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徳島地方裁判所 平成8年(わ)381号 判決 1997年4月09日

本籍

徳島市住吉五丁目二〇四番地の一

住居

同市住吉五丁目七番一五号

会社役員兼団体職員

井内祥造

昭和三三年七月一六日生

本籍

徳島市住吉五丁目二〇四番地の一

住居

同市住吉五丁目七番一五号

会社役員

井内百枝

大正一四年三月二一日生

主文

被告人井内祥造を懲役二年六か月及び罰金七〇〇〇万円に、被告人井内百枝を懲役一年六か月及び罰金一〇〇〇万円に処する。

被告人両名において、右各罰金を完納することができないときは、被告人井内祥造について金一〇万円を、被告人井内百枝について金二万円を、それぞれ一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日から三年間右各懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は、いずれも徳島市住吉五丁目七番一五号に居住し、井内伊勢一の長男及び妻として右伊勢一の死亡(平成五年二月一六日)により同人の財産を他の共同相続人山田和江、同今田久美子と共同相続し、同人らとの遺産分割協議により、その財産の一部を相続したものであるが、髙城伸二及び小川順司と共謀のうえ、右伊勢一にかかる架空の債務を計上して、相続税の課税価格を減少させる方法により共同相続人四名の相続税を免れようと企て、正規の相続税の課税価格が一六億八二五〇万七〇〇〇円で、これに対する相続税額が五億〇二三四万七九〇〇円であるにもかかわらず、右伊勢一には、株式会社安田に対し一〇億三九五一万円の借入金債務があり、かつ、その債務を被告人両名において各五億一九七五万五〇〇〇円ずつをそれぞれ負担することとなったかのように装うなどしたうえ、平成五年一〇月二八日、徳島市幸町三丁目五四番地所在の所轄の徳島税務署において、同税務署長に対し、相続税の課税価格が六億四二九九万円七〇〇〇円で、これに対する相続税が一億四七一一万三五〇〇円である旨の内容虚偽の相続税申告書を提出し、もって、不正の行為により、相続税三億五五二三万四四〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

(以下、括弧内の漢数字は、各書証の一枚目表に記載された検察官の証拠請求番号である。)

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  分離前の相被告人髙城伸二及び同小川順司の当公判廷における各供述

一  被告人井内祥造の検察官に対する供述調書(二八ないし三一)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三二)

一  被告人井内百枝の検察官に対する供述調書(三五、三六)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(三七)

一  髙城伸二(四〇ないし四二)及び小川順司(四五ないし四八)の検察官に対する各供述調書

一  井内眞里(五ないし七)、林亮一(一四)及び是安恵子(一五)の検察官に対する各供述調書

一  福山正雄(八ないし一〇)、森泰文(一一ないし一三)、長瀬憲一(一六)、竹内洋一(一七、一八)、吉川敏夫(一九)及び姫野雅義(二〇)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(一)、借入金調査書(三)及び「その他課税価格調査書」と題する書面(四)

一  徳島市長作成の戸籍謄本(三三、三八)

一  相続税の申告書(被相続人井内伊勢一にかかるもの・添付書類を含む。平成九年押第七号の1)

(法令の適用)

被告人両名につき

適条 平成七年法律第九一号附則二条一項本文により、同法による改正前の刑法六〇条、相続税法六八条一項、二項

刑種の選択 懲役刑及び罰金刑の併科する。

労役場留置 前記改正前の刑法一八条

刑の執行猶予 前記改正前の刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被相続人井内伊勢一にかかる一〇億円余の法外な架空の借入金債務を計上する方法によって相続税三億五〇〇〇万円余を免れたという相続税法違反の事案であって、その犯行動機は、専ら井内家の財産を守るためには、あえて違法行為もいとわないという極めて自己中心的なものであり、また、犯行態様は、被相続人の筆跡をまねて作成した借用証書に被相続人の実印を押捺して架空の債務の原因証書、限度保証約定書及び債務承認弁済証書などを作成してこれらの債務が内容の伴った実在の債務であるかのように装ったうえ、税務の専門家の忠告にも従わず、税務査察潜脱の策をろうするなど、計画的で、極めて悪質である。さらにまた、本件犯行によって被告人両名は前記のとおり三億五〇〇〇万円余の相続税を免れ、共犯者に対する報酬その他の経費等を差し引いても約二億九〇〇〇万円の不当な利得をしたものである。加えて、被告人井内祥造は、髙城伸二及び小川順司から本件脱税の話しを持ちかけられた際、難色を示していた被告人井内百枝を説得し、相続人の代表者として共犯者間の謀議等に臨み、申告書の作成依頼など本件犯行を推進したものであって、本件犯行に果たした役割は大きい。そして、平成八年五月末ころ、本件に関して税務調査が行われることを知るや、前記髙城及び小川と相謀って証拠堙滅工作をするなどその後の情状も芳しくない。また、被告人井内百枝についても、被告人祥造に説得されたとはいえ、その後は当時不仲であった相続人間の取りまとめるなど本件犯行に深く関与していたものである。

いうまでもなく、相続税は納税者がその取得財産に応じて等しく負担すべき義務であるところ、取得した財産を偽り不正に税を免れる行為は誠実な納税者を被害者とする反社会的な犯罪ということができ、このような行為は大多数の善良な納税者の納税意欲をはなはだしく阻害するものであってそれが社会に及ぼす悪影響をも併せ考えると、被告人両名の刑責は極めて重いものといわなければならない。

しかしながら、本件犯行は、被相続人の気性もあって、その生前、多額の財産を相続することによる相続税の納付について検討することもできずにいたところ、被相続人の死亡により一時に納付すべき相続税額が三億円を越える莫大な額になることがわかり、相続財産はほとんど農地を含む土地であることから、土地を売却してその代金で納付しなければならなかったが、その土地も早急には売却できず、一方、納付期限は切迫しているという状況の下で、前記髙城や小川の甘言に乗って犯したものであり、無思慮のそしりは免れないが、その心情酌むべきところがまったくないわけではないこと、被告人両名は、本件が摘発されてからは、捜査、公判を通じて犯行を全面的に認め、反省悔悟の情を示していること、その後、本件ほ脱にかかる本税、延滞税、重加算税及び過少申告加算税等(農地納税猶予のもの、物納申請中のものを除く。)をそれぞれ納付したこと、被告人両名は、ともに前科、前歴はなく、被告人百枝は高齢であることなど、被告人両名に有利に斟酌すべき事情も認められるので、これら諸般の情状を総合勘案し、被告人両名に対しては主文掲記の刑に処したうえ、懲役刑については、いずれもその刑の執行を猶予するのが相当と判断した。

(検察官山本真千子、被告人両名私選弁護人後藤田芳志(被告人井内祥造主任)、同笹谷正廣(被告人井内百枝主任)各公判出席)

(求刑 被告人井内祥造につき懲役二年六か月及び罰金八〇〇〇万円、被告人井内百枝につき懲役一年六か月及び罰金一五〇〇万円)

(裁判官 田中観一郎)

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