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広島高等裁判所松江支部 平成8年(行コ)1号 判決 1997年12月03日

鳥取県倉吉市上井町一丁目二〇〇番地

控訴人

白山環境開発株式会社

右代表者代表取締役

山根清道

右訴訟代理人弁護士

松本光寿

鳥取県倉吉市上井町五八七番地一

被控訴人

倉吉税務署長 飯島幸男

右指定代理人

村瀬正明

山﨑保彦

小林英樹

松井重利

松田亮

大原邦夫

下方宏展

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担すとる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が控訴人に対して行った以下の各処分をいずれも取り消す。

1  平成三年一二月二七日付けでした平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分

2  平成四年四月一三日付けでした平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分

3  平成三年一二月二七日付けでした平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの課税期間の消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

本件事案の概要は、原判決の事実及び理由欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件土地売買の代金額)について

1  平成二年九月一一日、本件土地売買代金決済の場において、買主である中国山系の代表者船越から、控訴人会社の代理人としてこの場に臨んだ牧田に対し、銀行振出の額面六五〇〇万円と同五〇〇〇万円の二通の小切手が交付され、牧田はこれを受領した、との事実は当事者間に争いがないところ、右事実は、端的に被控訴人の主張事実に副うものである。そして、右事実に、船越が乙一四及び乙二〇において供述する事実(売買交渉の際、控訴人代表者は当初一億五〇〇〇万円でなければ売らないと言うなど強気であったが、結局、裏金が作れるよう便宜を図ってほしいという控訴人代表者の要求を買主側が受け入れることとして代金額が一億一五〇〇万円と決まり、代金支払の際は、右要求に副うように、金額が六五〇〇万円と五〇〇〇万円の二通の小切手を用意した)を合わせ考えれば、本件土地売買の代金額は牧田が受領した一億一五〇〇万円であったのであり、控訴人会社に右同額の収入があったことを優に推認できるというべきである。なお、右船越の供述事実については、その後の船越証言によっても否定されておらず、他にこれを覆すに足りる証拠もない。

2  これに対して、控訴人は、中国山系との間で合意していた代金額は六七六〇万円であり、船越が一億一五〇〇万円の小切手を交付したのは、自らの所得を隠蔽するため同人が仕組んだことであって、牧田はその道具として利用されたにすぎない、また、牧田には六七六〇万円の代金受領権限しかなかったから、同人がこれを超える金員を受領したとしても、それは同人が勝手にしたことであり、このことをもって控訴人会社が一億一五〇〇万円を取得したと認定することはできない旨主張する。

しかしながら、次の理由により、右主張は採用できない。

(一) 控訴人の主張のとおりであれば、控訴人代表者としては、当日支払われる金額は六七六〇万円であり、それを牧田が持ち帰ることを予定していたはずである。ところが、現実に交付されたのは六五〇〇万円と五〇〇〇万円の二通の小切手であったのであり、牧田証言及び控訴人代表者の原審供述によれば、牧田は、控訴人代表者には六五〇〇万円の小切手を受け取ったとだけ報告して五〇〇〇万円の小切手のことは伏せておき、差額の二六〇万円については、倉吉に帰ってから二、三日中に自分が責任をもって入金するとだけ説明し、これを聞いた控訴人代表者も、それ以上の詳しい説明を求めなかったというのである。しかし、代金額は六七六〇万円であるという控訴人代表者の認識を前提とすれば、買主側の用意していたのが、シンキに支払うべき債務額(前記第二、二、12のとおり元本三九二〇万円。甲六の一ないし七によれば、登記簿上の極度額四八〇〇万円)に照らしても、約定の代金額に照らしても中途半端な金額である六五〇〇万円の小切手であったというのは、いかにも不自然であり、しかも、決済日の直前になって急きょ代役を依頼した牧田が、差額の二六〇万円について倉吉に帰るまで何も言わないでおいて、倉吉に帰るや、すぐには引き渡せず後日入金すると説明したというのも、まことに異常な事態である。控訴人代表者としては、これらの点について不審の念を抱くのが自然の成り行きというべきであるのに、前記のような牧田の簡単な説明を受けただけで納得し、買主側がなぜ代金額に満たない金額の小切手を渡したのかとか、差額の二六〇万円をなぜ受け取って来なかったのかなどを追及せず済ませたということは、五〇〇〇万円の小切手の交付が、控訴人代表者及び牧田の全く関知しないところで船越が仕組んだことであるという控訴人の主張を前提とする限り、全く理解できないというほかはない。

以上の次第で、控訴人の主張は、前掲牧田証言及び控訴人代表者本人供述に表れた同人らの行動に照らし、不自然不合理というべきである。

(二) 代金額が六七六〇万円であったという控訴人の主張に副う証拠としては、控訴人代表者の供述(原審・当審)及び牧田証言のほかは、代金額を六七六〇万円と記載した本件契約書、重要事項説明書(乙九)、取引台帳(乙一〇)、領収証(乙一四に添付のもの)があるにすぎない。しかしながら、控訴人代表者本人の原審供述によっても、本件契約書は代金額につき合意に達した後直ちに作成されたものではなく、控訴人会社側で起案した書面を船越に郵送し、同人が押印したものを返送してもらって、決済日(九月一一日)より後に完成させたものであり、日付が九月一四日とされているのは、最終的に二六〇万円の入金があった日を形式的に記入したものと思うが、それが客観的な証拠とは異なるというのであれば(甲三の二によれば、シンキから残余金の振込があったのは九月一八日、二六〇万円が入金されたのは同月一九日)、なぜそうなったのか分からない、というものであり、右のような作成経過に照らせば、売買金額に関する本件契約書の記載もたやすく信用することができず、この点は他の書証についても同様である。特に、領収証については、牧田証言によれば、決済の場に持参はしたものの、いらないと言われたので船越に交付せず、持ち帰って控訴人代表者に返却したというのであり、これが船越の手元にある理由は全く不明である。

以上の次第で、控訴人の主張事実については、信用するに足りる客観的な証拠は全く存しない。

(三) 控訴人の主張に副う控訴人代表者本人の供述(原審・当審)及び牧田証言には、更に以下ような矛盾ないし疑問を指摘することができる。

第一に、売買代金額決定の根拠につき、控訴人代表者本人(原審)は、当時の相場は坪四万円くらいだと認識しており、取得金額に一〇〇〇万円くらい上乗せした金額でどうかという助言もあったので、坪五万円に公簿地積(一三五二坪)を乗じて売価六七六〇万円を算出したと供述するが、本件土地は一団の土地であって水路も含まれている結果、実測面積が公簿より大きいことは控訴人代表者自身がよく認識していたことであり、にもかかわらず、公簿により売価を決定したというのは不合理である。また、乙一五によれば、控訴人会社は本件土地を購入してから転売するまでの間、直接及び間接に一三〇〇万円を超える経費を要していることが認められ、買主の方から申し込まれた売買であるのに、あえて利益がほとんど出ない金額を決めるというのも不自然である。

第二に、控訴人の主張によれば、本件売買の決済の場に控訴人代表者自身が出向いておれば船越による工作の余地はなかったということになるはずであるが、控訴人代表者に代わり牧田が行くことになった経緯に関する控訴人代表者本人の原審供述は不自然であるし、牧田の供述(甲二には取引の数日前に代役の要請を受けこれを承認したとある。その後の証言では大阪行きを頼まれたのは前日であるとする。)とも一致しない。すなわち、控訴人代表者は、前日になって、船越か今田から、電話で取引場所を大阪に変更したいと言ってきたが、変更の理由を深く詮索もせずこれに応じることとし、自分には倉吉でキャンセルできない用事があったので、急きょ牧田に依頼したというのであるが、当時控訴人代表者は買主は中国山系であると認識していたとも供述しているものであり、そうであれば、シンキの社員や司法書士の立会も必要な取引について、売買当事者双方及び関係者に全くなじみのない土地に変更するという買主側の勝手な申し出に対し、どうしても本件土地を買ってほしいという事情もなかった控訴人会社が、代役を立ててまでこれに応じるというのは、いかにも不自然である。しかも、申し出のあった時刻及び状況に関する控訴人代表者本人の供述は、あいまいで変転しており、乙三(控訴人会社の業務日誌)によれば、変更の申し出があったという九月一〇日には、船越、今田に加え、牧田をも伴って関金町役場に赴いていると認められることに照らしても、右供述はたやすく信用することができない。

(四) 以上のとおり控訴人代表者の供述や牧田証言に不自然な点が多く、本件契約書も通常の作成の仕方をされていないことは、逆に前記1の認定を裏付けるともいうことができる。

二  争点2(販売費及び一般管理費の額)について

原判決二八頁二行目から三〇頁二行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

三  そうすると、被控訴人の行った本件各処分は、いずれも適法であると認めることができ、控訴人の本訴請求はいずれも理由がない。

よって、原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとする。

(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 石田裕一 裁判官 水谷美穂子)

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