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徳島地方裁判所 昭和33年(モ)400号 判決 1958年11月25日

債権者

右代表者法務大臣

愛知揆一

指定代理人 高橋喜平

大坪憲三

乾唯義

徳島県板野郡松茂村長岸二百二十九番地の二

債務者

北西源治

右訴訟代理人弁護士

福島喜一

主文

当裁判所が右当事者間の昭和三十三年(ヨ)第一七〇号仮処分命令申請事件につき昭和三十三年九月八日

為した仮処分決定は之を認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

債権者指定代理人等は主文と同旨の判決を求め、その理由として

一、債権者は申請外北西市次郎に対し別表一覧表掲記の通り昭和三十三年七月三十一日現在昭和三十二年度申告所得税本税十六万六千三百二十円加算税一万七百五十円利子税二万七千七百六十円延滞加算税一万七百五十円、昭和三十三年度入場税本税八十一万一千七百円利子税十六万八千七百四十円合計百十九万六千二十円の租税債権を有しているが、督促してもその支払をしない。

二、債務者は右北西市次郎の長男で農業に従事しているが別紙目録記載の不動産の所有名義人として登記簿に記載されているものである。

三、ところが債務者は真実は右不動産の所有者ではなく単に登記名義人となつているに過ぎないもので実際は北西市次郎の所有である。すなわち北西市次郎は昭和三十年五月二日申請外鶴岡芳夫から代金五百八十万円で買受けたが、その移転登記申請にあたり、故意に長男である債務者名義に取得登記申請を為し同年五月二日徳島地方法務局受付三九二八号で受理され申請通り登記せられた。

四、債権者は右事実を確認し、昭和三十三年九月二日右市次郎に対する前示滞納税金徴収のため国税徴収法により本件不動産に対して差押処分をしようとしたが登記が右の通りになつているので同人に代位し所有権移転登記手続を求めるため本訴を提起すべく準備中であるが本件物件を他に処分する虞があるから仮処分命令の必要がある。

と陳述し疏明として疏甲第一乃至第五号証第八乃至第十一号証同第十三号証の一の一乃至一一の二を提出し、証人藤井隆雄、同東原利雄、同鶴岡芳夫、同篠原光二、同北西市次郎の証言を援用し疏乙第一号証の成立を認めた。

債務者は債権者債務者間の昭和三十三年(ヨ)第一七〇号不動産仮処分申請事件につき同年九月八日附を以つてした仮処分決定は之を取消す。債権者の本件仮処分申請は之を却下するとの判決を求め、答弁として、申請外北西市次郎は税金滞納額が債権者主張の通り決定せられ、その督促を受けていることは認めるが、本件不動産は真実債務者所有の物であり従つてその登記を債務者名義に為している。と陳述し、疏明として疏乙第一号証を提出し、証人山本国雄、同大住勝美、同北西市次郎の証言を援用し、疏甲第一乃至五号証第十一号証第十三号証の各証の成立を認めその余を不知と答えた。

理由

債権者が申請外北西市次郎に対しその主張の通り滞納税金債権を有していることは当事者間に争いのないところ、(一)疏甲第十三号証の各証、証人北西市次郎(但し後記措信しない部分を除く)、同鶴岡芳夫、同篠原光二の各証言によると別紙目録記載の物件は北西市次郎に於て金策し、売買の交渉をして鶴岡芳夫より買受けこれを債務者名義に移転登記を為したことが認められる。然して(二)本件債務が税金の滞納分であり、その税金が本件物件を使用して営んでいる映画館の入場税等であること(このことは当事者間に争のないところである)(三)その映画館の営業許可名義が北西市次郎名義であり、入場税納税義務者が亦同人名義になつている(共に証人北西市次郎の証言)こと。(四)債務者は主として住所地において農業に従事しており、反対に北西市次郎が別紙目録記載の物件に妻や娘夫婦等と居住して右映画館営業等に専従していること等、それぞれの事実を総合すると、北西市次郎は自らの営業のため自らの資金を以つて本件物件を鶴岡芳夫から買受けたものと推認することが出来る。そしてその登記を便宜自己の長男である債務者名義に為したものと考えられる。疏乙第一号証もそのために買主を債務者と表示し証人北西市次郎も債務者のために買つてやつたと証言しているものと思われ共に全面的に措信するわけにはゆかない。債務者援用の他の証人の証言の場合も同様である。

尚北西市次郎には別紙目録記載の物件以外に農地や住宅を所有していることは当事者間に争いがないが、証人東原利雄の証言によれば到底これらを以つて本件債権を担保することは不可能であることが認められるから、結局債権者の本件仮処分命令の申請は相当である。従つて曩に為した仮処分決定は之を認可することとし申請手続費用は民事訴訟法第八十九条により債務者の負担とする。

(裁判官 桑原勝市)

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