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徳島地方裁判所 平成21年(ヒ)10号 決定 2010年3月29日

主文

申立人らの本件各申立てをいずれも却下する。

理由

第1申立て

1  申立人ら

申立人らが保有する相手方の普通株式の買取価格を1株につき300円とする。

2  相手方

主文同旨

第2事案の概要

本件は、(1)申立人X1会が、相手方の平成21年6月29日開催の株主総会及び普通株主による種類株主総会(以下、併せて「本件株主総会」という。)においてなされた相手方の普通株式に株主総会決議により全部取得条項を付す旨の定めを設ける定款変更(以下「本件定款変更」という。)を承認する旨の決議に先立ち、相手方に対して本件定款変更に反対する旨通知し、かつ、本件株主総会において本件定款変更に反対して、会社法116条1項に基づき相手方に株式買取請求をしたが、協議が調わないとして、同法117条2項に基づき買取価格の決定を申し立て、(2)申立人X2が、本件株主総会の基準日時点で相手方株式を貸し付けていたため、本件株主総会において議決権を行使することができない株主(会社法116条2項1号ロ)に当たるとして、会社法116条1項に基づき相手方に株式買取請求をしたが、協議が調わないとして、同法117条2項に基づき買取価格の決定を申し立てた事案である。

これに対し、相手方は、(1)本件株主総会において、本件定款変更に加えて相手方の全部取得条項付普通株式の全部の取得(以下「本件全部取得」という。)を承認する旨の決議がなされ、その後、平成21年8月4日に本件全部取得を行い、その対価として株主に1株に満たないA種種類株式を交付し、さらに、本件全部取得の結果生じたA種種類株式の端数を切り捨てた1株を、会社法234条2項による裁判所の許可に基づき、平成21年9月3日に第三者に売却したから、申立人らは相手方の普通株式を保有しておらず、買取価格決定申立権を有しない、(2)本件各申立ては、いずれも社債、株式等の振替に関する法律(以下「振替法」という。)154条3項等に定める通知(以下「個別株主通知」という。)の手続を欠いており不適法である旨主張して却下を求めた。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

一件記録及び審問の全趣旨によれば、次の事実が一応認められる。

(1)  当事者等

ア 申立人ら

申立人X1会は、本件株主総会の基準日である平成21年3月31日時点で5万9000株、本件全部取得の基準日である同年8月3日(以下「本件取得の基準日」という。)時点で44万1000株の相手方普通株式を保有していた株主である。

申立人X2は、本件株主総会の基準日である平成21年3月31日時点で2万8000株の相手方普通株式を第三者に貸し付けており本件株主総会において議決権を行使することができない者であったが、本件取得の基準日時点で29万5000株の相手方普通株式を保有していた株主である。

イ 相手方

相手方は、昭和33年7月に成立し、主に、ホームセンター部門として住居、生活関連製品の小売販売やリフォーム等を行うほか、生鮮食料品の小売販売等を行う株式会社であり、平成20年10月以前から同年7月29日に上場が廃止されるまで、株式会社大阪証券取引所市場第二部において株式を公開した上場会社であった。

ウ a株式会社

a株式会社(以下「a社」という。)は、平成18年4月に成立し、薬局の経営、スポーツ用品の販売、生活関連雑貨や酒類の販売等を行う株式会社である。

(2)  a社による公開買付け

相手方は、a社との間で、資本業務提携により相手方をa社の完全子会社とするため、a社による相手方株式の公開買付けを行った後、相手方の普通株式を全部取得条項付株式に変更した上で相手方が全部取得することとした。

そして、a社は、平成21年2月17日から同年3月17日までを買付期間として公開買付けを実施して同月24日までに相手方普通株式1008万0085株を取得した。これは、当時の相手方の発行済株式総数1185万6000株から自己株式を除いた1169万9000株の約86%に当たるものであった。

(3)  本件株主総会

相手方は、本件株主総会の基準日を平成21年3月31日と定めた。

その後、平成21年6月29日開催の株主総会において、①相手方の定款の一部を変更し、残余財産分配優先株式であるA種種類株式を発行する旨の定めを設けること、②上記①による変更後の定款の一部を追加変更し、普通株式に、株主総会の決議によってその全部を取得する全部取得条項を付す旨の定めを設け、かつ、当該全部取得条項に従い相手方が株主総会の特別決議によって全部取得条項付普通株式の全部を取得する場合において、全部取得条項付普通株式1株と引換えに、A種種類株式0.000000588株を交付する旨の定めを設けること(本件定款変更)、③会社法171条並びに上記各定款変更後の定款に基づき、平成21年8月3日の最終の相手方の株主名簿に記録された全部取得条項付普通株式の株主から、保有する全部取得条項付普通株式の全部を取得し、これと引換えに全部取得条項付普通株式1株につき0.000000588株の割合でA種種類株式を割り当てること(本件全部取得)が決議されるとともに、同日開催の普通株主による種類株主総会において本件定款変更が決議された。そして、本件定款変更については、その効力発生日は平成21年8月4日とされた。

(4)  申立人X1会の反対通知及び本件全部取得に対する反対

申立人X1会は、相手方に対し、本件株主総会に先立ち、平成21年6月16日に相手方に到達した書面で、本件定款変更及び本件全部取得に反対する旨を通知し、本件株主総会でも当該各議案に反対した。

(5)  相手方株式の上場廃止

相手方株式は、平成21年7月29日に上場廃止になり、その後、振替法128条1項に規定する振替株式(以下、単に「振替株式」という。)ではなくなった。

(6)  申立人らの株式買取請求

申立人X1会は、相手方に対し、平成21年7月30日到達の書面により、保有する普通株式44万1000株の買取請求をした。

申立人X2は、相手方に対し、平成21年7月30日到達の書面により、保有する普通株式29万5000株の買取請求をした。

(7)  本件全部取得等

相手方は、平成21年8月4日に本件全部取得を行った。

その後、相手方は、本件全部取得の結果生じたA種種類株式の1株に満たない端数の合計数のうち1株に満たない端数を切り捨てたA種種類株式1株につき、会社法234条2項に基づき、当裁判所に対し、競売以外の方法による売却許可の申立てをし、平成21年9月3日、上記A種種類株式1株を1億146万4948円で任意売却することを許可する旨の決定がされた。相手方は、上記決定に基づき、同日、a社に対し、上記A種種類株式1株を1億146万4948円で売却した。

(8)  本件各申立て

申立人らは、平成21年9月30日に本件各申立てをしたが、その際、個別株主通知の手続をしていなかった。

2  判断

前記認定のとおり、①申立人らは、平成21年7月30日に、相手方に対して各保有する普通株式の買取請求をしたが、買取りの効力が発生する(会社法117条5項)前である同年8月4日に効力が発生する本件定款変更及び同日に行われた本件全部取得により、その保有する普通株式に全部取得条項を付されるとともに相手方に全部取得され、その対価としてそれぞれ1株に満たないA種種類株式の端数を交付されたこと、②その後、同年9月3日に申立人らのA種種類株式の端数を含むA種種類株式1株はa社に1億146万4948円で売却されたことからすると、申立人らは、買取の対象である相手方の普通株式を保有していないことが認められる。

よって、本件各申立てはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 池田知史)

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