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徳島地方裁判所 平成26年(行ク)1号 決定 2014年3月27日

主文

本件を高松地方裁判所に移送する。

理由

第1申立ての趣旨

主文と同旨

第2事案の概要

本案は,平成24年9月3日に障害基礎年金裁定請求書を徳島北年金事務所に提出して厚生労働大臣に裁定請求を行った相手方が,平成24年10月1日付けで裁定請求を却下する旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことを不服として,行政事件訴訟法(以下行訴法」という。)3条2項に基づき,厚生労働大臣を処分行政庁として,申立人を被告として本件処分の取消しを求める抗告訴訟である。

申立人の本件移送申立ての理由の要旨は,本案事件の管轄は,東京地方裁判所(行訴法12条1項)又は高松地方裁判所(同条4項)に属し,徳島地方裁判所の管轄には属しないとして,行訴法7条,民事訴訟法(以下「民訴法」という。)16条1項に基づいて,相手方の出廷の便宜を考慮して,高松地方裁判所への移送を求めるというものである。

これに対し,相手方は,本件処分については,厚生労働大臣から委任を受けた日本年金機構(国民年金法109条の10)徳島事務センターが関与しており,同センターは,12条3項所定の「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当するところ,同センターは徳島市内に所在するから,同条同項により本案の管轄は当庁にも属すると主張して,本件移送申立てを却下するよう求めた。

第3当裁判所の判断

1  一件記録によれば,次の事実が認められる。

(1)  相手方は,平成24年9月3日,同人が20歳に達した昭和42年○月○日の時点において,左下肢の流蝋骨症が障害等級2級の状態に至っていたとして,障害基礎年金裁定請求書を徳島北年金事務所に提出して,厚生労働大臣に対する裁定請求を行った。

(2)  徳島北年金事務所は,日本年金機構の徳島事務センターに上記請求書を回付し,同センターはその内容を審査し,その審査結果は日本年金機構本部を経由して厚生労働大臣に報告された。

(3)  厚生労働大臣は,平成24年10月1日,相手方に対し,本件処分を行った。

(4)  相手方は,平成24年11月2日,四国厚生支局社会保険審査官に審査請求をしたが,同審査官は,同年12月26日にこれを棄却した。

(5)  相手方は,平成25年3月7日,社会保険審査会に再審査請求をしたが,同審査会は,同年7月31日にこれを棄却した。

(6)  相手方は,平成26年1月28日,当庁に本案を提起した。

2  本件移送申立ての可否に関する争点は,要するに,日本年金機構徳島事務センターが,行訴法12条3項にいう「事案の処理に当たった下級行政機関」に該当するか否かであるので,以下検討する。

(1)  本件処分行政庁は厚生労働大臣であるところ,日本年金機構は,平成22年1月1日に施行された日本年金機構法によって設立された特殊法人である。したがって,日本年金機構が,社会保険庁及びその地方支分局が行っていた業務について,厚生労働大臣の委託によって引き続き窓口として業務を行っているとしても,同機構をもって「行政機関」に該当するとは文言上言い難い。このことは,同法54条並びに同法施行令3条1項及び2項において,日本年金機構を行政機関とみなす場合を限定列挙しているのに対し,本件処分又はその同種の処分にかかる事務については,上記と同旨の規定が同法に置かれていないことからも裏付けられる。すなわち,本件処分及びこれと同種の処分にかかる事務については,日本年金機構及びその下部機関である事務センターを行政機関として認めることは困難である。

(2)  この点,相手方は,行訴法3条2項所定の「行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為」にいう「行政庁」とは,国家行政組織法や地方自治法等に規定された行政機関(以下「組織法上の行政機関」という。)に限られず,法令によって公権力を行使する権限を付与されたものをいうところ,同法12条1項の「行政庁」についても同様の解釈が成り立つ以上,その特別規定である同条3項の「行政機関」についても,組織法上の行政機関に限られないと主張する。しかしながら,本件処分行政庁は組織法上の行政機関たる厚生労働大臣であるから,特殊法人である日本年金機構が,その「下部行政機関」に該当しないことは上記のとおりであるから,相手方主張のような解釈を採る余地はないというべきである。

(3)  また,相手方は,行訴法12条3項が特別の管轄を認めた趣旨は,これを認めたとしても,被告行政庁が訴訟追行の対応に支障を来すことはないと考えられること,他方,原告個人の出訴及び訴訟追行の便宜は大であると考えられること,当該下級行政機関の所在地に証拠資料や関係者が多く存在するのが通常であると考えられるから,証拠調べの便宜にも資し,審理の円滑な遂行を期待できることにある(最高裁平成13年2月27日第三小法廷決定・民集55巻1号149頁)ところ,「行政機関」該当性についても,組織法等の定めではなく,事務処理の実態面から,上記の趣旨に合致するか否かによってこれを決すべきであると主張する。

しかしながら,相手方が援用する上記最高裁決定は,いわゆる中央省庁がした処分について,都道府県知事が下級行政機関に該当するか否かが争点となった事案であって,都道府県知事が「行政機関」であることは当然の前提として,事務処理の実態面等から「事案の処理に当たった」「下級」の行政機関に該当するとされたものであり,本件で日本年金機構が「行政機関」に該当するか否かという解釈に当たっては,事案が異なり参考にならないというべきである。

(4)  以上,日本年金機構の下部機関である徳島事務センターは,行訴法12条3項所定の「行政機関」に該当せず,ほかに,本案が当庁の管轄に属すると認めるに足りる事情は見当たらない。

3  結論

以上によれば,本案は,管轄違いとして,その管轄が属する東京地方裁判所又は高松地方裁判所に移送しなければならないところ,相手方の住所等を考慮すると,本案を高松地方裁判所に移送するのが相当である。

よって,本件申立は理由があるから,行訴法7条,民訴法16条1項により,本案を高松地方裁判所に移送することとし,主文のとおり決定する。

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