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広島高等裁判所松江支部 昭和30年(う)2号 判決

山陰沖合における指定中型まき網漁業についての魚群探知機及び集魚燈使用の問題は鳥取、島根両県の漁業者と右両県業者を除く西部日本海海区漁業者との間において激しく争われて来た漁業界における懸案であることは顕著な事実であつて原審弁護人提出にかゝる西部日本海海区指定まき網漁業協会名義の農林大臣宛陳情書、同海区内指定中型旋網業者の申合事項と題する書面によつても本件事犯の当時山陰沖における夜間操業につき魚群探知機を使用することは法律上禁止せられていることを知悉しながら前記両県を除く西部日本海海区の漁業者が右禁止の解除を陳情し又は法禁を犯して魚群探知機を使用する夜間操業を強行する旨を申合せた事実が明かであり主管庁においてこれを黙認した旨の原審証人天野郡治の証言部分は到底信用することはできない。仮に被告人が夜間における魚群探知機の使用が黙認せられたものと信じていたとしても右の如く信ずるにつき相当の理由があるものとは認められないから右誤信は犯罪の成立を阻却しない。

論旨は理由がない。

論旨第二点について。

漁業法第六五条は主務大臣に対し漁業取締のために水産物の採捕に関する制限禁止につき必要な省令を定めることができる旨規定し、これに基き農林省令まき網漁業取締規則(昭和二七年農林省令第八号)第一六条第一項は「農林大臣が定める区域又は期間内に於ては農林大臣が定める漁具又は漁法により特殊まき網漁業を営んではならない」旨規定し、同規則第二九条に於てこれに照応する罰則を定めた。そして右委任に基き昭和二七年三月一四日農林省告示第八七号はまき網漁法の制限に関し一定期間一定区域に於ける魚群探知機の使用禁止を定めたのであるが同二七年一〇月一〇日同省告示第五〇四号によりこれを改め夜間に於ける魚群探知機の使用を禁止する旨定めた。然るに同二九年四月五日同省告示第二一三号は前示告示第八七号の第二号の漁法制限を削除したゝめ結局魚群探知機使用の制限は廃止されるに至つたのである。

右告示の改正によつて従前有罪とされた魚群探知機使用行為が現在行はれた場合何等の制裁を科せれることがなくなつたという限りにおいて刑事訴訟法第三三七条第二号の定める「犯罪後の法令により刑が廃止されたとき」と同様の関係を生じているわけであり、所論は右告示の改正による右禁止の解除が所謂刑の廃止にあたると主張するのである。原審はまき網漁業取締規則の根拠規定である漁業法第六五条は所謂限時法的性格を有するものとし、その故に同規則に根拠する告示の廃止は所謂刑の廃止にあたらないものと解した。

漁業法第六五条は前記のとおり主務大臣又は都道府県知事が漁業取締その他漁業調整のため、水産動植物の採捕、販売、所持、漁具漁船等の制限又は禁止竝びに漁業者の数又は資格の制限に関して必要な省令又は規則を定めることができる旨及びその制定手続竝びに違反に対し罰則を設けることができる旨を定めている授権法規であるが、同法又は同条項の施行期限につき何等の定めがないのみならず漁業法制定の目的である漁業生産力の発展と漁業の民主化のために漁業の取締その他漁業調整の必要のあることは現在においてのみならず将来においても変ることなく、なお社会状態の複雑化に伴う委任立法の増加の趨勢にかんがみるとき同法六五条又は同条の規定に基くまき網漁業取締規則が早晩廃止の運命にあるものとは到底考へられない。さすればこれらの法規を限時法的性格を有するものとする原審の見解には左袒することができない。

そこで昭和二七年農林省告示第五〇四号による魚群探知機使用禁止の解除が刑事訴訟法第三三七条第二号に所謂刑の廃止にあたるか否かは同告示の根拠法規であるまき網漁業取締規則第一六条第一項及び同条項違反に対する制裁規定である同規則第二九条第一項第一号の制定の目的及び実質を検討して決せられなければならない。よつて考へるに右告示が直接に定めているのは禁止さるべき漁具、漁法、区域又は期間であつて直接刑罰法規になつているのは昭和二七年三月一三日農林省令第八号まき網漁業取締規則第二九条第一項第一号第一六条第一項である。たゞ同規則第一六条所定の制限漁具、漁法等については漁業状勢の変化に伴い機宜に応じて技術的に定める必要があり、その改廃も頻繁に行はるべきことが予想されるのでこれを逐一具体的に同規則中に掲げず告示にゆだねたものである。而して漁業の取締その他漁業の調整ことに同規則第一六条第一項に謂う漁具、漁法、海域等に関する取締の必要は漁業法制定の当時より現在及び将来に引続き存在するものと認められることは前記のとおりであつて、その故に禁止せられた漁具、漁法による漁業に対する刑罰法規は前記告示の改廃の前後を通じて存続し、従つて右禁止に違反する行為の可罰性の法律的評価も亦終始かわるところがないと解せられる。よつて右告示の改廃を以て直ちにいわゆる刑の廃止にあたるものと速断できず右告示の改廃による禁止の解除は右告示公布前に成立した右規則第二九条第一項第一号第一六条第一項違反の罪の処罰になんらの効果を及ぼすものでないと解するのが相当である。さすれば右告示の改廃により本件所為につき刑の廃止があつたものとする所論は到底採用することはできない。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 組原政男 裁判官 黒川四海)

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