大判例

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広島高等裁判所松江支部 昭和56年(う)41号 判決

一 公職選挙法一三八条一項の規定が憲法二一条に違反するものでないことは、最高裁判所の判例(昭和二五年九月二七日大法廷判決・刑集四巻九号一、七九九頁、昭和四四年四月二三日大法廷判決・刑集二三巻四号二三五頁)とするところであり、また、右規定が憲法前文一項及び一五条に違反しないことも右の各判例の趣旨に照らして明らかというべきであつて(最高裁昭和五六年七月二一日第三小法廷判決・刑集三五巻五号五六八頁参照)、当裁判所の見解もこれと異なるものではない。

なかんずく、憲法二一条に違反するか否かの点について敷えんすれば、公職選挙法一三八条一項が選挙に関し、同条項所定の目的をもつてする戸別訪問を一律に禁止していることは、その規定上明らかであり、そのため憲法二一条により保障された表現の自由がある程度制約される結果となることもいうまでもないところである。しかしながら、表現の自由といえども、もとより絶対無制限のものではなく、他の個人の基本的人権や社会的利益との矛盾・衝突を避けるため、公共の福祉の見地からある程度の制約を受けるのもやむを得ないところであり、ことに選挙は、多分に技術的要素を含むものであるのみならず、候補者や選挙運動者は選挙の公正を確保するために定められたルールに従つて運動をすべきことが強く要請されるものであることに鑑みると、選挙に関する事項をどのように定めるかについては、それが表現の自由と牴触する側面を有するものであつても、立法府である国会にある程度の裁量が許容されているものというべきであつて、必要最少限度の制約のみが許されると解すべきものではない。そして、公職選挙法一三八条一項は、選挙運動としての戸別訪問を一律に禁止するものではあるが、戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由まで制約するものではなく、単に手段方法の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約をもたらすに過ぎない反面、戸別訪問を放任した場合に予想される種々の弊害、すなわち、戸別訪問が買収、利害誘導等の不正行為の温床になりやすく、選挙人の生活の平穏を害し、迷惑を及ぼすおそれがあるほか、投票も情実に左右されやすくなり、また、候補者側も訪問回数等を競うなどして多額の出費を余儀なくされるなどの弊害を防止し、これによつて選挙の自由と公正を確保しようとするものであるから、戸別訪問に伴い右のような諸弊害の発生すべきことが予想されないでもない現在の状況のもとにおいては、右戸別訪問の禁止は合理的な理由に基づくものということができ、これが立法的裁量の範囲を逸脱し憲法二一条に違反するものとは考えられない。

二 所論は、要するに、いわゆる戸別訪問罪に関する公職選挙法一三八条一項の規定は、保護法益の存在自体が不明確であるうえ、戸別訪問と法益の侵害との間に客観的、合理的な因果関係がなく、仮に何らかの因果関係があるとしても、法益侵害の具体的危険の発生すら要件とすることなく、戸別訪問を一律に禁止するものであるから、罪刑法定主義ひいては憲法三一条に違反する、というのである。

しかしながら、公職選挙法一三八条一項による戸別訪問の禁止は前示のとおり合理的な理由に基づくものであつて、その保護法益自体何ら不明確とはいえず、また戸別訪問の禁止とその保護法益との間に客観的、合理的な関連性が存することも明らかであるから、憲法三一条ないしはこれに由来する罪刑法定主義に違反するものとは認められない。

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