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徳島地方裁判所 平成8年(行ウ)3号 判決 1998年11月20日

原告

南松雄

外四名

参加人

谷川政子

外二名

右八名訴訟代理人弁護士

中村史人

被告

南充明

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

中田祐児

右三名訴訟復代理人弁護士

島尾大次

被告

佐藤賛治

井口利仁

右二名訴訟代理人弁護士

木村清志

主文

一  原告谷川真角、同三宅仁平、同伊内一博、参加人谷川政子、同三宅美代子、同伊内かず子の訴えをいずれも却下する。

二  原告南松雄、同谷清の訴えをいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告ら及び参加人らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

(原告ら)

被告らは、美馬環境整備組合に対し、各自金一五億八六九四万円及びこれに対する平成八年四月二四日(本訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(参加人ら)

被告らは、美馬環境整備組合に対し、各自金一五億八六九四万円及びこれに対する平成八年一〇月二五日(本訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告らが、指名業者に談合させ、他の類似施設に比べ不当に高額な工事代金の請負契約を締結することによって美馬環境整備組合(以下「組合」という。)に損害を与えたとして、原告ら及び参加人らが、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、組合に代位して、被告らに対する損害賠償を求めた事案である。

(争いのない事実)

一  当事者ら

1 原告ら及び参加人らは、徳島県美馬郡に居住する住民である。

2 組合は、美馬郡脇町、美馬町、半田町、貞光町、穴吹町の五町によって設立・運営する一部事務組合(地方自治法二八四条)である。

3 被告南充明は、脇町の元町長であり、町長の職にあった当時は組合の管理者の職も兼ねていた(平成七年一一月二日に町長と組合管理者の職を退いた。)。

被告南宏は脇町の助役と組合の副管理者を兼職していた者(平成七年一一月二日に助役と副管理者の職を退いた。)、被告井口利仁(以下「被告井口」という。)は組合の事務主任の職にあった者であるが、当時、被告佐藤賛治(以下「被告佐藤」という。)と共に、ごみ処理施設の建設工事の発注を担当していた。

被告佐和昇(以下「被告佐和」という。)は、組合の収入役の職にあった者である。

二  請負契約の締結と公金の支出

1 組合は、平成七年二月二二日、脇町役場において、ごみ処理施設の建設工事につき指名競争入札に付し、組合議会を開会して右工事代金六四億八六九四万円(消費税額一億八八九四万円を含む。)の承認決議を得た上、同金額で落札した株式会社神戸製鋼所大阪支社(以下「神戸製鋼所」という。)との間で工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。

2 組合(脇町)は、神戸製鋼所に対し、本件請負契約に基づき、次のとおり工事代金を支払った(送付嘱託回答結果による。)。

(一) 平成七年五月二九日

金一億一一二四万三五〇八円

(二) 平成八年五月一日

金三六億四一八五万八八九一円

(三) 平成九年五月一日

金二七億三三八三万七六〇一円

三  監査請求及び監査結果

1 原告南松雄、同谷清、同谷川真角は、本件請負契約の工事代金の支出等につき、平成七年四月二一日、組合監査委員に対して、地方自治法二四二条一項に基づく住民監査請求を行ったが(なお、右監査請求の請求主体を「組合の焼却場建設を考える会」とみるか、それとも原告南松雄、同谷清、同谷川真角らとみるかについては、当事者間に争いがある。)、同年五月二九日、同監査委員会はこれを棄却した。

2 原告谷川真角、同三宅仁平、同伊内一博は、同年九月五日、前同様に、住民監査請求をしたが、同年一〇月二五日、同監査委員はこれを棄却した。

3 原告南松雄、同谷清、同谷川真角、同三宅仁平、同伊内一博は、平成八年一月二二日、前同様に、住民監査請求をしたが、同年三月二一日、同監査委員はこれを棄却した。

4 参加人谷川政子、同三宅美代子、同伊内かず子は、平成八年六月二五日、前同様に、住民監査請求をしたが、同年八月一六日、同監査委員はこれを棄却した。

(争点と当事者の主張)

一  再度の監査請求と出訴期間の徒過

1 被告らの主張

原告南松雄、同谷川真角、同三宅仁平、同谷清、同伊内一博の五名が、組合においてごみ焼却場を神戸製鋼所に発注するに当たり、他の類似施設より一五億八六九四万円高い工事を発注したとして、組合監査委員に対し、平成八年一月二二日付け監査請求を行ったが、これが棄却されたので訴訟提起に及んだものである。

しかしながら、原告らのうち南松雄、谷清、谷川真角の三名は、被告らに対し右監査請求と同趣旨で平成七年四月二一日付け監査請求を行ったが棄却されている(乙二の6)。同監査請求は、当初、組合の焼却場建設を考える会代表者木下功名義でなされていたが、監査委員の補正請求により、請求主体が補正され、右原告らも名前を連ねている(乙二の4)。

そればかりか、原告谷川真角、同三宅仁平、同伊内一博の三名は、平成七年九月五日、前記監査請求と同趣旨で監査請求を行ったが(乙一の2)、棄却されている。

右にみたとおり、原告南松雄らは平成八年一月二二日付け監査請求に先立って同監査請求と同一請求主体、同一内容に関する監査請求を行っているのである。同一住民が同一の監査対象について何度も監査請求を行うことは許されず(最高裁昭和六二年二月二〇日判決)、また、監査の結果に不服がある場合には三〇日以内に訴訟の提起をしなければならないことから(地方自治法二四二条二項)、本件訴訟は重複監査請求に該当し、かつ、出訴期間を経過して提起されたものであり、訴えの却下を免れない。

2 原告らの主張

(一) 平成七年四月二一日付け監査請求は、組合の焼却場建設を考える会代表者木下功名義で監査請求がなされており、同監査請求の請求主体は、住民ではなく、組合の焼却場建設を考える会そのものである。右考える会は、名称、規約、会計、役員の選任、総会目的をすべて備えており、いわゆる権利能力なき社団に該当するが、判例、通説とも、住民監査請求の住民には権利能力なき社団も含まれるとしている。

組合監査委員が、右考える会に補正を求め、個人名を連記する結果となったのは、同監査委員の解釈の誤りであり、同監査請求の請求主体はあくまで右考える会である。

したがって、同監査請求と、以後の監査請求の請求主体は異なる。

(二) 同年九月五日付け監査請求と、平成八年一月二二日付け監査請求については、趣旨、目的が同一のものと考える余地があるが、原告南松雄、同谷清は、平成七年九月五日付け監査請求に関与していない。

そして、平成七年四月二一日付け監査請求の内容は、一般競争入札が行われていないことを理由とする不正談合入札の解明と、請負金額が高すぎるので再入札実施を求めるもの、及び、役職員の処分である。一方、同年九月五日付け監査請求の内容は、入札に談合があったことを理由とする本件請負契約の無効確認と、違法な契約、公金の不正支出の是正、及び役職員による損害てん補である。すなわち、同年四月二一日付け監査請求は、損害賠償を全くその念頭に置いていないのに対し、同年九月五日付け監査請求は、損害賠償を主とするもので、その内容に同一性はない。

そうすると、同年四月二一日付け監査請求と同年九月五日付け監査請求には同一性がなく、少なくとも前記両原告については原告適格を肯定できる。

二  別訴の禁止

1 被告らの主張

(一) 地方自治法二四二条の二第四項は、住民訴訟が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもって同一の請求をすることができない旨定めている。ところで、参加人らの訴訟は、原告らの訴訟と内容が同一であり、原告ら自信も平成八年一〇月付け上申書をもって同様の訴えであることを認めている。したがって、参加人らの訴訟は前記地方自治法の規定に抵触するものであり、訴えを却下すべきと考える。

なお、参加人らは、共同訴訟参加の効力があると主張するが、仮にそのような効力があるとしても、原告らの請求が却下されるべきものであるから、参加人らの請求も却下されるべきものと考える。

2 参加人らの主張

(一) 地方自治法第二四二条の二第四項は、請求内容を同一とする別訴を一律に不適法却下するものではない。すなわち、かかる別訴の提起は、共同訴訟参加(民事訴訟法五二条、旧民事訴訟法七五条)の申出としての効力が認められるのである(広島地裁昭和四二年四月二五日判決・行裁例集一八巻四号六〇一頁)。よって、参加人らの訴えは、先行する原告らの訴えに併合され、適法な訴えとして審理されるべきである。

三  監査請求期間の起算点と右期間の徒過

1 被告らの主張

(一) 地方自治法二四二条二項は、住民監査請求について、「当該行為のあった日又はこれが終わった日から一年を経過したときは、これをすることができない」と定めている。

本件のような支出を伴う場合の起算点については、支払日ではなく契約締結日から起算すべきである(大阪地裁平成三年四月二四日判決・判例タイムズ七七一号一二一頁、宮崎地裁昭和五七年三月二九日判決・判例タイムズ四七七号一六四頁参照)と解すべきところ、参加人らの監査請求は、平成八年六月二五日に申し立てられ、本件請負契約の締結日は平成七年二月二二日であったというのであるから、行為の日から一年以上経過していることが明らかであり、同法の右規定に抵触しており、却下すべきものである。

(二) 被告南充明及び同南宏は、平成七年一一月二日に町長もしくは助役を退職し、これに伴って組合の管理者・副管理者の職をそれぞれ退いた。同人らが在職中に支出された請負代金は、本件請負契約締結直後である平成七年五月二九日にいわば着手金として一億一一二四万三五〇八円が支払われたにとどまるのである。

そして、住民監査請求が行われたのは平成八年六月二五日のことであるから、右一億一一二四万三五〇八円の支出日から起算しても一年以上が経過しており、原告らの請求は失当である。

2 参加人らの主張

(一) 参加人らの訴えを基礎づける被告らの違法行為は、他の類似するごみ処理施設と比較して一五億八〇〇〇万円余り高い工事代金を支払う旨の不正な本件請負契約の締結であり、同訴えを基礎づける損害の発生は、その代金を公金から支払った点である。かかる訴えにおいて、地方自治法二四二条第二項による一年間の期間制限の起算点(「当該行為のあった日」)は、契約締結日ではなく、代金支払日(公金支出日)に求められる。その理由は、次の四つである。

第一は、請求権の発生時が代金支払時、という点である。すなわち、損害賠償請求権が発生するには、違法行為があっただけでは足りず、損害が発生する必要がある。その損害が発生するのが、代金支払時である(福岡高裁昭和五七年三月四日判決・判例時報一〇五四号七九頁)。よって、契約締結時(損害賠償債権が発生する前)から損害賠償請求に関する監査請求の期間制限が起算されるというのは、理論的にみて筋が通らない。

第二は、期間制限を過度に厳格に適用した場合、住民訴訟本来の趣旨が害されるという点である。すなわち、住民訴訟の趣旨は、一般住民の手によって地方財務行政の適正な運営を確保するというものであるが、一般住民は、法律的知識に十分恵まれていない上、世間からの批判的、懐疑的な目にさらされるという障害に直面しながら、住民訴訟の手続を進めていかざるを得ないのであって、期間制限を過度に厳格に適用した場合、住民訴訟の趣旨は、実現困難となってしまう。

第三は、かかる住民訴訟の趣旨実現が、現在強く要求されているという点である。すなわち、行政腐敗の是正、行政改革は現在の急務となっているところ、立法ないし行政主導による改革は一向に成果を挙げない状況下で、司法主導による行政改革が期待され、その中心的制度たる住民訴訟の活用及び趣旨実現が、現在強く要求されている。

第四は、期間制限の起算点を代金支払時に求めても、地方自治法二四二条二項が期間制限を設けた趣旨を害さない、という点である。すなわち、代金支払時と契約締結時とが著しくかけ離れるとは考えがたい以上、期間制限の起算点を代金支払時に求めても、行政行為の安定性が著しく害されるとは考えがたい(東京地裁昭和五七年七月一四日判決・判例時報一〇五七号五一頁、名古屋地裁昭和四六年一二月二四日判決・判例時報六五五号五頁参照)。被告らが援用する大阪地裁平成三年四月二四日判決及び宮崎地裁昭和五七年三月二九日判決は、本件と事案を異にする。

そして、本件では、代金支払は平成七年五月二九日から平成八年四月二五日にかけて神戸製鋼所に一億一一二四万三五〇八円(六年度)、三六億四一八五万八八九一円(七年度)、ウエスコ設計事務所(以下「ウエスコ」という。)に四五九三万八〇〇〇円(六年度)、二二八三万五〇六六円(七年度)、計三八億二一八七万五四六五円が支払われている。一方、参加人らによる監査請求は平成八年六月二五日になされている。よって、右監査請求は、一年間の期間制限に適っている。実際、右監査請求は、組合監査委員により、適法なものとして受理され、参加人らは監査結果の通知を受けているのである。

(二) 本件の住民監査請求は、被告らに対し、不当に高額で違法な工事請負契約がなされたことと、その損害賠償を求めるものである。この損害賠償請求の趣旨は、将来にわたり発生すべき損害の賠償を求めるものである。将来の給付の訴えが容認されることは、異論のないところであり、被告らが平成七年一一月二日に町長、助役を退職し、組合の職を退いたとしても、右違法、不当な契約により発生すべき損害について、その責任を免れるものではない。

四  本件請負契約等の違法性

1 原告ら及び参加人らの主張

(一) 被告らは、平成六年八月一八日のごみ焼却施設建設計画の第一回推進委員会において、准連続焼却式、流動床式焼却炉の導入を決定した。

右施設建設工事の施工業者としては、業界でも有力な、株式会社タクマ(以下「タクマ」という。)、日本鋼管株式会社(以下「日本鋼管」という。)、バブコック日立株式会社(以下「バブコック日立」という。)、神戸製鋼所、株式会社荏原製作所(以下「荏原製作所」という。)、三井造船株式会社(以下「三井造船」という。)、川崎重工業株式会社(以下「川崎重工業」という。)の七社が選定された。

平成六年一一月二日の第四回推進委員会において、発注方法は入札によらずに随意契約とする旨決定された。この時点で、事実上、神戸製鋼所と工事請負契約を締結することが決められていた。

これに対し、脇町等の一部住民から、本件の請負工事が既に神戸製鋼所に決まっているようだ、入札をしないのはおかしいとの声が上がりはじめ、議会においても、問題の指摘を受けたことから、平成六年一二月二八日の第六回推進委員会において、随意契約から指名競争入札に変更され、前記七社のうち、入札価格の低い三社(タクマ、日本鋼管、バブコック日立)が除外され(なお、地方自治法二三四条二項では、一般競争入札、指名競争入札において、予定価格の範囲内で最低の価格で入札の申込みをした者を、契約の相手方とするよう定められている。)、入札価格の高い四社を指名業者に選定した上、その四社のうちから神戸製鋼所を指名した。

(二) 予備入札において、七社を指名しながら四社に絞っているが、除外された三社が他の四社と技術的に劣っておらず、特に、入札価格の低いタクマはこの業界では実績の面でも最も高く評価されている業者であるのに対し、神戸製鋼所は流動床式焼却炉の工事では実績がないことを考慮すれば、極めて不当な取り扱いである。

そして、競争入札業者が四社に選定された後、入札期日に入札した価格は、荏原製作所が七二億円、川崎重工業が七三億円、神戸製鋼所が六二億九八〇〇万円、三井造船が七〇億円であり、神戸製鋼所を除く三社はいずれも当初の見積価格を上まわり、かつ、端数のない整数である。このことは、当初から神戸製鋼所による落札が定められていたものであって、談合がなされた事実を強く推認させるものである(甲一六)。

本件請負工事は、当然のことながら、町民の税金を使って行われるものであり、組合としては、最も経費がかからない方法を採るべき義務がある。もとより、工事業者の質が悪ければ、いかに安い入札価格であっても、それを排除すべきであるが、本件においてはそのような事情がない。

(三) 神戸製鋼所が落札した請負金額は六二億円余りであるが、平成六年度のごみ焼却施設のうち、粗大ごみ処理施設を併設したもので、脇町に設置されたごみ焼却施設と同等の施設の請負金額を比較すると、鹿児島県枕崎地区衛生管理組合(栗本鉄鋼請負、処理能力七五トン)金四六億二〇〇〇万円、千葉県山武郡環衛事業組合(日本鋼管請負、処理能力七三トン)金四七億五〇〇〇万円であって、いずれも一五億円以上安価な価額で請負契約が締結されている。被告らは、本件のごみ焼却場建設のように莫大な費用を必要とする施設は、一つ一つに特徴があり、画一的な製品ではないから、他の同種の施設と比較することは無意味であるというが、流動床式ごみ焼却施設で、かつ処理能力のほぼ同様のもので、しかも、同一年度内の工事で一五億円もの差が生じることは不合理以外の何ものでもない。

(四) 平成六年度における都市ごみ焼却炉の平均建設費は、流動床式焼却炉方式でごみ処理能力トン当たり五六〇六万円である(甲一八)。

粗大ごみ処理施設の平均建設費は、ごみ処理能力トン当たり五二六四万円である(甲一八)。

組合の流動床式焼却炉の処理能力は七二トンであるから、右平均値から計算すると四〇億三六三二万円となり、粗大ゴミ処理施設の処理能力は二〇トンであるから、その建設費は一〇億五二八〇万円となる。そして、双方を合計すると五〇億八九一二万円であり、神戸製鋼所の請負金額が六二億九八〇〇万円であるから、その差は一二億〇八八八万円となり、全国平均値に比べ一二億余も高額である。

平成六年石垣市がバブコック日立に発注した流動床式焼却炉の請負金額は三五憶四七〇〇万円であり(甲一八)、トン当たりの建設費については同市の焼却炉の処理能力が八〇トンであるから四四三二万七五〇〇円となる。また、同年、枕崎地区衛生管理組合が栗本鉄工所に発注した同様の焼却炉の請負金額は四六億二〇〇〇万円であるところ、組合と比較し、粗大ごみ施設は同様の規模で流動床式焼却炉の処理能力は三トン多いにもかかわらず、組合の請負金額より一六億円も安くなっている(甲一八)。

2 被告南充明、同南宏、同佐和の主張

本件のごみ焼却場の発注に当たっては、組合の中にごみ焼却施設建設計画の推進委員会を組織し、施設、機種の選定につき、平成六年八月一八日から平成七年二月一六日まで七回にわたり同委員会を開催し、コンサルタント業務をおこなっているウエスコとコンサルティング契約を締結して綿密な打合せを行うなど、同社の技術的助言を得ながら設備の受注業者の選定を進めてきた。そして、この委員会の中でウエスコの提出した技術評価書等に基づいてそれぞれのメーカーの特徴の当否を検討したのである。設備の方式としてストーカー方式と流動床方式とがあり、ストーカー方式は、建設費用が安価ではあるが、焼却能力の点に問題があり、一方、流動床方式は、建設費用が高くつくものの、焼却能力の点で優れている。組合内部でウエスコも交えて何度も検討を重ねたが、焼却炉から排出されるダイオキシン等の有害物質の人体に与える影響が社会問題化していたことから、流動床方式が内部的には有力になっていた。

そのような中、組合は、右技術評価書に基づいて焼却方式としては流動床方式がストーカー方式よりも優れているものと判断し、また、指名入札方式を採用することとし、さらに、当初、荏原製作所、川崎重工業、神戸製鋼所、タクマ、日本鋼管、バブコック日立、三井造船の七社を指定して見積書等の提出を求め、その内容を詳細に検討した結果、指名業者を荏原製作所、川崎重工業、神戸製鋼所、三井造船の四社に決定したのである。そして、平成七年二月二二日、入札を実施したところ、最も安い金額で応札した神戸製鋼所が落札したものである。

原告らは、タクマが業界で経験豊富であり、しかも最も安い価格を提案したのにこれが採用されなかったことが問題である旨主張しているが、同社の提案する方式はストーカー方式であったので、前記理由により指名しなかったにすぎない。

莫大な費用を必要とする本件のようなごみ焼却場の建設については、一つ一つの施設に特徴があるため、他の同種施設と比較することは無意味であり、本件の施設がそれより高いからといって被告らが不当に高い金額でこれを神戸製鋼所に請け負わせた証拠にはなり得ないのである。

3 被告佐藤、同井口の主張

組合は、美馬郡脇町字拝原地区に焼却炉とともに廃棄物の最終処分場を所有していた。しかし、その焼却炉の焼却能力はもともと計画段階でも八時間当たり一六トンであり、現況では八時間当たり六トンにまで落ち込んでいた。しかも、最終処分場は、焼却灰や搬入された廃棄物でほぼ満杯となっていた。このため、新たにより能力の高い焼却炉とともに、最終処分場として埋立地を設ける必要性が極めて大であり、行政としてはこの点が最大の課題であった。ところが、埋立地については、平成三年三月ころ、美馬郡脇町字安車尾地区において用地買収に取りかかったところ、地元住民の反対運動によって進入路用地を買収することができなくなり、結局、安車尾地区での計画は挫折した。そこで、新しい焼却炉を早急に設置する必要性がより緊急の課題となり、本件焼却炉の設置が具体化されたものである。

焼却炉の方式として、ストーカー方式と流動床方式があり、当然のことながら組合でもどちらの方式にするかについて議論がなされていた。タクマはこれまでに流動床方式ではまったく実績がない(丙一)。今回組合が設置しようとした焼却設備に初めて見積書等を提出してきたものである。どちらの方式で実施するかについて、平成六年七月二六、二七日の両日にわたって脇町議会は愛媛県にある流動床方式を採用していた道前クリーンセンターとストーカー方式を採用していた松山南クリーンセンターの両者を視察・見学した。その他技術面、環境問題、管理運営、経費等様々な観点から論議がなされた結果、平成六年八月一八日、ごみ処理施設建設推進委員会で、ストーカー方式を退け、焼却能力が高く燃え残りの出る割合が少なく、処分場(埋立地)へ搬入しなければならない焼却灰の量が少なくてすむ流動床方式を採用することが決定された。

組合や脇町議会は、タクマを含めた七社から、流動床方式による見積書や様々な資料が提出された後、平成六年一一月一四日、荏原製作所を始めとして各メーカーからヒアリングを行い、更に岡山県にある井原クリーンセンター、岡山市当新田クリーンセンター等の先進地を視察するとともに、様々な情報収集に努めた。ごみ焼却設備は、特殊な技術を要するため、施工経費の高低のみによって判断するのはあまりにも軽率であり、前述したような技術、環境対策、管理運営経費等様々な観点からの総合的な判断が必要となるもので、このような判断過程の中で、平成六年一二月二八日にメーカーの選定がなされて四社が指名された。タクマが外れた理由は、過去に一度も流動床方式による実績がなかったからであり、その点に不安があったことと、技術面では、焼却炉のすぐ上に水を噴霧して排出ガスを冷却化するシステムを採用していたが、このシステムでは水蒸気爆発を起こす危険性があることがコンサルティングにあたっていたウエスコから指摘されたことによるものである。

第三  当裁判所の判断

一  争点一(再度の監査請求と出訴期間の徒過)について

1  地方自治法二四二条一項に基づき、平成七年四月二一日、同年九月五日、平成八年一月二二日に各住民監査請求がなされたが、組合監査委員によっていずれも棄却された(争いがない)。

ところで、同一住民からの同一の財務会計上の行為に対する再度の監査請求は、出訴期間の定め(同法二四二条の二第二項)を潜脱することになるため、許されない(最高裁昭和六〇年二月二〇日判決・民集四一巻一号一二二頁)。ただし、同一の原因に基づく財務会計上の行為であっても、別個の財務会計上の行為であれば、それぞれの財務会計上の行為について別個に監査請求をすることができる。

そこで、平成八年一月二二日付け監査請求が、平成七年四月二一日付けないし同年九月五日付け監査請求との関係で再度の監査請求に当たるかどうかを検討することとする。

2(一)  平成七年四月二一日付け監査請求と同年九月五日付け監査請求の関係

右両監査請求が同一住民からの請求であるかどうかを判断する前提として、平成七年四月二一日付け監査請求の請求主体が、「組合の焼却場建設を考える会」(以下「考える会」という。)であるのか、それとも原告南松雄、同谷清、同谷川真角、同三宅仁平ら個人とみるべきなのかどうかが問題となる。

(二) しかして、平成七年四月二一日付け監査請求(組合職員措置請求書)の請求者欄には、考える会代表者の肩書付で木下功の記名がなされ、その名下に同会代表者印が押捺されている(同会の役員名簿も添付されている。)こと(甲八、乙一の1)、組合監査委員は、考える会代表者木下功あてに同月二八日付けで、右監査請求に対する補正の促し、すなわち、「美馬環境整備組合の焼却場建設を考える会は、任意団体であり、法人格を備えるものでないとおもわれるため、個人印を使用のこと。連名となる場合は、各自住所氏名職業自署のうえ、捺印のこと。」などを内容とする補正の通知を行っていること(乙二の2)、その後、右補正の趣旨にそって組合職員措置請求書が改めて提出されていること(乙二の4)が認められる。また、考える会は、団体としての組織を備え、多数決の原理が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織における役員の選任、会計等団体としての主要な点が確定されており(甲八)、権利能力のない社団に該当するというべきである。

さらにまた、考える会のような法人格を有しない社団が地方自治法二四二条一項の「住民」(住民監査請求の請求権者)に当たるか否かについては、考える会の構成員が本件の組合(一部事務組合)を組織する普通地方公共団体の住民でもある以上(甲八)、これを否定する理由はないものと解される。

(三) 右によれば、考える会も平成七年四月二一日付け監査請求の請求権者となり得るといえることから、補正を促す必要はもともとなかったものであり、結局、考える会が同監査請求の請求主体であったとみるのが相当である。

そうすると、平成七年四月二一日付け監査請求と同年九月五日付け監査請求とは請求主体が異なる以上、後者が前者との関係で再度の監査請求に当たることはない。

3  平成七年九月五日付け監査請求と平成八年一月二二日付け監査請求との関係

(一) 右両監査請求においては、原告谷川真角、同三宅仁平、同伊内一博につき請求主体が重なっており、しかも、両監査請求の請求の要旨をそれぞれ比較してみてもその内容はほぼ同一のものと解され、同一の財務会計上の行為に関するものと認められるため(甲一、三、乙一の2)、平成八年一月二二日付け監査請求は、右の限度で、同一住民からの同一の財務会計上の行為に対する再度の監査請求に該当するというべきである。

(二) 一方、平成八年一月二二日付け監査請求のうち、原告南松雄、同谷清については、請求主体が異なっているので、再度の監査請求に当たらないことが明らかである。

4  以上によると、平成八年一月二二日付け監査請求の請求主体である原告南松雄、同谷清については、同年三月二一日付けで同監査請求を棄却され、同年四月一七日に訴えを提起しており、出訴期間を遵守していることが認められるが、原告谷川真角、同三宅仁平、同伊内一博については、平成七年九月五日付け監査請求が同年一〇月二五日付けで棄却されており、そのころから起算して三〇日の出訴期間を徒過していることが明らかであるので、同原告らの訴えは不適法なものとなる。

二  争点二(別訴の禁止)について

住民訴訟が既に裁判所に係属しているとき、他の住民が同一の請求につき別訴を提起することは許されない(地方自治法二四二条の二第四項)。

この場合の同一の請求の意味を同一の財務会計上の行為又は怠る事実と解したときには、参加人らの訴えの対象となっている財務会計上の行為と原告らの訴えのそれとは同一のものであるから、参加人らの訴えの適否が問題となるが、本件では他の住民による別訴の提起を共同訴訟参加の申出として取り扱い、参加人らの訴えを原告らの訴えに併合して審理されているので、参加人らの訴えについて右の理由による違法はないものと解される。

三  監査請求対象の特定の程度及び監査請求対象行為と訴え対象行為との同一性について

1(一)  いうまでもなく、地方自治法二四二条の二所定の住民訴訟を提起するには、適法な監査請求を経ていることを要する(監査請求前置)。

ところで、監査請求の対象となる財務会計上の行為をどの程度特定すべきかについては、原則として、他の事項から区別して特定認識できるように個別的、具体的に摘示することを要するというべきである(最高裁平成二年六月五日判決・民集四四巻四号七一九頁)。

(二)  そこで、まず、本件請負契約についてこれをみるに、契約締結日まで明示しているわけではないけれども、平成八年一月二二日付け及び同年六月二五日付け各監査請求において、本件請負契約の工事内容、工事代金額が明らかであって、監査委員が他の財務会計上の行為と区別して特定認識することが可能といえるから、監査請求の対象としては、その特定をみたすものというべきである。

次に、右両監査請求においては、その請求の要旨中で公金の不正支出の是正をも主張しているので、右公金支出の点をみるに、当該支出が本件請負契約に基づくこと及びその支出目的・金額が明らかではあるけれども、支出の日時、支出の相手方、支出方法・期間等が不明のままであって、他の公金支出と区別して特定認識することは困難というほかない。

結局、公金支出の是正を求める部分は、監査請求対象の特定を欠くというべきである。

2(一)  監査請求前置の要件をみたすためには、原則として、監査請求の対象とされた財務会計上の行為と、住民訴訟において対象とされたそれとが同一であることを要する。

もっとも、財務会計上の行為が異なる場合であっても、監査請求対象行為から派生し、又は右行為に後続することが当然に予測される行為については同一性が肯定されて監査請求前置の要件をみたすものと解するのが相当である(最高裁昭和五五年二月二二日判決・判例時報九六二号五〇頁参照)。

(二)  これを本件についてみると、原告ら及び参加人らの住民訴訟において対象とされた財務会計上の行為は、本件請負契約と工事代金の各支出であるところ、本件請負契約については、同人らによる各監査請求においてもその対象行為とされているけれども(ただし、参加人らについては、後述のとおり、監査請求期間を徒過し不適法となる。)、工事代金の各支出については、前述のとおり、監査請求の特定性を欠くために、監査請求の対象行為となっていない。

しかしながら、工事代金の支出は、監査請求対象行為たる本件請負契約から派生し、又は右行為に後続することが当然に予測される行為といえるから、結局、監査請求前置の要件をみたすことになる。

四  争点三(監査請求期間の起算点と右期間の徒過)について

1  地方自治法二四二条二項は、住民監査請求につき、「当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」と規定する。

そこで、右監査請求期間の起算日が問題となるが、同法二四二条一項、二四二条の二第一項は、住民監査請求及び住民訴訟の対象となる財務会計上の行為を個別的に限定列挙していること、同法二四二条二項が監査請求に期間制限を設けたのは、地方公共団体の機関又は職員の行為をいつまでも争い得る状態にしておくことが法的安定の見地からみて適当でないとの趣旨によることにかんがみ、同項の監査請求期間遵守の有無についても、当該行為が不可分であるなど特段の事情がある場合を除き、原則として、監査請求の対象とされる個々の財務会計上の行為ごとに判断するのが相当である。

また、監査請求期間の例外となる「正当な理由」とは、特段の事情がない限り、地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、これを知ることができたと解されるときから相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断されるものと解するのが相当である(最高裁昭和六三年四月二二日判決・裁判集民事一五四号五七頁、判例時報一二八〇号六三頁)。

2  これを本件についてみるに

(一) まず、請負工事代金に関する公金支出の点は、前述のとおり、監査請求対象の特定性を欠くことから、監査請求期間の遵守の有無は問題とならない。

(二) 平成七年二月二二日締結の本件請負契約については、右行為の日から監査請求がなされた平成八年六月二五日までに既に一年以上を経過していることが明らかである。また、本件請負契約と、平成七年五月二九日及び平成八年五月一日の各支出分との間にこれらを不可分とみて一体的に監査請求すべき事情は特段認められない。さらに、契約締結日を具体的に特定するまでには至っていなかったものの、平成七年四月二一日付け及び同年九月五日付け各監査請求の時点で、既に、本件請負契約については、他の財務会計上の行為と区別できる程度に特定された上、その違法無効及び是正が請求の要旨として主張されていた(しかも、参加人らはそれぞれ原告らの身内であることがうかがえる。)のであるから、参加人らは、相当の注意力をもって調査をすれば、遅くとも、原告らによって平成八年一月二二日付け監査請求がなされたころまでには、客観的にみて、本件請負契約が談合に基づいて締結された疑いを持つことができたものと解される。

そして、一般的に、監査請求に慎重を期し、あるいは監査請求後の住民訴訟の提起を考慮に入れて、監査請求前にある程度の事実関係の調査や証拠の収集をする必要があるとしても、相当期間としては、長くとも三か月を超えることはないというべきである。

してみると、参加人らが当該監査請求を行った平成八年六月二五日は、参加人らが本件請負契約を知り得るはずの前記同年一月二二日から約五か月経過しているので、参加人らの当該監査請求は相当期間内になされたものとはいえない。結局、監査請求期間の例外を肯定すべき正当な理由を認めることができず、右期間を徒過したものといわざるを得ない。

3  なお、参加人らは、その住民訴訟において、単に、地方自治法二四二条の二第一項四号の損害賠償を請求すると主張するのみで、それが、当該職員に対する損害賠償請求の意味なのか(同号前段)、それとも当該職員に対する損害賠償請求の行使を怠っている事実に係る相手方に対する損害賠償請求であるのか(同号後段)については必ずしもはっきりしない。

もっとも、仮に、参加人らが同号後段の趣旨の下に怠る事実を対象としていたとしても、これをもって直ちに、監査請求期間の制限を定める同法二四二条二項の適用が排除されるとみるべきではない。すなわち、財務会計上の行為が違法無効であることに基づき発生する実体法上の請求権の行使を違法に怠る事実(いわゆる不真正怠る事実)に係る監査請求については、同項の適用を認めるのが相当であり(最高裁昭和六二年二月二〇日判決・民集四一巻一号一二二頁)、本件も右の不真正怠る事実に該当するというべきだからである。

4  以上によれば、参加人らの住民訴訟において対象とされた財務会計上の行為のうち、本件請負契約については、適法な監査請求を経ていないことから、その限度で、右住民訴訟も監査請求前置の要件をみたさず不適法となる。

五  「当該職員」又は「相手方」の該当性について

1  既に触れたとおり、原告らによる損害賠償の代位行使が、地方自治法二四二条の二第一項四号前段の「当該職員」に対するものであるのか、それとも同号後段の「怠る事実の相手方」に対するものであるのかについては必ずしも明らかではない(なお、前述のとおり、参加人らの監査請求対象行為は、監査請求期間の徒過及び特定性の欠如によりいずれも不適法というべきであるから、「当該職員」等の該当性を検討するまでもなく、その住民訴訟についてもすべて不適法となる。)。

ところで、右の「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味し、その反面、およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者はこれに該当せず、そのような者を被告とする訴えは、住民訴訟の類型に当たらず不適法というべきである(最高裁昭和六二年四月一〇日判決・民集四一巻三号二三九頁)。

一方、右の「怠る事実の相手方」に対する請求については、権限の所在が問題とならないことから、その被告とした者が適切であるかどうかは、被告適格の問題となり、一般に、原告側により、訴訟の目的である地方公共団体が有する実体法上の請求権を履行する義務があると主張されている者がこれに該当するということができる(最高裁昭和五三年六月二三日判決・判例時報八九七号五四頁参照)。

2  そこで、これを本件についてみると、まず、二四二条の二第一項四号前段の場合には、組合の管理者の職にあった被告南充明が、当時、本件請負契約を締結する権限を法令上本来的に有していたことに疑いはなく、また、被告南宏、同井口、被告佐藤については、組合内部の定めである事務規則に基づき、契約担当者として、本件のごみ処理施設建設工事の発注等を任されていたのであるから(乙一八、弁論の全趣旨)、同被告らも「当該職員」に該当するというべきである。そして、収入役の職にあった被告佐和については、工事代金の各支出分に関し、当時、その支出権限を法令上本来的に有していたことが明らかである。次に、同号後段の場合については、権限の所在を問う必要がないので、右の検討内容に照らし、被告らが「相手方」に当たることは明らかである。結局、被告らに対する原告らの訴えは、同号前段・後段のいずれの場合であっても適法ということになる。

六  争点四(本件請負契約等の違法性)について

原告らは、被告らが指名業者と談合の上、他の類似施設と比較して高額な工事請負額で神戸製鋼所に落札された旨主張するので、以下この点を検討する。

1  証拠(甲三、乙二の5、三ないし一三の1、丙一)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 組合は、美馬郡脇町字拝原地区に焼却炉とともに廃棄物の最終処分場を所有していたが、その焼却炉の焼却能力が計画段階の八時間当たり一六トンから六トンにまで落ち込んでいた上、最終処分場が、焼却灰や搬入された廃棄物でほぼ満杯となっていたため、新たにより能力の高い焼却炉と、最終処分場としての埋立地を設ける必要が生じた。

ところが、埋立地については、平成三年三月ころ、美馬郡脇町字安車尾地区で用地買収に取りかかったものの、地元住民の反対運動によって進入路用地の買収が困難となり、結局、安車尾地区での計画はとん挫した。

そこで、新しい焼却炉を早急に設置することが急務となり、本件の焼却炉の設置が具体化された。

(二) 本件のごみ焼却場の発注に当たっては、組合の中にごみ焼却施設建設計画の推進委員会が組織され、施設、機種等の選定につき、平成六年八月一八日の第一回から平成七年二月一六日の第七回まで計七回にわたり同委員会が開催された。

例えば、平成六年八月二二日開催の第二回推進委員会では、荏原製作所、神戸製鋼所、三井造船は、流動床式の専門業者でありここ数年の実績を評価し、日本鋼管は、流動床式とストーカー式の双方を採用しておりここ数年全国一、二を争う実績があることを評価し、タクマは、ストーカー式では業界一、二を争うメーカーで、流動式では汚泥及び産業廃棄物処理に関し流動床式を採用し実績を伸ばしつつあることを評価し、それぞれ、予備発注のメーカーとして選定され、また、同年九月一六日開催の第三回推進委員会では、予備発注メーカーとして右五社のほか更にバブコック日立、川崎重工業の二社が追加され、同年一一月二日開催の第四回推進委員会では、発注方法として、一般競争入札、指名競争入札、随意契約の中から随意契約に決定され、同年一二月二〇日開催の第五回推進委員会では、前回決定された随意契約は疑惑を招く場合が多くできるだけ避けたほうがよいとの配慮から指名競争入札方式に変更され、同月二八日開催の第六回推進委員会では、本発注業者として、荏原製作所、川崎重工業、神戸製鋼所、三井造船の四社が選定され、さらに、平成九年二月一六日開催の第七回推進委員会では、本発注業者として選定された前記四社を入札指名業者に決定している。

(三) 組合は、コンサルタント業務を行なっているウエスコとコンサルティング契約を締結して綿密な打合せを行うなど、同社の技術的助言を得ながら設備の受注業者の選定を進め、同委員会の中でウエスコの提出した技術評価書等に基づいてそれぞれのメーカーの特徴の当否を検討した。

(四) 設備の方式としては、ストーカー方式と流動床方式とがあり、ストーカー方式は建設費用が安価ではあるが焼却能力の点に問題が残り、一方、流動床方式は建設費用が高くつくものの焼却能力の点で優れている。

どちらの方式で実施するかを検討するに当たり、平成六年七月二六日、二七日の両日にわたって脇町議会は愛媛県にある流動床方式を採用していた道前クリーンセンターと、ストーカー方式を採用していた松山南クリーンセンターの両者を視察・見学したほか、その他技術面、環境問題、管理運営、経費等様々な観点から論議がなされ、その結果、平成六年八月一八日、ごみ処理施設建設推進委員会において、ストーカー方式を退け流動床方式でいくことが決定された。流動床方式が採用された主な理由は、こちらの方が焼却能力が高く燃え残りの出る割合が少ないため、処分場(埋立地)へ搬入しなければならない焼却灰の量が少なくてすむという点にあった。

その後、同年一一月一四日、荏原製作所を始めとして各メーカーからヒアリングを行い、この間、組合や脇町議会は更に岡山県にある井原クリーンセンター、岡山市当新田クリーンセンター等の先進地を視察するとともに、様々な情報収集に努めた。

(五) 組合内部でもウエスコを交えて何度も検討が重ねられたが、焼却炉から排出されるダイオキシン等の有害物質の人体に与える影響が社会的に問題となっていたことから、内部的には流動床方式が有力となった。

(六) そのような中、組合は、技術評価書に基づいて焼却方式としては流動床方式がストーカー方式よりも優れているものと判断し、また、前記のとおり、業者の選定方法については指名入札方式を採用するとともに、予備発注メーカーとして、荏原製作所、川崎重工業、神戸製鋼所、タクマ、日本鋼管、バブコック日立、三井造船の七社を選定した上見積書等の提出を求め、その内容を詳細に検討した結果、指名業者を荏原製作所、川崎重工業、神戸製鋼所、三井造船の四社に決定した。

そして、平成七年二月二二日、入札が実施され、最も安い金額で応札した神戸製鋼所が落札した。

(七) タクマについては、過去に一度も流動床方式による実績がなかったこと、また、技術面では、焼却炉のすぐ上に水を噴霧して排出ガスを冷却化するシステムを採用していたが、コンサルティングに当たっていたウエスコによって、このシステムでは水蒸気爆発を起こす危険性がある旨の指摘がなされたことから、結局、除外された。

2  右認定の事実に照らすと、被告らと指定業者との間で談合が行われたとまで認めることはできない。原告らの主張事実は、それ自体直ちに右談合を推認させるに足りるものともいえない(なお、本件の工事代金が他の類似施設に比べて不当に高額であると認めるに足りる証拠も存しない。)。

そうすると、本件請負契約等が違法であるとはいえず、右原告らの主張は理由がない。

第四  結論

以上検討したところによれば、原告谷川真角、同三宅仁平、同伊内一博、参加人谷川政子、同三宅美代子、同伊内かず子の訴えは、いずれも不適法であり、また、原告南松雄、同谷清の訴えは、その余の点(被告らの責任の有無)について判断するまでもなく、いずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官松本久 裁判官大西嘉彦 裁判官本間敏広)

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