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徳島地方裁判所 昭和24年(行)49号 判決

原告 日浦リキノ 外一名

被告 一宇村農業委員会・徳島県農業委員会

一、主  文

被告一宇村農業委員会が昭和二十四年五月三十日なした別紙目録記載の土地に対する未墾地買収計画はこれを取消す。

被告徳島県農業委員会が同年八月一日なした原告の訴願棄却の裁決はこれを取消す。

訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二、三項同旨の判決を求め、その請求の原因として、被告一宇村農業委員会(当時農地委員会、以下単に村農業委員会と略す)は原告等各所有の別紙目録記載の土地につき、訴外臼木希介の買収申請に基き、昭和二十四年五月三十日未墾地買収計画を樹てたので、原告等はこれに対し適法な異議の申立をなしたところ、同委員会は同年六月二十二日これを棄却したので、更に原告等は被告徳島県農業委員会(当時農地委員会、以下単に県農業委員会と略す)に対し訴願したが同委員会も亦同年八月一日訴願棄却の裁決を為し、右裁決書の謄本は同月二十一日原告等に送達された。然し被告等の各処分は次の理由により無効或は違法として取消さるべきものである。即ち別紙目録記載の土地の中(一)原告日浦堅市所有の畑二十歩については、被告村農業委員会はこれを原告リキノ所有の山林と共に山林として未墾地買収計画を樹てたが、該土地は既に昭和二十年十一月二十三日以前より原告等において耕作していたものであるから、これを山林と誤認して定められた被告村農業委員会の本件買収計画はこの限度において無効である。又(二)原告リキノ所有の山林についてみるに、原告方は一宇村役場所在の古味部落より更に数里の奥地山岳地帯に位し、原告等はその附近の山畑九反歩を耕作する専業自作農であるが、斯様な山村においてはその農業経営は平坦部のそれと趣を異にし一段の努力と辛労を必要とするものであるが、殊にその肥料については主として堆肥に依拠する関係上、採草地の確保に常に意を用い、原告方においても前記九反歩の耕作畑に対して約一町歩の採草地を必要とする農業経営の実情に鑑み、その所有造林地約五反五畝歩を林間採草地として利用する一方、又他方においては他人の所有地を借用して採草をなし辛うじてその不足を補つて来たのであるが近時造林地の立木の成長に伴い採草量の減少を来し又借用採草地も減少したのでこの不自由をなくすると共に労力の軽減を計るため、是非とも纏つた面積の自家採草地を求める必要に迫られるに至つた。ところが当時本件山林には二十年生乃至三十年生の杉約四百本が生立していたが、原告方居宅及びその耕作地に近く且又相当纏つた面積でもあるので、原告リキノはこれを純採草地に転用すべく昭和二十三年四月被告村農業委員会に対し牧野に変更せられ度い旨の申請をなし、その承認を得たので伐木して採草地として利用するに至つたものである。本件土地は赤土質であつて農地には適さず隣接する買収除外地となつた一反五畝歩について麦類を栽培した実績に徴しても、農作物の収獲も大して期待できないものであるから、強制的に買収して他人の生産に供するよりは多年精農としてその実績を挙げて来た原告方の農地の生産を助長し、その耕作者としての地位を安定させるため本件山林をその採草地として利用させることが最も適策である。仮令牧野と認められないとしても本件土地は買収申請者たる訴外臼木希介を売渡の相手方に予定しているが、同人は昭和十九年頃まで移動製材業を営み農業に対する認識と体験が浅いにも拘らず既に農地法に便乗して約六反五畝歩の農地を獲得し、そのうち約四反歩は焼畑であつて同人とその子供二人にてこれを開墾しておるが、これに加えて更に本件土地を開墾して耕作を継続することは望むべくもなく、それのみならず同人は本件土地より約二十町も離れた他部落に居住し耕作上甚だ不便であるのに引換え、原告方と本件土地とは僅かに二町の距離にして本件土地附近にも訴外農地を所有しておるから、如何にしても開墾させるというのであれば耕作能力あり且つ耕作に至便な原告に開墾させるべきである。要するに本件土地に対する未墾地買収計画は農村の民主化に逆行し自作農創設特別措置法の目的に反する違法のものと謂うべきである。

以上の次第で被告村農業委員会の本件未墾地買収計画は無効乃至違法であり、よつて右買収計画並びにこれを維持する被告県農業委員会の訴願棄却の裁決の取消を求めるため、本訴請求に及んだ次第であると述べ、被告等の主張事実を否認した。(証拠省略)

被告等両名訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として原告等主張事実中被告村農業委員会がその主張の日時にその主張の土地につき未墾地買収計画を樹てたこと、これに対する原告等の異議に対しその主張の日に同委員会が却下決定をなしたので、原告等が更に被告県農業委員会に対し訴願したが、同委員会もまたその主張の日に訴願棄却の裁決をなし、右裁決書の謄本がその主張の日に原告等に送達されたこと、原告等が畑九反歩を耕作する自作農であること及び原告等がその主張の日に被告村農業委員会に対し、原告リキノ所有の本件山林を牧野と変更することにつき承認を求める申請をなしたことは孰れもこれを認めるがその余の事実はすべて争う。本件土地はすべて未墾地にして一宇村日浦部落の中央部に位し交通極めて便利で傾斜緩かであり附近耕地の実態等からみて開墾適地である。原告堅市所有の畑二十歩は未墾地であつたものを訴外臼木希介が昭和二十三年十二月二日を買収期日とする本件未墾地買収計画が確定したものと思惟して掘起したものであり、又原告等は既に牧野三、五反を有し、他にも林間採草の用に供する土地を求めることが可能である。なお買収未墾地の開拓適格者は県知事がこれを決定するものであり、開墾申請人の適、不適は未墾地買収の要件ではないと述べた。(証拠省略)

三、理  由

被告一宇村農業委員会(当時農地委員会)が昭和二十四年五月三十日原告等各所有の別紙目録記載の土地につき未墾地買収計画を樹てたこと、これに対し原告等が適法な異議の申立をなしたところ同委員会は同年六月二十二日これを棄却したので更に原告等は被告県農業委員会(当時農地委員会)に対し訴願したが同委員会も亦同年八月一日訴願棄却の裁決をなしその裁決書の謄本が同年同月二十一日原告等に送達されたことは当事者間に争がない。

よつて先づ別紙目録記載の土地の中、原告堅市所有の土地二十歩に対する被告村農業委員会の樹てた未墾地買収計画の当否について考えるに、証人日浦熙(第一回)、同日浦藤繁、同日浦清正、同臼木権八の各証言及び検証の結果並びに弁論の全趣旨によれば、右二十歩の土地は元来原告方において畑として耕作していたが、昭和十八年原告リキノの亡夫新一応召後手不足のため時には草を繁茂させる等荒れることがあつたが、隣接する本件山林の立木により日蔭となることが多かつた関係上、夏期だけ作付をなし昭和二十三年には桐苗をこゝに栽植したため一時耕作せず、そのために草が繁茂していたこと及び本件買収地となつた土地全部の中で買収地の売渡を受けたものと速断した訴外臼木希介が昭和二十四年五六月頃、先づ本件土地二十歩の桐苗を掘起して耕作に着手したこと(これより耕作が比較的容易であつた事実を推認しうる。)を認めることができる。右認定に反する証人蔭久正巳、同庄内数義、同上地照中、同谷春雄、同臼木希介の証言の一部は孰れも措信できない。従つて元来農地として利用していた本件二十歩の土地は原告等の手不足のため一時荒れていたとは言えそれがために未だ農地たる性質を失う程度のものでなかつたことが明らかであるから、これを未墾地として樹てられた未墾地買収計画は違法と謂うべきであるから取消を免れないものである。次に原告リキノ所有の山林五反四畝八歩のうち三反九畝八歩に対する被告村農業委員会の未墾地買収計画の違法の有無について考えるに当裁判所の真正に成立したものと認める甲第三号証、前顕証人日浦熙(第一、二回)、日浦藤繁、臼木権八、日浦清正の各証言、検証の結果及び原告日浦リキノ本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すると、原告方居宅は一宇村役場所在の古味部落より更に約二里の奥地山岳地帯に位し、原告方は原告両名及び原告リキノの長男熙夫婦等の家族がその居宅附近において田五畝、畑九反歩(畑九反歩を耕作していることについては当事者に争がない)を耕作している専業自作農であること、山岳地帯における農業経営においては堆肥を主な肥料とし畑一反歩につき少くとも純採草地一反を必要とし、原告方においても右九反余部の田畑の堆肥の補給源として本件土地附近の純採草地約五畝歩とその所有に係る近辺の杉の造林地を採草地とする所謂林間採草地約四反歩をこれに当てると共に、更に他人より一年毎の話合いで採草地を借用して辛うじてその不足部分に充当していたが、右原告所有の造林地の立木の成長に伴い漸次採草量の減少を招き、又終戦直後の手不足の解消に伴い各所有者においてその採草地を使用することとなつたため、その借用も次第に困難となり、昭和二十六年度に至つては原告方には借用採草地を持たぬ状態となり、本件山林がその採草地として利用されている現状にあること(立木伐採前も林間採草地として利用していた)原告リキノ所有山林は合計約六町歩にのぼるもその大部分は造林しており、前記林間採草地として利用しておるものを除き大部分がその耕作農地と相当遠距離にあるため、労力の関係よりしても到底採草地として利用できない事情にあること、以上の事情より原告方としてはその居宅及び耕作地に近く纏つた面積を有し、而も造林中の杉木立も伐採期にあつた本件土地を純採草地に専用し、その農業生産の増強に資せんとして昭和二十三年三月被告村農業委員会に対し、本件山林を牧野に変更することの承認を求めるに至り昭和二十四年六月頃右山林上の立木を伐採搬出したこと、を認めることができる。右認定に反する証人谷春雄、上地照中、庄内数義の供述の一部及び乙第一号証の記載の内容(証人上地照中の証言原告リキノ本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨に対比し)は措信できず他に右認定を覆すに足る証拠はない。

抑々農業委員会が自創法第三十条の規定に従つて未墾地を買収する場合それが買収を受ける土地所有者の権利を侵害するものであることに鑑み、その買収処分は所謂法規裁量に属するものである。従つてその買収処分をなすに当つては、開墾適地かどうか或は又その土地を開墾して農地とすることとこれを他の目的に利用することと経済上孰れが得策であるかについて自創法の目的を顧慮した上で決しなければならない。本件においてこの点を考えてみると前段認定のところより明な如く本件山林を買収することは結局原告等の農業経営に重大な支障を与え、一の自作農を創設するため多年の精農の地位の安定を害することとなり、自創法の目的とするところに背く結果を招くものと謂うべきである。よつて右山林を買収するよりは寧ろ原告リキノの所有に留め採草地として利用せしめるのが相当であり、右山林に対する本件買収計画は違法として取消さるべきである。

以上の次第で原告等各所有の別紙目録記載の土地に対する被告村農業委員会の買収計画並びにこれを維持する被告県農業委員会の裁決の取消を求める原告等の本訴請求は理由があるから正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 今谷健一 小川豪 尾鼻輝次)

(目録省略)

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