大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

徳島地方裁判所 昭和25年(ヨ)99号 判決

申請人 住友義夫 外二名

被申請人 日本鉱業株式会社

一、主  文

申請人等の申請を棄却する。

訴訟費用は申請人等の負担とする。

二、事  実

申請人等は、「被申請会社が申請人等に対し昭和二十四年十二月十三日為した解職処分の意思表示の効力を本案判決確定に至るまで停止する。被申請会社は申請人等の同意なくしては同人等に対する賃金の支払その他労働条件につき従前の待遇を不利益に変更してはならない。申請費用は被申請会社の負担とする。」との判決を求め、その申請の理由として、「申請人等は被申請会社に雇傭せられ、同会社高越鉱業所に勤務し、申請人A、同Cはそれぞれ支柱夫として、同Bは連行夫として、各職場にあつたところ、被申請会社は申請人等に対し申請趣旨のような解雇処分を為した。然しながら右は次の理由によつて不当解雇である。

第一、被申請会社の為した解雇の理由は申請人等が成績不良であるというにあるが、申請人等は常に誠実に職務を履行し、何ら過怠を犯したことなく、同種労働者の平均以上の成績を保持していたのであつて、出勤状況については高越鉱業所労働主任幸元芳夫が申請人等の成績良好であると言明している点よりしても明かであるが、その他右鉱業所では本給の外毎日の能率給を支給しているが申請人Aは該給九十五円平均、同Cは九十六円をそれぞれ支給されており同種労働支柱夫平均六十一円ないし六十二円を超過していて、同Bは平均六十五円を支給されており、同種連行夫の平均六十一円ないし、六十二円を超過しているから、申請人等の勤務成績は他の労働者に比して優秀と称すべく、被申請会社の示す解雇理由はその根拠のないものであるが、申請人等はこのような不当解雇によつて職を失い、最低限度の健康にして文化的な生活の途を絶たれ、憲法第二十五条によつて保障せられた基本的人権を奪われる結果となるのであつて、被申請会社の処分は憲法に照して無効である。

第二、被申請会社と申請人等の所属する日本鉱業株式会社高越鉱業所労働組合及びこれらの上級団体である日本鉱業株式会社労働組合連合会(日鉱連)との間に締結された労働協約第五章人事第三十二条(雇傭の維持)で「会社は社員の雇傭の維持を確約する。但し止むを得ないときは日鉱連又は組合と協議した上処置する。」と明記されているが、高越鉱業所労働組合は本件処分に関し組合員の無記名投票に付した処組合員三百六十二名中二百七十一名が投票し、解雇を可とするもの百八十票、否とするもの八十七票、無効四票となり、組合規約に規定する四分の三以上の投票が得られず、組合は本件解雇を拒否したものであり、又右協約別紙に「その他の社員の大量解雇計画については日鉱連の同意を要する。」旨規定されていて、本件解雇は申請人等を含む三十四名の大量解雇であつたにもかゝわらず、日鉱連本部はこの事を事前に聞知せず、解雇後である昭和二十五年三月高越鉱業所組合長井上清が東京出張の際事後報告を為したに過ぎない。又被申請会社は本件解雇は人事委員会の承認を受けたと主張するが、当時の組合側人事委員は組合長a、副組合長b、cの三名であり、これら当時の御用幹部が同組合規約第十六条並に第二十二条に明示する四分の三以上の賛成を要するにもかゝわらず、過半数の賛成により承認したように見せかけ、会社となれ合の上為されたものであつて、彼等は今回の事件につきaは組合より詰問を受け、bは御用第二組合の結成を策し大会の満場一致の決議をもつて除名されており、cに至つては今回の役員改選に立候補すら許されぬ現状にある点より見て、彼等の為した承認が不当であつたことを推知できるのであつて、いづれの点よりしても相手方の為した解雇は労働協約違反の処分である。

第三、申請人A、同Cは保安委員として、又申請人Bは解雇当時同組合執行委員であり、日鉱連四国地方連合会代議員としていづれも積極的に組合活動を為し、その支柱であつたので、相手方の解雇は明に申請人等を追放することにより組合活動の弱体化を謀つたものであつて、労働組合法第七条第一項に違反するものである。

と述べた。(疏明省略)

被申請代理人は、申請棄却の判決を求め、答弁として、申請理由の中、申請人等が被申請会社に雇傭せられ、同社高越鉱業所に勤務し、申請人A、同Cが支柱夫、同Bが連行夫であつたこと、被申請会社が申請人等をそれぞれその主張の通り解雇処分に附したことはこれを認めるが、その余を全部否認する。

第一、被申請会社では昭和二十四年六月一日作成の人事考課規則による成績表に照らし申請人等は最劣等者であり、いずれも請負制作業以外の作業部面で能率給を受けていたが、本件成績表作成の直前六月間の平均と申請人等の受給額とを対比するに、支柱夫平均一日金九十四円十銭に対し申請人Cは金九十三円十銭、同Aは金九十三円八十三銭であり、連行夫平均一日金六十五円二十二銭に対し同Bは金六十一円九十九銭である。

第二、本件解雇に至る経過手続は次の通りである。昭和二十四年十月六日高越鉱業所で係長会議の上赤字防止、企業整備のため従業員三百七十二人を三百三十人に減少案を決定、同日経営協議会を開催して事情を説明し同月二十五日右企業整備計画、人員整理案を書面で労組へ通知し、同月二十六日労組総会を開き、その間自発的退職者を募集し、三十四名の申出を受け、同年十一月二十四日会社は労組に対し同年六月一日作成の人事考課表を基準として十八名を整理する旨を通告し、同月二十八日労組総会を開き、会社の申入を組合員に伝え、次で団体交渉が行われ、会社は組合の希望を容れて整理人員を十八名から十名に減少することゝし、組合は次で執行委員会総会を開き、同年十二月十日労組長から十名の整理を受諾する旨の回答を受け、同月十二日組合人事委員を介して申請人等を含む被整理者十名につき個々の同意を得て解雇の発令をした次第であつて、申請人等主張の協約違反の点については、労組規約第二十二条但書の総会では従来挙手の方法により賛否を表するのが通例であつて、特に無記名投票に附するのは争議行為の開始、新役員選出等の場合に限られていたものであり、又同但書の特別重要決議事項は当該列記事項に限られていて、本件解雇はそのいずれの條項にも該当しないから、組合の同意決議は右決議方法による必要がないのであり、更に労組議事規則によれば決議方法の瑕疵については三十日以内に異議申立を為すべきで、同期間を経過すれば決議は自動的に有効となるべきところ、申請人等はいずれも右異議申立を為さなかつたものであり、又協約書第三十七条によれば人事委員会の同意は同書第三十四条所定の同意に替るべきところ、会社は右委員会の同意を得ていたものであり、又本件解雇につき組合総会で同意決議を為した当時の組合員総数は三百二十八名であつた。

第三、本件解雇は組合の弱体化を企図したものでない。申請人A、Cは保安委員として活動したと主張するが、Cは同委員ではなく、又同委員会は鉱山内部の作業関係の災害防止の任務を有するものであつて労組活動とは無関係であり、且又同会は四国鉱山保安監督部えの認可手続が遅れたため、本件解雇当時まで一回も開かれていないのであり、結局申請人等は組合活動関係で大した存在ではなかつた。

結局被申請会社は企業整備のため、申請人等を含む十名を人事考課表に基き不適格者E級に属するものとして解雇処分した次第である。と述べ、尚昭和二十四年十月二十六日組合総会での組合規約改正の表決の数は総組合員三百六十四名、出席人員二百四十五名、改正に賛成した人員は出席者全員、表決の方法は挙手によつたものである。と釈明した。(疏明省略)

三、理  由

申請人等が被申請会社高越鉱業所に雇傭せられ、申請人A、同Cは各支柱夫として、同Bは連行夫としてそれぞれ勤務していたこと同人等が同鉱業所労働組合に所属していたこと、被申請会社が昭和二十四年十二月十三日申請人等を解雇処分に附したことはいずれも双方争ない。証人d 証言並に当裁判所が真正に成立したと認める疏乙第一号証の一、二、三(社員考課表)同第二号証(人事考課規則)並に成立に争ない疏乙第十号証(労働協約書)に証人d、a(第一回)証言を綜合すれば、被申請会社高越鉱業所は昭和二十四年度経営不振に陥り、補給金打切や鉱石の低品位化とともに月平均百八十万ないし二百万円の赤字状態となり、企業整備による人員整理の方法を採用せざるを得ないことゝなり、経営協議会で企業整備計画人員整理案を立て、昭和二十四年十月十九日頃その案を労働組合に提示したところ、同組合は総会の決議により、労働協約第三十四条同別表に基き当該整理につき日本鉱業株式会社労働組合連合会(日鉱連と略称)の同意の要否を決定することゝし、組合長aが上京し日鉱連に連絡の結果、当時被申請会社は全国で約三十個所の鉱山を経営し、内十個所の人員整理中であり日鉱連もその事務に忙殺されていたゝめ、本件鉱業所の整理問題は単組で解決することに決定し、結局前記労働協約条項に基き高越鉱業所労組の同意如何の問題に帰着したのであるが、その後自発的退職者三十四名を出したが、更に団体交渉の結果予定整理人員は最初の四十二名から十名に縮少され、組合は昭和二十四年十二月九日直接無記名投票による決議の結果申請人等を含む十名の解雇を承認したのであつて、右整理の基準は被申請会社人事規則に基く考課表に依つたものであつて、申請人等は同考課表によりE級と判定され成績最下位であつた事実をそれぞれ認定するに足る。申請人等はその勤務成績平均以上であつたと主張するがこれに沿う証人b、cの証言は採用しない。又右解雇が労働協約違反であるとの主張につき、昭和二十四年十二月九日為された組合総会の決議の効力を検討するに、証人dの証言並に当裁判所が真正に成立したと認める疏甲第三号証疏乙第九号証(組合規約)に証人aの証言(第二回)を綜合すれば、当時組合員総数三百二十八名であり、右組合総会の決議は直接無記名投票により為され、整理賛成百八十票、反対八十七票、無効四票、白票三であつて、組合規約第二十二条(改正前後を通じ)第十六条によれば総会の決議の内第十六条第二項各号列記の重要決議の数項に関しては直接無記名投票により出席員の四分の三以上(改正前)又は全組合員の過半数(改正後)の賛成を必要とするところ本件整理に関する決議は右重要決議事項に包含されず、結局同規約第二十二条第一項(改正前後を通じ同一)により、総会は全組合員の三分の二以上の出席により成立し、議決は出席員の過半数の賛成により成立するものであるところ、前記総会の出席人員、賛成数はいずれも右の要件を充たし、その決議は有効に成立したものと認めるに足る。申請人等の主張する改正規約無効の点は前記認定を左右するに足りない。又不当労働行為に関する申請人等の主張につき考えるに、被申請会社の企業整備のいきさつが前認定の通りであり、その人員整理の基準を勤務成績の良否においたのは止むを得ない措置であつて、申請人等の勤務成績が良好でない以上これを整理の対象と為すことは条理上当然であつて、該措置が労働組合法に違反するものとは言い得ない。結局前記各疏明資料によれば被申請会社の為した解雇処分は一応適法であり、これを無効とする申請人等の主張はいずれも一応理由のないことに帰着するから、本件申請を棄却することゝし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 今谷健一 合田得太郎 三木光一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!