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徳島地方裁判所 平成3年(モ)619号 決定 1992年7月13日

債権者 有限会社中川海洋開発研究所

債務者 徳島県

代理人 栗原洋三 小川満 岡村茂輝 木本裕 藤沢公明 ほか一〇名

主文

一  債権者と債務者との間の当庁平成三年(ヨ)第一七四号工作物建築禁止等仮処分命令事件について、当裁判所が平成三年一一月二九日にした決定の主文第一項及び第三項にかかる部分を取消す。

二  右決定の主文第一項にかかる部分についての債権者の仮処分命令申立てを却下する。

三  本件仮処分申立費用及び保全異議申立て後の費用は債権者の負担とする。

事実及び理由

第一事案の概要

本件は、債権者が、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を採石業者から買受けて所有権を取得するとともに占有の引渡を受けた、そうであるのに、債務者の職員が本件土地は国有地であると主張して本件土地に杭を設置して債権者の占有を妨げるとして、本件土地の所有権、占有権に基づき、債務者に対して妨害排除等を求める事案である。

一  争いのない事実

本件土地は、もと海面下にあったが、永年にわたり採石業者が切り出した石材等を同所で船積みする作業等を続けるうち、土砂等が海中に落下、堆積してできた土地である。債務者の職員たる身分を有する者が平成三年九月初旬頃に管理行為として本件土地に杭を設置した。

二  本件における中心的争点と当事者の主張の要旨

1  本件土地についての債権者の所有権もしくは占有権の存否

債権者

申立外の浜川長五郎は、古くから本件土地の場所で採石、積出しの業務を中心になって行ってきた者で、その間本件土地を管理し、役所の指示のもとに多額の費用と労力をかけ、一部にコンクリートを張り、護岸工事をなし、築堤もしてきたもので、債権者は、魚介類養殖の目的で、平成三年七月に本件土地を金二五〇〇万円で浜川から買受けて本件土地の引渡を受け、同土地を占有している。

また、浜川及び債権者はあわせて三〇年以上にわたって所有の意思で本件土地を平穏に占有・管理しており、右浜川ないし債権者において本件土地を時効取得した。

債務者

本件のような無願埋立地が独立した不動産としての土地性を取得したときにはその所有権は国に帰属するものであり、そして、昭和五八年六月には無願埋立人である浜川らから本件土地及び周辺土地の現状回復義務免除申請がなされ、徳島県知事が同年七月二日付けでこの申請を認め、かつ公有水面埋立法三五条一項に基づき現状回復義務を国にするとともに、同条二項によって埋立てに係る土地の所有権を国に帰属させる処分を行っており、本件土地は国がこれを所有するものである。従って、払下げ等の手続を経ることなく無願埋立人の所有に帰することはない。浜川ないし債権者が本件土地を時効取得したとの事実は否認する。

2  債務者に債権者の権利を妨害する行為があったか。

債権者

本件土地につき杭打ち等の現実の作業をしたのが債務者の職員である以上、債務者に妨害行為があったいうべきであって、債権者は、法的にいずれの機関が主体となって意思決定をして右の作業を指示したかを問題とせず、債務者の職員が行った事実行為自体の差し止めを求めるものである。

債務者

本件土地は国有地であるところ、原告の主張する杭の設置は、本件土地に関する管理事務を機関委任された徳島県知事が、国の管理事務を国の機関として所管部局の職員に行わしめためたもので、事実上も法律上も国の行為なのであり、今後においても、本件土地の管理は国の機関委任事務として徳島県知事(ないしその所管部局の職員)が行うこことなるものであり、それとは別に債務者自身が本件土地につき「事実上の行為」を行う可能性はなく、債権者は仮に仮処分を行おうとすれば国を相手とすべきものであって、債務者には債権者の権利を妨害する行為は全くないから、債務者を相手とする本件仮処分申請は失当である。

理由

一  争点2について検討する。

本件土地は、前記のとおり永年浜川ら採石業者が海浜で採石事業を行ううち石材その他の土石が落下、堆積してできたいわゆる無願埋立地に該当するものであり、そして、本来このような無願埋立地は原則として無願埋立人が原状回復義務を負うものであるところ、採石事業をやめた浜川ほか二名は昭和五八年六月三日付けで本件土地及び周辺土地につき原状回復義務免除の申請をし、徳島県知事は同年七月二日付けでこの申請を認め、公有水面埋立法三五条一項に基づき右の原状回復義務を免除するとともに、同条二項により埋め立てにかかる土砂を無償で国に帰属させる旨の処分を行っていること、ところで、本件土地は漁港区域、海岸保全区域及びその他の区域に分かれており、本件土地が国有地であるときは、国有財産法九条三項、同法施行令六条二項により農林水産大臣及び建設大臣から都道府県知事に対してその管理が委任されているものであるところ、徳島県知事は、無願埋め立て地が独立した不動産としての土地性が認められるときは当然国有地となるとして、国からの機関委任事務の執行として、所管部局の職員に命じて平成三年九月一二日に本件土地に杭を設置させたものであることが一応認められる(<証拠略>)。

そうすると、債権者が妨害にあたると主張する行為の法的主体は国であり、そして徳島県知事が機関委任事務としてこれを行ったものであって、県である債務者の行為でないことは明かであり、今後においても、国や徳島県知事とは別個に債務者が主体となって本件土地に関するなんらかの行為をなすおそれも存しないというべきである。債権者は、機関相互の法的関係の如何にかかわらず、本件では事実行為の差し止め等を求めるものであって、債務者の職員による妨害行為を行っている以上、債務者を相手とする本件仮処分は認容されるべきである旨主張するが、採用できない。

二  とすれば、債権者が本件土地につき所有権ないし占有権を有するか否かの本件1の争点に対する判断はさておき、債権者は債務者に対しては妨害排除ないし予防請求の被保全権利を有しないものであるから、債権者に右の被保全権利があるとして「債務者は自らまたは第三者をして、別紙物件目録記載の土地上に、建物、物置、塀、杭その他の工作物を建築してはならない」旨を命じた本件決定の主文第一項、「申立費用はこれを二分し、その一を債権者の負担とし、その余を債務者の負担とする」旨の同決定の主文第三項にかかる部分をいずれも取消し、右主文第一項にかかる部分についての債権者の仮処分申請を却下することとして主文のとおり決定する。

(裁判官 朴木俊彦)

物件目録

一 徳島県鳴門市瀬戸町撫佐字穴明一番地一 先の別紙図面赤色着色部分の土地

別紙 現況平面図 <略>

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