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広島高等裁判所松江支部 昭和28年(う)160号 判決 1955年8月01日

控訴人 原審検察官 今池喜代美

被告人 張再鳳

弁護人 武井正雄

検察官 西向井忠実

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年及び罰金拾万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五百円を壱日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

ただし、五年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人から金参拾五万円(本件犯罪船舶たる汽帆船第一喜久丸の価額)を追徴する。

原審訴訟費用中証人山口景朝、同山口光明、同大西勤、同里村栄次郎、同高松一及び同松浦英彰に支給した分は被告人の負担とする。

理由

弁護人武井正雄並びに検察官の各控訴の趣意は、記録編綴の同弁護人名義及び検事今池喜代美名義各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

弁護人の控訴趣意に対する判断

所論を要約すれば、結局その趣旨は(1) 被告人は、その老母及び兄の妻に面会せんがため、原審における分離前の相被告人金斗暎の好意により、本件犯罪船舶たる汽帆船第一喜久丸に便乗して朝鮮に赴き、再び右汽帆船に便乗して本邦に帰来したものであつて、本件密輸出入には全く関与していない。河井一政の検察官に対する第一回供述調書中の供述記載によれば、恰も被告人が金斗暎等と共謀の上原判示第一の(一)(二)の如き犯行に出でたものの如くみられるようであるけれども、右河井一政は検察官の取調に対し、虚構の事実を供述したものである(2) 原審が証拠として採用した犯則物件鑑定書の名義人たる大蔵技官高松一は、他面、大蔵事務官として本件犯則事件の調査に当り、関係者の取調によつて犯罪貨物の品名、数量を確定した上、これを以て鑑定の資料に供したものであるから、右鑑定書は、実質上単なる自供調書と何等異るところなく、犯罪貨物の品名、数量につき補強証拠がない本件においては、証拠としての価値がないものといわなければならない。然るに、原審は右鑑定書及び前記河井一政の検察官に対する第一回供述調書等を証拠とし、被告人に対し有罪を言渡したのであるから、原判示第一の(一)(二)の点に関し、原判決には事実の誤認があるというに帰着する。

よつて所論に鑑み、訴訟記録及び原裁判所が取調べた証拠を精査するに、

(1)原審公判審理の際、被告人が所論摘録のような弁解をなし居ることは、所論のとおりである。而して、原審証人山口景朝、山口光明、里村栄次郎、大西勤の各証言中、所論摘録のような各供述部分があるけれども、これのみを根拠として、被告人の右弁解が真実に合致するとの弁護人の所論はこれを是認し難い。ところで、河井一政の検察官に対する第一回供述調書(謄本)を他の諸般の証拠と彼此対比して仔細に検討するとき、同人が故ら虚偽の供述に出でた形跡は全くこれを窺うことができない。諸般の証拠により、被告人が西郷港より乗船し、長箕において下船して陸路元山に赴いたこと及び本件犯罪貨物が被告人の所有に属していなかつたことが認められることは、所論のとおりであるけれども、一面、被告人は単に本件犯罪船舶たる第一喜久丸に便乗したものではなく、金斗暎等と共謀の上、本件密輸出入に加担したものであることも亦これを認めることができるのである。

(2)原審が証拠として採用した鑑定書の名義人たる境税関支署職員高松一が本件犯則事件調査担当職員の一員であることは、所論のとおりである。而して、同人は大蔵事務官として本件犯則嫌疑者中一部の者に対する取調に当ると共に、大蔵事務官松浦英彰の嘱託に基き、大蔵技官たる資格で本件犯罪貨物の「原価」を鑑定したものであることは、これ亦記録上明白であるが、かかる権限は、本来法令によつて附与されたものであるから、本件鑑定書が大蔵技官たる高松一の職務上作成に係るものであることは、更に贅言を要しない。苟くも、嘱託に係る鑑定事項につき、同人が特別の知識、経験を有している限り、同人にはこれが鑑定能力を具備しているものというを妨げない。本件においては、同人の鑑定能力の有無につき、毫も疑を挿むに足る根拠がないのみか、却つて、諸般の証拠に照し、その鑑定の結果が正鵠であることが認められる。又、犯則嫌疑者等関係者の供述は、相互に補強証拠となし得るのであつて、本件においては、被告人のみを取調べて犯罪貨物の品名、数量を確定した上、これを以て鑑定の資料に供したものでないことは、記録上明らかであるから、右鑑定書が実質上単なる自供調書と異らないということを前提とする弁護人の所論はこれを是認することができない。叙上の判断と同趣旨に出で、原審がこの点に関する弁護人の主張を排斥したのは、まことに相当な判断であるといわなければならない。

原判決挙示の関係証拠及びこれによつて認め得る諸般の事実により、原判示第一の(一)(二)の事実は、優にこれを認めるに足り、原判決には、原審が所論の如き事実の誤認を犯した形跡は、全くこれを発見することができないから、論旨は採用の限りでない。

叙上の説示によつて明らかなように、被告人の本件控訴は理由がないけれども、本件については、後段において説示する如く、検察官の控訴が理由あり、原判決を破棄すべきものであるから、特に主文において、被告人の控訴を棄却する旨の言渡をしない。

検察官の控訴趣意に対する判断

第一の(一)の点(原判決において、本件犯罪貨物の没収或いはその「原価」の追徴の言渡をしなかつたのは、旧関税法第八三条の適用を誤つたものであると主張する点)について。

原判決によれば、被告人が金斗暎等と共謀の上、本件密輸出入の犯行に出でた事実を認定しながら、原審が被告人に対し、本件犯罪貨物の没収或いはその「原価」の追徴の言渡をしなかつたことは、所論のとおりである。而して数人の犯人が共同して密輸出入をなした場合、旧関税法第八三条による犯罪貨物の没収は、犯人全部に対して言渡すのを原則とするけれども、該貨物に対する所有、占有関係が明確に判明している場合には、所有者たる犯人のみに対して没収の言渡をなし他の共犯者に対し没収の言渡をしなくても同法条に違背するものではないと解すべきである。而して、所有者たる犯人の責に帰すべき事由によつて、犯罪貨物がこれを没収することができないようになつたときは、その犯人のみに対し「原価」の追徴を言渡すを以て足り、必ずしも共犯者全員に対し追徴の言渡をしなければならないものではない。

叙上の法理は固より犯罪船舶にも共通のものであるが、犯罪船舶と犯罪貨物に対する所有、占有関係、殊に実力支配の状況、没収することができないようになつた場合の責任関係等の点につき、それぞれ自ら差異があり得る訳であるから、犯罪船舶の没収或いは「価額」の追徴と犯罪貨物の没収或いは「原価」の追徴につき、必ずしも同一の措置がとられなければならないものでもないのである。

ところで、本件についてこれをみるに、原判決挙示の関係証拠によれば、本件犯罪貨物が原審における分離前の相被告人金斗暎の所有に属していたこと及び右貨物は、既に同人自ら或いはその指示に基いて処分されて仕舞つたものであることが明らかであるが、原審裁判所において昭和二六年一二月二六日、右金斗暎に対し、本件犯罪貨物の「原価」合計金一〇六万一六〇〇円の追徴を言渡したことは、当裁判所において顕著なるところである。叙上の事実、経過を通じて考えるとき、原審においては、当裁判所の叙上の判断と同趣旨に出で特に被告人に対して本件犯罪貨物の没収或いはその「原価」の追徴の処分を避けたものであることが窺われ、かかる措置を目し違法であるということはできない。されば、原審が本件犯罪船舶については、その「価額」の追徴を言渡したに反し、犯罪貨物の没収或いはその「原価」の追徴を言渡さなかつた点に関し、検察官所論の如き法令適用の誤があるということはできないから、論旨は採用することができない。

第一の(二)の点(原判決において、その無罪部分につき、外国人登録令第三条の適用を誤つたものであると主張する点)について。

本件公訴事実中訴因第三の(二)の部分につき、原審が所論摘録のような理由により無罪を言渡したことは、所論のとおりである。さて昭和二四年政令第三八一号による改正以前の外国人登録令の適用に関し、同令所定の外国人が、法定の除外事由がないのに本邦に入つた場合、同令第三条第一項、第一二条第一号違反罪が成立し、該外国人が嘗て本邦に居住していた当時の外国人登録証明書を所持すると否と、将又該外国人が本邦を退去するに当り、再び本邦に入る意思を有していたと否とは、右違反罪の成否に何等の消長を及ぼすものでないことは、正に所論のとおりである。

然るに、原審において、公訴事実にいうが如き事実の存在を是認しながら、所論摘録のような理由により、本件は罪とならない場合に該当するものとして無罪の言渡をなしたのは、法令適用の誤であること、正に検察官所論のとおりであるというべく、而かも、その誤が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

叙上の如く、検察官の本件控訴は、結局その理由があることに帰着するから、検察官の控訴趣意第二の点(原審の量刑は不当であると主張する点)に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項により、原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書によつて、更に次のとおり判決する。

原判決挙示の証拠を綜合して、当裁判所が認定する犯罪事実は、次のとおりである。

第一、被告人は、原審における分離前の相被告人金斗暎等と共謀の上、

(一)昭和二四年一月二〇日、密に朝鮮元山港に陸揚すべく、鳥取県西伯郡境港より汽帆船第一喜久丸(三〇噸三三)に、免許を受けないで、綿被覆ゴム絶縁通信線一巻五〇〇米のもの二〇巻(原価四万円)ゴム絶縁電線(撚線)一巻三〇〇米のもの五巻(原価一万二〇〇〇円)及び呼鈴線二〇〇米のもの一巻(原価一六〇〇円)を積載して出航し、以て不法に貨物の輸出をなし

(二)同年三月上旬頃、朝鮮元山港より前記第一喜久丸に、塩すけそうたら子一樽四貫二〇〇匁入のもの一二〇〇樽を積載して出航し、同月四日、免許を受けないで密に兵庫県城崎郡香住港に、右塩すけそうたら子の中六〇〇樽(原価一〇〇万八〇〇〇円)を陸揚し、以て不法に貨物の輸入をなし

第二、被告人は外国人であるが、

(一)昭和二四年一月二〇日、島根県周吉郡西郷港より前記第一喜久丸に乗船し、朝鮮元山に渡航せんがため本邦を退去した際、地方長官の指定する官公吏に、携帯中の外国人登録証明書の返還をなさず、

(二)同年三月四日、朝鮮より渡来するに当り連合国最高司令官の承認を受けないで、密に前記香住港に上陸し、以て不法に本邦に入国し

たものである。

右犯罪事実に法律を適用するに、先ず、判示各所為に対する罰条を表示すれば、次のとおりである。

第一の(一)の点

昭和二四年法律第六五号による改正以前の旧関税法第七六条第一項(関税法附則第一三項)旧貿易等臨時措置令第一条、

第四条(外国為替及び外国貿易管理法附則第三項)刑法第六〇条

第一の(二)の点

第一の(一)の点につき表示せるものの外、罰金等臨時措置法第二条第一項

第二の(一)の点

昭和二四年政令第三八一号による改正以前の旧外国人登録令第九条第一項、第一二条第五号(外国人登録法附則第三項)

第二の(二)の点に

右改正以前の旧外国人登録令第三条、第一二条第一号(外国人登録法附則第三項)罰金等臨時措置法第二条第一項

右のうち、判示第一の(一)及び(二)の旧関税法違反罪と旧貿易等臨時措置令違反罪とは、それぞれ一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合に該当するから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、重いと認めるべき旧関税法違反罪の刑を以て処断すべきものとする。判示第一の(二)の点については、右改正以前の旧関税法第七六条第二項を適用して、情状により懲役及び罰金を併科すべきものとし、判示第一の(一)第二の(一)及び(二)の各点については、いずれも所定刑中懲役刑を選択すべく、以上は、刑法第四五条前段併合罪の関係に在るので、同法第四七条、第一〇条に則り、最も重いと認めるべき判示第一の(二)旧関税法違反罪の懲役刑に法定の加重をなした刑期及所定罰金額の各範囲内で、被告人を懲役一年及び罰金一〇万円に処する。右罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により、金五〇〇円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置すべく、又、右懲役刑については、同法第二五条第一項を適用し、情状により、五年間その執行を猶予すべきものとする。次に、本件犯罪船舶たる汽帆船第一喜久丸はこれを没収することができないから、右改正以前の旧関税法第八三条第三項を適用し、記録上明白であるその価額に相当する金三五万円を被告人から追徴すべく、なお、原審訴訟費用中主文第六項掲記の分については、刑事訴訟法第一八一条第一項を適用し、被告人に対しその負担を命ずる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 組原政男 裁判官 黒川四海)

検察官の控訴趣意

第一、原判決は法令の適用を誤つたものである。

(一)原判決はその摘示した第一、(一)及(二)の事実である密輸出入貨物を没収し、又はその価格を被告人に対し追徴する言渡をなしていないのは関税法第八十三条の適用を誤つたものである。

原判決は、被告人が金斗暎、山口景朝と共謀してなした第一、(一)(二)の密輸出入をなした事実を認定し、前記の如く刑の言渡をなしたが、右判決には第一、(一)の密輸出物件である線被覆ゴム絶縁通信線一巻五〇〇米のもの二十巻(価格四万円)ゴム絶縁電線(撚線)一巻一〇〇米の物五巻(推定価格一万二千円)呼鈴線一巻二〇〇米の物一巻(推定価格千六百円)合計五万三千六百円及第一、(二)の密輸入貨物塩すけそうたら子六百樽(各四貫二百匁入価格合計百万八千円)総計百六万千六百円を没収し、又は没収し得ないときはその価格を追徴すべきであるのに拘らずこれが言渡しをなしていない。尚訴訟記録によれば、本件密輸出貨物は勿論、密輸入貨物も、既に売却せられ、没収し得ないことは明であるので、関税法第八十三条により、被告人に対し、これが価格百六万千六百円の追徴の言渡をなすべきことは明である。勿論、裁判所に顕著な事実である、共犯者金斗暎に対しては、昭和二十六年十二月二十六日、関税法、貿易等臨時措置令違反被告事件につき有罪の言渡をなすと共に、密輸出入貨物の価格に相当する百六万千六百円の追徴を言渡しているが、関税法違反の追徴は、共犯者ある場合はその価格について等しく追徴の言渡をなし、その共同連帯の責任に於てこれを納付させるべきものと解すべきであつて、(昭和九年(れ)第一五七三号、昭和十年四月十日大審院刑事部判決参照)原審が本件密輸出入貨物の追徴を共犯者である、被告人に言渡さなかつたのは関税法第八十三条の適用を誤つていること明である。

(二)原判決の不法入国に関する点(公訴事実第三、(二))に対する無罪の判決は、外国人登録令第三条の適用を誤つたものである。

原判決は、訴因第三の(二)外国人登録令第三条、第十二条違反の点に関し「外国人登録令第三条制定の趣旨は、本邦に於ける外国人の入国に関し、国内一般の治安上或は防疫上又は国策の見地に基きなされた措置であり、従つて、その対象とするところは、外国人居住する外国人に限定せらるべきものと解するを相当とする。既に本邦において外国人登録令に基きこの登録を了し、本邦内に於て居住することを許容されたる外国人が、我国に帰来する目的の下に、偶々一時的に本邦外に出でたる後帰来した場合においては、外国人登録令第三条に規定する場合に該当するものと云い得ないものと解するを相当とする。いま本件において被告人は既に多年に渉り、外国人として登録の上我国に居住しているものであるところ、やがて本邦に帰来する目的の下に、偶々一時的に我国を離れ、そうして帰来入国したるものである事実は、本件記録を通じて肯認することができる。果して然らば右公訴事実は、刑事訴訟法第三百三十六条前段により結局罪とならない場合に該当するものというべきである」となし無罪の言渡しをなしたが外国人登録令所定の外国人が法定の除外事由がないのに本邦に入つたときは、外国人登録令第三条第一項、第十二条第一項違反罪が成立し、該外国人がかつて本邦に居住していた当時の外国人登録証明書を所持すると否とはた又該外国人が本邦を退去するにあたり、再び本邦に入る意思を有していたと否とは同罪の成否に何等の消長を及ぼすものではない。けだし、外国人登録証明書は適法に本邦に居住する外国人が所要事項の登録を申請したことを証する所轄市町村長の証明文書に過ぎずして、もとより外国人が本邦から若しくは本邦に自由に出入国すべき権利を設定したものではなく、又外国人は本邦を退去するときは再び本邦に入る意思のあると否とにかかわらず外国人登録令第九条第一項の規定により所定の官公吏に外国人登録証明書を返還しなければならないのであるから、本邦を退去した外国人がたとえ右の規定に違反して登録証明書を所持していても該登録証明書は、該外国人の退去により当然失効したものであるのみならず、外国人が本邦を退去するにあたり再び本邦に入る意思を有していたことは、一旦退去したその外国人が法定の除外事由がないのに再び本邦に入つた所為の違法性を阻却すべきものではないからである。右は幾多の高等裁判所の判例に徴するも明瞭である(昭和二十五年二月十一日広島高等裁判所刑事第一部判決、昭和二十五年三月十六日東京高等裁判所第十四刑事部判決、昭和二十五年十二月十八日札幌高等裁判所函館支部判決、昭和二十七年六月三十日福岡高等裁判所第一刑事部判決参照)而して「被告人は外国人として登録の上我国に居住しているものであるところ、やがて本邦に帰来する目的のもとに偶々一時的に我国を離れ、そうして帰来入国したものである」事実は、本件記録を通じて原審判決の肯認するところであるが更に被告人の公判に於ける「公訴事実第三の二の事実については、其の通り相違のない」旨の供述(記録第二号第四〇丁)証拠として提出した河井一政の検察官に対する供述調書中「喜久丸は昭和二十四年一月二十日境を出港したが、山口船長が私に、玉山(被告人)は一足先に隠岐の西郷に行つて待つて居るから隠岐へ寄ると云い隠岐に寄つたところ玉山こと張再鳳が待つて居り乗り込みました」旨及「外江(境)を出てから四日程してから、朝鮮の草々と云う処で泊り箕箭に行き玉山は汽車で元山に行つた」旨の記載(記録第二号第二二三丁乃第至二二四丁)又同供述調書中「昭和二十四年三月一日頃、メンタイを喜久丸に積みこみ………その夕方元山港を出港した」旨及「香住港には昭和二十四年三月四日午後七時頃到着し、玉山は私に後を頼むと云つて置いて、朝鮮人松本某と二人で上陸して何処かに行つた」旨の記載(記録第二号第二二四丁乃至二二五丁)証拠として提出した被告人の検察官に対する供述調書謄本中「昭和二十四年一月二十日午前九時頃、隠岐丸で境港を出て隠岐に行き其処より喜久丸に乗りかへて朝鮮へ行つたのであります」旨の供述記載(記録第二号第三四九丁)及「喜久丸は初め朝鮮の草々と云う処に行き、此処で船の中で一泊し、翌日箕箭に行き、此処で三日ばかり船で泊り、私は此処で上陸し汽車で元山に行き、喜久丸の山口船長以下の人は船でその侭元山に行きました。そうして昭和二十四年三月四日午前九時頃香住港に上陸した」旨の供述記載(記録第二号第二五〇丁)証拠として提出した、被告人の司法警察員に対する供述調書謄本中「私は昨年二月上旬頃喜久丸に乗り朝鮮元山に密かに渡航したことは前二回に於て申し上げた通りでありますが、私はこの朝鮮に渡るについて、主務官庁の許可を受けて居りませんし、又連合国最高司令官の承認を得て渡航しているものではない」旨、及「私は無許可無承認で朝鮮に渡り、又内地に帰つているのであります」旨の供述記載(記録第二号第三四五丁)を綜合すれば、被告人が昭和二十四年一月二十日島根県隠岐西郷港より出港し、朝鮮箕箭に上陸し、陸路元山に赴き一個月余り滞在し、同年三月一日喜久丸に乗船し元山を出航し、連合国最高司令官の承認を受けず同月四日午前九時、兵庫県香住港に不法上陸した事実は明である。然らば、被告人の右所為に対して原審は当然外国人登録令第三条第一項第十二条第一項を適用すべきであつて、これをしなかつた原審判決は法令の適用に誤があり、その誤が判決に影響を及ぼしていること明白である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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