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徳島地方裁判所 平成10年(行ウ)2号 判決 2001年1月26日

原告

株式会社A

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

津川博昭

被告

川島税務署長

今井愼一

右指定代理人

鈴木博

福家郁夫

藤田進

松尾雅広

中條晴之

新居隆志

白石豪

海野眞次

田中稔

中野明子

山本光則

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対して平成8年4月9日付けでなした平成4年9月1日から平成5年8月31日までの事業年度(以下、「平成5年8月期」という。)以降の法人税の青色申告承認取消処分(以下、「本件取消処分」という。)を取り消す。

二  被告が原告に対して平成8年4月10日付けでなした次の各処分をいずれも取り消す。

1  平成5年8月期にかかる消費税の更正処分のうち金157万4500円を超える部分及び過少申告加算税賦課処分

2  平成5年9月1日から平成6年8月31日までの事業年度(以下、「平成6年8月期」という。)にかかる消費税の更正処分のうち金183万6200円を超える部分及び過少申告加算税賦課処分

第二事案の概要

本件は、原告が法人税法127条1項1号の「帳簿書類」及び消費税法(本判決における消費税法は、全て平成6年法律第109号による改正前の消費税法をいう。)30条7項の「帳簿又は請求書等」を「保存」していなかったとして、被告が、原告に対し、本件取消処分を行うとともに、原告の申告に係る平成5年8月期及び平成6年8月期の消費税についての仕入税額控除の大部分を否認する等した右両期の更正処分及び重加算税賦課処分(以下、「本件更正処分等」という。なお、右重加算税賦課処分は、異議決定で一部取り消され、過少申告加算税賦課処分とする限度で維持されている。)を行ったことに対し、原告が、被告の質問検査権行使の違法性や帳簿書類等の提示、保存等を主張し、本件各処分(ただし、消費税の各更正処分については、原告の申告を超える部分)の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

原告は、青果物の販売を主たる業とする株式会社である。

2  本件取消処分

原告は、平成5年11月1日、平成5年8月期の法人税につき青色申告により確定申告(所得金額162万7677円、納付すべき税額0円)を行った。

被告は、平成8年4月9日、原告が法人税法127条1項1号に該当するとして、本件取消処分を行った。

3  本件更正処分等

原告は、平成5年11月1日、平成5年8月期の消費税について、確定申告(課税標準額7億0727万4000円、消費税額2121万8220円、控除対象仕入税額1964万3649円、納付すべき税額157万4500円)を行った。

原告は、平成6年10月31日、平成6年8月期の消費税について、確定申告(課税標準額7億1753万5000円、消費税額2152万6050円、控除対象仕入税額1968万9822円、納付すべき税額183万6200円)を行った。

被告は、平成8年4月10日、平成5年8月期の消費税について、控除対象仕入税額を539万7462円、納付すべき税額を1582万0700円とする更正処分及び重加算税498万4000円の賦課処分を、平成6年8月期の消費税について、控除対象仕入税額を473万6004円、納付すべき税額を1679万円とする更正処分及び重加算税523万2500円の賦課処分をそれぞれ行った。

4  異議申立

原告は、平成8年4月18日、被告に対し、前記2の本件取消処分に対する異議申立を行ったが、被告は、同年7月5日、これを棄却した。

原告は、同年4月26日、被告に対し、前記3の本件更正処分等について異議申立を行ったところ、被告は、同年7月8日、各更正処分に対する異議申立をいずれも棄却したが、各重加算税賦課処分に対する異議申立を一部認め、平成5年8月期の重加算税賦課処分を過少申告加算税205万7000円の賦課処分とする限度、また、平成6年8月期の重加算税賦課処分を過少申告加算税215万0500円の賦課処分とする限度でそれぞれ維持し、これを超える分について取り消した。

5  審査請求

原告は、同年8月2日、国税不服審判所長に対し、本件取消処分に対する異議決定について、また、同年8月8日、本件更正処分等に対する異議決定について、それぞれ審査請求を申し立てた。国税不服審判所長は、右両審査請求を併合の上、平成9年11月12日、これらをいずれも棄却した。

二  争点

1  本件取消処分及び本件各更正処分等までの被告の税務調査(以下、「本件原調査」という。)の適法性

2  本件取消処分の適法性

3  本件更正処分等の適法性

三  当事者の主張

1  本件原調査の適法性について

(原告の主張)

(一) 本件調査担当者らは、何らの合理的理由もないのに、事前通知もせずに突然税務調査に訪れ、原告代表者を尾行してその行動を見張るなどした上、氏名を明らかにせず、身分証明書も示さず、調査目的も明らかにしないまま、勝手に原告の集出荷場事務所内のキャビネットを明けようした。また、被告の調査は、平成5年8月期及び平成6年8月期の事業年度に関してのものであったが、被告はそのことを明らかにせず、進行年度における帳簿書類の提示を求めたり、無関係な女性事務員の机の引出しの中を見せるよう要求した。右の検査態様は、実質的に物理的強制を強い、調査目的外の質問検査を強行したもので、その違法性は明らかである。

(二) また、原告代表者は、調査担当者らに対し、身分を明らかにするよう、あるいは、令状の提示を求めるなど、質問検査章の提示を求めたものと解される行動をとったにもかかわらず、調査担当者らは、質問検査章を提示しなかったものである。

(三) よって、本件調査担当者らの質問検査権の行使は違法なものであり、原告にはかかる質問検査に対する応諾義務はなく、質問検査に対して帳簿書類等を提示しなかったことを理由とする本件取消処分及び本件更正処分等はいずれも違法であり、取り消されるべきである。

(被告の主張)

(一) 本件原調査における税務調査は適法に行われている。原告の主張する尾行や見張りの事実、氏名、身分及び調査目的を明らかにせず、身分証明書の提示をしなかった事実、勝手にキャビネットを明けようとした事実はいずれも否認する。また、担当調査員らが原告の本店事務所内にある机の引出し内を見せるよう求めたことは正当な質問検査権の行使として許容されている。

(二) 質問検査に先立ち事前通知を行うか否かについては、法律上一律の要件とされているものではなく、調査担当者の合理的な選択に委ねられていると解されるところ、本件において、原告の事業実態をありのままに把握する意図から事前通知を行わなかったものであり、何ら不合理な点はない。

(三) また、調査担当者らは、質問検査章を携帯していたが、原告代表者がその提示を求めなかったことから、これを提示しなかったに過ぎない。調査担当者らは、原告代表者に対し、税務調査であることを告げ、各々身分証明書を提示するなどして身分を明らかにしており、質問検査章を提示しなかったとしても、本件原調査が違法となるものではない。

2  本件取消処分の適法性について

(被告の主張)

(一) 青色申告の承認を受けている法人が、被告の調査担当者らから、法人税法153条の質問検査権に基づき、同法126条1項により備付け、記録及び保存を義務づけられている帳簿書類の提示を求められたのに対し、正当の理由なくこれを拒否し提示しなかった場合には、青色申告承認の取消事由として法人税法127条1項1号が定める、帳簿書類の備付け、記録又は保存が大蔵省令(法人税法施行規則53条ないし59条)で定めるところに従って行われていない場合に該当すると解される。

(二) ところで、同法施行規則54条所定の別表20には、青色申告書の提出の承認を受けようとする法人の帳簿の記載事項が規定されており、本件で問題となっている仕入れに関する事項については、同表(13)において、取引の年月日、仕入先その他の相手方、品名その他給付の内容、数量、単価及び金額並びに日日の仕入総額を記載する必要があるものと定められている。

そして、本件原調査の際、原告は、調査担当者らに対して、総勘定元帳、当座預金照合表、小切手帳、伝票綴り及び領収書綴りを提示したものの、それだけでは仕入先、品名、単価及び金額等が分からないため、調査担当者らにおいてこれを明らかにし得る帳簿書類の提示を再三要求した。しかし、原告は処分して現存しないなどと説明するのみでこれに応じなかった。

(三) したがって、原告は大蔵省令に定めるところに従って帳簿書類の備付け、記録及び保存をしているとは認められなかったので、法人税法127条1項1号に該当するものとして本件取消処分を行ったものであり、本件取消処分に何ら違法な点はない。

(原告の主張)

(一) 帳簿書類の提示

原告は本件原調査において、税理士立会の下、現金出納簿、総勘定元帳、振替伝票、入出金伝票、当座預金照合表、小切手の耳、領収書綴りを提出し、経理内容についての説明もしている。また、本件原調査当時から、取引年月日、仕入先、品名、数量、単価、仕入総額を記載した仕入日報を作成、保存しており、異議申立以降における被告の調査(以下、「異議調査」という。)において、これを提示している。よって、法人税法第126条第1項に定める帳簿書類の提示をしており、右提示を欠くとしてなされた本件取消処分は違法である。

(二) 帳簿書類の保存

原告は、前記各帳簿書類を本件原調査当時から保存していたのであるから、法人税法第127条1項1号に該当する事由は存在しない。

ところで、同法第126条2項には、帳簿書類の備付け、記帳及び保存の各義務を規定するが、税務職員の質問検査に対し当該帳簿書類を提示する義務まで定めたものではなく、帳簿書類の保存は物理的な保存をもって足るというべきである。したがって、帳簿書類の提示を欠くとしてなされた本件取消処分は違法である。

(三) 以上の点に加え、前記争点1における原告の主張のとおり、本件原調査が違法であるか、少なくとも全く不適切なものであったこと、原告が保存していた帳簿書類の記載事項に問題点があったとしても軽微なものであること、本件処分の真の目的は、見せしめないしは更正手続における理由付記を回避するための他事考慮に基づくものであることなどを考慮すれば、本件取消処分は裁量権を濫用するものであり違法である。

3  本件更正処分等の適法性について

(被告の主張)

(一) 消費税法30条7項の「保存」の意義

消費税法が帳簿又は請求書等の保存を仕入税額控除の要件として規定した趣旨は、課税仕入れの事実の証明手段を法定の要件を満たした帳簿又は請求書等に限定し、これを事業者に保存させ、税務調査があった場合において、これを税務職員の適法な要請に応じて提示させて課税仕入れの事実を証明させようとしたものと解される。したがって、税務調査の際に、帳簿又は請求書等が存在せず、あるいは、税務職員による適法な提示要請に対し、帳簿又は請求書等の提示がない場合には、申告に係る課税仕入れの事実は証明されないことになる。すなわち、同法30条7項にいう仕入税額控除の要件としての帳簿又は請求書等の「保存」とは、単に客観的な帳簿又は請求書等の保存があることのみならず、適法な税務調査に応じていつでもこれを提示し、税務職員の閲覧に供せられる状態で保存しておくという趣旨を含むものと解するのが相当であり、税務調査において、税務職員から適法な提示要請がなされたにもかかわらず、納税者が帳簿又は請求書等の提示を拒否した場合には、帳簿又は請求書等を「保存」している場合に当たらず、仕入税額控除を認めることはできない。

(二) 仕入税額控除の可否

原告が本件原調査において提示した帳簿又は請求書等の大部分は、課税仕入れの相手方の氏名又は名称等が記載されていないか、課税仕入れを行った年月日、品名等が記載されていないなどの法定の記載事項を具備しないものであり、結局、仕入税額控除が認められるものは、平成5年8月期につき68万4144円、平成6年8月期につき74万1740円に過ぎない。

(三) 納めるべき税額

(1) 平成5年8月期

課税標準額は、確定申告による7億0727万4000円(千円未満の端数を切り捨て、国税通則法118条1項)であり、これに消費税法二九条所定の税率百分の三を乗じた消費税額2121万8220円から前記(二)の控除対象仕入税額68万4144円を控除した差引税額は、2053万4000円(百円未満の端数を切り捨て、国税通則法119条1項)となる。

そして、平成5年8月期の更正処分後の納付税額は1582万0700円であり、この金額は右の差引税額の範囲内にあるから、平成5年8月期の更正処分は適正である。

(2) 平成6年8月期

課税標準額は、確定申告の金額に異議調査の際に判明した課税売上げ295万3196円を加えた7億2048万9000円(千円未満の端数を切り捨て、国税通則法118条1項)であり、これに消費税法29条所定の税率百分の三を乗じた消費税額2161万4670円から前記(二)の控除対象仕入税額74万1740円を控除した差引税額は、2087万2900円(百円未満の端数を切り捨て、国税通則法119条1項)となる。

そして、平成6年8月期の更正処分後の納付税額は1679万0000円であり、この金額は右の差引税額の範囲内にあるから、平成6年8月期の更正処分は適正である。

(原告の主張)

(一) 消費税法30条7項の「保存」の意義

消費税法30条7項は、事業者の側から見れば、仕入税額控除に関する租税実体法上の要件を定めたものであって、厳格に解釈されなければならないところ、同条項は、帳簿又は請求書等を「保存」しない場合と定めているに過ぎず、質問検査に対する提示の意味まで含むと解すると、「保存」という文言の通常の解釈にあまりにも反し、課税要件事実としても明確性を欠くものであって、租税法律主義に反する。

また、消費税における仕入税額控除は、単なる立法政策ではなく、その本質に鑑み当然に認められるものである。したがって、調査の際の帳簿又は請求書等の不提示をもって仕入税額控除を否定する解釈を採ることは、消費税の本質に反して二重に消費税を徴収することになって許されない。

(二) 仕入税額控除の可否

以下の課税仕入れ及び外注費については、原告は、消費税法30条7項の帳簿又は請求書等、すなわち、同条八項所定の帳簿ないしは同条九項所定の請求書等を本件原調査当時から保存していたのであるから、仕入税額控除がなされるべきである。

(1) 農家からの仕入れ

原告は、消費税法30条8項所定の記載事項が記載されている仕入日報を本件原調査当時から保存している。ただ、日報においては、課税仕入れの相手方の表示が符号でなされている。しかし、同条項は、その記載事項が他の書類によって補完される場合もあることを認めていると解すべきところ、本件原調査当時から保管していた当座預金照合表及び小切手帳、本件原調査段階における被告による小切手の裏書調査、本件原調査当時から川島税務署に提出していた資料せんなどにより仕入先農家の大部分が特定しており、特定し得なかったものは、平成5年8月期で約3800万円、平成6年8月期で約2400万円に過ぎない。

したがって、農家からの課税仕入れについては、少なくとも、右金額以外の分について仕入税額控除がなされるべきである。

(2) 有限会社Bからの仕入れ

平成5年8月期につき、金794万6173円

平成6年8月期につき、金565万7912円

(3) C有限会社に対する外注費

平成5年8月期につき、金4658万2467円

平成6年8月期につき、金4186万9995円

(4) D有限会社に対する外注費

平成5年8月期につき、金25万4833円

(5) E有限会社に対する外注費

平成5年8月期につき、金346万1418円

(三) また、被告は、農家以外の仕入れや外注費については、本件原調査当時において帳簿又は請求書等の提示を求めておらず、これらの課税仕入れについて、帳簿又は請求書等の提示を欠くことを理由に仕入税額控除を否認することは許されないというべきである。

したがって、原告の総勘定元帳における外注費(平成5年8月期につき7209万4219円、平成6年8月期につき6026万7575円)及び前記(二)(2)の課税仕入れ(平成5年8月期につき金794万6173円、平成6年8月期につき金565万7912円)については、仕入税額控除がなされるべきである。

(四) 以上の点に加え、前記争点1における原告の主張のとおり、本件原調査が違法であるか、少なくとも全く不適切なものであったこと、原告は本件消費税の経理処理に関して一括税抜き経理方式を採用しているが、被告は税込み経理方式により算定をしていること、本件処分の真の目的は、見せしめのための他事考慮に基づくものであることなどを考慮すれば、本件各更正処分等は違法である。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件原調査の適法性)について

1  争いのない事実及び証拠(甲121、乙2の1・2、3、4、証人乙、同丙)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 平成7年9月26日

(1) 被告担当者らは、原告の平成5年8月期及び平成6年8月期の法人税及び消費税の調査のため、原告に本店事務所と集出荷場事務所があることを把握していたので、二手に分かれて臨場することにし、丁実査官(以下、「丁」という。)と乙実査官(以下、「乙」という。)が本店事務所に、丙実査官(以下、「丙」という。)と戊事務官(以下、「戊」という。)が集出荷場事務所にそれぞれ臨場した。なお、丁らは、原告に事前に税務調査を行う旨の通知をしていなかった。

(2) 午前9時ころ、丙と戊は、集出荷場事務所に臨場したが、原告代表者が不在であったので、車で原告代表者を探していたところ、同一方向に走行するトラクターに出会い、これに続いて走行したところ、右トラクターが集出荷場事務所の敷地に入った。そこで、丙らは、右トラクターの運転手に対し、その氏名を確認したところ、原告代表者であることが分かった。丙らは、原告代表者に対して各々身分証明書を提示して、法人税及び消費税の調査に来たことを説明し、協力を求めたところ、原告代表者から集出荷場事務所内に案内された。

集出荷場事務所内には、事務机の上に最近のものと思われる伝票らしい書類が見られ、ガラス扉のキャビネット内にも最近のものと思われる伝票綴りらしい書類が見られた。丙らは、集出荷場事務所内に保存されている原告の業務に関する全ての帳簿書類等の提示を求めたところ、原告代表者は、「令状もなしに何をいうのか。」等と述べて抗議し、書類の提示に応じなかった。そこで、丙らは強制調査ではないことを説明し、改めて帳簿書類等の提示を求めたが、原告代表者から帳簿書類等は本店事務所にあるとの説明を受けたので、原告代表者とともに、本店事務所に移動した。

(3) 午前9時ころ、丁と乙は本店事務所に臨場し、原告代表者の妻に対し、各々身分証明書を提示し、法人税及び消費税の調査に来たことを告げ、原告代表者に連絡を取ってもらうよう依頼したが連絡が取れなかったために、原告代表者の妻の了解を得て本店事務所で原告代表者を待った。

(4) 午前10時半ころ、本店事務所において、丁と乙は原告代表者に対して、丙と戊は原告代表者の妻に対して各々身分証明書を示し、改めて丁において、原告代表者に対し、法人税及び消費税の調査に来たことを説明して協力を求めた。原告代表者は、丁らに対して、本日が休業日であること、事前連絡がなかったこと、午後3時から仲人の打ち合わせがあることなどを述べて調査に対する不満を顕わにした。丁は、調査を円滑に進めるため、原告代表者に対し、関与税理士の立会いを求めるよう依頼した。原告代表者は、己税理士(以下、単に「税理士」という。)に連絡するとともに、税理士が到着するまでの間、丁らに対し、事業概況や帳簿書類等の作成、保存状況について説明した。また、農家からの仕入れについては、伝票から仕入日報を作成して、生産者番号、品目、数量及び金額を記入しているが、集出荷場事務所改築の際に書類を紛失したこと、農家からの仕入れは小切手で決済しているので、その耳を調査すれば証明できるはずであることなどを説明した。

(5) 丁ら調査担当者四人全員は、午前11時30分ころ、到着した税理士に対し身分証明書を提示した上、法人税及び消費税の調査に来ていることを告げたところ、税理士から事前通知のなかったことに対する不満が述べられたが、丁において、事前通知を行わない場合もあることを説明した。その後、丁らは、原告代表者に対し、帳簿書類等の提示を求めたが、税理士に預けてあるとの理由でその提示を受けることができなかった。また、本店事務所にある事務机の引出し内にあると思われる帳簿書類等の提示を求めたところ、原告代表者からは、事務員の私物が入っているので見せられないとして拒否されたが、さらなる説得の末、自分が使用する事務机の引出しの一つを開け、そこに入っていた書類を提示された。しかし、これらの書類は古いもので、メモ書き等が多く、調査の対象となるものはなかった。

(6) 丁らは、原告代表者に対し、翌日までに税理士に預けてある帳簿書類等を取り寄せておいてもらいたいこと及び翌日に集出荷場事務所内のキャビネット内にあった書類を確認させてもらいたいことを告げ、午後2時半ころ、同日の調査を終えた。

(二) 平成7年9月27日

(1) 乙と丙は、午前10時ころ、集出荷場事務所に臨場し、原告代表者に対し、現在使用している帳簿書類等の提示を求めたが、残っていないとの理由で、その提示を受けられなかった。また、丙は、原告代表者に対し、前日、キャビネットのガラス越しに見た書類の提示を求めたところ、キャビネットには一切の書類がなくなっており、原告代表者から、これらの書類を燃やしたなどと告げられた。結局、集出荷場事務所では、帳簿書類等の提示を受けることができず、税理士のもとから取り寄せてもらうことになっていた帳簿書類等を確認するため、10時半過ぎころ、本店事務所に移動した。

(2) 乙と丙は、本店事務所において、原告代表者から、総勘定元帳2冊、当座預金照合表2冊、小切手帳159冊、伝票綴り7冊、領収書綴り3冊の提示を受けた。しかし、農家からの仕入れについては、総勘定元帳や小切手帳には生産者番号、支払年月日及び金額の記載があったが、生産者の氏名、品目及び数量の記載はなく、生産者番号と仕入先農家の氏名を結びつける帳簿書類等の提示もなく、仕入先農家を特定することができなかった。福利厚生費、旅費交通費及び雑費についても、領収書や請求書がないために支出の相手方が分からないものが散見された。乙らは、原告代表者に対して右のような問題点があることを説明して、仕入税額控除が認められなくなる可能性があることを告げたが、原告代表者は、ないものは見せられない、全て残していたら書類で一杯になるなどと述べて、総勘定元帳に記載してあることが全てであると説明した。乙らは、原告代表者に対し、さらに内容の分かる書類を探すことを依頼し、午前中で同日の調査を終えた。

(3) なお、同日は、税理士の立会いはなかった。

(三) 平成7年10月4日

(1) 乙と丙は、川島税務署を通じて、原告代表者から帳簿書類等を取りに来るよう連絡を受け、原告の本店事務所に行った。乙らは、原告代表者の妻から、総勘定元帳2冊(平成5年8月期及び平成6年8月期)、当座預金照合表2冊、小切手帳159冊、伝票綴り7冊、領収書綴り3冊を預かって帰った。その際、乙が預り証を作成したが、預かった書類の内容のうち、総勘定元帳については、「5・9・1~6・8・31」と記載すべきところ、「3・9・1~4・8・31」と誤記した。

(2) 被告担当者らは、預かった帳簿書類等の内容を検討したが、仕入れについては、生産者番号、支払年月日、金額のみが判明し、仕入先農家の氏名や品目を確認することができなかった。また、福利厚生費、旅費交通費及び雑費の支払についても、請求書や領収書がないものがあり、支出の相手方、内容が確認できないものがあった。

また、被告担当者らは、原告から、小切手による支払の調査を要望されていたことから、小切手の振出銀行であるF銀行石井支店に調査に赴き、小切手の裏書を調査した。その結果、一部には原告が現金化したものと見受けられるものが存した。また、右調査の結果と原告からあらかじめ川島税務署に提出されていた資料せん(仕入先農家ごとに、その氏名、住所、品名、当該年度の仕入合計金額を記載したもの)とを突き合わせるなどした結果、平成5年8月期で約3800万円、平成6年8月期で約2400万円(なお、右両期の農家からの仕入総額はいずれも約6億円である。)の支出先を確認できなかった。乙と丙は、支出先が判明しない右の金額について、原告代表者に対し、その支出先を明らかにするよう、後日、電話で依頼した。

(四) 平成7年10月18日

原告代表者は、同日までに、被告担当者らに預けた帳簿書類等の一部の返還を求めた。そこで、丙は、同日、原告代表者から預かっていた帳簿書類等を全てを持参し、午後1時30分ころ、原告本店事務所に赴き、原告代表者に対し、返却依頼のあった帳簿書類等を返還し、その余の帳簿書類等を再度預かった。預かった書類の内容は、総勘定元帳2冊(平成5年8月期及び平成6年8月期)、小切手帳125冊、伝票綴り5冊、領収書綴り2冊である。その際、丙が預り証を作成したが、前記(三)(1)同様、預かった帳簿書類等の内容のうち、総勘定元帳については、「5・9・1~6・8・31」と記載すべきところ、「3・9・1~4・8・31」と誤記した。

丙が、原告代表者に対し、仕入先農家と生産者番号を結びつけるものがないか尋ねたところ、原告代表者は、伝票の内容を日報に写し、仕入先農家と生産者番号を確認していると説明した。しかし、丙がその提示を求めたところ、原告代表者は、支払の済んでいないものを含めて既に処分してしまった旨述べた。丙は、再度、原告代表者に対し、仕入れの支払先が確認できる帳簿書類等を探すよう依頼し、午後3時ころ、同日の調査を終えた。

(五) 平成7年10月23日

丁、乙及び丙は、原告に解明を依頼していた小切手の裏書調査に対する疑問点についての説明を聞くため、午後1時半ころ、原告事務所を訪れた。しかし、原告代表者は、総勘定元帳の記載が全てで、不明なものは一切ない、これ以上の書類はないなどと説明し、新たな帳簿書類等を提示しなかった。また、原告代表者は、唯一、生産者番号のうち「茂5」が「黒田昌之」を示すことについて口頭で説明したが、それ以外の生産者番号については当時の事務員が退職していること、記憶で誤った回答をしたくないことなどを告げて、説明しなかった。調査担当者らは、原告代表者に対し、現状では仕入れの内容が確認できず、商品の内容、取引先の氏名、数量、金額等を記載した帳簿書類等がないと仕入税額控除が認められないことを説明するとともに、調査の過程で把握した問題点を書面にして渡してその解明を求め、さらに提示された以外の帳簿書類等がないかどうか探すよう依頼した。

(六) 平成7年12月11日

乙は、原告代表者から、支出先の解明を求められている分について分からないとの電話連絡を受けたので、午後1時ころ、原告の本店事務所に赴き、原告代表者に対し、支出先の解明と帳簿書類等の提示を求めたが、原告代表者は、従前どおり、集出荷場事務所移転の際に失った、記憶では答えられない等と返答されるに止まった。立ち会っていた税理士も調査もせずに否認するのか、原始記録がないだけで否認するのか、修正申告には応じられない等と不満を述べたが、乙は、支出先も分からない状況では調査ができないことを説明し、帳簿書類等を探すよう依頼した。

(七) 平成7年12月19日

乙は、税理士から電話で、同月11日と同様の不満を述べられたが、現状では仕入れの内容が分からないので仕入税額控除はできず、青色申告承認の取消事由にもなることを説明した。

(八) 平成8年2月1日

丁、乙及び戊は、午後2時過ぎ、原告代表者に対し、修正申告を勧めるため、原告の本店事務所に赴き、さらに帳簿書類等の提出について協力を求めたが、原告代表者は、裁判で決着をつけるなどと述べ、冷静に話し合える状況ではなかった。また、丁らは、修正申告を勧め、税目ごとの額を説明したが、原告代表者からは修正申告に応じない旨の意思を示されたので、更正処分にならざるを得ないこと及び不服申立手続について説明した。

2  なお、原告代表者は、平成7年9月26日の集出荷場事務所の調査において、調査担当者らが、氏名を明らかにせず、身分証明書も提示せず、勝手に集出荷場事務所内のキャビネットを開けたこと、同月27日に集出荷場事務所では調査を受けていないこと、帳簿書類等を提示した時期等のほか、調査の内容等について、前記1認定に反する供述をし、同旨の陳述書(甲120)を提出するところであるが、かかる原告代表者の供述は、前記1の認定に供した関係各証拠に照らして採用できない。

3  原告は、前記1認定事実によれば、被告は、原告に対して事前通知をすることなく調査に臨んでいること、調査初日に原告代表者の運転するトラクターの後ろに続いて走行していること、調査担当者らは、原告代表者に対して、法人税と消費税の調査に来たことを告げたものの、平成5年8月期及び平成6年8月期の調査であることを明確に告げていなかったこと、女性事務員の机の中を見せるよう求めていること、調査年度ではない進行年度の帳簿書類等の提示を求めていることなどから、実質的に強制を伴った質問検査を行ったものであり、本件原調査は違法であると主張する。

ところで、質問検査について実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられており、実施の日時場所の事前通知、調査の具体的範囲の告知等についても、質問検査を行う上の法律上一律の要件とされているものではないと解すべきである。本件においては、前記1で認定したとおり、原告主張のような事実が認められるとしても、被告による質問検査権の行使が、社会通念上相当な限度を超えるものとは到底認められず、質問検査に対する原告の応諾義務を否定することはできないというべきである。次に、原告は、調査担当者らが質問検査章を提示しなかったので、質問検査に対する応諾義務がないと主張する。しかし、前記1認定事実によると、原告関係者が質問検査章の提示を求めたことを認めることができず、かえって、調査担当者らが各々身分証明書を提示していることが認められるのであるから、調査担当者らにおいて、質問検査章を提示しなかったとしても、原告の質問検査に対する応諾義務を否定することはできないというべきである。

4  以上より、本件原調査は適法に行われたものと認められる。

二  争点2(本件取消処分の適法性)、3(本件更正処分等の適法性)について

1  法人税法127条1項1号の「帳簿書類」について

同号は、「帳簿書類」の「保存」が同法126条1項に規定する大蔵省令で定めるところに従って行われていないことを青色申告承認の取消事由と定め、これを受ける大蔵省令、すなわち法人税法施行規則によれば、その54条において、仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿を備え、同規則別表20に定めるところにより、取引に関する事項を記載すべきことを規定し、同表(13)においては、仕入れに関する事項について、取引の年月日、仕入先その他の相手方、品名その他給付の内容、数量、単価及び金額並びに日日の仕入総額を記載すべきことを規定している。

ところで、青色申告制度は、納税義務者が正確な帳簿書類に基づいて納税申告を行うことを奨励する目的から、納税義務者に対し、帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われていることを前提として、課税手続上及び税額計算上の特典を与える制度であり、その特典の一つとして、税務署長が青色申告書による申告に対して更正し得る場合を、原則として帳簿書類の調査の結果、申告に誤りがあると認められる場合に限定しており、推計課税も禁止している(法人税法130条、131条)。したがって、青色申告法人における帳簿書類は、適正な課税、徴税を実現する要となるものであるから、前記の仕入れに関する事項(法人税法施行規則別表20(13))の記載についても、その正確性が担保されていると認めるに足る記載が要求されているというべきである。したがって、単なる符号等による記載のみでは、法令の記載事項を具備したものとは認められず、記載事項の一部を符号等で記載する場合については、符号等から法令の記載事項を特定し得る帳簿書類を保存している場合に限り、右の帳簿書類と一体として法令の記載事項を具備した帳簿書類として認められるというべきである。

2  消費税法30条7項の「帳簿又は請求書等」について

同条項は、事業者が課税仕入れ等の税額の控除に係る「帳簿又は請求書等」を「保存」しない場合には、仕入税額控除を行わない旨規定しており、同条8項で「帳簿」の、同条9項で「請求書等」の記載事項について詳細に規定している。これは、消費税がいわば消費者からの預り金的性格を有しており、不正な控除、還付等により事業者の益金となることを防止する必要がある一方で、控除の対象となる課税仕入れは大量かつ反復して行われることから、右のような法定の記載事項を具備する「帳簿又は請求書等」により課税仕入れの存在が明らかに認められるものについてのみ仕入税額控除を認める趣旨であると解される。したがって、課税仕入れの存在が明らかであると認められるためには、法人税法の帳簿書類における場合と同様、その正確性が担保されていると認めるに足る記載が要求されているというべきであって、単なる符号等による記載のみでは法定の記載事項を具備したとは認められず、かかる符号等から法定の記載事項を特定し得る帳簿書類等を保存している場合に限り、右のような帳簿書類等と一体として法定の記載事項を具備した「帳簿又は請求書等」と認められるというべきである。

3  原告が提示した「帳簿書類」ないし「帳簿又は請求書等」について

(一) 原告が本件原調査時において調査担当者らに提示した平成5年8月期及び平成6年8月期の帳簿書類等については、前記一1(三)(1)で認定したとおり、総勘定元帳2冊(平成5年8月期及び平成6年8月期)、当座預金照合表2冊、小切手帳159冊、伝票綴り7冊、領収書綴り3冊である。さらに、原告は、仕入先農家ごとに、その氏名、住所、品名、当該年度の仕入合計金額を記載した資料せんをあらかじめ川島税務署に提出しており(前記一1(三)(2))、右資料せんも原告が本件原調査時において調査担当者らに提示した帳簿書類と同視し得るというべきである。

(二) しかしながら、資料せんは、仕入先農家の氏名が記されているものの、生産者番号は記載されておらず、金額についても生産者別に当該年度毎に合計されており、個々の課税仕入れにおける取引金額が記載されているものではない(甲121号証参照)。また、前記一1(三)(2)で認定したとおり、本件原調査において提示されたこれらの帳簿書類等及び資料せんを総合しても、仕入れについては、生産者番号、支払年月日、金額のみが判明し、仕入先農家の氏名や品目を確認することができず、福利厚生費、旅費交通費及び雑費の支払についても、請求書や領収書がないものがあり、支出の相手方や内容を確認することはできない。なお、右のうち、仕入先農家の特定については、原告代表者の供述によれば、これらの帳簿書類等を総合しても、個々の仕入先農家の生産者番号を特定することができるに止まり、その氏名を特定することができないこと、生産者番号と仕入先の農家を結びつけるものとして生産者番号簿及び荷受伝票を従前から作成していたものの、本件原調査に先立ち、集出荷場事務所改築のために旧事務所を取り壊した際に紛失し、本件原調査当時においては保存していなかったことを自認している。

また、原告は、農家からの課税仕入れについては小切手で支払っていることから、被告による小切手の裏書調査により仕入先農家が特定し得ると主張する。確かに、前記一1(三)(2)で認定したとおり、被告は、原告の取引銀行で小切手の裏書を調査し、その結果、相当数の仕入先農家の氏名を特定し得たことが認められる。しかしながら、このことは、かえって、被告は、原告から提示された帳簿書類等のみによっては、仕入先農家を特定することができなかったことを意味するのであり、このような被告の銀行に対する調査によって仕入先農家が特定されたものがあるからといって、帳簿書類等の記載の不備が治癒されるものではないことは明らかである。したがって、この点に関する原告の主張は理由がない。

(三) 以上によると、原告が本件原調査当時に調査担当者らに対して提示した帳簿書類は、全て総合しても、農家からの仕入れに関する大部分並びに福利厚生費、旅費交通費及び雑費の一部について法令の記載事項を具備しないものであり、原告の事業実態が農家から青果を仕入れて販売するものであることに照らせば、法人税法施行規則54条、同規則別表20(13)に規定する記載事項を記載した法人税法126条所定の「帳簿書類」に該当しないものと認められる。

また、原告が本件原調査当時に調査担当者らに対して提示した帳簿又は請求書等については、被告自認分(平成5年8月期につき68万4144円、平成6年8月期につき74万1740円)を超えて、消費税法30条8項、9項に規定する記載事項を記載した同条7項所定の「帳簿又は請求書等」が存することを認めるに足る証拠はない。

(四) ところで、原告は、本件原調査当時には提示していなかったものの、異議調査の段階において、仕入日報(甲19ないし42)、総勘定元帳の外注費部分(甲86、87)、有限会社Bからの請求書(甲43ないし61)、C有限会社からの請求書(甲88ないし111)、D有限会社からの請求書(甲112、113)、E有限会社からの請求書(甲114ないし117)を提示しており、本件原調査当時からこれらの書類を保存していた旨主張する。

しかしながら、このうち、仕入日報(甲19ないし42)については、前記一1(一)(4)の認定によれば、原告代表者は、本件原調査時においては、調査担当者らに対して紛失した旨回答しており、しかも、原告代表者が最初に仕入日報の説明を行った平成7年9月26日から本件原調査の最終日である平成8年2月1日に至るまで、結局、調査担当者らに提示されなかったのであるから、本件原調査以後に作成された可能性を否定できないというべきである。のみならず、右仕入日報は、仕入先農家が番号ないし符号で記載されているに止まるものであるが、前記(二)のとおり、原告代表者は、本件原調査当時に、これらの番号ないし符号から仕入先農家の氏名を特定する生産者番号簿ないしは荷受伝票を紛失して保存していなかったことを自認している。そうすると、本件原調査当時に提出されたあらゆる帳簿書類等と総合しても、仕入先農家を特定することはできないと認められるから、右仕入日報は、法人税法施行規則54条、同規則別表20(13)に規定する記載事項を記載した法人税法126条所定の「帳簿書類」及び消費税法30条8項、9項に規定する記載事項を記載した同条7項所定の「帳簿又は請求書等」に該当しないというべきである。

4  本件取消処分及び本件更正処分等の適法性について

(一) 本件取消処分について

本件取消処分については、原告が本件原調査当時に調査担当者らに提示した帳簿書類が法人税法127条1項1号の「帳簿書類」に該当しないことは、前記3(三)のとおりであり、原告が物理的に保存していたと主張する仕入日報が同号所定の「帳簿書類」に該当しないことは前記3(四)のとおりであるから、原告が本件原調査当時、法令の要件を具備した「帳簿書類」を「保存」していなかったことは明らかである。よって、原告は、法人税法127条1項1号に該当する。

また、本件取消処分が見せしめ等他事考慮に基づくものであることを認めるに足る証拠はない。前記一1により認められる本件原調査の態様、帳簿書類の記載事項の不備の程度等、原告の主張する種々の事情を考慮しても、被告がその裁量権を濫用したものとは認められない。

よって、原告が法人税法127条1項1号に該当するとして行った被告の本件取消処分は適法である。

(二) 本件更正処分等について

また、本件更正処分等については、原告が本件原調査当時に調査担当者らに対して提示した帳簿又は請求書等からは、被告自認分以上の仕入税額控除が認められないことは、前記3(三)のとおりであり、原告が物理的に保存していたことを主張する仕入日報及び請求書類のうち、仕入日報が消費税法30条7項所定の「帳簿又は請求書等」に該当しないことは前記3(四)のとおりである。

そして、仮に、原告が主張する農家以外からの課税仕入れ及び外注費(平成5年8月期につきC有限会社に対する外注費4658万2467円、D有限会社に対する外注費25万4833円及びE有限会社に対する外注費346万1418円を含む外注費合計7209万4219円に有限会社Bからの課税仕入れ794万6173円を加えた合計8004万0392円、平成6年8月期につきC有限会社に対する外注費4186万9995円を含む外注費合計6026万7575円に有限会社Bからの課税仕入れ565万7912円を加えた合計6592万5487円)を前提としても、差引税額は、なお、各更正処分による納付税額を上回る。すなわち、平成5年8月期の課税仕入れ合計8004万0392円の百三分の三である233万1273円に被告自認分の控除対象仕入税額68万4144円を加えた301万5417円を控除対象仕入税額の合計と仮定しても、これを消費税額2121万8220円(争いがない。)から差し引いた金額1820万2800円(百円未満の端数切り捨て、国税通則法119条1項)は更正処分後の納付税額1582万0700円を上回る。また、平成6年8月期の課税仕入れ合計6592万5487円の百三分の三である192万0159円に被告自認分の控除対象仕入税額74万1740円を加えた266万1899円を控除対象仕入税額の合計と仮定しても、これを消費税額2152万6050円(ただし、確定申告、更正決定及び異議決定による税額)から差し引いた金額1886万4100円(百円未満の端数切り捨て、国税通則法119条1項)は更正処分後の納付税額1679万0000円を上回る。したがって、本件更正処分等に何ら違法がないことは明らかである。

また、災害その他やむを得ない事情により帳簿又は請求書等を保存することができなかったこと(消費税法30条7項ただし書)及び過少申告を行ったことにつき正当な理由(国税通則法65条4項)があることに関する主張、立証はなく、本件更正処分等が見せしめ等他事考慮に基づくものであることを認めるに足る証拠はなく、消費税の算定方式の誤りも認められない。加えて、前記一1により認められる本件原調査の態様、帳簿書類の記載事項の不備の程度等、原告の主張する種々の事情を考慮しても、被告が本件更正処分等を行うにつき、その裁量権を濫用したものとは認められない。

よって、原告が消費税法30条7項、国税通則法65条1項に該当するとして行った被告の本件更正処分等はいずれも適法である。

三  結論

以上のとおり、被告による本件取消処分及び本件更正処分等はいずれも適法であるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村岡泰行 裁判官 松谷佳樹 裁判官 竹添明夫)

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