徳島地方裁判所 昭和28年(行)6号 判決
原告 高橋徳平 外十二名
被告 徳島県知事
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は被告が昭和二十二年六月二十一日徳島県指令勝農第一一六号の一をもつて、なした賃貸人武知熊蔵賃借人加藤源助間の別紙目録記載の農地の賃貸借解約許可は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、別紙目録記載の農地(以下本件農地と略称する)は訴外武知熊蔵の所有であつたが、原告等十三名と訴外加藤源助は昭和十八年四月頃武知から、本件農地を右十四名の共同苗代地として賃料一ケ年金百円、毎年十月末日払、苗代地共同耕作稲藁は地主である武知に売却する約束で期間の定めなく賃借した。従つて本件農地は原告等十三名と訴外加藤源助の十四名が共同して賃借したものであるが、これが契約は同訴外人が原告等を代理して締結した次第である。然るところ武知熊蔵は所謂農地改革に便乗し、本件農地の取戻を企図し予て懇意な加藤源助と相謀り本件農地は加藤が単独で武知から賃借したものであると仮装し、加藤名義の離作承諾書(甲第七号証の二)を作成させた上、昭和二十二年三月二十五日居村高川原村農地委員会を経由し、被告に農地調整法第九条第三項の規定による本件農地賃貸借の解除許可申請(甲第七号証の一)をなし、被告は同年六月二十一日徳島県指令勝農第一一六号の一をもつて右申請を許可した。然しながら、当時本件農地は加藤源助単独賃借地ではなく同人と原告等十三名の共同賃借地であることは、昭和二十二年二月一日現在をもつて行われた農地一筆調査の結果によるも極めて明かであるのに拘らず、高川原村農地委員会は調査粗漏にして右事実を看過し、漫然申請相当の意見を附し、被告も亦農地調整法第九条第三項同法附則第三項(昭和二十一年法律第四十二号)等関係法規の法意を没却し、何等調査することなく前記高川原村農地委員会の意見のみを参酌して右申請を許可したのである。右の次第であるから原告等十三名と加藤源助の共同小作地を加藤単独の小作地なりと仮装してなした武知熊蔵の前記解約許可申請は無効でありこれに基いてなした被告の許可はもとより無効といわなければならない。然るに右武知は被告の許可を唯一の理由に別訴をもつて原告等に対し、本件農地の明渡を求めもつて原告等の正当なる賃借権を侵害しているから、原告等の法律的地位の危険又は不安定を除去するため、右武知の別訴請求原因の唯一の理由である被告の解約許可無効確認を求めるため、本訴請求に及んだと述べた(証拠省略)。
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として本件農地が訴外武知熊蔵の所有に属したこと、右武知が訴外加藤源助を賃借人として昭和二十二年三月二十五日本件農地賃貸借の解除許可申請をなし、被告が同年六月二十一日農地調整法第九条第三項の規定により、右賃貸借解除の許可(乙第二号証)をなしたことはこれを認めるが、被告が右許可処分をなすについては原告等主張の如き違法はなく、処分の無効を来すものではない。すなわち、本件農地の賃貸借は昭和十八年一月武知熊蔵と加藤源助との間に成立したものであつて(乙第一号証)、右加藤は賃借後無断で原告等に対し、土地の一部を同年度の苗代地として使用せしめたものであるので、爾後も引続き使用を継続するからといつて、これをもつて右武知と原告等との間に直接賃貸借関係が成立したものとは認められないから、これが解除について賃貸人武知から、賃借人加藤を相手方とする解除の許可申請をなしたことは正当(仮令転貸借が賃貸人の黙認により成立していたとしても)であつて、これに基いてなした被告の解除許可の処分には何等違法はない。仮りに本件農地の賃貸借が原告等と加藤源助の十四名の共同賃貸借であつたとしても、本件農地使用関係の複雑性に鑑みてその認定は相当困難であり、最後の判定は裁判所の判決を俟たねばならぬ本件の如き事案において、被告のなした調査に不十分の点があり、共同耕作の事実を見誤つたとしても事実上の土地利用関係とそのよつて来る権限の有無との関連性の法律的判断は複雑微妙であるので、被告の許可処分における瑕疵は右処分を当然無効とすべき程に重大且つ明白なものとはいゝ難く、単に取消原因たる瑕疵に過ぎない。
よつて右許可処分の無効を理由とする本訴請求は失当であると述べた(証拠省略)。
三、理 由
按ずるに原告等の本訴請求は要するに本件農地は訴外武知熊蔵より原告等十三名と訴外加藤源助が共同して賃借したものであるから共同賃借人の一人に過ぎない加藤源助が賃貸人と相謀つてなした本件農地賃貸借の解除許可申請に基く被告の許可処分が無効であることを確認する旨の判決を求めるというにあるが、かゝる訴は確認の利益を欠き失当なりといわなければならない。蓋し一定の権利乃至法律関係の存否確認を求める訴は原告が被告との関係で当該権利乃至法律関係の存否を主張するについて正当な利益を有する場合においてのみ認容せらるべきものであつて、本件において被告のなした賃貸借解除許可処分の違法であることが原告等の賃借人として有する権利乃至法律上の地位に対する侵害を伴うものでない限り、原告等は被告に対し該処分の無効なることの確認を求めるにつき右にいわゆる正当な利益を有するものというを得ない。ところで本件農地が原告等主張の如く原告等十三名と訴外加藤源助が共同して賃借したものとすれば、加藤源助は共同賃借人の一人に過ぎないのであるから、同人が単独で賃貸人と合意解除しても、少くとも他の賃借人たる原告等の法律的地位に消長を来すものとは考えられない。従つて被告が違法に右解除を許可したとしても右許可処分の違法であることが、原告等の権利又は法律上の地位に対する侵害を伴うものとは認め難いからである。原告等は訴外武知熊蔵が被告の許可を唯一の理由に別訴をもつて原告等に対し本件農地の明渡を求め、もつて原告等の正当なる賃借権を侵害しているから、原告等の法律的地位の危険又は不安定を除去するために右武知の別訴請求原因の唯一の理由である被告の解除許可処分の無効確認を求めるにつき正当な利益を有する如く主張するけれども、一定の権利乃至法律関係の存否の確認が原告の現在の法律的地位の安定に役立つというためには、そこに法律的な関連のあることを要するのであつて、右の如き場合には、その影響は事実的なものに止まり、法律的関連あるものというを得ない。右の次第で原告の本訴請求は爾余の判断を俟つまでもなく、これを認容し難いから、棄却することとして訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 今谷健一 宮崎福二 山本茂)
(目録省略)