徳島地方裁判所 平成16年(行ウ)22号 判決 2006年6月23日
原告
X1
(ほか1名)
原告ら訴訟代理人弁護士
枝川哲
被告
鳴門市長 亀井俊明
同訴訟代理人弁護士
浅田隆幸
主文
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第3 争点に対する判断
1 認定事実
前記前提事実並びに〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(1) 鳴門市は、平成14年2月28日、当時、新廃棄物処理施設事業を一部事務組合で共同で実施していた徳島県藍住町との間で、鳴門市が工事用進入路を設置することを確認した。そして、同年3月22日の鳴門市議会第1回定例会で、上記の工事費を含む平成14年度鳴門市一般会計予算が可決された。
(2) 鳴門市長である亀井は、平成14年6月18日、鳴門市議会全員協議会において、現廃棄物処理施設の付近(木津地区)の住民に約束していた新廃棄物処理施設の起工式を同月26日に実施することを表明した。
(3) 鳴門市は、平成14年6月19日、新廃棄物処理施設の工事用進入路整備工事である本件工事について入札を実施し、同月20日、落札したa社との間で、本件工事(全長約450メートルのうち進入路115メートル)について、別紙工事内容一覧表の当初契約欄記載の設計で、鳴門市契約に関する規則及び鳴門市約款(〔証拠略〕)に基づき、工期を同月21日から同年11月20日まで、請負代金を3370万5000円として、本件契約を締結した(〔証拠略〕)。本件契約の当初の工事設計では、土工(730立方メートル)、函渠工(ボックスカルバート27メートル)、仮設排水工(88メートル)、土留工(ふとんカゴ110メートル)、濁水処理工(沈砂池、シルトフェンス75メートル)等が計上されていたものの、本件工事現場の下流域にある漁場に工事による濁水が流入しないよう配慮することとしていたため、全工事代金のうち濁水処理工の金額が約55パーセントを占めていた。
(4) 鳴門市は、平成14年6月21日、a社に対し、新廃棄物処理施設建設予定地において起工式を実施する準備をするよう指示し、同月25日には、同予定地において起工式を実施する準備が完了していたものの、同月26日、新廃棄物処理施設の建設に反対する付近住民の阻止活動のために、起工式の実施を断念した。
(5) a社は、平成14年9月25日、鳴門市の指示を受けて、本件工事に着工し、同年10月5日まで、本件工事を実施したものの、同月6日、大雨のために本件工事を一時中断した。鳴門市は、翌7日、付近海域に濁水を確認したことから、a社に対し、本件契約の工事設計で予定されていたシルトフェンスの設置の工事等を行うよう指示した。
(6) 鳴門市は、a社との間で、平成14年10月10日、付近住民の阻止行動等により本件工事の着工が遅れたため、鳴門市約款17条に基づき、工期を平成15年3月20日まで延伸する旨の本件第1回変更契約を締結した(〔証拠略〕)。鳴門市は、a社に対し、同月15日、本件契約に基づき、1340万円の前払金支出をした。
(7) a社は、平成14年10月11日から同年11月5日まで、濁水発生を抑える調整池の役割を兼ね備えた沈砂池の設置工事をすべて人力で実施するなどの工事をした。鳴門市は、関係漁協との協議における申出を受けて、本件工事現場での作業を一時中断した。
(8) 鳴門市は、本件工事の当初の設計では、濁水処理装置を備えた沈砂池を設置した後、地山の切土や市道との取合い部分の盛土等の工事を実施する予定であったものの、関係漁協との協議の結果、濁水処理施設の築造に重機を使用すると濁水が発生する危険性があるため、沈砂池の設置をすべて人力で施工することとし、これに関連する濁水処理施設の一部の設計を変更した上、上記協議等に期間を要したため、地山の切土工事を削除し、これに関連する土留工を削減するなどの本件工事の設計変更をした。鳴門市は、a社との間で、別紙工事内容等一覧表の第2回変更契約欄のとおり、上記のような本件工事の設計を変更し、その際、本件工事の当初の設計では計上されていなかった起工式の費用を準備工として計上した(〔証拠略〕)。
(9) 鳴門市は、平成15年1月24日、本件契約の当初の工事設計に計上されていたボックスカルバートを製作していたb株式会社(以下「b社」という。)から、ボックスカルバート16個の製作が完了した旨の連絡を受けた。鳴門市は、a社から、同年2月20日、工事進行検査請求を受けたことから、同月25日、本件工事の現場において、本件工事の出来高を確認し、75.44パーセントと認定し、翌26日、a社に対し、これを通知したほか、同月28日、b社の香川県の製造工場内において、上記製作が完了した旨の連絡を受けていたボックスカルバート16個の確認をした(〔証拠略〕)。鳴門市は、a社に対し、同年4月10日、本件契約及び鳴門市約款32条に基づき、1149万7000円の第1回部分払支出をした。
(10) 鳴門市は、a社との間で、平成15年3月11日、付近住民等との協議に期間を要し、a社が本件第1回変更契約により変更された工期内に本件工事を完成することができなくなったことから、鳴門市約款17条に基づき、本件工事の工期を平成15年9月30日まで延伸するとともに、別紙工事内容一覧表の第3回変更契約欄記載のとおり、濁水処理工を削減するなど、工事の設計を変更する旨の本件第3回変更契約を締結した(〔証拠略〕)。
(11) 鳴門市は、a社との間で、平成15年9月26日、関係漁協との協議に期間を要したため、a社が本件第1回変更契約により変更された工期内に本件工事を完成することができなくなったことから、鳴門市約款17条に基づき、本件工事の工期を平成16年3月25日まで延伸するとともに、別紙工事内容一覧表の第4回変更契約欄記載のとおり、濁水処理工を削減するなど、工事の設計を変更する旨の本件第4回変更契約を締結した(〔証拠略〕)。
(12) 鳴門市は、工期完了の直前である平成16年3月15日の時点で、本件工事による沈砂池が完成していなかったことから、濁水処理工のうち沈砂池の築造工を削減したほか、函渠工のうちボックスカルバートの設置工を削除する一方で、関係漁協から、濁水発生対策の強化の要望が出されていたことを受けて、本件契約の請負代金の範囲内で、濁水防止対策として、シルトフェンス(20メートルの規格品2枚)の設置工や水路塵芥処理工を追加することとし、同日、鳴門市約款17条に基づき、別紙工事内容一覧表の第5回変更契約欄のとおり、本件工事の設計を変更する旨の本件第5回変更契約を締結した(〔証拠略〕)。
(13) 鳴門市は、平成16年3月19日、b社の香川県の製造工場から、ボックスカルバート16個を引き取り、現在、鳴門市撫養町のポンプ場で保管している(〔証拠略〕)。
(14) a社は、本件第5回変更契約に基づき、シルトフェンスの設置工や、シルトフェンスが塵芥で破損しないようにするための水路塵芥処理工(〔証拠略〕)を実施するなどした上、鳴門市に対し、平成16年3月25日、本件工事の竣工検査を請求し、鳴門市は、翌26日、竣工検査を実施し、翌27日、本件工事の竣工を承認した。
(15) 鳴門市は、a社に対し、平成16年5月10日、本件契約に基づき、880万8000円の残代金支出をした。
(16) 本件工事により設置された沈砂池については、本件第5回変更契約の設計の関係では竣工していたものの、いまだ未完成であった。鳴門市は、平成15年7月に環境衛生部からクリーンセンター建設推進局に本件工事が移管された後、計画全体を見直し、濁水防止の強化を図るため、市道との取合い部分に仮設矯を設置する計画を立てるなどし、平成16年8月3日、別業者に仮設道路工事を発注し、同業者は、平成16年12月ころ、本件工事によって未完成であった沈砂池や水路を完成し、これらは、現在、沈砂池として機能している。鳴門市は、上記工事による仮設橋の利用が終了し、これを撤去した後、その場所に、上記(13)のとおり、保管中のボックスカルバートを設置する予定である。
2 変更契約について
(1) 第2回変更契約について
ア 原告らは、本件契約の目的が工事用進入路を設置することにあるにもかかわらず、本件第2回変更契約では、上記進入路の盛土材料確保のための地山の掘削工事と盛土工事を削除するなどし、土工(道路)や土留工を大幅に削減したほか、函渠工として実施予定のボックスカルバートの設置工事や仮設排水路工事も削除することにしたものであり、その時点で本件契約の目的は失われたのであるから、鳴門市において、鳴門市約款17条及び41条に基づき、本件契約を解除するか、法令が要求する手続を経なければならなかったのであり、そのような手続を経ることなく、不必要な本件第2回変更契約を締結し、工事用進入路に係る本件工事の予算を別の工事に流用し、請負代金を支出したことは違法である、と主張し、原告X1の陳述書(〔証拠略〕)中にも、同旨の部分がある。
しかしながら、前記1の認定事実によれば、鳴門市は、新廃棄物処理施設の建設事業として、その工事用進入路整備工事(全長約450メートル)の一部である本件工事(約115メートル)を実施する際に、本件工事の下流域にある漁場に本件工事による濁水が流入しないように配慮することが必要であったため、本件契約における当初の工事設計では、上記配慮をするための濁水処理工(沈砂池、シルトフェンス75メートル)の代金が全工事代金の約55パーセントを占めており、これに市道との取合い部分の既存水路を確保するための函渠工(ボックスカルバート27メートル)の代金を併せると、全工事代金の80パーセントを超えていたことからすれば、本件契約は、進入路自体の整備というよりも、工事用進入路の整備や上記建設事業を実施していくに当たって必要になると考えられる付近漁場への濁水流入防止対策や、既存水路の維持確保等といった事業推進の基盤整備を主たる目的としていたものと理解することができる。そして、鳴門市は、平成14年10月の大雨により付近漁場に濁水が流入したことから、本件工事について、当初の設計よりも、手厚い濁水防止対策を講じることが必要となり、関係漁協と協議をした結果、当初の設計では、濁水処理装置を備えた沈砂池を設置した後、地山の切土や市道との取合い部分の盛土等の工事を実施する予定であったところを、濁水処理施設の築造に重機を使用せずに、すべて人力で施工することとしたほか、上記協議等に期間を要したため、地山の切土工事を削除するなどの設計変更をする旨の本件第2回変更契約を締結したものである。このような本件第2回変更契約の設計変更は、その結果、工事用進入路自体の整備が前減されたとしても、濁水流入防止対策等の基盤整備を主たる目的とする本件契約の目的から逸脱するものとはいえず、関係者との協議等に時間を要した結果、相当程度の計画変更を余儀なくされたことはやむを得ないところであったということができる。また、本件第2回変更契約による本件工事の設計について、本件第3、4回変更契約において濁水処理工が削減されているものの、その削減金額に照らして、本件第2回変更契約による本件工事の設計変更が不必要ないし不合理であると評価することはできない。そうである以上、本件第2回変更契約は、本件契約の目的を逸脱するものとはいえないから、鳴門市が本件契約の解除等をすることなく、本件第2回変更契約を締結したことが違法であるとはいえない。原告らの上記主張は採用することができない。
イ 原告らは、鳴門市が、本件第2回変更契約後に、<1>使用する予定がなくなった函渠工としてのボックスカルバートの費用、<2>当初の本件契約では計上されていなかった準備工としての起工式の費用、<3>盛土工事を中止したことにより不必要となった土留工の費用等の不必要な支出をしたことは違法である、と主張する。
しかしながら、<1>の費用については、前記1の認定事実によれば、本件工事では、当初の工事設計にあった函渠工としてのボックスカルバートを製造しただけで、設置しないまま、工事が竣工したものの、鳴門市は、現在、上記製造に係るボックスカルバートを保管しており、今後の新廃棄物処理施設事業の関連工事において使用する予定であることから、鳴門市にとってボックスカルバートが不必要なものとはいえず、当初の工事設計にあり、実際に製造されたボックスカルバートについて、当該工事においてボックスカルバートを設置しないことになったからといって、その後に設置する予定のボックスカルバートについての費用を支出することが違法であるとはいえない。<2>の費用については、本件工事の当初の設計に含まれていない費用であっても、その後の変更契約において、工事を削減するなどする一方で、本件契約の目的に照らして、不必要又は不合理な費用でない限り、これを計上して、その費用を支出することは違法とはいえないというべきである。一般に、本件のような工事において、起工式が実施されることは不自然ではない上、前記1の認定事実によれば、本件工事の起工式については、実際には反対活動により実施されなかったものの、その準備が完了しており、その費用を既に費やしたものということができるから、本件工事の起工式の費用を計上して支出したことは、本件契約の目的に照らして不必要又は不合理であるとはいえない。鳴門市が本件第2回変更契約において、当初の工事設計において計上されていなかった本件工事の起工式の費用を計上し、これを支出することは違法とはいえない。<3>の費用については、本件第2回変更契約において、盛土工事が削減されているものの、証人Aの証言によれば、本件工事において、工事現場に工事車両が下りていくための道路の土留工が行われたことが認められ、同工事が不必要であったということはできないから、鳴門市が土留工の費用を支出したことが違法であるとはいえない。原告らの上記主張を採用することはできない。
ウ 以上によれば、本件第2回変更契約は、本件契約の目的を逸脱するものではなく、鳴門市が本件第2回変更契約を締結したことは違法とはいえず、これに伴う請負代金の支出も違法とはいえない。
(2) 第5回変更契約について
ア 原告らは、本件第5回変更契約が、本件第4回変更契約による本件工事の竣工直前になって、沈砂池等を完成させずに同工事を中止する代わりに、不必要なシルトフェンス2本を追加して設置したものであり、これは、本件契約の請負代金額を消化するための工作であるから、違法であると主張し、原告X1の陳述書(〔証拠略〕)中にも、同旨の部分がある。
しかしながら、鳴門市において、本件工事の進捗状況等の諸般の事情を勘案して、本件工事の工事の一部が未完成の状態であったとしても、その状態をもって竣工となるよう設計変更する一方で、本件契約の目的に照らして不必要又は不合理とはいえない工事を追加し、その費用を支出したとしても、必ずしも予算の流用とはいえず、違法とはいえないというべきである。前記1の認定事実によれば、鳴門市は、工期完了の直前である平成16年3月15日の時点で、本件工事による沈砂池が完成していなかったことから、濁水処理工のうち沈砂池の築造工を削減したほか、ボックスカルバートの設置工を削除したものであり、このような設計変更が不合理であるとはいえない上、既に認定説示したとおり、本件契約は濁水流入防止対策等をはじめとする基盤整備を主たる目的とするものであるといえるのであるから、関係漁協からの濁水発生対策の強化の要望があったことを受けて、シルトフェンス(20メートルの規格品2枚)の設置工や、シルトフェンスが塵芥で破損しないようにするために必要な工事である水路塵芥処理工を追加する本件第5回変更契約を締結したことは、本件契約の目的に照らして不必要又は不合理であるとはいえない。本件第5回変更契約によって追加設置されたシルトフェンスが不必要な長さのものであることや効果のないものであったことを認めるに足りる証拠はない。そうである以上、鳴門市が本件第5回変更契約を締結したことは違法ではなく、残代金支出をしたことは違法とはいえない。
原告らの上記主張は採用することができない。
イ 以上によれば、鳴門市が本件第5回変更契約を締結したことは違法とはいえず、これに伴う請負代金の支出も違法とはいえない。
3 以上のとおり、鳴門市が本件第2回変更契約及び本件第5回変更契約をしたことはいずれも違法とはいえず、これらの変更契約後に請負代金を支出したことも違法とはいえないから、亀井は、鳴門市に対し、損害賠償責任を負わない。
第4 結論
以上によれば、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 阿部正幸 裁判官 池町知佐子 髙橋信慶)