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徳島地方裁判所 平成3年(行ウ)1号 判決

原告

(別紙選定者目録記載の選定者らの選定当事者)

中本康晴(X)

(ほか選定者九四名)

被告

有限会社新日本塗装(Y1)

右代表者代表取締役

大西忠行

右訴訟代理人弁護士

松尾敬次

右訴訟復代理人弁護士

松尾泰三

被告

天羽清(Y2)

右訴訟代理人弁護士

林伸豪

川真田正憲

被告

徳島県(Y3)

右代表者知事

圓藤寿穂

右訴訟代理人弁護士

田中達也

田中浩三

被告

徳島県知事(Y4) 圓藤寿穂

右指定代理人

東野昇

松尾一雄

小坂守

島田功

近藤康文

吉広昌則

数藤義則

亀井秀矩

岡野嘉夫

被告

阿南市(Y5)

右代表者市長

野村靖

右訴訟代理人弁護士

朝田啓祐

事実及び理由

第三 判断

一  本件建築確認の取消しの訴えの適否について

建築基準法六条は、建築主は、定められた建築物を建築しようとする場合等には、法律等に適合するものであることについて、建築主事の確認を受けなければならないと定める。そして、処分の取消しの訴えは、処分をした行政庁を被告として提起しなければならない(行政事件訴訟法一一条)。したがって、建築確認取消しの訴えは、建築主事を被告として訴えるのでなければならない。しかるに、本件建築確認の取消しの訴えは、徳島県知事を被告とするものであるから、不適法であって却下を免れない。

二  本件開発許可処分の取消しの訴えの適否について

都市計画法二九条ないし三一条及び三三条の規定によれば、同法二九条に基づく開発許可は、あらかじめ、申請に係る開発行為が同法三三条所定の要件に適合しているかどうかを公権的に判断する行為であって、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないという法的効果を有するものであるが、許可に係る開発行為に関する工事が完了し、検査済証の交付もされた後においては、開発許可が有する右のような本来の効果は消滅し、開発許可の取消しを求める訴えは、その利益を欠くに至るものといわざるを得ない。

本件についてみると、被告新日本塗料は、平成二年一月一六日、本件土地の開発行為に関する工事を完了し(丙一)、被告知事は、同年二月二〇日、被告新日本塗装に対し同年一月一三日付け検査済証を交付し(丙二、三)、同年四月一三日、同日付けの徳島県報で右工事が完了した旨の公告をした(丙四)から、本件開発許可の取消しを求める訴えは訴えの利益を欠くに至ったものというべきである。

原告は、本件の場合は当該工事の完了を前提にした工場の建設操業により新たに公害が発生しているものであり、訴えの利益は存在する旨主張するが、開発許可の法的効果は、これを受けなければ適法に開発行為を行うことができないというものであって、仮に公害の発生が認められるとしても、その公害の除去手段の行使に対して、本件開発許可が何らかの法的障害となるものとも考えられないから、原告の右主張は採用できない。

よって、原告の本件開発許可の取消しを求める訴えは、その訴えの利益を欠き不適法であって却下を免れない。

三  本件転用許可処分取消しの訴えの適否について

農地法八五条の二は、転用許可処分の取消しの訴えを提起するには、審査請求を経ていなければならないと定めているところ、本件転用許可処分について、原告から農林水産大臣に対し審査請求をしたことを認めるに足りる証拠はないから、本件転用許可の取消しを求める訴えは不適法であって却下を免れない。

四  本件工場の悪臭、騒音、大気汚染と違法性について

1  原告と被告徳島県、同阿南市、同新日本塗装及び同天羽との間に争いのない事実の外、〔証拠略〕を総合すると以下の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件選定者らと被告新日本塗装の工場建設

(1) 本件工場のある赤坂地区はもともと山に囲まれた田園地帯で、そこに居住している者はほとんどがその土地で代々生活してきた農家が中心で、一部の者は兼業農家で働きに出ている。農業は稲作がほとんどで、一部蜜柑などを栽培している。

(2) 被告新日本塗装は、平成元年三月二〇日に本件工場を新築し、そのころから操業を開始した。本件工場は二階建てで、一階で家具や建材の研磨を、二階でコンプレッサーによる塗装(吹き付け)、熱乾燥機による乾繰を行っており、屋根には、粉じんや臭気、熱の排気口が八個、ボイラーの煙突が一個設けられている。塗装作業に使用するシンナーや塗料には、トルエン、キシレン、酢酸エチル、メチル=イソプチ=ケトン等が含まれている。

(二)  本件工場の操業と悪臭等の苦情及び全体会議

選定者ら本件工場の周辺住民らは、本件工場の操業が開始された直後の平成二年四月ころ、悪臭、騒音、大気汚染などが発生したとして、阿南市に苦情を申し入れた。そこで、被告阿南市は、同年五月二日、本件工場周辺の住民らと市会議員及び市関係職員が集まって全体会議なるものを開催したところ、本件工場周辺の住民らから、ほこり、騒音の対策等を求める旨の要望書が提出された。

同月一九日に第二回全体会議が開催され、被告阿南市の環境衛生課等が右要望書に対する回答をし、それまでに協議した内容の中間的な取りまとめをした。

同年六月二二日、第三回全体会議が開催され、被告県の担当者、被告新日本塗装の担当者、農業委員、阿南市議会議員等が出席した。この会議では、被告阿南市が、本件工場と協議した騒音、悪臭についての対策を報告し、本件工場周辺住民らから同年五月三一日付けで出されていた要望書に対する話し合いをした。

その後、平成四年七月一〇日、再び全体会議を開催して、被告徳島県と被告阿南市の関係者が、本件工場周辺住民らからの要望書や、それまでの被告阿南市の取り組んできた内容について協議した。

現在、選定者らが訴えている悪臭等は以下のようなものである。

悪臭は、シンナーで塗装している時に強い。工場の近くに住む者の家では臭いが強くて年中閉め切って生活している。昼間学校や仕事に出ている者は、休みの日など家に居る時に臭いの強さに驚いている。工場から二〇〇メートルくらい離れている原告の家では、月に二回から一〇回くらい悪臭がする。

騒音は、コンプレッサーのようなものの音である。

粉塵は、洗濯物が汚れたり、停めてあるオートバイのシートに黒いものがたまったりするようなものであるが、工場から離れた場所ではそのようなことはなく、近辺だけである。

(三)  本件工場に対する法律及び条例による規制

(1) 本件工場のある場所は、悪臭については、悪臭防止法及び徳島県公害防止条例によって知事が指定する各規制地域内に入っていない。また、騒音については、騒音規制法によって知事が指定する各規制地域内に入っていないが、徳島県公害防止条例によって知事が指定する各規制地域内には入っており、規制対象となる特定施設に該当する。大気汚染については、大気汚染防止法は、対象施設によって規制の要否を定めるが、本件工場は、規制対象に当たっていない。

(2) 悪臭防止法で定められた悪臭物質とは、別表一中悪臭物質名記載のとおりである。悪臭防止法の規制地域において、事業場における事業活動に伴って発生する悪臭物質で当該事業場から排出されるものについて、総理府令による規制基準が定められている。それは、当該事業場の敷地の境界線の地表における大気中の悪臭物質の濃度の許容限度として定められており、別表一に記載のとおりである。悪臭防止法の規定に基づいて徳島県知事の定めた徳島県における右の規制基準は、別表二のとおりである。徳島県公害防止条例には悪臭についての規制物質や規制基準値に関する規定はない。

(3) 徳島県公害防止条例は、騒音の規制基準は別に条例で定めるものとし、公害の防止に係る規制の基準等に関する条例がこれを定めるが、これによると、騒音規制法によって指定された規制地域外の地域内に設置された騒音発生工場等において発生する騒音の規制基準は、午前七時から午後七時までの(昼間)においては六五ホン、午前五時から午前七時までの(朝)および午後七時から午後一〇時までの(夕)は六〇ホン、午後一〇時から翌日の午前五時までの(夜間)は五五ホンとされている。

(四)  本件工場の悪臭等の調査

(1) 本件工場周辺居住者らの苦情を受けて、被告阿南市ないしはその依頼を受けた被告徳島県は、平成二年六月から平成五年一一月にかけて、本件工場周辺の騒音等の調査を行った。悪臭については、被告阿南市が第二回の調査についてはサンプリングをして被告徳島県に分析を依頼し、その余の調査はすべて被告徳島県が測定をし、騒音については、被告阿南市が独自に調査した。調査時には本件工場に対し事前に連絡することをせず、測定した後に原材料の確認のために立ち入り調査をするという方法を採った。

(2) 悪臭について被告徳島県がした調査は、本件工場の周辺に数カ所の観測点をとり、悪臭防止法に定められた方法により、被告新日本塗装で使用している原材料から溶剤臭に該当する品目を選定して、大気中の酢酸エチル、トルエン、メチルイソプチルケトン等の濃度を調べ、臭気を観測するというものであった。この調査は、平成二年六月七日、同年七月二五日、平成四年六月一二日及び平成五年一一月一〇日に行われたが、その結果、最も高い数値で、アセトアルデヒド〇・〇〇八ppm、酢酸エチル〇・〇四ppm、メチルイソブチルケトン〇・〇三二ppm、トルエン〇・六八ppm、スチレン〇.〇〇二ppmで、いずれの物質も指定地域における規制基準値に比べて低濃度であったし、臭気も強くなかった。

(3) 騒音について被告阿南市がした調査は、本件工場の敷地境界線や周辺で、高さを設定した数カ所の観測点をとり、その地点での騒音の五〇回の数値を平均するという集計の仕方をし、上から二五パーセントで九〇パーセントレンジの上を上端値、下から二五パーセントで九〇パーセントレンジの下を下端値、五〇パーセントレンジを中央値として、騒音の大きさを観測するというものであった。この調査は、平成二年六月七日、平成四年六月一二日及び平成五年一一月一〇日に行われたが、その結果、最も高い数値は平成四年六月一二日午前一〇時五〇分ころ計った上端値の五六ホンで、その他は全て五五ホン以下であり、いずれも公害の防止に係る規制の基準等に関する条例によって定められた基準値以内であった。その他、本件工場周辺住民らと一緒に指示騒音計というものを使って随時測定した。

(4) また、被告阿南市は、周辺住民から、本件工場周辺の果樹が立ち枯れしているのでその原因を調査してほしいとの要望があったので、これを被告徳島県農業改良課に依頼して調査してもらったところ、深植えであったことから根の活性が低下し、さらに樹勢の低下でガンシュ病も多発し落葉が進んだためと考えられるというものであった。

(5) このような調査等と並行して、被告阿南市は、本件工場に立入検査をしたり、被告新日本塗装との間で騒音等の対策を協議したりした。協議内容は、騒音については、窓を閉めて作業する、空気圧縮機を民家から遠ざけて操業する、悪臭については、窓を閉めて作業する、排出口の高さを上げる、余分な溶剤を使わない、溶剤の適正な維持管理をするなどであった。その結果、被告新日本塗装は、窓を閉めて作業をする、排出口を高くする、空気圧縮機を民家から遠ざける、従業員に対する溶剤の適正な維持管理の教育指導を徹底する、清掃するなどの改善策を受け入れ、これを実施した。

2  ところで、一般に工場の操業に伴い悪臭や騒音が発生し、これが工場外の他人の利益を侵害する場合でも、一定限度以上の騒音あるいは悪臭であるとの一事をもって直ちに違法なものとするべきではなく、社会通念に照らし、一般人において社会生活を営む上で受忍するのが相当であると認められる限度を超える場合にはじめて違法となるものと解すべきである。

前記認定事実によると、本件工場の近隣住民には、悪臭や騒音があり、洗濯物が粉塵で汚れるなどの被害があって、その程度は他の周辺住民に比してより大きいものであると推認されるものであるが、本件工場は、法で定めた悪臭及び騒音の規制地域内には入っておらず条例で定めた騒音の規制地域内に入っているだけであって、本件工場が発する悪臭物質及び騒音の測定値は、いずれも法が規制地域に定めた基準及び条例が規制地域に定めた基準よりも低いものであり、そして、被告新日本塗装は、窓を閉めて操業したり排出口を高くしたりなどして、悪臭や騒音をできるだけ少なくするよう、それなりに努力しているという事情等をも勘案すると、本件工場の操業により発生する悪臭等は、選定者らの生活環境が田園地帯であることを考慮しても、未だ社会生活を営む上で受忍すべき限度を超えているとまで認めることは困難であるといわざるを得ない。

そうすると、これを前提とする原告の工場の操業停止及び収去請求並びに共同不法行為を理由とする損害賠償請求はいずれも理由がない。

第四 結論

以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告徳島県知事に対する都市計画法二九条の開発許可、農地法五条の農地転用許可及び建築基準法六条の建築確認の取消しを求める訴えは不適法であるから却下することとし、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとする。

(裁判長裁判官 朴木俊彦 裁判官 近藤壽邦 善元貞彦)

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