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徳島地方裁判所 平成17年(行ウ)15号 判決 2007年12月21日

主文

1  徳島県知事が原告に対してした別紙処分目録記載1及び2の各処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

主文と同旨

第2事案の概要

1  事案の骨子

本件は,内装ドアユニット等の木製品を製造している原告が,自社工場内において発生した木くずの一部をボイラー形式の設備で燃焼して蒸気を発生させ,これを同工場内のプレス施設や乾燥施設の熱源として利用していたところ,徳島県知事(以下「本件処分庁」という。)から,上記の設備が廃棄物の処理及び清掃に関する法律の一部を改正する法律(平成15年法律第93号)による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)上の「産業廃棄物処理施設」としての要件に適合していないなどとして同設備の改善及び使用停止命令(以上,別紙処分目録記載1)を,さらに,必要な改善がなされないまま同設備を継続して使用していたなどとして設置許可取消処分(同目録記載2。以下,同目録記載1の処分と併せて「本件各処分」という。)をそれぞれ受けたことに対して,本件処分庁の所属する地方公共団体である被告を相手取り,本件各処分の取消しを求めた事案である。

2  前提事実(認定に供した証拠の符号を括弧内に掲記した。)

(1)  原告は,内装ドアユニットの製造販売等を業とする株式会社であり,肩書地に本社及び工場(以下「本件工場」という。)を置くとともに,P1工場ほか複数の営業所及び工場を有している(甲21,35)。

(2)  原告は,本件各処分がなされた当時,本件工場において,別紙図面1のとおりの設備を設置し,同設備を使用して,本件工場の第1工場棟(以下「第1工場」という。)の製造工程において製品材料である芯材の木材,平行合板,合板あるいは中質繊維板を切断した際に発生する木くず(以下「本件木くず」という。)を燃焼させていた(甲7,11,12,18の1,35,乙23,弁論の全趣旨)。

そして,本件木くずの収集及び熱源としての利用経路は,別紙図面2のとおりであり,原告は,本件木くずを上記の設備で燃焼させて生じた熱を主要な熱源として本件工場における作業に利用している(甲6,18の2,乙23,33,弁論の全趣旨。なお,本件木くずの収集及び熱源としての利用に関する設備全体を「本件設備」と,本件設備のうち本件木くずを燃焼させるためのボイラー本体及びこのボイラーと一体となって燃焼機能の維持等のために作用している部分を「本件ボイラー」という。)。

(3)  本件工場には,昭和40年ころに木くずを燃料とするボイラーが設置されており,本件ボイラーは,上記の従前のボイラーの老朽化への対応と燃焼効率の向上の観点から,平成元年から平成2年にかけてその後継機として設置されたものである(甲5,12,35,原告代表者,弁論の全趣旨)。

(4)  本件ボイラーによる木くずの処理能力は,1時間当たり213キログラムである(甲12,乙25,弁論の全趣旨)。

(5)  原告は,平成元年12月,本件処分庁に対し,本件ボイラーの設置に関して大気汚染防止法に基づく届出を行った(甲5,35,原告代表者)。

(6)  被告は,平成9年11月1日ころ,原告を含む県内の関係業者に対し,廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下「廃棄物処理法施行令」という。)及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「廃棄物処理法施行規則」という。)の平成9年度改正の周知と対象施設等の実態把握のために廃棄物焼却施設の届出を依頼する旨の文書を送付した(乙9)。

これに対して,原告は,平成10年2月10日,対象施設が2基あるとして届出を行った。なお,この2基に本件ボイラーは含まれていない(乙10)。

(7)  被告は,平成13年8月24日ころ,原告を含む県内の関係業者に対し,廃棄物処理法施行令及び廃棄物処理法施行規則の平成9年度改正に伴い,平成14年12月1日以降には同施行令及び同施行規則の定めた基準に適合しない対象施設が使用できないこと,その使用を継続する場合にはその旨の改善が必要であることを通知するとともに,実態把握のための「廃棄物焼却施設の改善等に関するアンケート」と題する書面を送付した(乙11)。

これに対し,原告は,平成13年8月30日,前記(6)の2基の焼却施設のうちの1基について故障により休止届を提出しているとして,残る1基に関する回答をした(乙12,14,15)。

(8)  被告は,平成14年7月10日,原告による前記(6)の焼却施設の届出数(2基)とダイオキシン類対策特別措置法上の木くず焼却施設の届出数(6基)の不一致について調査するため,本件工場に対する立入調査を実施した。なお,これらはいずれも本件ボイラーとは異なるものである(乙13)。

(9)  本件工場内に存する木くずの焼却施設(いずれも本件ボイラーとは異なる。)について,原告は,被告に対し,平成11年10月29日付けで1基,平成14年2月6日付けで1基,同年11月30日付けで4基の休止届出をした(乙14,15)。

(10)  原告は,平成15年1月22日,訴外P2協同組合連合会との間に,契約期間を1年間(平成15年1月22日から平成16年1月21日まで)とした産業廃棄物処理委託契約を締結し,同契約に基づき,平成15年1月27日,同月30日(同日中に2回),同月31日及び同年2月6日の5回にわたって本件工場から排出される木くずの処理を委託した(乙6,7の1ないし5,原告代表者,弁論の全趣旨)。

(11)  本件処分庁は,平成15年3月17日,原告に対し,本件ボイラー等に関して,廃棄物処理法18条1項に基づく報告徴収の通知をした(乙18)。

原告は,同月25日,本件処分庁に対し,上記の通知について回答したが,本件ボイラーが廃棄物処理施設に該当しない旨の主張をした(乙19)。

(12)  本件処分庁は,平成15年3月31日,原告に対し,本件ボイラーが廃棄物処理法施行令附則2条2項にいう「特定産業廃棄物焼却施設」に該当することを前提として,別紙処分目録記載1の本件ボイラーの改善及び使用の停止命令を発し,原告は,同日,この通知を受領した(甲1,3)。

(13)  本件処分庁は,平成15年4月22日,原告に対し,前記(12)と同様,本件ボイラーが「特定産業廃棄物焼却施設」に該当することを前提として,別紙処分目録記載2の本件ボイラーに関する設置許可の取消処分を発し,原告は,同月24日,この通知を受領した(甲2,3)。

(14)  本件処分庁は,原告に対し,本件各処分に先立って,行政手続法13条1項の聴聞又は弁明の機会の付与をしなかった(甲4,弁論の全趣旨)。

(15)  原告は,平成15年5月29日,環境大臣に対し,本件各処分の取消しを求めて行政不服審査請求をした(甲3,4)。

これに対し,環境大臣は,平成17年6月24日,上記行政不服審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲4)。

3  本件の争点

(1)  本件各処分の内容の適法性(本件木くずが廃棄物処理法上の「廃棄物」に該当するか否か。)

なお,本件各処分は,本件ボイラーが廃棄物処理法施行令附則(平成9年8月29日政令第269号。以下「廃棄物処理法施行令附則」という。)2条2項にいう「特定産業廃棄物焼却施設」に該当することを前提としているが,そもそも本件木くずが廃棄物処理法上の「廃棄物」でなければこのような「特定産業廃棄物焼却施設」に該当する余地がなくなり,本件各処分がその根拠を失うから,上記括弧内記載のとおり,本件木くずの「廃棄物」該当性こそが本争点において中心的に検討されるべき事項となる。

(2)  本件各処分に先立つ行政手続に瑕疵があるか否か。

4  争点(1)に関する当事者の主張

(1)  被告の主張

ア 解釈の方法等

国は「廃棄物とは,占有者が自ら利用し,または他人に有償で譲渡することができないために不要となったものといい,これらに該当するか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案して判断すべき」との基準を挙げ,それに沿って判断した結果,前記2(15)の裁決に係る裁決書(甲4)のとおり,本件木くずが廃棄物処理法上の「廃棄物」に該当する旨を明確に述べている。そして,被告及び本件処分庁も国と同様の基準によって同様の判断をしており,また,廃棄物処理法の各都道府県等における運用が法定受託事務である以上,被告及び本件処分庁は,国と同様の判断をしなければならない。

そして,上記基準の解釈・運用指針については,国が各都道府県等に対し「行政処分の指針について(通知)」(平成17年8月12日付け。乙2。以下「本件通知」という。)により,これまで示してきた指針を文書によって提示し,次の要件によって判断している。

① 当該物の性状が,利用用途に要求される品質を満足し,かつ飛散,流出,悪臭の発生等の生活環境保全上の支障が発生するおそれのないものであること

② 当該物の排出が需要に沿った計画的なものであり,排出前や排出時に適切な保管や品質管理がなされていること

③ 当該物について,製品としての市場が形成されており,廃棄物として処理されている事例が通常認められないこと,また,当該物の占有者と相手方の間で有償譲渡がなされており,なおかつ客観的に見て当該取引に経済的合理性があること

④ 客観的要素から社会通念上合理的に認定しうる占有者の意思として,当該物につき,適切に利用し若しくは他者に有償譲渡する意思が認められること,又は放置若しくは処分の意思が認められないこと

イ 本件における要件の検討

(ア) 物の性状(前記①の要件)

本件木くずは,LVL(平行合板)の加工時に発生したものである。このLVLとは,丸太から単板切削したものを乾燥させ,接着剤(ユアサホルマリン樹脂,フェノール樹脂などのプラスチック系のもの)を塗布し,長手方向に連続的に積層接着して作る平行合板であり,接着剤を使用する際,この中に防腐・防虫剤を混入することによって耐久性を向上させているのが通常である。

本件木くずには,LVLに使用されている接着剤の混入が見込まれ,それを燃焼した際に有毒・有害物質の発生などの生活保全上の支障が発生するおそれがあり,そうである以上,燃料として利用する場合に要求される品質を満足しているものとはいえない。

なお,原告は,本件木くずが「F☆☆☆☆(エフフォースター)」と呼ばれるホルムアルデヒトに関する最も厳しい基準をクリアする接着剤を使用した合板から生じたものであると主張するが,仮にそのような合板を使用していたとしても,本件のように燃料として使用した場合にもホルムアルデヒド及びそれ以外の有毒・有害物質が全く発生しないことを保証しているものではない。

(イ) 排出の状況(前記②の要件)

本件木くずは,木製品の製造に伴って随時不可避的に排出されており,別の工程で必要となる熱量を確保することを意図して,その熱量に応じて排出量の管理がなされていると認めることはできない。

(ウ) 通常の取扱い形態及び取引価値の有無(前記③の要件)

木くず(おがくず)は,焼却炉の中に大量投入した場合,燃焼あるいは熱分解速度が木片に比べて速いため,投入直後に空気量が不足し,熱分解ガスが発生し,熱分解がピークを過ぎた時点で空気が混合して爆発あるいは爆発的燃焼が発生する(粉塵爆発現象)可能性が高く,粉塵爆発現象を起こさないよう細心の注意を払って散水してからの作業となるため,その処理費用として1トンあたり1万6000円から2万円程度かかっているのが現実である。

したがって,どの木工業者も,自社の特定産業廃棄物焼却施設において処理しきれない木くずについては,産業廃棄物を処理する業者に有償で処分を委託しており,原告においても,P2協同組合連合会に対し,その最終処分を有償で委託している。

(エ) 占有者の意思(前記④の要件)

本件木くずは,有償譲渡が不可能であり,客観的要素から社会通念上,他者に有償譲渡する意思を認めることはできない。また,原告は,本件工場から排出された木くずを本件設備以外の自社の焼却炉で焼却処分したり,自社で処分できない木くずについては,他者に有償で処分を委託しており,処分の意思が認められないとはいえない。さらに,原告は,本件木くずを本件設備以外の焼却炉において焼却していたこともあり,本件木くずが,本件工場の燃料として100パーセント用いられているものではない。

(オ) 小括

上記基準により総合的に判断すると,本件木くずが廃棄物に該当することは明らかである。

なお,原告は,木くずはいわゆるバイオマスであり,もはや廃棄物には該当しないとも主張するが,国は,「リサイクルの観点などから法において廃棄物とされているものの一部を除外すること」について明確に否定しており,上記のような理由により本件木くずを法の定める廃棄物から除外することはできない。

ウ 平成19年7月5日付け通知との整合性等(下記(2)ウに対して)

原告が指摘する,環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長による平成19年7月5日付け「木くずの燃料利用に係る取扱いについて」と題する通知(甲39。以下「平成19年7月5日付け通知」という。)において,木くずを燃焼するボイラー等につき「生産工程の一部として燃料利用(他の工場等から処理費用を徴収して焼却する等廃棄物処理に該当する場合を除く。)するものであって」,かつ,「生産工程から定量的に供給され熱量調整が可能である等燃焼施設が生産工程の一部として他の施設と一体的に運転管理され,必要な熱量を得るものであること」の各要件を満たす場合には産業廃棄物の焼却施設に当たらないものとされている。しかし,本件においては,第1工場から排出された木くずの一部が本件ボイラーで焼却されているものの,その他のものについては焼却炉において単なる焼却処分がなされているから上記前段の要件を満たさず,また,第1工場を含む本件工場においては,木くずは随時不可避的に排出されており,必要な熱量に応じて排出量が管理されていると認めることは困難であるから上記後段の要件を満たすものでもない。

また,平成19年7月5日付け通知は,本件通知における取扱いを変更する趣旨のものではないが,仮に,本件通知における取扱いを変更するものである旨評価されたとしても,行政処分の適法性は処分時を基準に判断するから,本件各処分が適法であることに変わりはない。

エ 結論

以上により,本件木くずは廃棄物処理法上の「廃棄物」に該当し,「廃棄物」とされた木くずは同法施行令2条2号により「産業廃棄物」とされるのであるから,本件ボイラーは産業廃棄物の焼却施設ということになる。そして,本件ボイラーは,平成9年12月1日(廃棄物処理法施行令附則1条参照)以前に設置されており(前記2の2(3)),かつ,その処理能力は1時間当たり213キログラムであるから(同(4)),「特定産業廃棄物焼却施設」(廃棄物処理法施行令附則2条2項)に該当するところ,国は,特定産業廃棄物焼却施設の改善命令違反・使用停止命令違反に対しては,許可を取り消すという処分が相当であるとしており(平成13年5月15日付け通知「行政処分の指針について」。乙1),廃棄物処理法の各都道府県等における運用が法定受託事務として国に従わなければならないことを勘案すれば,本件各処分は,国の行政運用指針に基づいてなされた適法なものである。

(2)  原告の主張

ア 被告の判断手法がその判断根拠たる通達そのものと矛盾していること

被告の指摘する本件通達は,法令ではなく単なる解釈例にすぎないものであるが,「廃棄物」該当性に関するほかの具体的基準がないので,一応これに準拠するとしても,本件通達においては,「排出事業者が自ら利用する場合における廃棄物該当性の判断」に際して,被告の挙げる①物の性状,②排出の状況,③通常の取扱い形態(製品としての市場が形成されており,廃棄物として処理されている事例が通常認められないこと)及び取引価値の有無(占有者と取引の相手方との間で有償譲渡がなされており,なおかつ客観的にみて当該取引に経済的合理性があること),④占有者の意思の基準がそのまま適用されるのではなく,有償譲渡を前提とした上記③に代わって,通常の取扱い,個別の用途に対する利用価値という基準が示され,上記④についても,他者に有償譲渡する意思は除かれ,これら各種判断要素の基準に照らし,社会通念上,当該用途において一般的に行われている利用であり,客観的な利用価値が認められ,なおかつ確実に当該再生利用の用途に供されるか否かをもって判断するとされているのであるから,被告の解釈方法は自ら依拠する本件通達に矛盾している。

イ 本件通達の基準への当てはめ

(ア) 「物の性状」について

本件木くずについては,集塵機からボイラーで焼却されるまでの過程において,ほかに飛散することはなく,流出や悪臭の発生等の生活環境保全上の支障を生ぜしめるような危険もない。また,合板接着剤の安全基準である「F☆☆☆☆」(エフフォースター)という最高基準をクリアし,木くずが使用目的である燃焼に適していることからすれば,本件木くずは「物の性状」についての基準を満たす。

(イ) 「排出の状況」について

本件木くずは,排出されるやいなや集塵機によりダクトへ吸入され,それがバグフィルター式集塵機に格納され,そこからバグフィルター式定量機を通じて,定量が本件ボイラーの燃焼室に運ばれ燃料として焼却される。排出から燃焼までの間に他に飛散したりあるいは風雨にさらされるようなことはなく,また,他の燃料と混合する危険もない。したがって,排出時から燃焼までの品質保管も万全である。

また,原告は,第1工場から排出される木くずすべてを燃料として再利用する設計計画の下に工場を設営しており,木くずだけで熱量が不足する場合には補助的に重油炊きボイラーを併用するシステムを取っているから,「排出を前提とした需要を設計した計画的なもの」であり,当然に「排出の状況」についての基準を満たす。

(ウ) 「占有者の意思」について

原告は,第1工場から発生する木くずすべてをボイラー燃料として用いる前提で平成元年から本件設備を設置しており,これらの木くずが燃料として完全利用されている実態があること,昭和40年代から本件ボイラーと同様のものがあり,老朽化に伴い入れ替えたのが本件ボイラーであることなどからすれば,客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る占有者(原告)の意思として,適切に利用する意思が認められることは明白である。

(エ) 通常の取扱い,個別の用途に対する利用価値について

本件木くずは,第1工場から木材原料切断の際に排出される木くずであり,それはすべて集塵機,定量投入装置を通じて本件設備に投入され,本件設備の燃焼原料として使用されている。したがって,本件木くずの通常の取扱いは,まさに本件設備での燃料としての取扱いである。

また,本件ボイラーを製造販売したのは,業界大手の株式会社P3(平成元年当時は株式会社P4)であり,原告のためだけにこのような施設を製造販売したわけではなく,ペレット焚以外に「木質燃料ボイラー」を製造販売しており,これを見るだけでも,本件木くずがボイラー燃料という用途に適した利用価値を有するものとして認知されていることが容易にわかる。

(オ) 小括

以上検討した結果に従えば,本件通達を判断基準として用いても,本件木くずが廃棄物に該当しないことは明らかである。

ウ 平成19年7月5日付け通知との整合性等

平成19年7月5日付け通知(甲39)においては,木くずの廃棄物該当性に関する次の①ないし④の内容が含まれており,これは原告の主張と同旨であるから,被告及び本件処分庁は,本件各処分の誤りを認めて,直ちにこれらを撤回すべきである。

① 木くずをボイラー等の燃料として自ら利用する場合,必ずしも他人への有償譲渡の実績を求めるものではない。

② 重油等の代替燃料として利用する木くずについては,燃料として十分に価値を有することを総合的に判断することが一般的である。

③ 製材工場等においては,従前から木くずをボイラーの燃料として利用している場合があり,産業廃棄物処理施設の許可の要否について都道府県や政令市において取扱いが異なる状況が見られる。

④ 生産工程を形成するボイラー等については,木くずを燃焼するボイラー等が,生産工程の一部として燃料利用するものであって,かつ,生産工程から定量的に供給され,熱量調整が可能である等燃焼施設が生産工程の一部として他の施設と一体的に運転管理され,必要な熱量を得るものであることに留意し,当該ボイラー等を産業廃棄物の焼却施設に当たらないものとして取り扱うものである。

エ その他の主張

(ア) 他の地方自治体における措置との均衡

「自社の木くずを燃料として使用する場合」の廃棄物処理法上の取扱いについては,原則として廃棄物でないとするのが7自治体,場合により廃棄物としないとするのが16自治体ある。そして,北海道も①施設がボイラー,②排ガスが周辺住民に影響を与えないこと,③熱利用を目的に燃焼(熱利用しない時は焼却しない。燃料がない時は重油等を購入し熱供給)という3条件を満たせば木くずを廃棄物処理法上の廃棄物としない取扱いになっており,上記16自治体に含まれているところ,本件ボイラーと同様にボイラーとして設置届をした設備を有する原告P1工場においては,本件ボイラーと同様に上記3条件をすべて満たしており,何ら行政処分を受けずに現在も稼働を続けている。なお,他業者の施設についても,岡山県において木くず炊きボイラーが産業廃棄物処理施設ではなくボイラーとしての取扱いを受けている。

したがって,原告にとってみれば,なぜ北海道や岡山県と同様の取扱いにならないかが疑問である。

(イ) 本件ボイラーの稼働による実害のなさ

廃棄物処理法上の規制が強化された目的は,焼却施設から出るダイオキシンの削減を果たすことにあるが,本件ボイラーは,既に廃棄物処理法所定のダイオキシン値をクリアしている施設であり,稼働停止をしなければ環境が汚染されるような危険は存在しない。

また,被告は,廃タイヤを燃料とするボイラーに関して,廃タイヤを購入していれば,有価物であり廃棄物該当性はないと判断して廃棄物処理法の規定を適用していないが,木くずに比して廃タイヤが大気汚染環境破壊の危険性が高いものであることは明らかである。

さらに,せっかく燃料として再利用できる木くずを廃棄物として処理せよという結論はバイオマスの有効利用を模索する国策にも反する。

5  争点(2)に関する当事者の主張

(1)  被告の主張

ア 聴聞又は弁明の機会を付与しなかったことについて

国は,本件通知において,施設の設置許可の取消等の処分を行う場合は,行政手続法13条1項に基づき,原則として聴聞又は弁明の機会の付与を行わなければならないが,将来にわたる生活環境の保全上の支障の発生又はその拡大の防止を図るために,緊急に事業の停止等の不利益処分を行わなければならないと判断される場合には,同条2項1号により,聴聞又は弁明の手続をとらなくてもよい旨を定めている。

本件各処分においては,本件ボイラーが法の定める構造基準及び維持管理基準を満たさない特定産業廃棄物焼却施設であり,基準を満たさないままの使用が継続されれば,まさに将来にわたる生活環境の保全上の支障の発生又はその拡大が懸念され,緊急に事業の停止等の不利益処分を行わなければならないと判断される場合に当たることは明らかである。

したがって,本件において,聴聞又は弁明の機会がなかったことは,手続の瑕疵にあたらず適法である。

イ 平成元年の時点で既にボイラーとしての届出があったことについて

原告は,本件処分庁に対し,平成元年中に本件設備をボイラーとして届け出るなどしていたにもかかわらず,平成15年1月10日に本件設備の存在を初めて知ったと主張して突如本件各処分を行ったことは問題である旨主張しているが,被告及び本件処分庁において,平成15年1月10日になって初めて本件施設の存在を知ったことは事実であるし,そのことは,対象事業者が1400社あるのに対し担当している職員が4人程度でかつ専属ではないことや本件ボイラーの存在が発覚した経緯等に鑑みればやむを得ない。

(2)  原告の主張

ア 前記(1)アに対して

争う。

イ 前記(1)イに対して

原告は,平成元年中に,本件各処分に対し,本件ボイラーをボイラーとして届け出ており,かつ,本件各処分においては,平成9年12月1日をもって,本件ボイラーを「特定産業廃棄物焼却施設」として取り扱っていたものである。このようなことからすれば,本件処分庁が,平成15年1月10日,本件ボイラーの存在を初めて知ったというのは事実に反する。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)に関する検討

(1)  廃棄物処理法上の「廃棄物」の意義について

廃棄物処理法2条にいう「廃棄物」とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,廃棄物に該当するか否かは,①その物の性状,②排出の状況,③通常の取扱い形態,④取引価値の有無及び⑤事業者の意思等を総合的に勘案して決するべきものと解される(平成5年政令第385号による改正前の廃棄物処理法施行令2条4号にいう「不要物」の意義に関する最高裁判所第二小法廷平成11年3月10日判決[刑集53巻3号339頁]参照)。

そして,このような「廃棄物」該当性の判断において,上記①ないし⑤の判断要素を具体的に検討するに当たっては,「物の性状」につき,当該物が利用用途に要求される品質を満足し,かつ飛散,流出,悪臭の発生等の生活環境保全上の支障が発生するおそれのないものであるか否か,「排出の状況」につき,当該物の排出が需要に沿った計画的なものであり,排出前に適切な保管や品質管理がなされているものであるか否かなどの観点を踏まえるべきである。また,「通常の取扱い形態」及び「取引価値の有無」については,排出業者が自ら利用する場合以外の場合には,製品としての市場が形成されており,廃棄物として処理されている事例が通常は認められないものであるか否か,当該物が占有者と相手方の間で有償譲渡がなされており,当該取引に客観的合理性があるものと認められるか否かなどの観点を踏まえるべきであるが,排出業者が自ら利用する場合には,必ずしも他人への有償譲渡の実績や市場の形成等を前提にすることなく,通常の取扱い及び個別の用途に対する利用価値などの観点を踏まえるべきである。さらに,「事業者の意思」については,客観的要素から社会通念上合理的に認定し得る事業者の意思として,適切に利用し若しくは他者に有償譲渡する意思が認められる,又は放置・処分の意思が認められないものであるか否かなどの観点を踏まえるべきであり,以上の観点を踏まえ,総合考慮して「廃棄物」該当性を判断すべきものと解する。

そこで,以下,上記①ないし⑤の判断要素を中心として,本件木くずの「廃棄物」該当性について検討する。

(2)  本件木くずの性状(判断要素①)

本件木くずの性状として,本件全証拠によっても,例えば油類や電気等を大量に用いて燃焼を継続させているような事実は認められず,かえって,本件ボイラーは木くずそのものを燃料としているものであり(甲23,35,原告代表者,弁論の全趣旨),実際に本件工場の熱源として利用されていること(前記第2の2(2))などからすれば,本件木くずは本件ボイラーの燃料として利用されるべき品質を備えているものと推認され,これを覆すに足りる証拠はない。また,本件木くずの排出の状況(判断要素②)とも関連するが,本件全証拠によっても,収集から燃焼までのすべての過程において,本件木くずが飛散あるいは流出すると認められず,本件設備が定量供給装置を介して密閉炉の中に本件木くずを定量供給する設計構造になっていることからすれば(甲18の2,原告代表者,弁論の全趣旨),被告が指摘するような大量投入等による爆発的燃焼が発生する危険性についてもにわかに認められない。さらに,本件木くずは,合板等を切断した際に生ずる木くずであるところ(前記第2の2(2)),例えば,し尿や食品の残滓のように悪臭の発生が高度の蓋然性をもって認められるものではなく,その他悪臭等の発生があるものと認めるに足りる証拠もない。

これに対し,被告は,本件木くずには接着剤の混入が見込まれ,燃焼した際に有毒・有害物質が発生するおそれがある旨主張するが,そのような有毒・有害物質の種類,性状あるいは毒性の強弱等に関する主張立証はなく,本件木くずの燃焼により具体的な生活環境保全上の支障が発生するおそれがあるとまでは認められないのであるから,上記主張は採用できない。

(3)  本件木くずの排出の状況(判断要素②)

本件木くずの排出の状況についてみるに,本件木くずが本件ボイラーでの燃焼に供するために常に一定量の割合で排出されているものとは認め難いが,それは本件木くずが製造工程から発生するものであり,燃料そのものとして製造されているものではないことからして当然のことであって,このような事情を「廃棄物」該当性との関係において過大に取り上げるのは適切ではない。むしろ,本件設備が,本件木くず,すなわち第1工場から発生する木くずを燃焼に供するために設計・設置されたこと(甲35,原告代表者,弁論の全趣旨。なお,本件木くずの処理を外部委託したこと等に対する評価については後記(6)参照)に照らせば,本件木くずの排出については,有効活用できる物として,これが常時発生することを前提に,その需要が織り込まれているものと評価できる。

以上に,前記(2)の本件木くずが飛散あるいは流出するとは認められず,定量供給装置を介して密閉炉の中に定量供給されていることを併せ考慮すれば,本件木くずの排出の状況は,需要に沿った計画的なものであり,排出前に適切な保管や品質管理がなされているものといえる。

(4)  木くずに関する「通常の取扱い形態」(判断要素③)

木くず一般は,廃棄物処理法施行令にも挙げられる典型的な産業廃棄物(同施行令2条2号)であり,市場において広く取引されているような実態は認められない。

しかし,本件は,排出事業者である原告が自ら利用する場合であり,必ずしも,有償譲渡の実績や市場の形成が必要であるとはいえない。そして,地球温暖化の防止や循環型社会の形成等の観点から,本件木くずのようなものをも含む概念であると考えられる「バイオマス」,すなわち動植物から生まれた再生可能な有機性資源の有効活用が注目されていること(甲14),各都道府県における「自社の木くずを燃料として使用する場合」の廃棄物処理法上の取扱いについて,「廃棄物」に該当しないとするものが7県,場合により「廃棄物」としないとするものが16道県あり(甲19),原告のP1工場がある北海道を含むほかの都道府県において,自社の製造工程で発生した木くずを燃料とするボイラーについて廃棄物処理法上の規制が課せられていない実例が複数あること(甲33,35,原告代表者),木粉が燃料として取引対象となっている事例があり(甲34),原告も本件木くずを燃料として他社に売却するための商談を進めていること(甲35,原告代表者)などを勘案すると,排出事業者が自ら木くずを燃料として利用することも,木くずの通常の取扱い形態の1つに当たるものと解される。

(5)  木くずの取引価値の有無(判断要素④)

木くずの取引価値についてみるに,本件は排出事業者である原告が自ら利用する場合であり,個別の用途に対する利用価値の観点から判断すべきである。そして,前記(4)のとおり,他の都道府県において自社の製造工程で発生した木くずを燃料とするボイラーについて廃棄物処理法上の規制が課せられていない実例が複数あり,また,このようなボイラーが市販されており(甲23,35,原告代表者,弁論の全趣旨),少なくとも,木くずは,本件木くずのように排出事業者が自ら燃料として利用する場合にはその利用価値を肯定できるものである。

(6)  客観的要素から認められる原告の意思(判断要素⑤)

原告の意思についてみるに,原告において,本件木くずを本件ボイラーで燃焼させることにより,その処理を外部委託した場合に発生すべき廃棄物処理費用が軽減できることを認識していたであろうことは否定できないが,これが直ちに本件木くずを処分する意思を構成するものとは認められない。むしろ,例えば油類や電気等を大量に用いて本件木くずの燃焼を継続させているような事実は認められず,かえって,本件ボイラーは木くずそのものを燃料としているものであり,実際に本件工場の熱源として利用されていること(前記(2)),前記(5)のとおり,木くずを燃料とすることが可能なボイラーが製品として販売されており,本件ボイラーも本件工場のために独自に開発されたものではなく,上記のようないわゆる既製品を利用したものであると認められること(甲23,35,原告代表者,弁論の全趣旨)などを考慮すれば,原告において,本件木くずを適切に利用する意思を有していたものと推認される。

これに対して,被告は,本件木くず以外の本件工場から排出される木くずは,本件設備以外の原告の焼却炉で焼却されていることを指摘し,これに沿う証拠(乙23,原告代表者,弁論の全趣旨)もあるが,あくまでも第1工場とは生産ラインが異なっており,上記の推認を妨げるものではない。

また,被告は,原告が本件工場から排出される木くずに関する廃棄物処理委託契約を締結し,実際に業者に対してその処分を委託していることを指摘しているが,第1工場を含む本件工場においては,継続的に木くずが発生しているはずであるところ,本件証拠上,原告が実際に廃棄物処理を委託したのは契約期間である1年間のうちわずか5回のみであり,しかも10日間程度の短期間に集中したものであることからすれば(前記第2の2(10)),これらの委託行為は,本件ボイラーや他の焼却炉の一時的な不具合等に対応するものとみる余地があり(原告代表者),上記の推認を妨げるものではない。

さらに,被告は,本件木くずのすべてが本件ボイラーの燃料として使用されたわけではなく,他の焼却炉で焼却されたものもあると主張し,従前,原告が,本件木くずを本件ボイラーの燃料として供する以外に,他の焼却炉で焼却していたこともうかがわれるが,その量も明らかではなく,熱源として本件木くずが不足する場合には重油炊きボイラーを併用して熱を供給していたものである上(乙23,原告代表者),少なくとも,平成14年12月以降,本件木くずが本件ボイラーの燃料以外に供されたことを認めるに足りる証拠はなく,上記の推認を妨げるものではない。

(7)  小括

以上のほか,本件設備から排出されるダイオキシン類の有毒物質が関係法令による排出基準値を下回るものであること(甲28)なども勘案し,前記判断要素①ないし⑤を中心として総合考慮すれば,本件木くずは廃棄物処理法上の「廃棄物」には該当しないものと判断される。

2  本件各処分の適法性

前記1のとおり,本件木くずは廃棄物処理法上の「廃棄物」には該当しないから,本件ボイラーが同法にいう「産業廃棄物処理施設」に該当することもない。

そうすると,本件ボイラーが廃棄物処理法施行令2条2項にいう「特定産業廃棄物焼却施設」に当たることを前提としてなされた本件各処分については,その前提を誤ったものとして違法であるから,その余の点について判断するまでもなく(なお,行政手続の側面(争点(2))においても,前記第2の2(5)ないし(8)の経緯等からして,被告及び本件処分庁が平成15年1月10日になって初めて本件ボイラーの存在を知ったものとは認められないばかりか,被告が主張するような,将来にわたる生活環境の保全上の支障の発生又はその拡大の防止を図るために,緊急に事業の停止等を行わなければならない必要性までは認められず,本件各処分に先立ち,聴聞又は弁明の機会を与えなかったことについても違法が認められる。),取消しを免れない。

第4結論

以上によれば,本訴請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒野功久 裁判官 栗田正紀 裁判官 安西儀晃)

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