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徳島地方裁判所 昭和29年(行)6号 判決 1958年3月27日

原告 大谷八助

被告 川島税務署長

主文

被告が昭和二八年四月三〇日原告に宛ててなした、原告の昭和二七年度所得額を四六一、三〇〇円、その税額を八一、五〇〇円と更正する、との決定は、所得額三五六、八九五円を超え三九四、七〇〇円まで、その税額四五、三〇〇円を超え五七、九〇〇円までの部分を取消す。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分し、その二を原告の、その一を被告の負担とする。

事実

原告は、「被告が昭和二八年四月三〇日原告に宛ててなした、原告の昭和二七年度所得額を四六一、三〇〇円、その税額を八一、五〇〇円と更正する、との決定は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。

原告は肩書地(国鉄徳島本線牛島駅前)で食料品、雑貨、薪炭日用品等の小売販売営業をなし、数件の貸家を有し、昭和二七年当時村議会議員の公職にあつたが、昭和二八年三月一六日被告に対し、昭和二七年度総所得金額を一四八、四六一円(内訳は、事業所得一〇三、五四一円、貸家料収入三四、三二〇円、村議歳費一〇、六〇〇円)、それから扶養親族控除一二万円、基礎控除五万円を差引き納税額零と確定申告をしたところ、被告は、昭和二八年四月三〇日原告に宛てて右確定申告額中事業所得が過少であるとしてこれを四一六、三八〇円と増額し、総所得を四六一、三〇〇円、その税額を八一、五〇〇円と更正する、との決定をなし、同年五月三日頃通知を受けた。原告はこれを不服として同年六月四日再調査請求をしたところ、さらに、被告は再調査の結果昭和二八年九月三日原告に宛てて、その所得額を四〇九、三〇〇円、(内訳は、事業所得三六四、四一七円、不動産所得、給与所得は確定申告のとおり但し、三七円切捨)。その税額を六三、五〇〇円と再更正する、との再調査決定をなし、即日右通知を受けた。そこで原告は昭和二八年九月一日右再調査決定を不服として高松国税局長に対し審査請求をしたが、高松国税局長は審査の結果昭和二九年三月二二日原告に宛て、再調査決定の一部を取消して、所得額を三九四、七〇〇円(内訳は、事業所得三六四、四一七円、不動産所得二〇、五九二円、給与所得九、七七九円、但し八八円切捨)。とする旨の審査決定をなし、原告は同年三月二四日右決定の通知を受けた。然し、被告が原告に宛ててなした原告の昭和二七年度所得を四六一、三〇〇円、その税額を八一、五〇〇円と更正する旨の前叙原更正決定はその所得額の算定を誤り、全く課税対象を欠く原告に対し、所得税法に基く課税をなした違法の決定で、原告はこれによつて課税額相当の権利侵害を受けたから前叙原更正決定の取消を訴求する。

原告がその後計算したところによると、原告の昭和二七年度所得金額は僅か二七、五一六円にすぎず、その算出基礎は別表一の原告主張のとおりであるが、これをさらに詳説すると、事業所得のうちの仕入先別仕入金額明細は別表二、商品種類別販売原価算出明細は別表三、品種別荒利益率明細は別表四の各原告主張のとおりである。

(立証省略)

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め答弁として、

原告が主張の場所で主張の事業をなし、貸家を有し、昭和二七年当時村議会議員の公職にあり、主張の日時に昭和二七年分所得金額につき主張のように確定申告をしたこと、被告が主張の日時に主張のように更正決定をなし主張の頃右通知をしたこと、原告が主張の日時に主張のように再調査請求をなしたところ、被告が主張の日時に主張のような再調査決定をなし主張の日時にその通知をしたこと、原告が主張の日時に高松国税局長に対し審査請求をなし、高松国税局長が主張のような審査決定をしたことは、すべてこれを認めるが、その他の事実はこれを争う。

原告の昭和二七年度所得は四九四、二六三円、内訳は事業所得四六三、八九二円、不動産所得二〇、五九二円、給与所得九、七七九円であり、その算出基礎は別表一の被告主張のとおりであり、それより過大または過少ではない原更正決定は瑕疵が存在せず適法である。なおこれを詳説すると次のとおりである。

第一、事業所得

原告の昭和二七年度事業所得算定基礎は別表一の被告主張のとおりである。そのうち、原告の攻撃する点について述べる。

一、仕入金額

仕入先別明細は、別表二の被告主張のとおりである。そのうち菓子類、生菓子現金仕入としての脱漏推定額が七〇、七二九円であり、履物類ゴム製品四国足袋は二四八、九四八円である。

二、差益販売原価

原告の前年末および本年末各棚卸高品種別明細は別表三(B)(C)欄のとおりであるが、品目別棚卸高の調査が不能であつたため止むを得ず品種別明細によつた。

三、差益率

通常営業者の売上高に対する差益率は別表五の(1)A欄「収入金額百円当り差益率」のとおりであるが、これを、

収入金額百円当り差益率/100-収入金額百円当り差益率=販売原価百円当り 差益率

の算式で換算した「品目別販売原価百円当り差益率」は別表五の(1)B欄のとおりであるが、本件においては、前叙のとおり差益販売原価は品目別に算定したので、差益率もまた品目別に算定する必要を生じた。そこで、販売原価百円当り差益率の同じ品目を以て構成されているものは算術平均により算出できるから、味噌醤油類一九円、薪炭類一八円、帽子衣料品類三三円、砂糖類六円、化粧品類三三円、紙文具類三一円となり(別表五)、販売原価百円当り荒利益率の異なる品目を以て構成されているものは、「その品種を構成している品目の販売原価百円当り差益率」と「その品目の仕入額の百分比」とにより「加重平均による品種別販売原価百円当り差益率」を算出すると、食料品類二七円、菓子類二九円、履物類二四円、荒物日用品類三一円である。

以上による被告主張販売原価百円当り差益率と別表二による販売原価によつて算定される差益金(別表四)および売上高(別表六)にもとずく事業所得に関する収支計算書(別表一)によると、総売上高に対する差益率は一九%、純所得率は一四%となるのであつて、右被告主張額は適切妥当なものである。

これに対して、原告主張額は合理的根拠に乏しく、青色申告者の備付する帳簿のように正確且つ継続的に記載された帳簿ではない、覚書的なものを基礎として主張されているものであつて、総売上高に対する差益率は一一%、純所得率三%という著しく過少なものであり、小売業の通念を逸するものである。

四、必要経費

原告の必要経費は別表一の被告主張のとおりであるが、原告の攻撃する点について述べると、

1 公祖公課三二、五四四円 その内訳は

(一) 事業税     三〇、六二〇円

(二) 商工会議所会費    二〇〇円

(三) 自転車税       二〇〇円

(四) 固定資産税    一、五二四円

固定資産税賦課総額四、九八〇円のうち土地計二四〇坪に対しては一、二三〇円(坪当り五一円二五銭)、家屋七四・五坪に対しては三、七五〇円(坪当り五〇円三四銭)であり、営業用店舗倉庫計十五坪相当額は一、五二四円となる。

2 火災保険料九五七円

(一) 興亜海上火災運送保険株式会社分三四〇円

右会社との昭和二七年中を保険期間とする契約保険料一、〇二〇円から、別途貸家経費算入ずみ保険料三四〇円と、家事に関連する住宅に対する保険料相当額三四〇円(全額の二分の一)を差引いた額。

(二) 日本海上火災保険株式会社分六一七円

右会社との保険契約に対する保険料一、一一〇円のうち商品保険料三七〇円(保険金額の三分の一が商品保険額の契約)と店舗保険料二四七円(一、一一〇円の三分の二から家事に関する住宅保険料相当額を差引く。右保険契約はしておらず別途貸家経費算入ずみ。)との合計額。

3 償却金三、三〇五円、その内訳は別表七のとおりである。

第二、不動産所得および給与所得

原告の不動産所得、給与所得は別表一の被告主張のとおりである。

(立証省略)

理由

原告が、国鉄徳島本線牛島駅前の肩書地で食料品、雑貨、薪炭、日用品等の小売販売営業をなし、数軒の貸家を有し、昭和二七年当時村議会議員の公職にあつたが、昭和二八年三月一六日被告に対し、昭和二七年度総所得金額を、一四八、四六一円(内訳は事業所得一〇三、五四一円、不動産所得三四、三二〇円、給与所得一〇、六〇〇円)それから扶養親族控除一二万円、基礎控除五万円を差引き納税額零と確定申告したところ、被告は昭和二八年四月三〇日原告に宛てて右確定申告額中事業所得が過少であるとして、これを三一二、八五九円と増額し総所得を四六一、三〇〇円、その税額を八一、五〇〇円と更正する、との決定をなし、同年五月三日頃右通知をなしたこと、原告がこれを不服として同年六月四日再調査請求をしたところ、さらに被告は再調査の結果昭和二八年九月三日原告に宛てて、その所得額を四〇九、三〇〇円(内訳は、事業所得三六四、四一七円、不動産所得、給与所得は確定申告のとおり。)その税額を六三、五〇〇円と再更正する、との再調査決定をなし、即日原告に通知をしたこと、そこで、原告は昭和二八年九月一日右再調査決定を不服として高松国税局長に対し再審査請求をなしたところ、高松国税局長は審査の結果昭和二九年三月二二日原告に宛て再調査決定の一部を取消して、その所得額を三九四、七〇〇円(内訳は、事業所得三六四、四一七円、不動産所得二〇、五九二円、給与所得九、七七九円)とする旨の審査決定をなし、同年三月二四日原告に通知をなしたことは当事者間に争いがない。

一般に、所得税法に基く賦課を受けた者が、税務署長のなした確定申告の総所得額、税額を更正するとの決定を不服として税務署長に再調査請求をなし、税務署長が右更正決定より寡額の再調査決定をした場合の右再調査決定は、再調査が行政庁自身で更正決定を審査するという機能をも有する制度であることからみて、更正決定と再調査決定との差額部分を取消すにすぎず、更正決定を全部取消した後あらためて再更正決定をするというものではないから、その主たる効力も、また、右差額部分を取消すことにあるが、これを不服として、審査請求がなされると、右効力の確定が遮断され、国税局長が審査の結果、再調査決定よりさらに寡額の審査決定をした場合における審査決定は、再調査決定を破棄して再調査決定が当初から存在しなかつた状態とすると同時に、再調査決定の場合と同様に、その主たる効力は、更正決定中の右審査決定との差額部分を取消すということにあるものと解するのが相当である。そして税務署長がなした更正決定と国税局長のなした審査決定とは各々別個の独立した行政行為であるから、その各々の決定を攻撃して取消を求めることができるけれども、更正決定取消の訴を提起しただけで、国税局長のなした審査決定取消の訴を提起しない場合には、審査決定は出訴期間の経過によつて確定するから、それが無効でない以上、審査決定の有する前叙の効力もまた確定するに至るものと解される。本件において、高松国税局長の審査決定は、原告がその通知を受けた時から三ケ月後(所得税法第五一条二項)の昭和二九年六月二三日の経過により出訴期間を徒過した(このことは当事者間に争いがない。)ので確定し、右審査決定が無効であるような特段の事情もないから、被告のなした前叙更正決定は、高松国税局長のなした前叙審査決定により、その差額部分すなわち、所得額三九四、七〇〇円を超え四六一、三〇〇円まで、その税額五七、九〇〇円を超え八一、五〇〇円までの各部分は、すでに取消され確定されているから、この部分については原告はその取消を求める法律上の利益を有しない。よつてこの部分はその他の点の判断を待つまでもなく失当として棄却を免れない。(なお、右部分については、本訴出訴後に前叙事由が発生し取消訴訟の主たる目的が解決された場合であるが、成立に争いのない乙第十二号証によれば、原告が昭和二七年度事業税として納入済のものは一九、八〇〇円にすぎず、他に原告が過納した等特段の事情のない本件においては、原告は、右部分につき、違法宣言判決を求める正当な利益をも有しない。)

そこで、被告のなした更正決定の中取消されていない部分すなわち、所得額三九四、七〇〇円(内訳、事業所得三六四、四一七円、不動産所得二〇、五九二円、給与所得九、七七九円、但し八八円切捨)の適否について判断する。

第一、事業所得

一、収入

(1)  雑収入。弁論の全趣旨からすれば、昭和二七年度雑収入は少くとも昭和二六年度雑収入と同額の四、五〇〇円存在したことを認め得る。

(2)  販売原価。(イ) 前年末棚卸高、本年末棚卸高が別表一のとおりであることは当事者間に争いがない。

(ロ) 仕入高。履物類、ゴム製品の四国足袋からの仕入額については、弁論の全趣旨から成立を認め得る乙第六号証の二によれば、二四八、九四九円であることを認め得べく、各成立に争いのない乙第九、十号証および証人八木亀次の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告が昭和二七年当時正確且つ継続的な帳簿の記載をなしておらないため、生菓子現金仕入として七〇、七二九円程度の脱洩があつたことを認め得る。その他の仕入先別明細はすべて別表二のとおりであることは当事者間に争いがない。

(ハ) 従つて、差益販売原価は別表一の認定欄のように、被告主張のとおりである。

(3)  差益金。被告は品種別差益販売原価(別表一の品種別合計欄)と品種別差益率を乗ずることにより算出されると主張するが、品目別の前年末、本年末棚卸高明細を推算して品目別に差益金を推計することがより正確であるとはいえ、棚卸をすべき時期を経過した後になされる原告の申告を第一次的に考慮すべき本件において、原告が右明細を明らかにすることを全く拒否し(このことは弁論の全趣旨により明白)、且つ前叙のように正確な帳簿の記載がないのであるから、右被告主張のような方法で差益金を推計するのもまた適法である(原告がそれによつて不利益を蒙ることがあるとすれば原告の責に帰すべきである。)と解するのが相当である。

そこで、品種別差益率について検討する。

(イ) 味噌醤油類。成立に争いのない甲第三号証の二(須川清の証人調書)および証人須川清、同尾池隆、同山下利男の各証言および弁論の全趣旨を総合すると、(a)味噌の差益率は二六%強、(b)醤油は須川清方では一升四九円で仕入れ六五円(差益率三二%)で、尾池隆方では現在六五円で仕入れ九〇円(差益率三六%)で各販売していること、(c)酢は三〇円で仕入れ四〇円(差益率三三%)で販売していること、また、原告店舗は須川清、山下利男、尾池隆等と略同じ条件の下に小売商を営み、酢は味噌醤油類中数%の仕入額であり、味噌、醤油は各各略同じ程度の仕入額であることを認め得べく、右認定に反する証人槇野顕の証言は信用し得ず、他に右認定に反しこれを左右し得る証拠はない。右事実によれば、味噌醤油類の差益率は二八%とみるのが相当である。(従つて、この点の被告主張率は過少といわなければならない。)

(ロ) 薪炭類。成立に争いのない甲第二号証の二(戸出五平の証人調書)および弁論の全趣旨を総合すれば、原告と近隣で薪炭商のみを営む戸出五平は、木炭を百五十円で仕入れて百六十円(差益率七%弱)、煉炭を百三十円で仕入れて百五十円(差益率一五%)で販売し、薪炭は差益率一二%であつたこと、原告の薪、木炭の仕入額は略同額、煉炭、たどんは合計して薪炭類中数%にしかすぎないことを認め得べく、他に右認定に反しこれを左右し得る証拠はない。従つて、薪炭類差益率は一〇%とみるのを相当とする。

(ハ) 帽子、衣料品類。証人山下利男の証言によれば、衣料品類の小売は二割ないし三割の差益率があることを認め得べく、帽子も同率とみるのを相当とするから、その差益率は二五%ということができる。

(ニ) 砂糖類。証人山下利男の証言によれば、差益率は七ないし八%であるが、仕入値等により差があることを認め得べく、右認定に反する証人尾池隆、同槇野顕の証言は信用しない。従つて、差益率は被告主張の六%とするのが相当である。

(ホ) 食料品類。成立に争いのない甲第三号証の二および、証人山下利男、同須川清、同岡沢勝三郎、同槇野顕、同生田一(但し、各証言中、各一部認定に反する部分を除く)の各証言を総合すれば、(a)食料品中、乾麺類一箱一、〇〇〇円で仕入れて一、二〇〇円(差益率二〇%)で販売し、全体としての差益率二〇%、(b)乾物中、凍豆腐、干瓢、焼麩、海苔等は差益率二〇%、切こぶ七円五十銭で仕入れて十円(差益率三三%)で販売し、全体としての差益率二〇%、(c)茶のうち番茶二割、上茶三割、全体としての差益率二五%、(d)豆腐油揚のうち豆腐一五円で仕入れて二〇円(差益率三三%)、油揚一さげ九枚一五円で仕入れて二〇円(差益率三三%)で販売しているが、多少目減りがあるので、全体としての差益率三〇%、(e)青果物は全体として仕入値の三割をかけて販売するが目減り等があるので、差益率一五%であることを認め得べく、一部右認定に反する前叙各証人の各証言の一部は信用せず、他に右認定を左右し得る証拠はない。右認定の品目別差益率を、当事者間に争いのない各品目別仕入高食料品類(別表二および別表五の(2))に応じて加重平均をした差益率に換算すると、別表五の(2)のとおり、食料品類の差益率は二三%となる。

(ヘ) 菓子類。各成立に争いのない甲第一号証の七、甲第三号証の二、三、および証人山下利男、同岡沢勝三郎、同須川清の各証言を総合すると、(a)生菓子の差益率は二〇%ないし三〇%、平均二五%、(b)乾菓子は煎餠類百匁五五円で仕入れ七〇円(差益率二七%)、キヤラメル一梱一、〇八〇円で仕入れ一、二〇〇円差益率一一%)で各販売し、ビスケツト差益率一四ないし一五%で、その他を含めて全体としては、差益率二四%であることを認め得べく、右認定を左右し得る証拠はない。右認定の品目別差益率を、当事者間に争いのない各品目別仕入高菓子類(別表二および別表五の(2))に応じて加重平均をした差益率に換算すると、別表五の(2)のとおり、菓子類差益率は二四%である。

(ト) 履物類。成立に争いのない甲第三号証の三(但し、一部認定に反する部分を除く。)および証人岡沢勝三郎、同尾池隆、同青木英恵、同桑原茂昌(但し、一部認定に反する部分は信用しない。)の各証言を総合すると、(a)履物のうち下駄男物七四円で仕入れ九〇円(差益率二一%)、女物六〇円で仕入れ八五円(差益率四〇%)、子供物四〇円で仕入れ五〇円(差益率二五%)、鼻緒三五円で仕入れ五〇円(差益率四〇%)で販売し、全体として差益率三〇%、(b)ゴム製品のうち、長靴三〇〇円で仕入三四〇円(差益率一三%)ズツク靴子供物二〇〇円で仕入れ二三〇円(差益率一五%)、同大人物二三〇円で仕入れ二七〇円(差益率一七%)、雨合羽八〇〇円で仕入れ九〇〇円(差益率一三%弱)、地下足袋二二五円で仕入れ二五〇円(差益率一一%)、ゴム紐六円で仕入れ一〇円(六六%)で販売し、全体として差益率一三%であることを認め得べく、一部右認定に反する証人桑原茂昌の証言甲第三号証の三および右認定に反する甲第一号証の五は信用せず、他に右認定を左右する証拠はない。右認定の品目別差益率を、前叙認定の品目別仕入高履物類(別表五の(2))に応じて加重平均をして換算すると、別表五の(2)のとおりであり、履物類の差益率は一六%である。

(チ) 荒物日用品類。各成立に争いのない甲第一号証の四、甲第三号証の三および証人山下利男、同岡沢勝三郎、同尾池隆(但し、一部認定に反する部分を除く。)の各証言を総合すれば、(a)傘のうち雨傘は一五〇円で仕入れ一八〇円(差益率二〇%)、(b)箒は差益率二五%、(c)雛人形は差益率二五%、(d)上敷は差益率一八%、荒物のうち、たわし七円で仕入れ一〇円(差益率四三%)、馬穴一〇〇円で仕入れ一三五円(差益率三五%)で販売し全体としての差益率二五%、(e)家庭雑貨は(d)と同率の二五%であることを認め得べく、一部右認定に反する甲第一号証の四、証人尾池隆の証言は信用せず、他に右認定を左右し得る証拠はない。傘の仕入額は荒物日用品類中一、五%にすぎないから、荒物日用品類の差益率は二五%を相当とする。

(リ) 化粧品類。証人山下利男の証言によれば、差益率は三〇%であることを認め得べく、他に右認定を左右し得る証拠はない。

(ヌ) 紙文具類。証人山下利男の証言によれば、差益率は二〇ないし三〇%であることを認め得るので、二五%とするのを相当とする。

以上の認定と異なる差益率を示す乙第十七号証の二(昭和二七年分商工庶業等所得標準率表)は、高松国税局管内全地区に亘る平均的数値を表していることはその記載自体から窺われるけれども、本件の場合には適当ではないのみならず、前叙認定のように原告と略同一条件にある小売業者の差益率がより参照せられるべきものであるから、右書証の記載は必ずしも前叙各認定に反するものではない。

また、原告は商品の毀損、腐敗等による自然減少額が本年末において、販売原価一二六、八七〇円存在すると主張するが、右額だけ減少したことを認め得べき証拠はないが、前叙認定のように商品によつては自然減少が考えられ、それは、差益率を算出するについてすでに考慮ずみであるから、あらためてこれを差引く必要はない。

そこで、差益金を算出すると、別表四のとおりで、合計五〇〇、二二七円となり、これが収入合計額である。

(4)  総売上高。差益販売原価と差益金との合計額三、〇九八、四一六円であり、それから雑収入を差引けば、売上高は三、〇九三、九一六円となる。

二、必要経費

必要経費の主張は所得額を減額する事由ではあるが、被告が原告主張額より寡額の必要経費を主張するということは、換言すれば、所得が原告主張額より大である旨の主張の一部を構成するものであり、(所得税法第九条第四号、第十条参照)他方において、更正決定は原告の申告額を更正するということに本質があるから、原則として必要経費についても被告行政庁が立証責任を負うものと解すべく、従つて、被告がその主張額の存在を立証し得ないときは、結局において当事者間に争いのない額は、所得が少となる方の主張額、換言すれば必要経費の大である主張額となるものと解するのを相当とする。そこで、双方に争いのある必要経費について検討する。

(1)  公租公課。各成立に争いのない甲第一号証の二、乙第十ないし十四号証を総合すると、(a)事業税は、被告が更正決定をした当時の調停税額としては、三〇、六二〇円であつたこと、(b)自転車税二〇〇円、(c)商工会議所会費二〇〇円、(d)固定資産税四、九八〇円のうち、土地二四〇坪に対しては一、二三〇円、家屋七四・五坪に対しては三、七五〇円であり、営業用の店舗、倉庫は十五坪であることを認め得べく、他に右認定に反しこれを左右し得る証拠は何ら存在しない。従つて、固定資産税中営業に関する公租公課は一、五二四円(店舗分十五坪の土地および家屋に対するもの)であり、また公租公課全額は三二、五四四円である。

(2)  火災保険料。各成立に争いのない乙第十、十五、十六号証を総合すれば、(a)興亜海上保険株式会社に対する事業用店舗兼住宅一棟の保険料は六八〇円、(b)日本海上火災保険株式会社に対する事業用店舗兼住宅一棟の保険料は一、一一〇円のうち三分の二、他の三分の一は事業用商品に対するものであることを認め得べく、他に右認定に反し、これを左右し得る証拠はない。また、弁論の全趣旨からすれば、右認定の建物のうち事業用と住宅用とは各二分の一宛であることが窺知される。従つて、これらの事実によると、各住宅用分を差引いて両会社に支払つた事業用店舗分保険料((a)三四〇円、(b)三七〇円)および、事業用商品保険料(三七〇円)は、合計一、〇八〇円である。

(3)  減価償却金。事業用固定資産減価償却金が三、三〇五円でその内訳が別表七のとおりである旨の被告主張はこれを認め得べき証拠が存在しないから、当事者間に争いのない九、七六七円(原告主張額)であるとするのが相当である。

必要経費中、当事者間に争いのない科目、数額は別表一のとおりであり、必要経費合計額は一七三、七〇三円である。

三、差引事業所得額

収入合計五〇四、八九九円から必要経費合計一七三、七〇三円を差引くと、事業所得は三三一、一九六円となる。

第二、不動産所得および給与所得

不動産所得二〇、五九二円、給与所得九、七七九円(その内訳は、別表一のとおり。)であることは当事者間に争いがない。

第三、総所得

事業所得、不動産所得、給与所得の合計は三六一、五六七円となる。従つて、被告のなした前叙更正決定中現存する部分、すなわち、所得額を三九四、七〇〇円、その税額を五七、九〇〇円(昭和二七年分の所得税法附則第一表簡易税額表によると、右額であることが明白である。)とする部分は、所得額三五六、八九五円、その税額四五、三〇〇円(扶養親族七人の控除一二万円、基礎控除五万円であることは当事者間に争いがない。)を超える部分は違法であるから取消を免れない。

よつて、原告本訴請求は右の範囲内で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原勝市 荻田健治郎 高木積夫)

(別表省略)

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