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徳島地方裁判所 平成16年(行ウ)18号 判決 2006年5月26日

原告

X1

(ほか5名)

訴訟代理人弁護士

枝川哲

被告

鳴門市長 亀井俊明

訴訟代理人弁護士

浅田隆幸

主文

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第3 争点に対する判断

1  争点(1)(105番43土地の取得の違法性)について

(1)  原告らは、105番43土地が本件業務委託契約において公社に取得を委託した対象外の土地である上、本件事業にとって全く必要のない土地であるため、鳴門市において105番43土地を取得する必要性や合理性がないにもかかわらず、鳴門市長である亀井は、善管注意義務を怠り、十分な検討をせずに105番43土地を取得した結果、鳴門市に同土地の代金相当額(923万3600円)の損害を与えたのであるから、鳴門市に対して上記損害を賠償する責任を負う、と主張する。

(2)  そこで検討すると、前記前提事実等によれば、鳴門市は、亀井が鳴門市長に就任する以前の平成10年5月6日に本件施設の起業地の取得等を委託する旨の本件業務委託契約を締結している。本件業務委託契約に係る本件覚書(〔証拠略〕)には、鳴門市が公社に取得を委託した起業地として、添付図面上に円形で対象範囲が示されているだけであり、公図や地図上に示された105番43土地の位置等(〔証拠略〕)にかんがみると、本件覚書に記載された起業地の対象範囲中に105番43土地が含まれていたと認めることはできない。しかしながら、平成10年4月30日の鳴門市議会第1回臨時会経済環境委員長報告(〔証拠略〕)や同年5月6日開催の公社の理事会における公社事務局の説明(〔証拠略〕)中には、鳴門市が公社に取得を委託した起業地について、105番43土地の記載がある浦代地区用地一覧表を前提としているといえる報告ないし説明がされている部分があり、これらの報告ないし説明によれば、鳴門市と公社との間では、本件業務委託契約において、本件覚書の添付図面に記載された起業地の対象範囲にかかわらず、鳴門市が公社に浦代地区用地一覧表記載の土地の取得を委託するとの共通認識が形成されていたと推認することができる。そうだとすれば、105番43土地は、本件業務委託契約において公社に取得を委託した起業地の対象に含まれていたというべきであり、その対象外であったということはできない。公社は、本件業務委託契約に基づき、a建設から105番43土地を含む浦代地区一覧表記載の土地を取得することが要請されており、鳴門市も、公社が取得した上記土地を取得することが要請されていたということができるから、鳴門市長である亀井において公社から本件事業の用地として105番43土地を取得したのは、本件業務委託契約に基づく鳴門市の義務を履行したものにすぎないということができる。

原告らは、105番43土地が、本件事業にとって必要のない土地であり、鳴門市において取得する必要性も合理性もない土地であるから、鳴門市において同土地を取得すべきではなかった、と主張する。しかしながら、105番43土地が本件業務委託契約において公社に取得を委託した起業地の対象に含まれると認められる以上、鳴門市において公社に対して、そもそも本件事業にとって不必要であることを理由に105番43土地の取得を拒否することは、本件業務委託契約に違反することになり、許されないというべきである。本件業務委託契約は、亀井が鳴門市長に就任する以前に締結されたものであるから、亀井が同契約の内容について責任を負うべき立場にあるとはいえず、他に、亀井において本件業務委託契約に違反してまでも105番43土地を取得することを拒否すべきであったといえるような事情があることを認めるに足りる証拠はない。そうである以上、105番43土地が本件事業にとって必要であるか否かなどについて検討するまでもなく、亀井が105番43土地を公社から取得したことが善管注意義務に違反するということはできないというべきである。

原告らの上記主張は採用することができない。

(3)  以上によれば、鳴門市が105番43土地を取得したことについて亀井に善管注意義務違反の違法があるとはいえないから、亀井は、鳴門市に対し、105番43土地の取得について損害賠償責任を負わない。

2  争点(2)(本件測量等委託費用及び本件調査等委託費用の支出の違法性)について

(1)  原告らは、公社が実施した本件用地の測量等業務のうち本件用地以外の土地を対象とした業務については不必要な業務であり、また、本件用地の調査管理等業務についても、不必要な業務であるばかりか、いまだ完了していないのであるから、鳴門市において公社に対して支出した上記各業務に係る本件測量等委託費用のうち別紙算定表記載の費用(223万3915円のうち223万3850円)及び本件調査等委託費用(4630万3950円)については支出の根拠を欠くものであり、鳴門市長である亀井は、上記各支出をすべきではなかったにもかかわらず、善管注意義務を怠り、上記各費用の支出をした結果、鳴門市に上記各費用相当額(4853万7800円)の損害を与えたのであるから、鳴門市に対して上記損害を賠償する責任を負う、と主張する。

(2)  鳴門市と公社との本件業務委託契約においては、鳴門市が公社に対して本件用地等について調査(法務局での調査、実地調査、境界確認、土地測量等)や管理などの業務を委託し、その費用を支払うことになっているのであるから(〔証拠略〕)、公社において実施した用地測量等業務や用地調査管理等業務等については、上記委託業務として不合理であり、その費用も不当であるといえない限り、鳴門市は、公社に対して本件業務委託契約に基づいて上記業務等の費用の支出を拒むことはできないというべきである。

前記前提事実等によれば、公社は、鳴門市との間で平成10年5月6日に委託期限(買取期限)を平成12年3月31日とする本件業務委託契約を締結した上、平成10年5月15日及び同年6月16日に、a建設から本件用地を購入し、上記委託期限(買取期限)後の平成13年になって調査等委託契約や測量等委託契約を締結し、調査等委託契約については平成13年度及び平成14年度に併せて合計4630万3950円を、測量等委託契約については合計1503万4950円をそれぞれ支出している。

前記前提事実並びに〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば、本件用地の用地測量等業務について、公社は、本件用地48筆中の約40筆が地番表示のない未記入地であるなど、本件用地と隣接地との間や本件用地内の各土地の境界が明らかではなかったことから、本件用地の境界確定作業を実施するに当たって地図訂正や地積更正の作業をする必要が生じ、その前提として測量等を行う必要があったため、4社による指名競争入札で落札したb建設との間で委託料合計1503万4950円で測量等委託契約を締結し、b建設が徳島県用地調査等共通仕様書に準拠して上記業務を実施したことが認められる。原告らは、上記用地測量等業務のうち本件用地以外の土地部分で実施された業務等については本件事業にとって不必要な業務であり、同業務に係る費用についても不必要であると主張する。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、上記業務は、本件用地の隣接地について行われたものであり、地図訂正のために、隣接地のうち本件土地と接しない部分についても明確にする必要性があったことが認められるから、本件用地以外の土地部分で実施された業務であることをもって本件事業にとって不必要な業務であるということはできない。原告らの上記主張は採用することができない。

前記前提事実並びに〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば、本件用地の用地調査管理等業務について、公社は、前記のとおり地図訂正や地積更正の作業をする必要があったため、4社による指名競争入札で落札したc社との間で委託料合計4630万3950円で調査等委託契約を締結し、c社において、公社の用地調査管理等委託仕様書に準拠して上記業務を実施し、その結果、本件用地の一部についての境界確認のほか、公図の整備、地積更正等が行われたことが認められる。原告らは、公社において、山本前市長関連土地の疑惑を隠ぺいする目的で、必要性がない上記業務を実施したと主張する。しかしながら、公社が山本市長関連土地の疑惑を隠ぺいする目的で上記業務を実施したと認めるに足りる証拠はない上、仮に、上記筆務が本件事業の当初の計画においては予定されていなかったとしても、上記業務は、本件土地の内外における境界確認のために必要な業務であり、このような業務については、本件用地の管理等にとって有用であるということができる。原告らは、仮に、上記業務が必要な業務であったとしても、公社においてa建設の協力を得たり、既に存在する資料等を用いたり、地元業者に委託したりすることなどによって、調査等委託費用額の低減を図ることができると主張する。しかしながら、上記業務の費用について、原告らの主張する方法によって、これを低減することができることを認めるに足りる証拠はない。原告らの上記主張は採用することができない。

原告らは、鳴門市や亀井において、本件用地について公社が境界確定をした後に取得すると説明をしていた上、本件用地の全境界の約50パーセントしか確定されていないのであるから、このような状態で、鳴門市が公社に対して本件用地に係る調査等委託費用を支出するのは違法である、と主張する。しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本件事業については、当初、鳴門市と藍住町とが一部事務組合である施設組合をもって共同して実施しようとしていたところ、平成11年4月に亀井が鳴門市長に就任し、その後、亀井が方針を転換し、平成15年6月に施設組合が解散するに至って、鳴門市が単独で実施することになったものであり、このような本件事業の経過において、鳴門市は、平成15年6月に藍住町との施設組合が解散してから、公社による本件用地の境界確定等の作業完了の見通し、本件事業の進捗状況や現在の一般廃棄物処理施設の状態、本件用地の取得費用等についての地方債の起債措置に関する条件、本件用地の取得が遅延することによる利息金額等の諸条件をみて、本件用地の境界確定作業が完了していないものの、本件用地を取得するのが相当であると判断したことが認められ、このような判断がおよそ不合理であるということはできない。

以上に説示したところによれば、公社において実施した用地測量等業務や用地調査管理等業務等については、本件業務委託契約の業務として不合理であるとはいえず、その費用も不当とはいえない上、公社による上記各業務について未完了の部分があるとしても、上記各業務に係る支出をすることが不合理であるとはいえないから、鳴門市が公社に対して本件測量等委託費用のうちの別紙算定表の金額及び本件調査等委託費用を支払ったことは、本件業務委託契約上の義務の履行として行われたものであり、違法であるとはいえないというべきである。

(3)  以上によれば、鳴門市が公社に対して測量等委託費用及び調査等委託費用を支出したことについて亀井に善管注意義務違反の違法があったとはいえず、亀井は、鳴門市に対して上記支出について損害賠償責任を負わない。

3  争点(3)(本件増加利息の支出の違法性)について

(1)  原告は、鳴門市と公社との間の本件業務委託契約においては、本件用地の買取期限が平成12年3月31日と定められており、鳴門市は、同期限までに本件用地を速やかに買い取ることを義務付けられていたにもかかわらず、鳴門市長の亀井において、焼却炉の機種選定に係る個人的思惑から、鳴門市と藍住町とが共同で本件事業、を実施していた施設組合を解散に持ち込んだ上、付近住民の反対運動を利用して本件事業の実施を意図的に遅らせるなどして、上記の本件用地を速やかに買い取るべき義務を怠り、漫然と上記買取期限の延期を繰り返した結果、鳴門市に上記買取期限の翌日である平成12年4月1日以降の利息について本件増加利息(1億2795万4856円)の支出を余儀なくさせたのであるから、鳴門市に対して本件増加利息相当額の損害賠償責任を負う、と主張する。

(2)  しかしながら、既に認定したとおり、本件事業については、当初、鳴門市と藍住町とが施設組合をもって共同して実施しており、その後、平成11年4月に鳴門市長に就任した亀井が方針を転換した結果、平成15年6月に施設組合が解散し、鳴門市が単独で本件事業を実施することになり、平成16年4月1日に鳴門市が公社から本件用地取得をしたものである。このような本件事業の経過等に照らせば、亀井において、本件事業の実施方法について方針転換をし、その転換された方針の実現に相当な期間を要するなどしたものと考えられる。亀井において、個人的思惑から本件事業の実施や本件用地の取得を漫然と遅らせるなど、その裁量権の逸脱又は濫用があったことを認めるに足りる証拠はなく、平成15年6月に施設組合が解散した後、翌年4月には鳴門市が公社から本件用地を取得していることにかんがみれば、本件用地の取得が不当に遅れたということもできない。他に、この点について、亀井に裁量権の逸脱又は濫用があったと認めるに足りる主張や立証はなく、善管注意義務違反の違法があるということはできない。

(3)  以上によれば、亀井は、鳴門市が公社に対して本件増加利息を支出したことについて、鳴門市に損害賠償責任を負わない。

4  以上のとおりであるから、亀井は、鳴門市に対し、損害賠償責任を負わない。

第4 結論

以上によれば、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 池町知佐子 髙橋信慶)

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