け被控訴人学園理事長被控訴人Y2宛の「学園問題対策委員会に対する,理事長発言について(具申)」と題する文書(学園問題対策委員会での被控訴人Y2の発言について,理事会を私物化するものであり,謝罪を要求すること等を内容とするもの)

f 「1,D理事辞任に関して」で始まる文書(a高校校舎建築と理事長給与の増額等に関するD理事らと被控訴人Y2との話合いの経過及びこれによってD理事が辞任した経緯を内容とするもの)

g 「1,a高校校舎改築に関する件について」で始まる文書(a高校の校舎改築は資金的に困難な状況にあること,これを被控訴人Y2に言えるのは3人の理事だけだが,そのうち2名が辞任させられた模様であること等を内容とするもの・一部黒塗り)

h 学校法人Y1学園 理事長兼a高校 校長 Y2に関する報告書(①被控訴人Y2は被控訴人学園の経営が思わしくないにもかかわらず校舎建築を急いでいること,②a高校部室建設に関して被控訴人Y2と請負業者との間に談合があったとの情報があること,③a高校相撲道場の建築費が膨れあがっていたこと,④被控訴人Y2がホテルディナー券を教職員に半強制的に販売したこと,⑤被控訴人Y2が平成21年12月,卒業生のFのミスワールド世界大会のために南アフリカに応援に行った際,a高校から旅費等が支出されたこと等を内容とするもの・一部黒塗り)

i 「(黒塗り)横領,背任事件について」と題する文書(平成19年4月までa高校の事務職員であった女性から使途不明な毎月10万円の支出があったことを聞いたこと,被控訴人Y2はこの支出を止めないばかりか月額5万円を増額して支払っていることを内容とするもの・一部黒塗り)

j 「学校法人Y1学園並びにa高校における辞任強要事件について」と題する文書(被控訴人Y2が普段からパワーハラスメントの傾向があるとして,その例として,管理職全員に「辞職願」の提出を求めたり,控訴人X1に退職を仕向ける言動を行ったこと等が記載されているもの・一部黒塗り)

k 「a高校相撲部後援会懇親会について」と題する文書(平成22年2月19日にhホテルで行われたa高校相撲部総会後の懇親会の会費が1人1万円であったが,参加者への料理は1人3000円で行うよう指示が出ており,校長の不正を疑わせる要因である旨を内容とするもの)

l 文部科学省高等教育局私学部私学行政課法規係が控訴人X2に対して問合せの回答をしたメールを印刷した書面(学校に対する所轄庁は設置している学校によって異なること等を内容とするもの)

m 被控訴人Y2についての批判を,「1 校舎建築に関して」,「2 運営に関して」,「3 パワーハラスメント的発言」,「4 公私混同」,「5 教職員間の不公平感について」,「6 学園内外の状況」,「7 その他の声」,「8 校長などの最近の発言」との項建てで各項目について具体的な事実を記載した文書

n 平成22年2月14日付け「学校法人 Y1学園理事長 並びにa高校 校長 (黒塗り)に関する報告書」(被控訴人Y2(ただし実名は上記のとおり黒塗り)の「1 理事会に対する背信行為(理事会の私物化)」として5項目,「2 理事長・校長としての資質の欠如」として11項目の事実を記載したもの)

(4)  被控訴人学園における本件手紙及び29枚の文書の認知

ア 被控訴人Y3は,平成22年10月1日,本件手紙を被控訴人学園にFAXで送信した。

イ 被控訴人Y2は,同日の臨時理事会において,29枚の文書が同年8月18日にa高校本校校舎2階の第一職員室のC教諭(以下「C教諭」という。)のレターボックスで発見されたとし,本件手紙が被控訴人Y3の自宅郵便受けに投函されたとして,これを「個人情報の漏洩」の問題として取り上げた(証拠<省略>)。同臨時理事会においては,29枚の文書の内容及び本件手紙の差出人名(控訴人X1となっている。)に照らして,29枚の文書及び本件手紙の作成に係る控訴人X1の関与を疑う者が出席理事の多数を占め,控訴人X1の言い分を聞くべく,「個人情報漏洩事案特別委員会」(以下「特別委員会」という。)を設置することが決定された(証拠<省略>)。

(5)  本件解雇及び本件解任に至る経緯

ア 被控訴人学園は,平成22年10月5日,控訴人X1に対し,同日付けの「個人情報の外部漏洩に関する調査特別委員会の設置について(通知)」と題する書面を交付し,同月8日に開かれる特別委員会への出席を要請した(証拠<省略>)。

イ 控訴人X1は,同日に開かれた特別委員会に出席したものの,特別委員会の委員からなされた本件手紙及び29枚の文書の作成に関する質問に対し,ほとんど回答しようとはしなかった(証拠<省略>)。

ウ 被控訴人学園は,同月12日に開かれた臨時理事会において,控訴人X1を諭旨免職とすることを決議した(証拠<省略>)。

また,同臨時理事会では,本件手紙の中に控訴人X2の関与を疑わせる記載があること及び29枚の文書の中には控訴人X2作成の文書が含まれていることから,控訴人X2が本件手紙の作成及び29枚の文書の作成に関与していると推測できることを理由に,同月14日の特別委員会で控訴人X2の言い分を聞くことを決定した(証拠<省略>)。

エ 被控訴人学園は,同月12日,控訴人X2に対して,同日付け「個人情報が記載された漏洩文書に関する聞き取りについて(通知)」と題する書面を交付し,同月14日に開催される特別委員会への出席を要請するとともに,同書面に記載された質問事項に対する回答を依頼した(証拠<省略>)。

オ 被控訴人Y2は,同月13日,控訴人X1に対し,控訴人X1を諭旨免職とする旨及び同月14日までに退職に応じない場合には,懲戒免職とする旨通知した。それに対し,控訴人X1は,当該諭旨免職は承伏できない旨を伝えた(証拠<省略>)。

カ 控訴人X2は,同月14日付けで,被控訴人Y2に対し,前記エの質問事項に対する回答を送付したが,同日に開催された特別委員会を欠席した(証拠<省略>)。

キ 控訴人X1は,同日の夕方までに,被控訴人学園に退職届を提出しなかった。そこで,被控訴人Y2は,同日午後4時過ぎ,控訴人X1に対し,本日中に退職届が提出されなければ,別個に辞令書を交付しなくとも,自動的に懲戒免職となる旨を伝えた。この発言を受けて,控訴人X1は,被控訴人Y2に対し,諭旨免職には到底納得できない旨伝えるとともに,処分理由を具体的に記載した書面を交付するよう求めた。(証拠<省略>)

控訴人X1は,同日中に退職届を提出しなかったことから,同月15日に懲戒免職(本件解雇)となった。

ク 被控訴人学園は,同月15日に開かれた臨時理事会において,控訴人X2を懲戒解任する旨の決議(本件解任)をした(証拠<省略>)。

また,同日に開かれた臨時評議員会でも,本件解任が決議された(証拠<省略>)。

ケ 被控訴人学園は,同月20日,控訴人X1に対し,同日付けの「懲戒処分に関する理由について(通知)」(以下「本件解雇理由書」という。)を,控訴人X2に対し,同日付けの「役員の解任に関することについて(通知)」(以下「本件解任理由書」という。)を交付して,それぞれの処分の理由を明らかにした(証拠<省略>)。

(6)  被控訴人学園の控訴人X1に対する雇用契約終了通知

被控訴人学園は,控訴人X1に対し,平成24年3月27日,原審第3回弁論準備手続期日おいて,控訴人X1との雇用契約は同月31日の経過をもって期間満了により終了する旨通知した。

3  争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正し,4のとおり当審における控訴人らの主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決16頁23行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「(ア) 認否

a 上記ア(ア)aは否認する。

(a) a高校の校舎改築については,重要問題である借入金の返済方法についての決定は持ち越した上で,校舎は改築する方向で進めるという程度の承認が取られていたにすぎない。

(b) また,部室の新築,相撲場の建設については,控訴人X1は,建設自体に反対していたのではなく,支出された建設費用につき疑義を呈したにすぎない。

b 上記ア(ア)bは否認する。29枚の文書を構成する資料及びメモ類は,本件手紙より後に作成された。

c その余は争う。」

(2)  同16頁24行目の「被告学園の前記主張はいずれも争う。」を削り,同行目の「(ア),(イ)」を「(イ),(ウ)」と,同17頁1行目冒頭の「(ア)」を「(イ)」とそれぞれ改める。

(3)  同17頁13行目の「かねて,」の次に「月額合計100万円程度の寮費のほかに,」を加える。

(4)  同19頁23行目の「理事に対して強い圧力をかけるに至った」を「理事に対してわめき散らし,その後,理事3名の構成する学園問題対策委員会が反対意見を提出したことに対して激しい圧力をかけ,理事2名を辞任に至らしめた」と改める。

(5)  同20頁8行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「しかも,被控訴人Y2は,平成21年にも,給与の増額を目論んで理事給与を引き上げる案を被控訴人学園の事務局長に作成させた上,これを事務局長が学園問題対策委員会委員長のD理事(以下「D理事」という。)に十分確認を経ずに押印させて,これを平成21年11月24日の理事会に報告させ,また,平成22年1月18日の理事会において,校舎改築とともに理事給与増額の決議に反対した理事に対してわめき散らし,その後,理事3名の構成する学園問題対策委員会が反対意見を提出したことに対して激しい圧力をかけ,理事2名を辞任に至らしめた。この点からも,被控訴人Y2の理事長兼校長として不適切性は明らかであった。」

(6)  同21頁24行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「本件手紙は,被控訴人Y3宛の私信であり,秘密を前提に個人的な相談をしたものであり,依頼内容も控訴人X2に会うことにすぎず,対外的な働きかけを働きかける内容となっていない上,実際に,被控訴人Y3は本件手紙に基づいて被控訴人学園の信頼を失墜させる行為をしていない。」

(7)  同21頁25行目冒頭に「また,」を加える。

(8)  同23頁5行目冒頭の「(イ)」を「(ウ)」と改める。

(9)  同24頁6行目の「個人的」の前に「秘密を前提として」を加える。

(10)  同24頁7行目の「渡しただけである」の次に「上,本件手紙及び29枚の文書が外部に広まって被控訴人学園や被控訴人Y2の名誉や信用を侵害したという結果はもたらされておらず,また,控訴人X1は,そのような結果をもたらそうと考えたこともない」を加える。

(11)  同25頁10行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「そして,黙示の更新においては,「黙示」である以上,当事者がこれについての特約をすることは想定されていないものであり,実際,本件においても,雇用期間が黙示に更新されたときに,雇用契約を限定するような特約がなされたような事実は一切存在しない。

加えて,本件の具体的事実経過において,平成22年3月31日をもって雇用契約が終了するという意思を当事者のいずれもが有していなかったことは,被控訴人Y2の控訴人X1に対する退職強要行為においても,雇用期間について一切言及されていないこと,被控訴人学園が控訴人X1との間の雇用契約を期間の定めのない雇用契約として扱ってきており,平成22年3月,4月になっても,雇用期間について何ら確認もなく,何らの問題もなく,雇用契約が継続していたことから,明白である。」

(12)  同25頁25行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「本件解雇の意思表示の内容,理事会などにおける意思決定過程及び本件解雇の理由に示された内容に照らせば,本件解雇の意思表示に予備的な普通解雇を行う意思を内包していないことは明らかである上,懲戒解雇の意思表示から1年3か月余りを経て,本件解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれていたと主張することは,権利の濫用として認められないというべきである。」

(13)  同33頁11行目末尾に行を改め,次のとおり加える。

「控訴人X1は,地方公共団体の退職者であり,「定年退職者の管理職採用に関する規程」(本件管理職規程)が適用されるところ,同規程に「更新による任用の期限」について,65歳の到達日に至る年度を限度とするとされており,控訴人X1に60歳の定年が適用される余地がないことは明白である。」

(14)  同35頁1行目の「この一連の行為に荷担した被告Y3も」を「被控訴人Y3も,被控訴人Y2と示し合わせて,控訴人X1に対し,平成22年9月15日に被控訴人Y2に対する謝罪を求め,また,同月22日には退職を勧奨し,さらに,本件解雇にも関与するなどして,上記一連の行為に荷担したものであり」と改める。

4  当審における控訴人らの主張

(1)  被控訴人らにおいて,控訴人らが29枚の文書を被控訴人Y3に交付した事実を否認しており,被控訴人らの主張から排除されていたにもかかわらず,かかる事実を懲戒解雇事由として認定することは弁論主義違反である上,懲戒事由は,事後的に付け加えることはできず,また,使用者が懲戒当時認識した事実に限定される旨を判示した最高裁平成8年9月26日判決にも反している。

(2)  「控訴人らが29枚の文書を被控訴人学園の外部の誰かに渡したこと」というような懲戒事由は,懲戒事由としての特定性を欠いており,不適法である。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,原判決を一部変更すべきものと判断したが,その理由は,次のとおり補正し,2のとおり当審における控訴人らの主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決42頁24行目の「D理事(以下「D理事」という。)」を「D理事」と改める。

(2)  同45頁12行目の「証拠<省略>)」を「証拠<省略>。なお,控訴人らは,証拠<省略>の存在及び真正を争うが,裁判所に提出されたこれらの書証の写しの体裁及び記載内容並びに弁論の全趣旨によれば,これらの存在及び成立の真正がいずれも認められる。)」と改める。

(3)  同46頁11行目の「証拠<省略>」を「証拠<省略>」と改める。

(4)  同46頁12行目の「可能性があり」から同頁13行目末尾までを「可能性がある上,かえって,前掲証拠<省略>によれば,被控訴人学園は,hホテルに対し,料理代を一人3000円に抑えたい旨の希望を伝えたが,同ホテルの担当者から,それでは参加者に喜んでもらえない旨を告げられ,その後,同担当者とE教頭との間で協議した結果,料理代が決定されたことが認められるから,J事務局長の上記発言は,最終的に支払った飲食代に関するものではなく,上記希望に関するものであった可能性が高いというべきであるから,この発言が被控訴人Y2の不正を裏付けているとは認め難い。」と改める。

(5)  同46頁15行目の「K」を「K」と改める。

(6)  同49頁1行目の「同年」を「平成21年」と改める。

(7)  同50頁5行目の「第2次雇用契約」から同頁6行目の「他方,」までを削る。

(8)  同50頁6行目の「退任した」の次に「が,同年4月1日以降も,被控訴人学園の副校長として勤務を継続し,被控訴人学園及び被控訴人Y2は,これについて,何ら異議を述べなかった」を加える。

(9)  同55頁3行目の「証拠<省略>」を「証拠<省略>」と改める。

(10)  同57頁20行目から同60頁3行目までを次のとおり改める。

「(3) 控訴人X1が被控訴人Y3に本件手紙及び29枚の文書を交付したことの評価

ア 控訴人らは,前記1(12)カ(ア)及び前記2(1)のとおり,被控訴人Y3に,本件手紙及び29枚の文書を交付したところ,本件手紙には「倒閣運動」という,被控訴人Y2を理事長兼校長から追い落とそうとしていることを示す文言が使用されていることに加え,被控訴人Y3が被控訴人学園に影響力を有する元県議会議員であり,本件以前に被控訴人学園を巡り教職員と経営側が紛争となった際に,解決に尽力したことがあったことに照らすと,控訴人らは,被控訴人Y2を理事長兼校長から退任させるため,被控訴人Y3の影響力を利用することを目論み,控訴人X1において,被控訴人Y3に対し,本件手紙及び29枚の文書を交付したものと推認できる。

しかるところ,学校法人の最高責任者たる理事長の職務執行上の種々の問題点を部外者たる学校法人外部の有力な第三者に説明し,当該部外者の力を利用して理事長を退任させようとする行為は,一般的には,当該学校法人内部における,公正な議論に基づく問題解決の芽を摘んでしまい,当該学校法人の秩序を不公正な手段によって攪乱しこれを毀損するものであることは否定できない上,当該理事長の名誉毀損・侮辱にわたりかねないものでもある。そうすると,このような行為は,一般的には,本件服務規則28条7号(オ)にいう「反社会的行為」あるいはこれに準ずる程度の「不都合な行為」(同号(キ))に該当するものとみるべきである。他方で,本件全証拠を検討しても,控訴人X1に同号(ア)及び(イ)に該当する行為があったと認めるに足りる的確な証拠はない。

イ これに対し,控訴人X1は,被控訴人Y2は違法・不当な職務執行を繰り返してきたところ,被控訴人学園内部で,被控訴人Y2の職務執行についての問題を改善するのは困難な状況にあったことからすると,被控訴人Y3に相談するのもやむを得ない状況にあったとして,控訴人らが被控訴人Y3に相談したことは正当なものであったとし,「反社会的行為」性,あるいはこれに準ずる程度の「不都合な行為」性を否定する趣旨の主張をする。

そこで,以下では,本件の具体的な事情のもとで,控訴人X1が,被控訴人学園の内部事情の説明を交えつつ被控訴人Y3に相談したことに正当性があるか否かについて検討する。

(ア) 説明内容について

a 学校法人の理事長の職務執行上の種々の問題点を部外者たる学校法人外部の有力な第三者に説明し,当該部外者の力を利用して理事長を退任させようとする行為が,当該学校法人内部における,公正な議論に基づく問題解決の芽を摘み,当該学校法人の秩序を攪乱しこれを毀損し,また,当該理事長の名誉毀損・侮辱にわたりかねないにもかかわらず,なおこれが正当化され得るのは,当該学校法人の秩序を維持するための内部規範に優先する法令の遵守が求められている場合に限られるというべきであるから,少なくともその説明内容に当該理事長の違法行為を含んでいる必要があると解するのが相当である。

そこで,控訴人らが,本件手紙及び29枚の文書を交付して,被控訴人Y3に対して説明した内容が,被控訴人Y2の違法行為を含んでいたかという点について検討する。

b 本件手紙及び29枚の文書には,被控訴人Y2の問題のある職務執行として,相撲部の寮の賄い手当に係る不明朗な支出,相撲場建設費に係る不明朗な支出,ミス・ワールド世界大会の出張旅行費に係る不適正な支出,a高校の部室新設に係る入札の談合,平成22年2月19日の相撲部総会の祝賀会の会費に係る疑惑,a高校の校舎改築の強行,理事長の給与の増額の強行,教職員の給与カットの強行,被控訴人Y2の控訴人X1を含めた教職員に対する不適切な言動が記載されている(証拠<省略>)。

c まず,これらの被控訴人Y2の職務執行行為のうち,a高校の校舎改築の強行,理事長給与の増額の強行及び教職員の給与カットの強行の問題については,その当時のa高校の経営状況に照らして,それらを進めるという経営判断が適切かどうか,すなわち被控訴人Y2の業務執行行為が単に不当かどうかを問題としているにすぎず,被控訴人Y2の違法行為を含んでいないから,控訴人らの被控訴人Y3に対する説明内容にこれらの問題が含まれていたことをもって,被控訴人Y3に本件手紙及び29枚の文書を交付したことが正当化されるものではないというべきである。

d 他方,問題があるとされた被控訴人Y2の職務執行行為のうち,相撲部の寮の賄い手当に係る不明朗な支出,相撲場建設費及び部室建築に係る不明朗な支出,ミス・ワールド世界大会の出張旅行費に係る不適正な支出,a高校の部室新設に係る入札の談合及び平成22年2月19日の相撲部総会の祝賀会の会費に係る疑惑については,横領・背任などの刑事責任を問われかねない行為であることを問題としていると評価できる。また,被控訴人Y2の教職員に対する不適切な言動については,不法行為責任を問われかねない行為であることを問題としていると評価できる。

そうすると,控訴人らの被控訴人Y3に対する説明内容にこれらの問題を含む限りにおいて,これが正当化され得る余地を残していると考えられる。」

(11)  同60頁6行目,同頁8行目,同頁11行目,同61頁3行目の「内部告発」を,いずれも「被控訴人Y3に対する説明及び相談」と改める。

(12)  同61頁19行目の「本件の内部告発」,同62頁7行目の「本件内部告発」,同62頁25行目の「本件の内部告発」,同63頁20行目の「本件の内部告発」を,いずれも「被控訴人Y3に対する説明及び相談」と改める。

(13)  同64頁3行目の「告発」を「説明及び相談」と改める。

(14)  同64頁6行目から同66頁5行目までを次のとおり改める。

「上記のとおり,控訴人らにおいて,被控訴人Y3に対し,被控訴人Y2が違法・不当な種々の行為に及んでいた旨の事実を説明して相談した行為は,上記パワハラの事実を除いて正当化されない上,かかる正当化されない事実のうち被控訴人Y2が種々の違法行為に及んでいた旨の指摘については,これが外部に漏れた場合,被控訴人Y2及び被控訴人学園の名誉及び信用を著しく損なうことになるから,そのような内容を含めて被控訴人Y3に対して説明及び相談したことは,上記パワハラの事実について説明及び相談したことについて正当化される余地があることを考慮しても,手段としての相当性を著しく欠いているといわざるを得ない。

そうすると,控訴人X1が,被控訴人Y3に対し,被控訴人Y2を理事長兼校長から退任させるため,部外者である被控訴人Y2の職務執行上の問題点について説明して相談に及んだことを正当化することはできず,控訴人らの主張は採用できない。

なお,控訴人X1は,被控訴人Y2が前記1(8)の甲子園出場特別後援会に対する寄付金に関して違法な処理をした可能性があることから,控訴人らの本件手紙及び29枚の文書の交付が正当化されるかのように主張するが,仮に,そのような可能性があったとしても,控訴人らが指摘する被控訴人Y2が種々の違法行為(上記パワハラの事実を除く)について,前記のとおり,これらが真実であったとも,これらを真実と信じることに相当な理由があったとも認められない以上,控訴人らの本件手紙及び29枚の文書の交付が正当化される余地はない。」

(15)  同66頁7行目の「被告Y3の影響力」から同頁8行目の「退任させるため」を「被控訴人Y2を理事長兼校長から退任させるため,被控訴人Y3の影響力を利用することを目論み」と改める。

(16)  同66頁13行目末尾に「なお,被控訴人学園は,①控訴人らが被控訴人学園や被控訴人Y2について,国や県に通告した上,②控訴人X1は,被控訴人Y2がパワハラをしたなどの虚偽の情報を報道機関に流して,被控訴人学園の信頼を失墜させた旨主張するが,控訴人らが上記①の通告をしたと断定するに足りる証拠はなく,また,後に説示するとおり,被控訴人Y2が控訴人X1に対し,不法行為に該当するような退職勧奨行為等をしていたことが認められるから,控訴人X1が虚偽の情報を報道機関に流したとも認め難い。」

(17)  同66頁16行目の「個人的」の前に「秘密を前提とした」を加える。

(18)  同67頁23行目から同68頁3行目までを次のとおり改める。

「被控訴人学園は,控訴人X1が,被控訴人Y2を理事長職及び校長職から追い落とすことを目的として,種々の行為を行った上,一切の謝罪も,弁明も,事実解明への協力も拒み,被控訴人学園に対して反抗する姿勢を明らかにして,被控訴人学園の秩序を混乱させたことからすれば,被控訴人学園としては,控訴人X1を懲戒免職にする以外に学園秩序を維持する方法がなかったといえ,控訴人X1を懲戒免職(本件解雇)にしたことは相当であった旨主張する。

しかしながら,被控訴人Y2が,後に説示するとおり,控訴人X1に対し,不法行為に該当するような退職勧奨行為等をしていたことが認められることからすると,控訴人X1において,被控訴人Y2を理事長兼校長から退任させようとしたことや,被控訴人Y2が理事長兼校長の地位にある被控訴人学園に対して反抗する姿勢を示したことには,酌量されるべき相応の理由があったと認められる。また,控訴人らが相談をした被控訴人Y3は,形式的には,被控訴人学園の部外者ではあるが,本件以前に被控訴人学園を巡り教職員と経営側が紛争となった際に解決に尽力した者であったことに照らすと,控訴人らが本件手紙及び29枚の文書を交付して説明した内容を他の部外者に漏らす可能性は極めて低かったものと認められ,実際,被控訴人Y3が,上記内容を他の部外者に漏らしたものとは認められず,控訴人らが被控訴人Y3に対して本件手紙及び29枚の文書を交付してした説明及び相談した行為によって,被控訴人学園に多少の混乱を生じさせ,また,被控訴人Y2の心情を害したことは否定できないものの,被控訴人学園及び被控訴人Y2に控訴人X1を懲戒免職処分にすべき程の重大な実害が生じたとまでは認められない。これらの事情を総合考慮すれば,被控訴人学園が,控訴人X1を懲戒免職とすることは,重きに失し,著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認することができないというべきである。

したがって,本件解雇は,解雇権の濫用として無効になるものといわざるを得ない。」

(19)  同68頁11行目の「そのこと」から同頁12行目末尾までを「そのことをもって本件解雇が懲戒権の濫用に当たるとはいえないというべきである。」と改める。

(20)  同68頁13行目から同頁25行目までを,次のとおり改める。

「(2) 以上のとおり,本件解雇は,解雇権の濫用であり,無効である。

5 争点2(控訴人X1と被控訴人学園との間の雇用契約は更新により期間の定めのないものとなったか。)について

第1次雇用契約が黙示に更新されたことは前記前提事実のとおりであるところ,黙示の更新について定める民法629条が,1項後段において,各当事者は,期間の定めのない雇用の解約の申入れに関する同法627条の規定により解約の申入れをすることができると定めていることに照らせば,雇用契約が黙示に更新された場合,更新された雇用契約は,期間の定めのないものになると解するのが相当である。

そして,本件管理職規程では,被控訴人学園に採用された控訴人X1のような管理職の任用期間は2年以内とされているが,他方で,その任用期間を更新することができるとされているから,本件管理職規程をもって,上記と異なる法理が適用されるとも認め難く,控訴人X1と被控訴人学園との間の雇用契約は,第1次雇用契約の黙示の更新によって,平成20年4月1日以降,期間の定めのないものになったというべきである。なお,被控訴人学園が,平成22年○月○日に至って,控訴人X1の第2次雇用契約について「任用期間は平成22年3月31日までとする」と記載された平成20年4月1日付け辞令書を控訴人X1に交付したこと(前記1(12)セ(ウ))も後記判断を左右するものではない。

6 争点3-1(本件解雇の意思表示に予備的な普通解雇の意思表示が含まれていたか。)について

被控訴人学園は,本件解雇の意思表示は,予備的に控訴人X1に対して普通解雇を行う意思をも内包していた旨主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はなく,かえって,証拠(被控訴人Y2本人)によれば,被控訴人学園の理事会において,控訴人X1を普通解雇にする話は全くなかったことが認められる。

7 争点4-2(雇用契約は平成23年3月31日をもって終了したか。)について

被控訴人学園は,被控訴人学園の規程によれば,被控訴人学園の教職員は60歳に達した年度の3月31日に定年退職することになる旨主張する。

しかしながら,控訴人X1は,地方公共団体の退職者であり,本件管理職規程が適用されるところ,同規程では,「更新による任用の期限」について,満65歳の到達日の属する年度までを限度とするとされており,控訴人X1に一般の教職員に関する満60歳の定年は適用されないというべきであるから,被控訴人学園の上記主張は採用することができない。

そうすると,控訴人X1と被控訴人学園との間の雇用契約は,本件解雇によって終了せず,現在まで継続していたことになり,被控訴人学園は,控訴人X1に対し,本件解雇後の賃金として,平成22年10月分につき22万4411円及びこれに対する同月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金,並びに,同年11月から控訴人X1が請求している本判決確定日まで(ただし,先に平成28年3月31日が経過した場合は,控訴人X1が満65歳到達日の属する年度の最終月である同3月まで),毎月21日限り月額40万8032円の割合による金員及びこれらに対する毎月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。」

(21)  同68頁26行目冒頭の「5」を「8」と改める。

(22)  同69頁3行目から同頁5行目までを次のとおり改める。

「ア 前記4(1)イのとおり,被控訴人学園が控訴人X1を本件解雇をしたことは,重きに失し,著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認できないが,前記3のとおり,控訴人X1に本件服務規則28条7号(オ)又は(キ)に該当する行為があったこと,前記4(1)ウのとおり,本件解雇は,平成22年10月12日の理事会における決議によってされたものであって,被控訴人Y2個人の権限によってなされたものでなく,被控訴人Y2が個人的感情から本件解雇を行ったものと断定することはできないことに照らすと,本件解雇について,被控訴人Y2に不法行為があったとまではいえず,他に被控訴人Y2に本件解雇に関して不法行為があったものと認めるに足りる証拠もない。」

(23)  同71頁23行目から同72頁6行目までを次のとおり改める。

「ア 控訴人X1は,被控訴人Y3が,被控訴人Y2と示し合わせて,控訴人X1に対し,平成22年9月15日に被控訴人Y2に対する謝罪を強く求めた旨主張するが,そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

イ また,控訴人X1は,被控訴人Y3も,被控訴人Y2と示し合わせて,控訴人X1に対し,平成22年9月22日には退職を勧奨した旨主張する。

被控訴人Y3が,平成22年9月22日,a高校の校長室において,控訴人X1及び被控訴人Y2と話し合う中で,控訴人X1に対し,被控訴人Y2への謝罪と,辞職を促したことは,前記1(12)スのとおりである。

しかしながら,被控訴人Y3は,控訴人X1が被控訴人学園及び被控訴人Y2の名誉及び信用を損なう内容の29枚の文書を作成及び交付するという不適切な行為に関与したことを前提に,謝罪と辞職を促したにすぎないから,被控訴人Y3が29枚の文書を被控訴人学園に提供したことを考慮しても,被控訴人Y3の上記行為が,社会通念上著しく相当性を欠き不法行為を構成するとはいえない。

ウ さらに,控訴人X1は,被控訴人Y2と示し合わせて,被控訴人Y3が本件解雇に関与した旨主張する。

証拠<省略>によれば,被控訴人Y3は,平成22年10月12日に開催された被控訴人学園の臨時理事会において,所感等を述べたことが認められるものの,その内容が社会通念上著しく相当性を欠くものとは認められず,他に,被控訴人Y3が,本件解雇について,社会通念上著しく相当性を欠き不法行為を構成するような関与をしたものと認めるに足りる証拠はない。」

(24)  同72頁24行目冒頭の「6」を「9」と改める。

(25)  同73頁12行目から19行目までを次のとおり改める。

「ア 前記3(3)アのとおり,控訴人らが,被控訴人Y2を理事長兼校長から退任させるため,部外者である被控訴人Y3の影響力を利用することを目論み,被控訴人Y3に対して本件手紙及び29枚の文書を交付して説明及び相談をする行為は,被控訴人学園の秩序を不公正な手段によって攪乱しこれを毀損するものであることは否定できない上,被控訴人Y2に対する名誉毀損しかねないものでもあるから,そのような控訴人X2の行為は,本件役員規程16条2号の「学園の不利益となる事項を他に漏洩」する行為又は同条6号の「役員として相応しくない行為」及び本件寄付行為11条1項4号の「役員たるにふさわしくない重大な非行」に該当するというべきである。

他方で,控訴人X2が理事会への出席を拒絶し,弁明を拒否した行為については,自ら弁明の機会を放棄したにすぎないから,かかる事実をもって,本件役員規程16条1号及び本件寄付行為11条1項1号及び3号に該当する行為があったとまでは認め難い。」

(26)  同73頁26行目ないし同74頁1行目の「内部告発」を「被控訴人Y3に対する説明及び相談」と改める。

(27)  同74頁4行目の「2号」の次に「又は6号」を加える。

(28)  同74頁7行目から12行目までを削る。

(29)  同74頁13行目冒頭の「イ」を「ア」と改める。

(30)  同76頁11行目から同頁16行目までを次のとおり改める。

「被控訴人Y2が,前記のとおり,控訴人X1に対し,不法行為に該当するような退職勧奨行為等をしていたことからすると,控訴人X2においても,被控訴人Y2を理事長兼校長から退任させようとしたことには,酌量されるべき相応の理由があったと認められる。また,控訴人らが相談をした被控訴人Y3は,形式的には,被控訴人学園の部外者ではあるが,本件以前に被控訴人学園を巡り教職員と経営側が紛争となった際に解決に尽力した者であったことに照らすと,控訴人らが29枚の文書を交付して説明した内容を他の部外者に漏らす可能性は極めて低かったものと認められ,実際被控訴人Y3が,上記内容を他の部外者に漏らしたものとは認められず,控訴人らが被控訴人Y3に対して29枚の文書を交付してした説明及び相談した行為によって,被控訴人学園に多少の混乱を生じさせ,また,被控訴人Y2の心情を害したことは否定できないものの,被控訴人学園及び被控訴人Y2に控訴人X2を懲戒解任にすべき程の重大な実害が生じたとまでは認められない。これらの事情を総合考慮すれば,被控訴人学園が,控訴人X2を懲戒解任することは,重きに失し,著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認できないというべきである。

したがって,本件解任は,解任権の濫用として無効になるといわざるを得ない。」

(31)  同76頁23行目の「本件解任」の前に「そのことをもって」を加える。

(32)  同76頁25行目から同77頁5行目までを次のとおり改める。

「イ そうすると,控訴人X2と被控訴人学園との間の委任契約は,本件解任によって終了せず,その任期が満了するまで継続していたことになり,被控訴人学園は,控訴人X2に対し,本件解任後の報酬として,平成22年11月から理事の任期が満了する前月の平成23年9月まで,毎月21日限り月額3万円及びこれらに対する毎月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。」

10 争点7(被控訴人学園及び被控訴人Y2が本件解任をしたことが不法行為になるか。これが肯定された場合の損害額はいくらか。)について

前記9(3)ア(ウ)のとおり,被控訴人学園が控訴人X2を本件解任をしたことは,重きに失し,著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認できないが,前記9(2)のとおり,控訴人X2に本件役員規程16条2号又は6号及び本件寄付行為11条1項4号に該当する行為があったこと,前記9(3)ア(エ)のとおり,本件解任は,平成22年10月15日の理事会及び評議会における決議によってされたものであって,被控訴人Y2個人の権限によってなされたものでなく,被控訴人Y2が個人的感情から本件解雇を行ったものと断定することはできないことに照らすと,本件解雇について,被控訴人Y2に不法行為があったとまではいえず,他に,本件解任について,被控訴人学園及び被控訴人Y2に控訴人X2に対する不法行為があったものと認めるに足りる証拠はない。」

2 当審における控訴人らの主張に対する判断

前記当審における控訴人らの主張は,控訴人らが主張する不法行為の成否にも関係すると考えられるので,これに対する判断を示す。

(1)  控訴人らは,被控訴人らにおいて,控訴人らが29枚の文書を被控訴人Y3に交付した事実を否認しており,被控訴人らの主張から排除されていたにもかかわらず,かかる事実を懲戒解雇事由として認定することは弁論主義違反である上,懲戒事由は,事後的に付け加えることはできず,また,使用者が懲戒当時認識した事実に限定される旨を判示した最高裁平成8年9月26日判決にも反している旨主張する。

しかしながら,弁論主義は,裁判所と当事者との関係で問題となるものであって,弁論主義違反となるのは,どちらの当事者からも主張されていない主要事実を判決の基礎とする場合であるところ,本件では,控訴人らにおいて,控訴人らが29枚の文書を被控訴人Y3に交付した事実を主張しているのであるから,かかる事実を認定したことが弁論主義違反となることはない。

また,弁論の全趣旨によれば,被控訴人学園は,本件解雇当時,控訴人らが被控訴人学園の外部に29枚の文書を流出させたことを認識し,これを懲戒事由の重要部分としたものの,これを誰に流出させたかということは問題としていなかったのであるから,仮に,被控訴人学園において,控訴人らが29枚の文書を被控訴人Y3に交付したという具体的事実を認識していなかったとしても,懲戒事由を事後的に付け加えたり,懲戒当時認識していなかった事実を懲戒事由として主張しているものとは評価し難いから,控訴人らの上記最高裁判決違反の主張も採用することができない。

(2)  さらに,控訴人らは,「控訴人らが29枚の文書を被控訴人学園の外部の誰かに渡したこと」というような懲戒事由は,懲戒事由としての特定性を欠いており,不適法である旨主張する。

しかしながら,上記程度に特定がされていれば,懲戒事由として十分に特定されているということができるから,控訴人らの上記主張は採用することができない。

第4結論

以上によれば,控訴人X1の各請求は,被控訴人学園に対し,雇用契約上の地位を有することの確認,平成22年10月分の賃金として,22万4411円及びこれに対する同月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,並びに,同年11月分以降の賃金として,同月から本判決確定日まで(ただし,先に平成28年3月31日が経過した場合は,同月まで),毎月21日限り,月額40万8032円の割合による金員の支払を,被控訴人学園及び被控訴人Y2に対し,損害金110万円及びこれに対する不法行為日後である平成22年10月15日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,それぞれ求める限度で理由があり,その余は理由がなく,また,控訴人X2の各請求は,本件解任後の報酬として,同年11月から平成23年9月まで,毎月21日限り,月額3万円及びこれらに対する毎月22日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから,これと異なる原判決の判断は一部失当であるので,これを変更することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塚本伊平 裁判官 内田貴文 裁判官 堀田匡)

(別紙)

当事者目録

控訴人 X1(以下「控訴人X1」という。)

控訴人 X2(以下控訴人X2」という。)

控訴人ら訴訟代理人弁護士 大田原俊輔

同 房安強

被控訴人 学校法人Y1学園(以下「被控訴人学園」という。)

同代表者理事長 A

被控訴人 Y2(以下「被控訴人Y2という。)

被控訴人 Y3(以下「被控訴人Y3」という。)

被控訴人ら訴訟代理人弁護士 安田寿朗

同 林一蔵

同 水田敦士

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