徳島地方裁判所 昭和27年(行)5号 判決
原告 金本シゲキ
被告 脇町税務署長
一、主 文
被告がなした原告の昭和二十五年度所得額金弐拾九万参千弐百円との更正決定は金弐拾参万七千八百九拾円を超える部分はこれを取消す。
原告の其の余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを六分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
二、事 実
原告は、被告が為した原告の昭和二十五年度所得税更正決定を取消す、との判決を求め、其の請求の原因として、原告は美馬郡脇町に於て金物小売業を営んでいる者であるが、昭和二十五年度所得税について法定期限である昭和二十六年二月二十八日迄に法定の申告書を以て収入金額一、八一七、〇八九円、必要経費一、七一九、一四九円所得金額九七、九四〇円、所得税金二、四〇〇円と申告した。しかるに被告は同年三月二十四日附を以て原告の同年度所得金額を三一二、〇〇〇円と更正した。原告はこれに不服であつたので法定期限内である昭和二十六年三月二十九日被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年五月十八日附を以て再調査の請求を棄却した。原告はこれに対し不服であつたから法定期限内である同月二十三日被告を経由して高松国税局長に対し審査請求をしたところ同二十七年四月二日附を以て、被告の為した再調査請求棄却処分を取消し、原処分の所得額を一部取消し、所得額を金二九三、二〇〇円とするとの審査決定があつた。しかし原告の提出した確定申告書記載の収入金額の中には売上高の外に期末棚卸高を含んだものであつて、同年度に於ける原告の実際の売上高は一、四八八、〇六七円、仕入高は一、二五一、〇九六円、必要経費は一四三、三五七円(経費の明細は別表一の通り)であり、従つて所得額は金九三、六一二円しかなかつたから被告の為した所得税確定更正決定は違法である。よつてここに同決定にかかる所得金額の取消を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の主張事実を否認し、原告の昭和二十四年度申告は誤謬である。原告の帳簿は商法第三二条により適法であると述べた(立証省略)。
被告指定代理人等は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として原告がその肩書地で金物小売業を営んでいること、昭和二十六年二月二十八日附で昭和二十五年度所得金額九七、九四〇円と確定申告をなしたこと、被告が原告の所得申告額が過少であると認めて、調査に基き所得額を金三一二、〇〇〇円、同税額を七八、五〇〇円と更正決定したところ、原告はこれに対し法定期限内である同年三月二十九日に被告に再調査請求をなし、これに対し被告は調査の結果、原告の請求を棄却したこと、更に原告はこれに不服で法定期限内である同年五月二十三日被告を経由して高松国税局長に審査請求をなしたところ同二十七年四月二日附を以て同局長は被告の再調査決定を取消し、原処分の所得金額の一部を取消し、所得金額を二九三、二〇〇円としたことはいずれも認める。原告の昭和二十五年度の仕入高が一、二五一、〇九六円、売上高が一、四八八、〇六七円、必要経費が一四三、三五七円であることはいずれもこれを否認し、本件被告の処分(高松国税局長が一部取消したもの)が違法であるとの主張はこれを争う。原告は昭和九年以来肩書地に於て引きつづき金物販売業を営み確固たる地盤を占め、店舗の立地条件は附近同業者中最上位にあり貨幣価値のより高かつた昭和二十四年度に於てすら所得金額二八〇、〇〇〇円を申告した。しかも昭和二十五年度に於ては六月朝鮮事変の勃発以来金属類の価格が昂騰し金物販売業者はすべて手持在庫品の値上りによる利益を得ているわけで原告の同年度の所得額がその申告額一三一、三〇〇円の如き少額でないことは容易に推測できるところである。原告備付の帳簿は組織的なものではなく取引先、取引額、経費の支払先等明確でないものがあるばかりか記帳洩、計算誤謬等少くなく、証拠書類も完備していない。原告は同年度の売上高は一、八一七、〇八九円以上、仕入高は一、三八七、〇九〇円以下(利益率を三十一%として売上高から逆算する)必要経費は一〇四、四一〇円以下であり、従つて原告の所得は少くとも金三二五、五八九円以上である。原告はその確定申告書に於て同年度の収入金額が金一、八一七、〇八九円であると申告しているから少くとも右金額に相当する売上があつたと認めてよいわけである。
しかるに原告は本訴の進行に当つて右確定申告に於ける収入金額及び必要経費は期末及び期首の棚卸高を含めた金額であると主張するが、これは甚だ不合理な主張で認めることはできない。原告の確定申告中に於ける利益率は一般の同種業者のそれに比べて格段に低くまた原告保管の仕入仕切書の合計を以て直に仕入額とも推し測り難いから被告は乙第三、四号証記載の原告の取引について売買品目部類別にその平均仕入高利益率を算出した上、部類別の取引割合を乗じて全品目の総合利益率三十一%を算出し、この利益率を以て売上高金額一、八一七、〇八九円から仕入金額一、三八七、〇九〇円を逆算したのである。また原告主張の経費中被告は一〇四、四一〇円だけを認め、其の他は否認する。その明細は別表二の通りである。雑損金について原告主張のような損害が仮りに生じたとしてもこれら損害金負担について原告主張のような商慣習が存在することは否認すると述べた(立証省略)。
三、理 由
原告が其の肩書地で金物小売業を営んでいること、被告が原告の昭和二十五年度所得申告額を過少と認めこれを金三一二、〇〇〇円と更正したところ、原告はこれを不服として所定期限内に被告に対し再調査請求をなしたこと、被告が原告の再調査請求を棄却したこと、更に原告は法定期限内に被告を経由して高松国税局長に対し審査請求をなしたこと及び同局長が昭和二十七年四月二日附を以て被告のなした再調査決定を取消し、原処分の取得金額の一部を取消し所得金額を金二九三、二〇〇円としたことはいずれも当事者間に争いの無い。結局本件の争点は原告の所得額を決定する基礎になる同人の右年度に於ける売上高、仕入高、経費の各金額にある。
一、売上高
成立に争いの無い乙第二号証(昭和二十五年分所得税確定申告書)によると原告は右年度に於て金一、八一七、〇八九円の収入のあつたことが認められる。而して原告には営業以外の収入の無いことは当事者間に争いが無いから右金額は結局右年度に於ける原告の売上高であると認めなければならない。原告は確定申告書記載の右金額は、売上高の外に期末棚卸高を含んだものであつて実際の売上高は金一、四八八、〇六七円に過ぎないと主張するが、期末棚卸について何等証拠が無く、売上高に関する甲第二十一号証は措信し難いから原告の右主張は採用できない。
二、仕入高
証人金川武の証言によれば金物小売業者の仕入高に対する利益率は平均二五%あることが認められるから、右利益率を以て前段認定の売上高一、八一七、〇八九円から逆算した金一、四五三、六七一円を原告の仕入高と認めるのが相当である。
右に反する証拠は採用しない。
三、経費
(1) 家賃は年額九、二〇〇円を原告が支出していることは当事者間に争がない。
証人井上清澄の証言によれば、店舗の状況から見て右の五〇%が営業に必要なことが認められるから右金九、二〇〇の五〇%である金四、六〇〇円を必要経費と認めるのが相当である。
(2) 電燈料は年額三、三六二円を原告が支出していることは当事者間に争いがない。証人井上清澄の証言によれば店舗と住宅の状況及び電燈数を考慮すると右電燈料の五〇%である一、六八一円が営業用に消費されることが認められるから右に、町内電燈料一五〇円、店用電球代一〇〇円を加えた金一、九三一円を必要経費と認めるのが相当である。
(3) 交際費は当事者間に争いの無い金二、五二〇円だけを必要経費として認める。甲第十六号証は措信しない。
(4) 広告宣伝費については抽せん券代二、〇〇〇円の内二六〇円、盆うちわ代二、一九九円の内一、四一〇円、年賀状二四〇円を除いては当事者間に争がない。もつとも盆うちわについて被告は「盆うちわの内六一〇円を否認する」旨述べていたがこれは原告が先にうちわ代として一、四〇九円を主張したのに対し、被告は此の内七九九円を認める趣旨であり、後に原告はうちわ代を二、一九九円と主張を改めているから結局被告は二、一九九円と七九九円との差一、四一〇円を否認していることが弁論の全趣旨から明らかである。しかして年賀状二四〇円は家事費と認めるのが相当であり、盆うちわの内一、四一〇円、抽せん券の内二六〇円は甲第十八号証、同第十九号証がいずれも措信できないから経費として認めることは出来ない。結局経費として認めることが出来るのは争のない二、八二九円のみである。
(5) 雑費の内争のあるのはラジオ聴取料四二〇円と徳島民報購読代七二〇円であるが、いずれも其の性質上家事費とすべきものであるからこれを除いた二、四一〇円のみを経費と認める。
(6) 雑損金は全額について争いがあるが証人金川武、同蔭山勇の各証言を総合すれば金物小売業者には原告主張のような損害が少くとも仕入高の二%はあり、且つこれは小売業者の負担となつていることが認められる。しかして原告の主張する金二一、一二八円は前段認定の原告の仕入高一、四五三、六七一円の二%以下であるから、その全額を必要経費と認めるのが相当である。
(7) 其の他の経費は当事者間に争いの無い九〇、一一〇円だけを認める。
以上の通り必要経費としては金一二五、五二八円を認める。
四、所得額
従つて原告の同年度の所得額は前段認定の売上高から仕入高と経費とを差引いた金額即ち金二三七、八九〇円とすべきである。
よつて被告がなした原告の昭和二十五年度所得額金二九三、二〇〇円との更正決定の取消を求める原告の請求は右金二三七、八九〇円を超える部分については正当であるからこれを認容し、原告の其の余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 今谷健一 小川豪 白井守夫)
(別表省略)