大判例

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徳島地方裁判所 昭和27年(ヨ)149号 判決

申請人 小倉安一

被申請人 落合滝蔵

一、主  文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

二、事  実

申請代理人は被申請人が徳島中央青果株式会社取締役としての職務の執行を徳島地方裁判所昭和二十七年(ワ)第一五三号取締役解任の訴の本案判決あるまで仮に停止するとの裁判を求め、其の理由として申請人は六月前から引続き徳島中央青果株式会社の発行済株式総数二万株の百分の三以上即ち八百株の株主であり、被申請人は同社の取締役社長であるが、(疏第一号証及同第二号証参照)被申請人は取締役として職務の遂行に関し、

(一)  昭和二十五年三月十日社長として金三十万円を虚偽の記帳を以て支出し、自己の勧業銀行に対する債務の弁済に充当して右金員を横領し、

(二)  昭和二十五年八月大阪府国府から葡萄の委託販売を受け、その売上金の内数万円を横領し、

(三)  昭和二十五年十月頃から昭和二十六年三月頃迄の間に亘り虚偽架空の出張名義で数万円を支出し、ほしいままに之を処分し、

(四)  昭和二十五年七月被申請人は他の三現業重役等と共謀して商法第二六四条の競業避止義務に違反する行為をなし、

(五)  昭和二十七年五月十八日の株主総会において自己を含む役員解任の議案附議に当り議長の席を退かず、株主の注意を無視して議事を運営し、

以て右(一)乃至(三)のとおり不正の行為をなし、(四)及び(五)のとおり法令若くは定款に違反する重大な事実があつたので、申請外後藤忠男及び谷口謙一の両名は取締役社長たる被申請人に対し商法第二六七条に基き取締役の責任を追及する訴の提起を請求したのであるが(疏第五号証参照)被申請人は之を役員会に報告もせず、勿論訴の提起もせず、全く此の請求を無視し去つた。次で申請人は前記(二)及び(三)の横領事実及び(四)の競業義務違反の事実を役員会で摘発附議した処が(疏第六、七号証参照)大勢定時総会迄放置に傾いて決定しないので、更に申請人は商法第二三七条に依り臨時株主総会の招集も請求したのであるが(疏第十一、十二号証参照)之に応じないので、昭和二十七年三月二十日徳島地方裁判所に対し商法第二三七条第二項に依る許可を申請したのであるが、其の審訊において被申請人は近く定時株主総会を開催し、此の総会に申請人要望の議案「役員の解任」を提案すると言明したので臨時株主総会招集は必要がないとの事情もあつて同許可申請は却下されたのである。(疏第十三号証参照)而して昭和二十七年五月十八日の定時株主総会通知(疏第十四号証参照)の会議の目的事項の四には「役員の解任及び選任」なる明示があり、且つ同総会の席上申請人の質問に対し、議長から「本議案は申請人の要求に基く議案である」との説明であつたので、申請人は議長の許可の下に自ら総会招集請求書(疏第十一号証)を読み上げ、詳細に提案理由並に提案内容を説明して附議したのであるが、株主から「適当なる後任者がないのに解任はいけない」とか「悪いことをした役員は辞任すべきである」とか種々意見の開陳があり、議長は「解任か辞任か増員か」を票決すると宣し、且つ出席株主の一人一票に依る票決方法で決定すると宣し、票決の結果解任と決定するや更に誰を解任するやを累積投票によりて決定すると宣して遂に谷口、後藤、小倉の三取締役が解任され、被申請人は解任されなかつたのである(疏第十五号証参照)。

斯くて申請人は取締役解任の訴を提起し、次で同法第二五七条第三項により被申請人の職務執行停止の仮処分命令の申請をなし、徳島地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第一〇五号事件として口頭弁論を経て同年七月十五日の判決により其の申請は却下されたのである。右申請事件に於いて被申請人から提出された疏乙第二号証(総会議事録)には被申請人の解任が主として提案され、盛に論議されたことが明瞭に記載されて居るのみならず議案を捩ぢ曲げた経緯も判明するのである。

同判決理由中「……以上の如く被申請人の取締役として職務執行に責むべき点あることが疏明されたけれども申請人主張の昭和二十七年五月十八日の株主総会において被申請人の取締役たることを解任する議案を否決したとの事実についてはその疏明がない……従つて本件仮処分申請は此の点において理由あらしめるに足らないものと認め、本件申請を却下する」と判決されたのであるが、右理由の一部に「乙第二号証及び証人富川義夫の証言によると右総会の議事の経過結論は被申請人主張の通りであつたと認められる」とあるは被申請人の主張「株主総会では現在の役員全員の内解任すべき者ありや否やもしありとせば何人を解任すべきかとの事を議案として上程した」(同事件答弁書)を議事録の記載に反し、総会通知(疏第十四号証)の予告にも無い所であつて明かに不当なる判断と信ずる。又同理由の一部に「甲第六号証申請人本人訊問の結果によると同総会において被申請人が取締役を解任せられない結果になつたことは疏明せられる……」と謂つて居るので、先述の申請却下の主たる理由は結局「被申請人の取締役たることを解任する議案が上程された事実の疏明が足らない」とのことに帰すると考えられる。前述乙第二号証に依るも被申請人の解任が提案されて居ることは明瞭である。仍つて申請人は此の点に関する疏明を重視して茲に再び其の申請を重ねる次第である、と述べた。<立証省略>

被申請代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として申請人は本件と同一申請趣旨の徳島地方裁判所昭和二十七年(ヨ)第一〇五号取締役職務執行停止仮処分申請事件において既に申請却下の裁判を受け確定しているので、本件申請は却下せられるべきである。又被申請人が申請人主張の会社の取締役なることは認めるけれども申請人主張の如き不正行為又は法令定款に違反する様な行為をした事実はない。

(一)  被申請人が昭和二十五年三月会社の金三十万円を支出し、被申請人名義の勧業銀行に対する債務を支払つたことはあるけれども、それは本件会社が増資をした際申請人紹介にかかる伊東杉浦の両名が三十万円の株式引受をしたが、払込をしなかつた為申請人等を含む役員相談の上被申請人名義で勧業銀行より三十万円を借り受け、右株式の払込を了し増資の登記をしたのであるが、右三十万円の債務を支払うため会社の金員を支出し、その後増資株の一部は他人に引受けしめ、他は役員が引受け各自現実に払込み会社支出の三十万円を填補したものである。被申請人が自己の利益の為勝手に会社の金員を支出し横領したものではない。

(二)  昭和二十五年八月大阪府国府より葡萄の販売を委託され指値以上にて販売し委託者に送金清算した利益金三万六千円を得たので役員相談の上交際費として分配したものであり、その後株主総会でも承諾を受けている。

(三)  昭和二十五年秋出張旅費を役員に分配したのは一つは賞与の意味であり、一つには役員が会社へ無利子で金融していたのに対する金利御礼の趣旨でもあつた。

(四)  昭和二十五年七月キヤベツの競業をした事実はない。

役員四名でキヤベツを入手し会社へ出荷し会社が小売人へ売却し会社は正規の手数料をとつているものであつて、会社は普通の業務を営んだものである。

以上は皆今任期中のことでない。又、

(五)  昭和二十七年五月十八日の株主総会に被申請人が議長の職務を遂行したのは終始株主総会全員に異議がなかつた為である。しかも同総会においては役員全員の内解任すべきものありや否や、もしありとせば何人を解任すべきかとの事を議案として上程したに止り被申請人を解任すべきや否やを議案として上程したこともないし、又議決否決したこともない。

以上の次第であるから、本件仮処分の申請は本案訴訟提起の要件に欠くるところがあるばかりでなく、被申請人の職務遂行においても不正又は違法な事実がないので申請は理由がないと述べた。<立証省略>

三、理  由

申請人はさきに本件と同一保全理由に基き同一申請趣旨の仮処分申請を為し、当裁判所昭和二十七年(ヨ)第一〇五号事件として口頭弁論を経た上申請却下の判決を受けたのであるが、前裁判においては疏明不十分の故をもつて却下裁判を受けたので、更に疏明を強化補充して本件仮処分の再申請に及んだものであることはその主張自体により明らかであつて前の却下判決が確定したことは当裁判所に顕著な事実である。

右の如く仮処分却下判決の確定後再度の保全命令申請がなされた場合において後者が前者と同一被保全権利、同一保全理由、同一疏明によるものであるときは前判決の既判力を認め、後者の申請を却下するのを相当とするけれども疏明を強化補充した申請なるときには保全処分の仮定的暫定的性格よりみて疏明の強化も亦新事実の主張と同視し前裁判の既判力が及ばないものと解するを相当とする本件申請はその疏明資料において前者と異ることは前判決と本件疏明と比べ容易に知り得るところであるから、更に本申請の内容について審査をする次第である。

ところで成立に争のない疏甲第十四号証、第十五号証、第十八号証の一、二及び乙第二号証第三号証の一、二を綜合すると申請人主張の昭和二十七年五月十八日の株主総会において申請人より提案した徳島中央青果株式会社の役員解任の件についてその理由を説明したのであるが、議長たる被申請人は右議題につき株主の決をとらないままで参集株主等の意見に従い、同会社役員の解任か辞任か増員かを議場にはかり役員解任に決定した上、何人を解任すべきやを投票に問い、結局申請人外二名を解任することに決定したものであるが、被申請人を解任すべきや否やを議案として上程し株主に議決せしめた事実のないことを疏明することができる申請人の此の点に関する全疏明によるも、右に反し被申請人の解任を上程しこれを否決したような事実は認められない。右事実によれば前記株主総会において被申請人が解任せられなかつたことは明らかであるが、被申請人の解任を否決したとは解せられない。従つて他の争点について判断するまでもなく、被申請人の前記会社取締役たることを解任する請求権が発生した事実を疏明するに足らないわけであるから、本件仮処分命令の申請は理由ないものと認め、之を却下するほかはない。

よつて、申請費用につき民事訴訟法第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 今谷健一)

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