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徳島地方裁判所 昭和29年(行)8号 判決

原告 熨斗谷幸雄

被告 徳島県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、被告が昭和二十九年三月九日付徳県税第一〇三号をもつて原告を徳島市東新町一丁目カフエー業「ライト」の遊興飲食税特別徴収義務者としてなした指定はこれを取消すとの判決を求め、その請求の原因として、被告は昭和二十九年三月九日付徳県税第一〇三号をもつて原告を徳島市東新町一丁目カフエー業「ライト」の遊興飲食税特別徴収義務者として指定した。しかしながら遊興飲食税の特別徴収手続において、特別徴収義務者として指定し得べき者は「料理店の経営者その他徴収の便宜を有する者」(地方税法一一九条一項)でなければならないところ、右カフエー「ライト」は訴外吉本淳一の経営に係り、原告はその営業許可の名義人でないのは勿論、実質的意味における経営者でもなければ、共同事業者でもなく、何等徴収の便宜を有するものではない。訴外吉本は経営者として、すでに遊興飲食税特別徴収義務者の指定を受けその登録をしているのであつて、被告は更に原告をカフエー「ライト」の特別徴収義務者として指定したのであるが、経営者以外の者が特別徴収義務者として指定された場合は、その指定を受諾するや否やは被指定者の自由意思によつて決せられるものであつて、指定者の一方的意思表示により徴収義務者としての義務が発生するものではない。よつて原告は右指定に対し同年五月十五日異議を申立て受諾拒否の意思を表示したのに拘らず、被告は同年五月二十六日右異議申立を却下し、原告の意思を無視して徴収義務者として処遇せんとするので被告のなした右特別徴収義務者の指定の取消を求めるため、本訴に及んだと述べ、被告の主張に対し、原告は銀行員の経歴を有し、戦時中は軍需工場を経営したことあり、簿記にも通じているので、余暇としてカフエー「ライト」の事務的記帳を主宰し、経営上の企画に当つているが、経営上の現金出納並に雇傭人の指揮監督は経営者たる吉本淳一が自らこれに当り、原告は一切これに関与しない。又原告は吉本淳一の義兄に当り、カフエー「ライト」の什器備品の所有者でこれを吉本に使用貸借しているが、これらの事実を促えて直ちに原告を実質的経営者又は共同事業者と断ずるのは早計である。更に遊興飲食税の賦課徴収に関する県徴税吏員との交渉は原告のみが当つているが、これは帳簿の記載を主宰している当然の結果であつて、この故をもつて原告を実質的経営者又は共同事業者と断じ得ないことは一般に事務取扱者が税関係の交渉をした故をもつてその交渉者を実質的経営者又は共同事業者と断じ得ないのと同様である。原告が他に職業を有せず訴外吉本の営業に心身共に協力し、生活費の支給を受けてはいるが、原告とその家族の生活全部が吉本に依存しているわけではない。原告は現在においても法律上の職種に分類し得ない収入を保存しており、なお吉本とは同番地上に居住しているが、建物の棟を異にし、主食の購入通帳によつても世帯を異にしていると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中被告が昭和二十九年三月九日原告を遊興飲食税特別徴収義務者として指定したこと、被告が適法期間内に異議の申立をしたこと、及び被告が同年五月二十六日右異議申立を却下したことはこれを認める。被告が原告を遊興飲食税特別徴収義務者として指定したのは次の理由に基くのである。徳島市東新町一丁目二十二番地カフエー「ライト」については昭和二十五年九月三十日訴外吉本淳一から遊興飲食税特別徴収義務者として登録申請があつたので、被告は同訴外人に遊興飲食税特別徴収義務者の証票を交付したが、訴外吉本は爾後昭和二十九年二月までの間において特別徴収義務者として納入義務のある遊興飲食税約三十万円を納入しないので、調査したところ、吉本淳一は原告の妻訴外熨斗谷柳子の弟であつて、カフエー「ライト」の建物は熨斗谷柳子の所有に係り、又「ライト」の営業上必要な什器備品一切は原告の所有に属すること、右「ライト」の事実上の経営、即ち対外的な交渉、雇傭人の指揮監督、帳簿の記帳、営業上の企画等は殆んど原告によつてなされて居り、吉本淳一は名義上経営者に過ぎないことが判明した。故に被告は原告をカフエー「ライト」の実質上の経営者又は共同事業者として現実に遊興飲食税を徴収するについて最も便宜を有するものと認めて、原告を地方税法第十一条及び第百十九条第一項の規定に基き特別徴収義務者として指定したのである。原告が社会通念上経営者と認めらるべき実質を具備していることは右の如き事実のほか、(一)原告は同居家族の最年長者で戸籍筆頭者であること、(二)吉本淳一の義兄であること、(三)遊興飲食税の賦課徴収に関する県徴税吏員との交渉は、原告のみがこれに当つていることから明かである。以上の事実のほか、(一)原告が他に業を有せず吉本の営業に心身共に協力していること、(二)吉本から生計を維持されていることからすれば原告は吉本の共同事業者と称することができる。被告が地方公共団体の租税徴収権を確保するため、訴外吉本淳一のほか原告をもカフエー業「ライト」の特別徴収義務者として指定したことについては何等の瑕疵もない。なお原告は経営者以外の者が特別徴収義務者として指定された場合被指定者が受諾するのでなければ特別徴収義務者としての権利義務は発生しないと主張しているが、行政行為の実効性からしてその効力発生については疑ないと述べた。(立証省略)

三、理  由

被告が昭和二十九年三月九日付徳県税第一〇三号をもつて徳島県税条令第三十八条の規定により原告を徳島市東新町一丁目カフエー業「ライト」の特別徴収義務者に指定したことは当事者間に争ない。ところで遊興飲食税の徴収については特別徴収の方法によらなければならないのであつて、(地方税法一一八条一項前段)、この場合料理店の経営者その他徴収の便宜を有する者を当該道府県の条令によつて特別徴収義務者として指定し、これに徴収させるわけである(同法一一九条一項)。右にいわゆる「料理店の経営者」とは、徴収の便宜を有する者の一例示であつて、その具体的事実について現実に徴収の便宜を有する者であれば、右にいわゆる特別徴収義務者として指定し得べく、ここにいわゆる「徴収の便宜」とは特別徴収義務者が納期限までに遊興飲食税に係る地方団体の徴収金を完納しない場合における督促及び国税徴収法の例による滞納処分に関する地方税法一三二条以下の規定の趣旨を按じ、地方団体の徴税権確保の目的に副うよう解釈しなければならない。このような観点から見れば営業許可の名義人のほか、事実上該事業を経営している者がある場合には、これらの者は共同事業者としてその全部を特別徴収義務者に指定し得るものといわなければならない(地方税法一一条、一一条の三、地方税法施行令一条の二参照)。本件においてカフエー「ライト」の什器備品が原告の所有に属し、これを営業名義人たる吉本が使用貸借していること、原告は吉本の義兄に当り、営業上の収支に関する帳簿の記帳を主宰し、営業上の企画を担当しているのみならず、遊興飲食税の賦課徴収に関する県徴税吏員との交渉は専ら原告がこれに当つていること、原告は他に定職なく、専らカフエー「ライト」の経営に協力していることは当事者間に争なく、証人熨斗谷柳子吉本淳一の各証言によると、カフエー「ライト」の女給の指揮監督、女給の客より受けるサービス料の分配はすべて原告の妻たる熨斗谷柳子がしているのみならず、原告及びその家族は主としてカフエー「ライト」の収益によつて生計を維持して居り、生計費として支給を受けるその額は定額ではなく、仕事にも関係なく、且つその支給は営業成績によつてその都度計算して渡すことになつている事実が認められるから、当事者間に争ない。前示事実と右認定事実を綜合すると、原告はカフエー「ライト」の経営者たる実質を有するものと断ずべく、被告が原告を共同経営者として営業名義人たる吉本淳一と併せて遊興飲食税特別徴収義務者に指定したのは適法である。原告は経営者以外の者が特別徴収義務者に指定される場合は被指定者の承諾を要すると主張するけれども、前叙説示の如く、特別徴収義務者として指定し得べき者は徴収の便宜を有する者であれば足り、料理店の経営者とはその一例示に過ぎないのであるから、特別徴収義務者としての右の要件を具備する限り、経営者とその他の者とにより差異を認める十分な理由がないのみならず、元来遊興飲食税とは料理店、貸席、カフエー、バー、喫茶店、旅館その他これに類する場所における遊興、飲食及び宿泊に対し料金を課税標準としてその行為者に課せられるもので、特別徴収義務者は右の納税者が支払つた税金を当該府県に納入する義務を負担するものであるから、かような義務の発生が被指定者の承諾に係ると解するが如きは徴税法規の趣旨からいつて全く無意味である。よつて原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 今谷健一 山中孝茂 裁判官宮崎福二は出張中につき署名捺印することができない。裁判官 今谷健一)

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