徳島地方裁判所 平成3年(行ウ)15号 判決
原告
小川満幸(X)
右訴訟代理人弁護士
林伸豪
同
川真田正憲
被告
徳島県知事(Y) 三木申三
右訴訟代理人弁護士
田中達也
同
田中浩三
"
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 〔証拠略〕によれば以下の事実が認められる。
1 開発協議手続の状況
(一) 森林にゴルフ場を開発する場合は森林法上の開発許可が必要であり、開発区域内に保安林がある場合は保安林の解除、民有林がある場合は地域森林計画対象民有林において一ヘクタール以上の開発行為を行う場合に必要な県知事の許可すなわち林地開発許可が必要である。本件開発の場合は、開発にかかる区域内に保安林がないので、林地開発許可だけが必要である。
右開発行為の許可基準については、平成二年六月一一日付の通達により、従来の基準より開発について制限が加えられた新基準で運用されるようになった。しかし、新基準の施行日以後も、平成二年六月一一日より六か月以内に林野庁治山課長と開発について協議調整を済ませたもので、かつ平成四年六月一〇日までに許可申請にいたったものは従来どおりの旧基準が適用される。
本件開発は、このような経過措置に基づいて、林野庁治山課長と開発について協議調整を済ませていたが、その後、開発業者より平成四年六月一〇日までに許可申請がなされなかったので、旧基準に基づいてゴルフ場を造成することは不可能となった。本件開発は旧基準に基づいて計画されたものであるため、開発業者が、今後、新基準に基づいてゴルフ場を造成するためには、計画内容を抜本的に変更しなければならなくなった。
(二) 徳島県では、県内でゴルフ場に限らず一ヘクタール以上の開発行為を行う場合には、開発全体を対象に徳島県土地利用指導要綱上の県知事による開発協議の承認を要求し、この承認後に、森林部分については森林法の許可、国土法の対象となる部分については国土法の許可等、個別法に基づく許可を行うという手続をとっている。
徳島県土地利用指導要綱上、開発協議の手続は、その申請が市町村長を経由して提出され、これを受けて担当部課が集まって協議したうえ、県知事の承認が見込めるかどうか意見を出し、この意見に基づいて県知事が開発協議の承認を行うという手続をとる。もっとも、実際上は、右開発協議に先立って、開発業者は県の当該開発についての担当部課と事前に協議を経る運用がなされており、事前協議の場で各担当部課がそれぞれ当該開発計画がその担当する法律を満足しているか否かにつき指導を行い、場合によっては開発業者に右計画の修正等を促したりしている。
本件開発は、未だ事前協議を行うための下準備書が提出された段階のものであり、開発業者からは開発協議の申請も、森林法上の許可申請もなされていない。
(三) 事前協議に際し森林法関係の担当部課では、開発業者から当該開発区域の平面図、各森林の割合、配置等が計算された書類、地権者の同意書、縦断図、横断図、構造物の図面等を提出させ、右各図面に基づき当該開発計画の当否につき協議をする。
本件開発では、開発業者からは別紙公文書目録記載二及び三の各文書、具体的には後記のように概ね平面図程度しか提出されておらず、まだ事前協議も初期の段階である。
2 本件開発の状況
開発業者は平成元年一〇月ころ、地権者を集めて説明会を行い、本件開発に際し、大まかに開発予定場所を示したうえ、二七ホールのゴルフ場を開発する旨の説明を行った。その後、開発業者は、平成二年六月ころ、測量のために立木に印をつけさせてほしいとの説明会を行った。さらに、開発業者は、平成二年一〇月ころ、地元の住民全員を集めて第三回目の説明会を行い、一八ホールに縮小したコースの内容、土留めの工法や貯水池や溜め池を作る場所、その他テニス場やホテルを造成すること等を口頭で説明した。そして、最後に、開発業者から、これから地権者の土地を買いに入りますとの話があり、以後、説明会は実施されていない。もっとも、右説明会後も開発業者は周辺地区の代表者宅へは数回、ゴルフ場の説明をしに訪れている。
なお、本件開発に関して、瀬戸町(日出湾周辺)リゾート開発対策協議会なるものの代議員名簿が鳴門市に提出されている。
3 本件公文書の内容
(一) 別紙公文書目録記載二並びに三の<1>及び<3>の各文書は、鳴門市瀬戸町堂浦に計画されているゴルフ場を始めとする開発計画について、都市計画法、森林法等の各開発許可申請の事前協議を行う下準備として開発業者から事実上提出されたもので、県の機関内部で審議、検討している資料である。
別紙公文書目録記載二の文書は、県土木部住宅課関係の公文書で、都市計画法上の開発許可のための事前協議の下準備のため開発業者が作成し県が受領したゴルフ場をレイアウトした土地計画平面図一枚である。
別紙公文書目録記載三の<1>ないし<3>の各文書は、県土木部都市計画課関係の公文書である。
<1>の文書は、県土地利用指導要綱上の開発協議のための事前協議書で、本件開発についての計画平面図が添付された開発業者作成の事前協議の申出書である、右計画平面図は別紙公文書目録記載二の文書と同じものである。
<2>の文書は、開発業者が提出した別紙公文書目録記載二及び三<1>の各文書に対して県の関係各課で検討した意見とこれに対する開発業者の対応について開発業者が記載したものである。
<3>の文書は<2>の文書をふまえて<1>の文書の計画内容等を変更したものである。
<1>及び<3>の各文書はいずれも旧基準に基づいた計画で、しかも事前準備の下準備として提出されたものである。
(二) 別紙公文書目録記載一<1><2>の各文書は森林法上の開発行為の許可基準の運用細則が平成二年六月一一日付で改正され、経過措置として、旧基準の適用例については林野庁の指示により協議調整がされたために、徳島県内の七件の開発計画について行われた県農林水産部と林野庁治山課との協議文書である。
そのうち、<1>の文書は県から国に対し協議を求めた文書で、<2>の文書は右<1>の文書を受けた国から県に対する回答文書である。これらの文書は旧基準を適用してよいかどうかだけに関する文書であり、運用の詳細を示しているものではない。また、右協議文書の中には原告が公開を求めている開発予定計画のほか複数の開発予定計画が含まれており、各開発についての事業主体や開発予定面積場所等が記載されている。
二 そこで、以上の事実関係を前提に、本件公文書が条例六条一項三号の「県の機関内部若しくは機関相互又は県の機関と国若しくは他の地方公共団体の機関との間における審議、検討、調整、調査研究等に関する情報であって公開することにより、当該審議等又は将来の同種の審議等に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれのあるもの」に該当するかどうかについてまず検討する。
1 条例は、広く県民に対して公文書を公開することにより、県政への県民の参加を推進し、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の一層の進展に寄与することを目的としているのであるから(一条)、その解釈にあたっては、県が自ら作成した条例の解釈運用基準をも参考としながら、条例が規定する右のような目的や、その趣旨、理念をも考慮すべきである。このような観点に立てば、本来、行政における内部的な審議等の意思形成過程における情報は可能な限り開示されるべきではある。しかし他方、個々の事務事業において行われる審議等に関する情報の中には当該審議等が行政における内部的な意思形成の途中で行われるため、未だ、未成熟、不正確なものが含まれていることも少なくないのであって、このような情報が公開された場合には県民に無用の誤解を与え、若しくは無用の混乱を招くおそれがあるので、このような弊害を避けるため、条例六条一項三号は設けられたものと解するのが相当である。したがって、このような本号の趣旨に照らせば、「著しい支障を生じるおそれのあるもの」とは、未成熟な情報であって、公開することにより県民に無用の誤解を与え、又は無用の混乱を招くおそれのあるもの、その他公開することにより、当該審議等又は将来の同種の審議等に係る意思形成に著しい支障を生ずるおそれのある情報をいうと解すべきである。
2 そこで、これを本件においてみるに、前認定の事実によれば、本件開発は、未だ開発許可前の事前協議が始まったばかりで、その計画内容につき相当な変更も予想されるものであるから、このような段階で作成された本件公文書は未だ未成熟かつ不確定なものであって、これらの公文書をもすべて公開の対象とするときは、その公文書の性質、内容からして、当該審議もしくは将来の同種の審議等にかかる意思形成自体に著しい支障を生じ、また、これを公開すると、県民に対して事業計画が既に確定したかのような無用な混乱、誤解を招くおそれがあるものといわなければならない。
3 この点、原告は、当該開発に強い利害関係を有する地元民や利害関係人に対しては、開発許可に至る以前の段階で、当該開発の当否を判断するための客観的な検討資料を提供すべきであると主張する。
しかし、条例は、前記のとおり、広く県民に対して公文書を公開することにより、県政への県民の参加を推進し、県政に対する県民の理解と信頼を深め、地方自治の本旨に即した県政の一層の進展に寄与することを目的としており、これを受けて、公文書の公開を請求する際、請求者は自己が徳島県民であることだけを明らかにすればよく、他に請求者の特性を明らかにする手続を要求していないことなどに照らすと、地元民や利害関係人であるからといって、一般の県民には公開できないような公文書を特別に公開できるとすることはできない。また、個々の事務事業の実施に当たっての情報の提供の要否は、当該事務事業の実施の趣旨、目的等に即して個々に判断されるべきものであるから、公文書の非公開事由の適否の解釈にあたっても、請求者たる住民の個人的な事情にかかわらず、ひろく当該公文書が公開された場合についての当不当について、当該公文書の内容、性質、性格等に照らしてこれを判断すべきであり、またそれで足りるというべきである。
また、原告は、立木トラストや土地の買い占めは本件公文書の公開によってではなく開発業者のゴルフ場を開発するとの発表によって生じることや、徳島県自身が本件開発を含む「鳴門堂浦海洋性複合リゾートの推進」なるものをゴルフ場の具体的なイラスト入りで県民に発表していることに照らすと、本件公文書の内容が「著しい支障を生じるおそれのあるもの」とはいえないと主張するが、具体的な公文書による情報と開発業者の一般向け発表や県のイラスト等による説明とではその情報の具体性に大きな差があり、県民に無用の誤解を与え、若しくは無用の混乱を招くおそれの程度が大きく異なり、これらを同列に論じることは適当でないものといわざるをえない。
したがって、原告の主張はいずれも採用することができない。
第四 結論
以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 朴木俊彦 裁判官 近藤壽邦 三浦隆志)
(別紙) 公文書目録
一<1> 開発行為の許可基準等の改正に伴う経過措置該当事案について
(協議)県農林水産部長から林野庁治山課長あて
治第四一三号 平成二年一二月三日付
<2> 改正許可基準等の運用に当たっての留意事項について
(回答)林野庁治山課長から県農林水産部長あて二―二七
平成二年一二月一〇日付
二 平成二~三年瀬戸町日出湾リゾート開発事前協議関係書類
三 瀬戸町日出湾リゾート開発に関する
<1> 開発行為協議書
<2> 鳴門ハーバービューCC
平成二年三月提出「開発協議書」に対する意見と対応
<3> (仮称)鳴門ハーバービューカンリークラブ事業計画概要書