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徳島地方裁判所 平成10年(わ)111号 1998年6月26日

本店所在地

徳島県阿南市柳島町六反地七二番地

株式会社

大一建設

右代表者代表取締役

幸田大作

本籍

徳島県阿南市柳島町六反地七二番地

住居

右に同じ

会社役員

幸田一治

昭和二〇年四月六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官吉田栄美出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社大一建設を罰金二〇〇〇万円に、被告人幸田一治を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人幸田一治に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社大一建設(以下、「被告人会社」という。)は、徳島県阿南市柳島町六反地七二番地に本店を置き、土木工事の設計、施工、請負等を営業目的とする会社であり、被告人幸田一治(以下、「被告人幸田」という。)は、被告人会社の取締役としてその業務全般を実質的に統括管理するものであるが、被告人幸田は被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空工事原価の計上や完成工事高の除外、車両売却益の除外を行うなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、

第一  平成五年六月一日から同六年五月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の総所得金額が一億三四六九万六五七〇円で、これに対する法人税額が四九五〇万一七〇〇円であるにもかかわらず、同六年七月二九日、同市富岡町滝の下四番地の四所在の阿南税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の総所得金額が二六二七万三八七三円で、これに対する法人税額が八〇八万七一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の法人税のうち右正規の法人税額と右申告額との差額である四一四一万四六〇〇円を免れ

第二  同六年六月一日から同七年五月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の総所得金額が三四七四万六六八八円で、これに対する法人税額が一二一二万六七〇〇円であるにもかかわらず、同七年七月三一日、前記阿南税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の総所得金額が二九三〇万二三八三円で、これに対する法人税額が一〇〇八万五二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の法人税のうち右正規の法人税額と右申告額の差額である二〇四万一五〇〇円を免れ

第三  同七年六月一日から同八年五月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の総所得金額が一億六六七七万六二三七円で、これに対する法人税額が六一七二万一四〇〇円であるにもかかわらず、同八年七月三一日、前記阿南税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の総所得金額が六三二〇万五八八二円で、これに対する法人税額が二〇四七万四三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の法人税のうち右正規の法人税額と右申告額との差額である四一二四万七一〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

以下、括弧内の数字は、各書証の一枚目欄外に記載された検察官の証拠請求番号である。

判示事実全部について

一  被告人会社代表者幸田大作及び被告人幸田の当公判廷における各供述

一  被告人幸田の検察官に対する供述調書(二通・34、35)

一  幸田美恵子(二通・31、32)及び酒井英夫(29)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の労務費調査書(3)、外注費調査書(4)、租税公課調査書(10)、受取利息配当金調査書(11)、損金の額に算入した県民税利子割調査書(13)、事業税調査書(16)

一  検察事務官作成の捜査報告書(22)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の材料費調査書(2)、現金調査書(23)、受取手形調査書(26)

一  押収してある確定申告書(平成一〇年押第二五号の1)

判示第二、第三の事実について

一  大蔵事務官作成の完成工事高調査書(1)

判示第二の事実について

一  押収してある確定申告書(平成一〇年押第二五号の2)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の賃借料調査書(5)、減価償却費(売上原価)調査書(6)、事務用品費(販売費及び一般管理費)調査書(8)、車両売却益調査書(12)

一  押収してある確定申告書(平成一〇年押第二五号の3)

(法令の適用)

被告人幸田の判示各所為は、被告人会社の従業者である同被告人が被告人会社の業務に関してなしたものであるから、被告人会社に対しては法人税法一六四条一項により、判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が科せられるべきところ、判示第一及び第三の各罪につきいずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法第四八条二項により各罪について定めた罰金の合算額以下で処断することとし、その金額の範囲内で被告人会社を罰金二〇〇〇万円に処し、被告人幸田の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中各懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、なお、同被告人については情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、土木工事の設計、施工、請負等を目的とする被告人会社を実質的に統括支配していた被告人が、反対する経理担当の妻に強引に指示することにより、同会社の業務に関し、三事業年度にわたり、合計約二億一七五〇万円の所得を秘匿し、合計約八四七〇万円の法人税をほ脱した事案であり、そのほ脱税額は多額で、かつ、ほ脱率も七〇パーセント近くと高率であって、相当悪質な犯行である。

また、形の上では被告人の長男である幸田大作が被告人会社の代表取締役となっているものの、実質的には被告人が被告人会社を統括支配しており、被告人はそのような立場をいいことに、被告人会社を自らの意識の中でほとんど私物化し、経理担当者である妻の反対を無視して脱税行為を続けていたのであり、その遵法精神の欠如ははなはだしい。

もとより税金は納税者がその所得に応じて負担すべきものであり、これによって国家財政が維持されているところ、本件犯行のごとき脱税行為は他の誠実な納税義務者の犠牲の下に自らの利益のみを追求する反社会性の強い行為であり、かかる行為により他の納税者の納税意欲を阻害するおそれがあることをも併せ考えると、被告人及び被告人会社の刑事責任は極めて重いといわざるを得ない。

しかしながら、他方で被告人が本件犯行に及んだ背景には、事業年度によってその収入に大きな波のある建設業界において、不景気な時期においても会社を安定的に維持経営していきたいという会社経営者としての意識もあったのであり、被告人の行為はもっぱら私利私欲を図ったものとまではいえない。また、本件犯行発覚後は、速やかに修正申告の上、本税及び重加算税等の付帯税を全て納付している。確かに現段階においては本件犯行のごとき脱税行為に対する具体的な再発防止策が講じられているとはいえないが、被告人にはこれまで同種前科はなく、重加算税等の負担や指名停止処分によって一定の社会的裁判を受けており、脱税行為の不合理性や脱税行為に対する社会的非難の大きさを十分認識する機会が与えられたと思われること、捜査段階から一貫して犯行を認め、当公判廷においても反省の弁を述べていることなどからすれば、その再犯の可能性は低いものといえる。このように、被告人及び被告人会社につき、一定の有利な情状も認められる。

以上のとおり、本件で認められる諸事情を総合的に勘案した上で、主文のとおりの量刑をした次第である。

よって主文のとおり判決する。

(求刑 被告人幸田一治につき懲役一年・被告人会社大一建設につき罰金二五〇〇万円、私選弁護人眞鍋忠敬出席)

(裁判官 田中観一郎)

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