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徳島地方裁判所 平成14年(行ウ)25号 判決 2003年10月31日

原告

原告

上記2名訴訟代理人弁護士

file_3.jpg鍋忠敬

被告

徳島税務署長 宮崎民生

上記指定代理人

横山和可子

清水博志

富﨑能史

松下直祐

藤澤公明

佐藤栄作

中川義信

友澤哲郎

鈴木久市

倉本幸芳

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が平成13年7月6日付けでなした平成10年2月4日相続開始にかかる相続税の以下の各処分をいずれも取り消す。

(1)  原告甲(以下「原告甲」という。)に対する更正処分のうち課税価格1億3961万5000円、納付すべき税額840万7200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(2)  原告乙(以下「原告乙」という。)に対する更正処分のうち課税価格722万5000円、納付すべき税額43万5000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(3)  丁の相続人である原告甲及び同原告乙に対する各更正処分及び無申告加算税賦課決定

第2事案の概要

本件は、宅地等の財産を相続した原告らが、原告らに対する租税特別措置法69条の3(平成11年法律第9号による改正前のもの、以下同じ。)規定の小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例を適用しないことを前提とする各更正処分並びに過少申告加算税及び無申告加算税の賦課決定処分は、同法の解釈適用を誤った違法がある旨を主張して、各処分の取消を求めた事案である。

1  前提事実(証拠等の掲記のないものは、当事者間に争いがない。)

(1)  丙(以下「丙」という。)は、平成10年2月4日に死亡した。その相続人は、妻である丁(以下「丁」という。)、子である原告甲、原告乙、戊及びA(以下「A」という。)の5名である(以下「本件相続」という。)。

(2)  丁は、平成12年8月28日に死亡した。その相続人は、上記子ら4名である。

(3)  原告甲は、丙から徳島市明神町の宅地(346.71平方メートル)及び同所の宅地(198.37平方メートル、以下両土地を併せて「明神町の土地」という。)を相続した。原告乙及びAは、丙から徳島市八万町の宅地(133.92平方メートル、以下「八万町の土地」という。)の所有権を持分各2分の1の割合で相続した。

(4)  明神町の土地及び八万町の土地は、いずれも租税特別措置法69条の3第1項(以下「租税特別措置法」を「法」という。)に規定する小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「本件特例」という。)の適用が可能な小規模宅地等に該当する。

(5)  原告らは、被告に対し、平成10年12月4日、本件相続につき相続税の申告をし、平成13年6月1日、本件相続につき相続税の修正申告書及び丁の相続人としての期限後申告書(以下、左記の修正申告書及び期限後申告書を併せて「修正申告書等」という。)を提出した。

(6)  その修正申告書等には、本件特例の適用を受けるとして、明神町の宅地のうち、133.04平方メートルを特定居住用宅地等である小規模宅地等として申告した。その際、原告ら及びAが本件特例の適用を受ける宅地等として明神町の宅地を選択することに同意する旨記載した「小規模宅地等に係る課税価格の計算明細書」が添付されていた。

しかし、原告らと別途に提出されたAの修正申告書等には、本件特例の適用を受ける旨の記載はなく、後に、原告らの代理人であるB税理士からも、Aの同意は得られない旨の文書が提出された(乙2、3)。

(7)  被告は、原告らに対して、本件特例は、同一の被相続人から相続により宅地を取得した者の小規模宅地等の選択についての同意が必要であるところ(法施行規則23条の2第4項1号)、本件ではAの同意がないため、本件特例を適用できない旨説明し、修正申告を促したが、原告らはこれに応じなかった(甲10)。

(8)  被告は、原告らに対し、平成13年7月6日付けで相続税の更正処分並びに過少申告加算税及び無申告加算税の賦課決定処分(以下、併せて「本件更正処分等」という。)を行なった。

(9)  原告らは、同年9月6日、被告に対し、本件更正処分等の取消を求めて異議申立を行なったが、同年11月29日付けで棄却された。

(10)  原告らは、同年12月28日、国税不服審判所長に対して審査請求を行なったが、平成14年9月19日付けで棄却された。

2  争点

本件更正処分等の適法性について

3  争点に関する当事者の主張

(1)  被告の主張

原告らが本件特例の適用を受けるためには、本件相続に係る相続税の申告書(期限後申告書及び修正申告書を含む。)に本件特例の適用を受けようとする旨を記載し、本件特例の計算に関する明細書、本件特例の適用を受ける200平方メートルまでの選択された宅地等の明細を記載した書類のほかに、次の書類が必要である。すなわち、本件相続においては、法施行規則23条の2第4項によって、相続等によって小規模宅地等を取得した者が他にも存在し、その宅地等の面積の合計が200平方メートルを超えるときに当たる。したがって、本件特例の適用を受けるには、200平方メートルまでの宅地選択について取得者全員の同意書が必要である(法69条の3第5項、法施行規則23条の2第8項1号ロ、同条4項1号)。

ところが、原告らは、共同相続人であるAの同意書を添付していないのであるから、本件特例を適用することはできない。

よって、本件更正処分は適法である。

(2)  原告の主張

ア 法施行規則23条の2第4項1号は取得者全員の同意書が必要と規定しているが、同意しない者がいたとしても、200平方メートルからその者の宅地面積を控除した残余面積についてのみ本件特例を申請するのであれば、その者の宅地等は本件特例の適用を受けうるのであるから、その利益を害しない。この場合まで、法は、取得者全員の同意書を要求する趣旨ではないと考えられる。

イ Aが相続によって取得する小規模宅地等は、八万町の土地133.92平方メートルの共有持分2分の1すなわち66.96平方メートルであるから、原告らは、200平方メートルから同面積を除外し左133.04平方メートルについてのみ本件特例の適用を申請している。この場合、Aは、133.04平方メートルの宅地選択について、原告らと利害対立が生じないのであるから、同意書を提出していなくても、本件特例の適用が認められるべきである。なお、本件特例の適用を申請する者と申請しない者がいた場合は、個別に課税価格の合計額や相続税の総額の異なる申告書が提出されることになるが、それは適宜誤っている方の申告について補正、修正申告又は更正処分等によって処理すればよいので、不都合も生じない。

ウ よって、本件特例の適用を否定した本件更正処分等は、法の趣旨に反する違法なものとして取り消されるべきである。

第3当裁判所の判断

1  本件更正処分について

(1)  本件特例は、法69条の3第5項において、当該相続又は遺贈に係る相続税の申告書にその適用を受けようとする旨を記載し、計算に関する明細書その他の大蔵省令で定める書類の添付がある場合に限り適用する旨規定されている。そして、上記大蔵省令で定める書類は、法施行規則23条の2第8項によって、原告らが特例の適用を受けようとしている特定居住用宅地等である小規模宅地等については、同項1号ロ、同条4項に基づき、同一の被相続人から相続又は遺贈により小規模宅地等を取得した他の者がある場合において、当該取得をした者に係るすべての当該宅地等が200平方メートルを超えるときは、当該200平方メートルまでの部分として選択をしようとする当該宅地等の明細を記載した書類及びその同意書が必要とされている。

そして、租税法については、租税法律主義の見地から、みだりに拡張解釈すべきではないところ、特に非課税要件規定については、租税負担公平の原則から、解釈の狭義性、厳格性が要請されるので、本件特例の適用要件についても、拡張解釈することはできないと解すべきである。

本件においては、原告らがAの同意書を添付していないことに争いはないのであるから、本件特例の適用要件を欠くというべきである。

(2)  これに対し、原告らは、小規模宅地等の選択について、200平方メートルからAが取得する宅地の面積を除外した部分についてのみ本件特例を申請しているので、Aはその宅地全部に本件特例を適用しうる余地があり、同意書がなくても、なんらAの利益を害さない以上、本件特例の適用に支障が生じることはないと主張する。

しかし、小規模宅地等の選択に同意しない者が、必ずしも自己が取得する宅地について本件特例の適用を希望しているわけではなく、本件特例の適用を希望しない場合があることを考えれば、不同意者が取得する宅地全部が本件特例の対象になるからといって、同人が小規模宅地等の選択に同意したものと扱うことはできない。

さらに、原告ら主張のような取り扱いを許すと、相続税法の体系からも不都合が生じうる。すなわち、相続税については、法定相続分課税方式を導入した遺産取得課税体系がとられており、同一の被相続人における相続税の課税価格の合計から、基礎控除等を控除して課税遺産総額を求め、当該価額を相続人が法定相続分に応じて取得したと仮定した場合の各取得金額について、それぞれ超過累進税率を適用して算出した金額の合計額を相続税の総額とし、これを相続人らが取得した財産の課税価格に応じて按分した金額を相続人らの各相続税額としている。そうすると、本件特例の適用を受けようとする相続税の申告書と、適用を受けるとしない相続税の申告書の提出があった場合、本件特例の適用を受けようとする者の相続税の申告書に基づいて相続税の総額を相続人らに配分することとなれば、本件特例の適用を受けようとする者の課税価格は特例を適用することにより減少する一方、適用を受けるとしない者の課税価格に変更はないから、その者に対する相続税の総額の按分割合が増加し、相続人間に不公平が生じることになる。

原告らの主張は、いずれも理由がなく、採用できない。

(3)  以上、被告のなした本件更正処分に違法はないというべきである。

2  過少申告加算税及び無申告加算税の賦課決定処分について

上記のとおり、本件更正処分は適法であり、同処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法65条4項及び同法66条1項ただし書にいう正当な理由があるとは認められないから、被告が同法65条1項の規定に基づいて行なった過少申告加算税の賦課決定処分及び同法66条1項の規定に基づいて行なった無申告加算税の賦課決定処分にも違法はないというべきである。

3  結論

以上のとおり、被告の行なった各処分は適法に行なわれており、原告らの主張はいずれも理由がないから、これを棄却することとする。

(裁判長裁判官 村岡泰行 裁判官 古田孝夫 裁判官鵜飼万貴子は退官のため署名できない。裁判長裁判官 村岡泰行)

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