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徳島地方裁判所 昭和33年(行モ)1号 決定 1958年11月21日

申立人 池田静雄 外二名

被申立人 羽の浦町選挙管理委員会

主文

申立人等の本件申立を却下する。

申立費用は申立人等の負担とする。

事実

申立人等の申立の趣旨及び理由は、別紙申請書のとおりで、被申立人の申立に対する意見は別紙上申書のとおりであるから、いずれもこゝにこれを引用する。(疎明省略)

理由

被申立代理人は、本件執行停止の目的となつている告示は、地方自治法施行令(以下単に自治令と略称する)第九十八条第一項の規定による告示であつて、これは広義の行政処分には該当するが作為不作為の執行力を伴うものではなく、一定の事実(議会解散請求代表者から提出の解散請求を受理したという事実)の公表行為にすぎないもので、このような告示の執行停止は、無意味であるから却下さるべきものと主張するので、この点につき先ず判断する。

本件執行停止の目的となつている告示が自治令第九十八条第一項の規定による告示であることは被申立人所論のとおりであるが、同令第百条の二第一項は「普通地方公共団体の議会の解散の投票は前条において準用する第九十八条第一項の規定による告示の日から六十日以内において速かに行わなければならない」と規定しており、本件告示は、単に事業の公表にとどまらず選挙管理委員会に本件告示の日より六十日以内に議会解散の投票を行うべき義務を課し、且同委員会は本件告示をなさねば解散投票に必要な本件告示以後の段階の行政処分を為すことを得ないという効力を持つものであるから、本件告示の効力がその効力の執行を停止される以上選挙管理委員会は、その停止の解除されるまで本件告示以後の行政処分を為す必要なく又為し得ざるに至るのであり申立人等の求めるのは正にこの効果であつて申立人等の本件告示の効力執行停止を求める申立は無意味とは言えず被申立代理人のこの点に関する主張は採用出来ない。

そこで申立人等の主張が許容されるか否かについて検討する。

主張のような本案争訟が、当庁昭和三三年(行)第六号町議会解散請求者署名無効確認請求事件として係属していることは、当裁判所に顕著な事実であり、被申立人が申立人等主張の告示をなした事実は疎明によりこれを認めることが出来る。

申立人等は先ず昭和三十二年八月十七日被申立人が施行した一般選挙(以後前選挙と略称する)については、それを無効とする争訟が提起され、現に高松高等裁判所昭和三十二年(ナ)第四号選挙の効力に関する訴願の裁決取消並に選挙無効訴訟事件として係属し審理中であり、前選挙の効力は未だ確定したものではない。それ故公職選挙法第三十四条第三項の規定により右裁判の確定前に次の選挙を行うことはできないから、議会を解散して次の選挙を実施する目的で解散の投票をなすことは法の許すところでなく、解散を行つても無効であり従つて現在進行している解散手続の解散請求署名簿の署名もすべて無効であると論ずるが、しかし現在進行中の解散投票手続後行われるべき選挙は被申立代理人主張の如く同法第三十三条第二項議会の解散に因る一般選挙と解するのが相当であつて、申立人等主張の如く同法第三十四条第一項の選挙ではないから、同条第三項の規定の適用なく前選挙の争訟確定前でも行い得るものであり申立人等のこの点の主張は採用出来ない。又申立人等は前選挙が無効と判断され確定したならば羽の浦町議会の状態は前選挙以前の状態に還り、現在の羽の浦町議会議員はその地位を失うものであるから、現在の羽の浦町議会議員がその地位を有することを前提として、現在進行中の町議会解散投票手続は無意義、無駄となり町政は混乱し、申立人は償うことの出来ない損害を受けるに至るので前選挙争訟の確定まで現在進行中の解散投票手続はなさるべきでなくこの点より見ても本件執行停止の申立は許さるべきである。

と主張するのでこの点につき述べる。行政事件訴訟特例法第十条第二項に規定する行政処分の執行停止の制度は、本案訴訟の対象となつている行政処分が執行された場合に生ずる償うことの出来ない損害を避けるため認められているものであつて執行停止の裁判について判断の基礎となるのは本案訴訟の請求の理由の有無と本案訴訟の対象となつている行政処分の執行より生ずる状態のみであり、本案訴訟の対象となつている行政処分の結果とは、直接関係のない事項より生ずる状態まで考慮すべきものではない。申立人等は前記(ナ)第四号事件の判決が前選挙無効と判断されたときの状態を仮定して事態の収捨及び蒙るべき損害の救済を考慮せよと主張するけれども右(ナ)第四号の事件の申立人の請求の理由の有無の判断は当裁判所の権限外の事項であり、右事件の結果を、当裁判所が仮定して本件申立裁判の理由とすることは本来許されず且右仮定の状態は本案訴訟の目的となつている行政処分より生ずる状態とは言えず全く別個の訴訟より生ずるもので比喩的に言えば申立人等の主張は現在高松高等裁判所に係属中の昭和三十二年(ナ)第四号事件を本案訴訟として本件執行停止を申立てたと同様であつて、本件によつて審理される範囲外のことと言うべきであり従つて本件申立の理由たり得ず現行法上右の仮定的状態を本件の判断について考慮する道は開かれていない。

更に申立人等は前選挙の原因となつた同年七月二十九日施行の議会解散投票(以下前投票と略称する)についても、その投票を無効とする争訟が提起され現に高松高等裁判所昭和三二年(ナ)第三号投票の効力に関する訴願の裁決取消並に投票無効訴訟事件として、現に高松高等裁判所に係属審理中であり、前投票の効力は未だ確定していない。右争訟において前投票が無効と判決され確定したならば羽の浦町議会の構成は前投票前の状態に還り、前投票の有効を前提とする前選挙は無効となり、現在進行中の議会解散手続及びそれ以後若し行われたとするならばその選挙もその原因を失い甚だしい混乱を招くに至る。それ故かゝる混乱の予期せられる場合は、前投票の効力が確定するまで今回の議会解散手続を進めることは請求権の濫用として無効であり署名簿の署名も無効であると主張する。

右争訟が高松高等裁判所に係属している事実は疎明により認めることができるが、前投票の効力は被申立人が前投票を有効なものとして取扱い、以後法所定の手続を進めている以上、法令に定める手続に基く争訟の結果、前投票が無効と確定するまでは有効なものとして取扱われるのであり、その有効を前提として、すべての行政行為を行うことが行政法上の原則であつて、現在進行中の議会解散手続もそれを進めることはもとより可能である。尚申立人等は前選挙の場合同様前投票の判決が投票無効と判断された時の状態を仮定して本件申立を考慮することを求めるが、この点は前選挙の場合に判示したと同様の理由で本件執行停止事件としては審理の対象外の事項と言わねばならぬ。申立人等は更に、議会が成立するとは議長が選任され、地方自治法第九十六条第一項の議決事項をいつても審議出来る状態になつた時を言い、議長すらない間は未だ議会は成立(申立人等は成立という言葉を存在と同意義に使用している)しないものであるところ、羽の浦町現議会には未だ議長の選任なく議会は成立していないから成立していない議会を解散することは為し得ないことである。それ故存在しない議会の解散を目的とする議会解散投票手続は無効であるから解散請求署名簿の署名は無効であると主張するのでこの点につき判断する。現在羽の浦町議会に議長の選任がないことは疎明により明らかであるが、しかし議会の存在の要件として議長の選任が必要であるとの見解は当裁判所は採らない。自治令百二条には「普通地方公共団体の議会の議員がすべてなくなつた時は解散の投票はこれを行わない。」と規定してあり、この法意よりすれば現在の羽の浦町議会の如く議員二十二名が現存する場合議会が存在することは明らかであり議会が存在する以上地方自治法七十六条第一項所定の議会解散請求をなし得ることは当然であつて、議長の有無により解散をなし得るや否やが左右される実質的理由はないからこの点に関する申立人等の主張もまた採用できない。申立人等は議長が存在しない以上自治令第百四条に規定する議会の弁明書を徴するに由なく又同法第七十七条の解散投票の結果を通知すべき議長がいないから結果の通知もなし得ない。これは議会が存在しないからであると主張するけれども、右二個の規定は、議会解散投票の通常の場合の手続の規定であり、右規定よりたゞちに議長の選任なくしては議会は存在しないとの見解は出てこないし、一般論として言えば議長の選任さえしていなければ如何に普通地方公共団体の議会がびん乱を極めても住民はこれに対し議会解散請求をなし得ないとの見解は住民の直接請求権としての議会解散請求権を認めた地方自治法の法意に反するものであつて、議長の存在しない場合は、右二個の規定の趣旨を出来得るかぎり生かす方法をもつて議会の解散手続を進め得るものと考える。

申立人等は、次に被申立人である選挙管理委員会委員長円乗栄二の配偶者キクヱ及び委員株木三千蔵の配偶者ヒデノが解散請求の署名簿に署名して、右二名の署名がその署名の効力について異議申立の対象となつていたものである。それ故この異議申立の審査手続には、右円乗栄二及び右株木三千蔵は地方自治法第百八十九条第二項の除斥の規定により議事に参与することが出来ないにもかゝわらず参与したのは、右規定に違反したものであるから右異議決定手続は違法なものであり解散請求署名簿の署名も無効であると主張するが右両委員がその各配偶者の署名の審査に参与したことは被申立代理人も認めるところであるが、しかし本条に言う一身上に関する事件とは異議申立の対象となつている者に直接利害関係のある事項に限られると解すべきであるから、選挙管理委員の妻が解散請求の署名簿に署名したのが異議申立の対象となつた場合配偶者に直接利害関係ある場合とは言えないので未だ本条に言う一身上に関する事件とは言えず又業務に直接の利害関係ありとの疎明もないから右円乗委員長、株木委員がその配偶者の署名の審査手続に参与したのは適法でありこの点に関する申立人等の主張もまた理由がない。

以上判断した如く申立人等の執行停止の申立につき理由として主張した事実は、すべて法律上理由がない。元来行政事件訴訟特例法第十条第二項の執行停止の申立が許容されるには、処分執行に因り償うことの出来ない損害の生ずること並にそれを避けるため緊急の必要があることの外に本案の請求につき法律上理由ありと見え且事実上の点について疎明があることを必要とすると解するのを相当とする。そうとすると申立人の本案請求の法律的見解の主張は前示主張以外のことは存在せず、結局有効署名数が総有権者の三分の一に達しないとの疎明もないので、すでにこの点において申立人等の本件申立は理由がないからその余の点につき判断するまでもなく失当なものとして却下すべく、申立費用については、行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八十九条を適用して申立人等の負担とし主文のとおり決定する。

(裁判官 大西信雄 木本繁 三好吉忠)

(別紙)

申立の趣旨

被申立人が昭和三十三年十月十日羽選管第十三号をもつて為したる長尾治と田中正雄を請求代表者とする羽ノ浦町議会解散賛否投票の請求の告示の効力は御庁昭和三三年(行)第六号町議会解散請求署名無効確認事件が確定するに至るまでこれを停止する。

との御裁判を求める。

申立の原因

一、申立人等は昭和三十二年八月十八日被申立人が施行した羽ノ浦町議会議員一般選挙によりて選挙せられたる議員である。

しかし乍らこの選挙は無効とする争訟が法令の定める正規の手続によりて発生しているので未だ選挙は効力が確定したものではなく現に高松高等裁判所昭和三二年(ナ)第四号選挙の効力に関する訴願の裁決取消並に選挙無効訴訟事件として係属し、なお審理中である。

この選挙の効力の確定していないことは公職選挙法第二二〇条一項により被申立人は高松高等裁判所より通知をせられて熟知のものである。

そうして被申立人には同法第二二〇条三項による訴訟の確定の通知は今なお受けていないことも事実であるから公職選挙法第三四条第三項の規定により次の選挙を行うことは出来ないものである。

それ故にこの議会を解散して次の選挙を行うことを目的に解散の賛否投票を公職選挙法の規定で行い得ることは困難である。(未だこのような異例はないから判例はないが法令違反で無効となる)

仮りに議会を解散したといつたとしても、次の選挙は到底行い得られるものではなく、解散の賛否投票を施行したとしたところで昭和三十二年八月十八日施行の選挙の効力について争訟が係属中であることが明かなる以上はこの争訟に於て選挙無効の判決があつたとしたならこの議会解散の投票は行うべき場合でないのに行つた結果となるから勿論無効である。

そうして解散の対象となる議会議員の選挙の効力の確定なくして訴訟係属中なること明かな場合に町選挙管理委員会が解散を行う議会解散請求を受理して是れを賛否投票の施行の前提とすることは人騒がせをするだけのもので無駄である。

二、次に右昭和三十二年八月十八日被申立人たる羽ノ浦町選挙管理委員会が施行した町議会議員一般選挙より以前には被申立人が施行した昭和三十年四月三十日町議会議員一般選挙によりて選挙せられて当選した議員二十二名の一組が選挙の効力も確定しこれには議長も副議長も選任せられており、その任期は昭和三十四年四月二十九日迄有しおるものであるから未だ当選証書の効力も有するし、また当選証書の失効を被告より通知されたものでもない。

この議会は被申立人が昭和三十二年七月二十八日施行した議会解散投票に於て解散に賛成が過半数あつたとの廉によりて解散とされこれが結果の判明は公表通知報告があつたが、地方自治法第八十五条第一項によりて準用する公職選挙法第二〇二条一項による異議の申立同条二項による訴願の提起等を経て現に同法第二〇三条一項により高松高等裁判所昭和三二年(ナ)第三号投票の効力に関する訴願の裁決取消並に投票無効訴訟事件として係属し審理を受けているものである。

このことは被申立人においては公職選挙法第二二〇条一条の規定によりて高松高等裁判所から通知があつたものであり、且つ同条第三項の規定に基く訴訟確定の通知を被告は受けていないことが明かであるから、右議会の解散の投票は未だ結果の確定はないものである。

この第一次議会の解散の投票が効力をないと判決されたときは昭和三十年四月三十日選挙せられている議会議員一組は、解散の投票のなかつた従前の状態にかえりて、その職を行うものであるから被申立人が昭和三十二年八月十八日行つた第二組の議会議員は選挙を行うべき場合でないのに行つたものとして無効となるものである。

そのようなことが明かな場合に更に第二次の議会解散の請求をそのまま実施することは無駄であるのみならず無効である。

三、地方自治法第十三条一項にいう住民の議会解散請求権とはその法意よりすれば議会の議員の一般選挙があつてその選挙の効力が法律上確定し、最早選挙の結果に変更を加えることが出来なくなり、そうしてこの選挙せられた議員によりて議長が選任せられてこれを町長が地方自治法第百四十九条二号に定める議会の議決すべき事件につき議案を提出し、議会は同法第九十六条一項各号の議決事件をいつでも審議出来る状態にあることを成立した議会というべきであるが、昭和三十二年八月十八日被告が選挙を行つて以来議員二十二名に当選証書を交付してはいるが未だ町長において正規の手続による議会の招集をしないし、是れを議員によりて地方自治条第一〇一条の規定に基く招集請求すら無視して招集なく従つて議長なく議員の議席すら決定のない状態である。

本件議会解散請求者代表の長尾治と田中正雄の解散請求の趣旨によるも、

請求の要旨

羽ノ浦町議会は満一ケ年を過ぎた今日においても、いまだに議長すらも決まらず町議会の大局を忘れ、いたずらに分派行動に専念し重要なる問題はなに一つとして解決を見ていない現状である。これは一にかかつて町議会議員全員の責任である。

因つて茲に羽ノ浦町議員の解散を請求する。 以上

とあつて、選挙以来一年経つても未だに議長なくして議会は成立していないものであるから、議会の解散の対象となることには法律上疑義がありこれは議会議員の解職の請求に相当するものである。

議会は成立しておらないのに解散を請求せられる筋合はないから地方自治法第七十六条第一項にいう請求というには条件が適合せず従つて同条第三項に定める議会の解散の投票を施行することは失当である。

右請求の要旨によるも議会議員全員の責任であるというならば同法第八〇条に定める議員の解職の請求として相当するものであるから、被申立人は法令の適用を誤つてこれを行つているものである。

四、また被申立人選挙管理委員会を構成する委員三名のうち、委員長円乗栄二は、その配偶者キクヱが解散請求署名簿に署名しているが、是れが署名の効力について異議申立ての対象となつていたものである。

更に委員株木三千蔵の配偶者ヒデノが解散請求の署名簿に署名してこれが署名の効力について異議申立ての対象となつていたものである。

それ故に本件の異議決定処分の会議には議事に参与することが出来ないものであるのに是れに参与し、そのために補充員を充てた事実もないのであるから地方自治法第百八十九条二項に規定する除斥の規律に違反しているものである。

この除斥の規定に違反して行われた委員会の異議決定処分は適法に成立しないものであり、この除斥の規定に違反して為された異議の決定処分は本人の出席の有無が議決の結果に影響を及ぼさないこと明らかに推定し得る場合であつてもなお有効に成立しないものである。

故にこの議事の決定の不成立は爾後の後続行為はすべて無効となるものであるから、議会の解散の投票までも進行したところがすべて無効である。

五、元来羽ノ浦町に於ては上叙の如く被申立人の誤つた考え方によりて、これが選挙管理委員会の運営執行を町政を乱すための悪用されているものであつて公正を厳守されているものではない。即ち被申立人選挙管理委員会を構成する委員長円乗栄二、委員株木三千蔵、委員岸俊一等委員のすべての者は昭和三十二年七月二十八日施行の第一次議会解散の請求には、右三名ながら本人並びに配偶者とともに解散請求者となつており、これにより明らかに地方自治法第百八十九条の規定に違反し、且つ投票の不正な増減によるもの、告示後に公職選挙法に拠らない投票運動をさせる結果を招来させたり公職選挙法第二百二十六条一項規定の職権濫用による選挙の自由妨害罪を犯したり同法第二百三十五条規定の虚偽事項の公表罪を犯したりなどの不公正なる連続によりて解散の賛否投票に過半数を占めさせたものであつて以上の不公正な選挙(投票)の規定に違反した投票手続きは投票の結果は異動を及ぼすべきおそれがあるとなし前掲高松高等裁判所において昭和三十二年(ナ)第三号事件として争われているものである。

しかも本件の議会の解散の投票を請求して賛否を定めようとするのはこれが原因は羽ノ浦町をして昭和三十二年五月一日をもつて小松島市へ編入合併を既に議決あることに対し町長及び那賀川町へ合併を劃策のもつとも執拗に希望する議員等により那賀川町への合併を策動せられているものなれば第一次議会解散の結果は次の議会議員一般選挙を昭和三十二年八月十八日施行したるも、その第二組の議員は定員二十二名のうち小松島合併派十一名、那賀川合併派十一名にして、町長一派の企図する那賀川町へ合併の議決が実現しないのでこの議会議員は町長において招集せず故に議長なく議席なくして町長の専決処分のままで一ケ年を経過させておいて今また第二次の議会解散の請求へ持ちこんでいるものである。

町長の既に企劃するところは議会解散投票の結果は解散派多数とみてとり、その場合は専決処分によりて定員を減じて二十一名とする議員定数条例を定めて直ちに議会議員一般選挙を被申立人へ施行させ、これによりて議員一名の多数を得て、この議員により直ちに議会を成立させ、すべての争訟事件のまま、この第三組の議会により那賀川町への合併へ押切つてしまう計画であるというべきである。

しかし乍ら全国異例の、第一組議会、第二組議会、第三組議会と定員二十二の議会議員が選挙されても、第一組の議会が厳存し第一次議会解散の投票の効力が無効と判決されたときには、第二組の議会議員選挙(昭和三十二年八月十八日の議会議員一般選挙)は原因なき選挙による議員となつて、消滅し、従つてこの議員等を排除のための議会の解散の投票は素より無益なる投票手続となる、のみならずこれにより更に第三組の議会議員を選挙しても原因のない選挙となるものであり、しかもこの第三組議会によりていかなる法律行為をなさしめておいても、そのすべての行為は無効となるものである。

そうした場合は、この議会解散請求によりて十分意識出来るところであるから、この議会解散請求の告示の効力を一時停止して本案裁判の確定を待つて後に、これが是非を定めるに非ざれば償うことの出来ない結果を招来するに至る。

被申立人が昭和三十三年十月十日羽選管告示第十三号をもつて羽ノ浦町議会解散請求のあつた旨を告示し、議会解散賛否票施行への準備を公告したが、上掲のような不当な投票の強行は徒らに町住民の感情を対立させ、町政を一層混乱させ、感情の対立を激化せしめて、精神的に多大の損害を与えるのみならず投票施行に係りては多大の投票運動による物質的損害も与えるに至る。

そればかりではなく、本件の申立人等議員は高松高等裁判所昭和三十二年(ナ)第三号事件の判決の結果によりても、議員たる資格を失う立場にあり、また高松高等裁判所昭和三十二年(ナ)第四号事件の判決の結果によりても議員たる資格を失うに至る立場にあるのに、更に、この二個の訴訟判決の結果をも待たないで、徒らに解散賛否投票を強行されることは多大の失費と精神消耗によりて、これを解散不賛成多数へ漕ぎつけたとしても右別件の訴訟を二件までも運命づけられており、何等の効力も実益もない投票運動に没頭しなくてはならず、又仮りに第二次解散の賛否投票において投票の結果解散票が多数あつたときは議員たる資格を失つたものとして、次の議会議員一般選挙を施行すること被申立人の既に第一次議会解散賛否投票後における実績もあるのであるから、他日申立人が本案裁判(御庁昭和三三年(行)六号事件)に勝訴しても、現在の地位すら保つことが出来ない損害を、こうむるに至ることは必至であるのである。

以上叙述のような損害を避けるために前記本案裁判の確定するまで右告示の効力を停止することを求めるものである。

六、申すまでもなく選挙管理委員会の署名に関する決定は訴訟の提起があつても当然には、その執行を停止されないのを原則とするが議会の解散の投票に於て過半数の同意があつた場合には、被告の第一次議会の解散の投票の場合の例に徴すれば地方自治法第八十五条一項の規定によりて準用する公職選挙法第三〇三条一項及二項第二〇三条一項等の争訟の如何にかかわらず次の議員の一般選挙は行われているものであるから、今次解散の投票に於ても、これを企画していることが、明かに窺い知られるものである。

そうした場合は本案裁判たる御庁昭和三十三年(行)第六号事件の訴訟の判決が未だないうちに次の選挙も終つて了い、その議会議員の一団(第三組の議会議員)をもつて組織する議会へ提案して町長の好むがままなる方向へ羽ノ浦町を合併を決議せしめるとする事態も十分に予測せられるところであつて、既にあとは野となれ山となれといつた計画を進めることは必至である。

ところで、高松高等裁判所昭和三十二年(ナ)第三号事件の判決があつて第一次議会の解散の投票が無効となつた場合は、こうした第二次の議会解散の対象となる議会議員はその資格は消滅し、第二次議会解散の請求は、原因の基礎を失うものであるから第三組の議会は全く原因なき選挙となるので、いくら町長が慌てて町の合併先を決議させていても、無効となる。

また現に係属中の高松高等裁判所昭和三十二年(ナ)第四号事件の判決があつて選挙無効となつたときは、第二次の議会解散投票は全く意味を為さないこととなる。

更に第二組議員二十二名の選挙の効力は未だ確定していないのであるから、公職選挙法第三十四条第三項の規定によりてその次に公職選挙法を準用して行う選挙は行い得ることに疑問あり、且つたとえ第二次の議会解散の投票があつても、次の選挙を行うことが出来ないものというべきであるから前途の選挙を目的の解散の投票は行うも益なきものというべきである。

更に議会議員一般選挙を行つたとしても、昭和三十二年八月十八日選挙の効力は確定しないのみならず、この選挙に当選したる議員は未だ町長の招集なく、これを地方自治法第百一条により議長選挙ほか緊急なる事件の議定のため議会の招集すら町長はしていないものであるから、被申立人において議会解散請求のあつたときには、地方自治法施行令第一〇四条一項により「議会」より弁明書を徴する義務があるものであり被申立人は是を議会へ求めるべきであるが、議会を代表する議長は未だないから議会へは、解散の請求のあつたことを通知するに由なく、また議会には議長の任命になる書記(地方自治法一三八条第四項第五項)を置くこととなつているが、これには昭和三十年四月三十日選挙せられて成立している議会の議長より任命せられた書記はあつたが、昭和三十二年八月十八日選挙せられた議員に従うことは潔しとせず既に辞任しており、次の議長は未だ生じていないのであるから任命権者はなく議会書記は現存しないのであるから議会は全く構成していないのである。

それ故に議会の解散の請求があつた場合は右施行令一〇四条一項により被申立人は弁明書提出方通知書を議会へ交付するに由ないものである。これは議会は成立なく存在しないからである。

そのために被申立人は議会の解散の請求を受けても、その解散を受けるべき議会がないので議会を構成していない議員個人個人二十二名へ議会の提出すべき弁明書提出方の通知書を交付している。これでは、既に地方自治法第七十六条一項の定める議会の解散の請求を受けて行う被申立人の投票手続ではない。

乃ち議会の解散の請求を受理したときは右法施行令第一〇四条に定める弁明書を議会から徴する義務は法令の規定として厳格に課せられているのに、未だ議会が成立しないために、これを徴することが出来ないのは解散請求の対象たる議会がないからである。されば被申立人が議員二十二名の各個人に対して弁明書提出の通知をするより外に議会へ弁明書提出方の通知をすることが出来ないのは、これは議員個々の解職における手続にはなるが、議会を解散請求の手続ということが出来ない。

而して、その被申立人が徴したる弁明書も議会から徴したるものではなく、両派の議員団からこれを提出せしめてこれを受理しているものであるから、右施行令一〇四条一項にいう法令の定める手続によりて徴した弁明書ではない。

乃ち議員個々の連署によりて、二つの異つた弁明書を受理しているものである。

議会側の弁明書なれば議定した弁明書只一個限りをもつもので、賛否相反する弁明書は全く有り得ないし、且つ議会解散署名簿によりて署名している議員が、これが議会を解散に反する弁明書を提出する議定には参与出来ないものである。

議会の未だ成立していないものを議員になつて一ケ年を経たからといつても町長が法令の規定を無視して議会を招集していないので、議員は当選以来未だ議会に出席して、その職務を行う機会のないままで議会解散の請求があつても被申立人は、これが議会解散請求の投票の手続が既に出来ないから、その義務として課せられている議会の弁明書を徴することが出来ない。

且つまた、仮りに議会の解散の投票が強行せられたところで、その手続として地方自治法第七十七条前段の規定する投票の結果の判明は誰に通知するのか、是は議長にすることを法律上は明文をもつてすることを明示してある。

然るに議会は成立せず議長がないのであるから議会の解散の投票の結果の判明の通知は法令の定める成規の手続では致し方がない。従つて各議員各人へこれを通知するも法令の規定のない議会の解散の結果の判明の通知は議員各人は受領するに由なく結果の判明通知の処分手続は効力が発生しないから、議員は、その職を失うものではない。

また右七十七条後段の規定による投票の結果の確定の通知も明文をもつて議長へ通知されるものであるが、その議長が初より存在しない場合に、これを受理するものがない。

かくの如く議員の当選はあつても、町長が議会を招集しないために議長なく議席なくして議会の成立がなく、且つ地方自治法第百一条に基く議員の請求二回に亘るも招集なく且つ知事勧告によりこれが議会の招集を命ぜられたるも、それでも議会の招集のないのであること明かなる場合しかも招集があつたなら、任期切れ被申立人を構成する委員は改選せられて姿なくなるものであるといつた場合にもなるのであるから議会の招集なく成立しない議会は地方自治法第十三条第七十六条の規定する議会解散投票を行うことは法令の規定に該当がない。

このように弁明書を議員二十二名へ提出方を要請し、また、投票の結果の判明を議長へ通知するに由なく議員各自へ通知するより外にその道なき場合には明らかに地方自治法第八十条の規定による議員の解職を行うべき規定に相当し議会の解散の請求には、あてはまらないものである。

かくして、当初より議会の解散の投票にあてはまらないのにこれを強行しても無効である。

以上のように明らかに投票を行うも既に無効原因が看取されるときに、これを、議会の解散の請求を告示したとして、これにより後続行為を続行しても所詮は人騒がせをするだけで無駄である。

こうした場合は裁判例によれば解散賛否投票の告示に関する効力の停止を命じたるものもある。

乃ち解散請求者署名簿の署名の効力等地方自治法第七十六条四項において準用する同法第七十四条第八項の訴訟の結果によつて解散請求が不成立になるかも知れない不確定な情態に於て、もし投票が行われて、その結果解散によつては、解散賛否投票が過半数を制するようなことがあれば執行停止申立人たる議員等は直ちにその職を失い将来本案訴訟が申立人の勝訴に確定した場合は申立人に償うことの出来ない損害を生ずることは勿論地方公共団体の議員たる地位に不当な空白状態を現出する結果になり、且つ解散請求の成否未定の間に賛否の投票を行うことはいたずらに住民間の対立抗争を激化し町政に重大な支障を来たさしめることになるなど公共の福祉に甚大な影響を及ぼすに至るものといわなければならない。

そして行政事件訴訟特例法第十条第二項にいわゆる処分の執行とは本案訴訟の目的たる当該処分の執行のみならず右の行政処分を条件としてこれに伴つて義務的になさるべき一切の処分の執行を包含するものというべきであるから、この場合議会の解散の請求の告示の効力停止も可能というべきである。

また、申請の原因一乃至五に述べるような事情のもと議会解散賛否投票を執行することは、その結果のいかんによつては、議員である者に償うことの出来ない損害を生ずるに至るものであるからその損害を避けるために右請求手続における署名の効力に関する等地方自治法第七十四条の二第八項に定める訴訟の判決に確定があるまで、解散請求の告示の効力を停止する緊急の必要があるというべきである。

なお地方自治法第八十五条一項において準用する公職選挙法においても、この法より準用しないものは地方自治法施行令第一〇九条に於ては、右選挙法第二一四条、第二一六条、第二一九条を準用しないことを明示されているのは、選挙管理委員会の署名に干する決定は訴訟の提起があつても、当然にはその執行を停止されないが、申請あるとき又は職権により処分の執行の停止を命ずることが出来る道を拓いたものというべきである。(上掲告示の効力の執行停止を容認例としては大津地方裁判所昭和二七年(行モ)第一号同二七年一二月四日行政裁集第三巻一一号273)

(神戸地方裁判所昭和二八年(行モ)第一〇号同二八年一〇月九日行政裁集第四巻一二号348)

而して之を疎明するまでもなく右告示の執行を訴訟確定に至るまで停止されても被申立人は何等の損害を蒙るものではなく、また公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐はないものである。

(町長が議会を招集せず議会は成立しないままで既に一年を超して平然として専決処分を決行しており議会議員として法律行為は何等為し得ない状態におかれているからである。)

七、羽ノ浦町の選挙人長尾治と田中正雄とが町議会解散請求の要旨を掲げて解散請求者署名簿の収集のため請求代表者の証明を申請したとき被申立人は、その資格の審査をしただけはなく、上掲一項記載の事実、第二項に記載の事実はいずれも公職選挙法第二二〇条一項の規定により高松高等裁判所から通知を受けているものであるから法律上公然これを知らなければならない立場にあり、だから審査はいつでも出来るものである。乃ち争訟の未確定という事実がある。

上掲第三項の議会議員の選挙は行われたが、未だ町長は議会を召集することなく議長の選挙すら行われていないので議会は法律上の成立を見ていないものであることは被申立人は町の執行機関である以上同庁舎で所在し、常に熟知の事実であり、のみならず請求代表者の申請の要旨自体に徴するも明らかである。

また議会が成立しなかつたからこそ被申立人を構成する町選挙管理委員円乗栄二、株木三千蔵、岸俊一の三名は昭和三十二年十二月十五日をもつて任期切れであるが、未だに町議会が成立しないため後任者の選挙が出来ないので、いまに於て、そのまま、その職を行つていること(疎九)などに徴しても明らかである。

それ故に右一項、二項、三項の事実に徴すれば審査は容易に出来るものであるから、これが審査を職権をもつて為すべきであるのに是を怠つているから成立していない議会を解散の署名収集を許したものである。

そのため、その後に法令の定める正規の手続を経て職責の管理執行の手続が出来ないものである。

乃ち被申立人は第一次議会の解散請求(昭和三十二年七月二十八日施行)には地方自治法施行令第一〇四条一項に規定する「弁明書提出方通知書」は羽ノ浦町議会議長友成士寿雄へ交付し、他の議員へは出していない。

これが正当な通知書であり議会の代表者へ交付したもので法令の規定によつたものである。(疎十七)

ところが今次の議会解散請求は議会が初めより成立していないのであるから議会を代表する議長がない。

それ故に弁明書提出方を通知すべき議会がない。議会を代表するものなく議会の庶務を管掌する事務書記も全くないのであるから、弁明書提出方を催告する相手方がない。

それで被申立人は苦肉の策として弁明書提出方を「羽ノ浦町議会御中」宛に催告したというが、議会がなく事務当事者すらないのであるから、受領者がない、従つて議会から弁明書を徴さなければならないのに催告先すら全くない。

そこで議員各自へ催告書を二十二名へ一通づつ出しているが、地方自治法第七十六条一項の議会解散請求の弁明書を議員二十二名の各自へ催告するといつた手続方法はない。右法施行令第一〇四条一項のいう弁明書はあくまでも議会から徴することを命令的規律としているものであることを明示しているものであるから被申立人の議会の解散の投票手続は成立していない議会乃ち法律上は既に議員はあれ共未だ議会は無いのであるからら、解散請求の対象とならないものであるのに解散の法律上の手続を行いたいとのつもりでやろうとしているからこのように法令の定める正規の手続きが行い得ないのである。(疎二十一)

また第一次議会の解散の投票では右施行令第一〇四条一項の弁明書を議定のため地方自治法第一〇一条の規定により議会議長ほか正規の議員をもつて町長へ臨時議会招集を請求したが町長の違法措置によりて議会の招集をしないので、やむを得ず議会議員全員協議会を開いて弁明事項を議定し議員十六名連署で弁明書を被申立人へ提出した。(疎十八)

ところが被申立人(構成員は第一次解散請求を管理した円乗、株木、岸の三委員で本件の第二次解散請求を管理しているのも右三名とも同じ委員である。)は議会解散賛否投票の前日に至るも弁明書の公示掲出なく右施行令第一〇四条二項の規定に違反してこれを返却している。

そうして返却処分の理由として、

(イ) 地方自治法施行令第一〇四条の定めるところにより

議会から弁明書を徴さなければならないので

(ロ) 六月二十八日附で(議会の代表者たる)

羽ノ浦町議会の議長友成士寿雄殿に

弁明書提出方を求めたのであります

(ハ) これにより(議会の代表者でない)議会議員十六名から

出された弁明書(疎十八参照)で(は議会から提出した弁明書ということは出来ず)

(ニ) この場合(議会から提出する弁明書とは)は

政令により議会の権限に属する事項ですから

(地方自治法第九十六条の規定により)

議決しなければならないのであると思います。

(ホ) 議決であれば当然

(1) 開議年月日時

(2) 開議の場所

(3) 出席者の氏名

(4) その他必要事項を記入して

(5) 議会の議長の肩書でなければなりません。

右の理由を具体的に述べて(疎十九によりて明らかである)

これに反する弁明書とは認めないとして右施行令第一〇四条一項の弁明書を採用どころか受理しておいて却下処分をしているのである。

そうした先例を遺して処分してあるのであるのに、長尾、田中の両名からの解散請求要旨は議員に当選して以来一年を経ても未だ議長すら選挙されていないから議会の解散を請求するとして議長のないことが理由要旨となつて請求する代表者証明を交付したことは、当初審査不十分による違法により生じているものであつて、施行令第一〇四条一項に定める弁明書を議会から徴することが出来ないことを気ずかなかつた過失によるものか又は、その時限りの強弁で、やり抜こうとした故意によるもので何れによるも成立のない議会を解散しようとすることは、解散の請求を行うべき場合でないのに行つているものであるからこの投票手続は茲に於て行き詰つているから投票規定に違反して行わなければ後続行為は進行出来ないものであり、仮りに後続行為を違法のままで強行しても仮りに議会の解散の投票の結果を通知すべきものは地方自治法第七十七条に明示する議会を代表する議長がないから、通知を受ける議長がないのに、議会の解散の効力が発生しようがない。

そうして被申立人は地方自治法第七十六条に定める議会の解散の投票に関する手続が法令の定める正規の手続によりては行うことが出来ない場合であるのに、これに過失又は故意の何れにせよ、成立なく存在なき議会を法令の規定により解散しようとの手続を進めているものである。

長尾、田中両名の請求の要旨に徴すれば、

地方自治法第十三条第二項

同法第八十条等にいう

議会議員の解職の請求に相当するものであるが、

既に為された是までの議会解散投票の手続のままでは右議員解職の請求に切り替えることは出来ないものというべきであるから、第二次議会解散請求の投票を目的に進めたところで更に争訟が発生すること明らかな場合となつている。こうしたことは本案訴訟たる御庁昭和三十三年(行)第六号の事件で十分の審理を受けられるものではあるが、選挙管理委員会の署名に関する決定は訴訟の提起があつても当然にはその執行を停止しないことを原則とするからといつても、この解散請求により投票を行うべき場合でないのに、こうした法令の適用を誤つてまでも投票施行まで進行させることは、議員等は次の選挙によりて、その職を失うのおそれもあるのであるから、不当な右投票の強行は徒らに町住民の感情を対立、激化せしめて町政を混乱させ、町民に対して、また申立人等議員に対しても償うことの出来ない精神的物質的損害を与えることは明らかであるばかりでなく右投票の結果若し町議会が解散されるときは、法令の規定に伴わないままで一応その資格を失うこととなるのみならず第三組の議会の議員を選挙することは必至の情態となる、そのとき他日右御庁昭和三十三年(行)第六号事件に勝訴しても償うことが出来ない損害を蒙ることは必至である。

しかも被申立人は議会の解散の投票は昭和三十三年十一月二十四日施行することの告示を出すというのであるから、右(行)第六号事件の審理終らざるに投票をして了うこと明らかな場合となつている。

そした損害を避けるために緊急の必要があり、前記(行)第六号事件の確定に至るまで、この事件記載の告示の効力を停止いただき度く申立てるものである。

しかも右公示の執行を訴訟確定に至るまで停止されても被申立人は何等の損害をこうむることなく、又公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れはないものである。

また右本案訴訟は地方自治法第七十四条の二第八項に基く出訴であるから同条第十項に定める訴訟判決も事件を受理した日たる昭和三十三年十月二十二日から百日以内にこれをするよう努めていただけば、そしてまた上告があつても最高裁判所がこの規定により努めていただけば、本案訴訟の確定まで告示の効力の執行の停止を命令いただいても被申立人選挙管理委員会には何等の損害をこうむるものでもなく、また公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがあるというものではない。なおこの申請書を書き終るに際し昭和三十三年十一月四日午後三時頃被申立人は次の如き告示をした。

羽選告示第十五号

告示

徳島県那賀郡羽ノ浦町議会解散投票期日を地方自治法施行令第百条の二第二項の規定により次の通り告示する

昭和三十三年十一月四日

羽ノ浦町選挙管理委員会

委員長 円乗栄二 印

一、投票の期日 昭和三十三年十一月二十四日 以上

よつて被申立人は昭和三十三年(行)第六号地方自治法第七十四条の二第八項の訴訟中でも投票施行の手続を進めているものであり、しかも議会より徴すべき弁明書を徴する議会がないので議員の連名の弁明書二組を掲示している。(これでは議会議員の解職の請求に相当するもので解散とはいえない、こうした場合上掲各項の事実に徴し、投票後にすべてを争はせるというのは、あまりに馬鹿げた話である。)

そうしてこのような場合にこそ、この処分の執行により生ずべき償うことの出来ない損害を避けるため緊急の必要があるというべきであるから申立の趣旨同旨の執行停止命令を申請することに理由ありとして御決定を求めるものである。

因みに附記する。

昭和三十三年十一月五日附徳島新聞(疏二八号証)によれば、セツト版7中段において次の如く報道されている。

浦会 リコール投票日告示

ノ議

羽町 一部で“解決”への動き

那賀郡羽ノ浦町選管委は四日午後一時予定通り町議会リコール投票を二十四日と告示、投票用紙、入場券の印刷準備町内四ケ所(羽ノ浦、岩脇両小学校、古毛保育所、古庄那賀運送車庫)の投票所手配などを急いでいる。

これに対し

岩脇製材業岩城八郎さん(五〇)らの間で

この際合併をタナ上げにして町政を正常化するためリコール投票を中止させようとの動きがあり

この程岸町選管委に

投票日の延期方を申し入れていた。

しかし町選挙委としてはリコール請求が出された以上

議会全員が辞職するか

裁判所が停止命令を出す以外に

かりに請求者本人、全署名人が連署で取下げを要求しても投票を取止めることが出来ないとの見解のもとに、予定通り四日告示したものである。

一方

有吉町長(郡賀川派)

友成議員(小松島派)

らは

岩城さんから正式になんの交渉も受けていないといつているが調停案の内容は

合併をタナ上げするなら議長は那賀川派に渡してもよいか

リコールを中止するものといわれる。

しかし那賀川派の中には

一、リコール停止の方法がない。

二、合併をタナ上げするならばむしろ議長をとらぬ方が有利だ。

三、町議の任期をのばすだけで全く対立した同数議員では今後やはり正常な議会は期待出来ない。

などの点から調停案に難色をみせているものが多いもようである。

こうした現状にあつて本件執行停止命令の申請は法律に基く、リコール中止のため、そのリコール停止の方法として唯一の許されたる方法であり、処分の執行により生ずべき償うことの出来ない損害を避けるため緊急の必要ある場合にあたり、申請に理由ありというべきである。

そうしてこうした場合に執行の停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼす虞れは全く生じない。

それのみではない寧ろ償うべからざる損害を避けることは消極的ながら公共の福祉に寄与するものありというべきである。

まこと議会の解散の投票運動に突入するときは町住民の感情の対立は、いよいよ激化するばかりで町住民を郡賀川派と小松島派とに二分して争うこととなり、また物質的には不生産的な消耗を重ねるのみならず、町民を二分しての争い故に飲食費、嗜好品など日常生活と異る運動風景として出費を余議なくせられ、精神的の消耗は言語に絶するものがあること、既に一年前に体験済である。しかも投票行為には運動のため必要な金品の消耗は相当多額に余議される。しかも、それが法律上何等疑義なく成立している議会ではなく、法律上の議会活動を未だ行つたことのない議員二十二名をもつて、議会が成立しているものとの見解のもとに、リコール請求権を濫用して請求をしているものであること、明らかであるから、このような場合に於ても、こうしたことを主題とする本案裁判の確定前に解散の投票を施行強行して了うことは、償うべからざる損害をこうむるおそれは十分にあるのである。この点十分の御検討を求めるものです。

上申書

申立人 池田静雄 他二名

被申立人 羽ノ浦町選挙管理委員会

右当事者間の御庁昭和三三年(行モ)第一号議会解散請求告示執行停止申請事件について被申立人は左の通り意見を申し述べます。

申立の趣旨に対する意見

本件申立を却下する旨の裁判を求める。

申立の原因に対する意見

第一点

本件申立はそれ自体無意味である。

昭和三十三年十月十日羽選管第十三号の告示は、地方自治法施行令(以下単に自治会と称する)第九八条一項の規定による告示であつてこれは広義の行政処分には該当するが、作為不作為の執行力を伴うものではなく、一定の事実(議会解散請求代表者から提出の解散請求を受理したという事実)の公表行為に過ぎない。従つてこのような告示の執行停止ということは無意味である。

第二点

本件申立の基礎となる本案請求が理由がない。

(一) 申立人等が昭和三十二年八月十八日施行された羽ノ浦町議会議員一般選挙によつて選挙された議員であること及び右選挙につき選挙無効を主張する訴訟が高松高等裁判所において現に審理中であることは認めるが、このため公職選挙法(以下単に公選法と略称する)

第三四条三項により本件議会解散請求ができないとの論旨は法を知らないものである。

公選法第三四条三項とは

(イ) 一般選挙を施行したが左の事由により再選挙を行わなければならない場合(公選法第一一〇条)

<A> 当選人がないとき又は当選人が議員定数に達しないとき

<B> 当選人が死亡者であるとき

<C> 当選人が被選挙権を喪失し、兼職禁止規定に違反し又は請負をやめないため当選を失つたとき

<D> 選挙争訟又は当選争訟の結果当選人がなくなり又は当選人が議員定数に不足したとき

<E> 選挙犯罪により当選人の当選が無効となつたとき

(ロ) 一般選挙を施行したがその後議員に欠員を生じて補欠選挙を行わなければならない場合(公選法第一一三条)

(ハ) 一般選挙を施行したが、その後議員定数が増加して増員選挙を行わなければならない場合(公選法第一一三条)

(ニ) 右前各項記載の事由が生じて、しかも議員又は当選人がすべてないか又はすべてなくなつたため一般選挙を行わなければならない場合(公選法第一一六条)

右(イ)乃至(ニ)の場合において、当初行われた一般選挙につき選挙争訟又は当選争訟が行われている間(争訟前の不服申立の期間を含む)は再選挙、補欠選挙、増員選挙又は公選法第一一六条の一般選挙を施行することができないという規定である。

而して、本件解散請求が成立した場合に行われるべき選挙は公選法第三三条二項に規定された解散による一般選挙であるから、同法第三四条三項の制限を受けない。

尚、申立人等は、昭和三十二年八月十八日施行の一般選挙につき訴訟中であるから選挙の効力が確定していないので解散請求ができないと論じているが、およそ行政行為は所謂公定力を有し、行為と同時に効力を発生し、後に適法な手続で取消されるまでは有効なものとして存続する。選挙においても同様で、選挙管理委員会が当選人の住所氏名を告示した時に当選人の当選の効力を生じ(公選法第一〇二条)これが後に争訟の結果無効と決定されるまでは有効なものとして存続する。よつて前記高松高等裁判所の訴訟の結果を仮定的に想定して議論を進めることは全然無意味である。

(二) 昭和三十二年八月十八日施行の一般選挙の以前には昭和三十年四月三十日施行の一般選挙により選出された議員が二十二名居て議長、副議長もあり、その任期は昭和三十四年四月二十九日迄の予定であつたこと、右議会は昭和三十二年七月二十八日施行の議会解散賛否投票により、解散賛成が過半数あつて解散されたが、この解散投票に対し投票無効を主張する訴訟が高松高等裁判所において審理中であることは認めるが解散投票の結果が確定していないから解散請求をすることができないとの論旨は誤りである。

地方自治法(以下単に自治法と略称する)第七八条によれば議会解散投票において過半数の同意があれば議会は直ちに解散となり、議員はその身分を失い、右投票の日より四十日以内に公選法第三三条二項による一般選挙を行い、これにより選出された新議員は公選法第一〇二条により告示の日から議員の身分を取得するのである。

(昭和二十五年の自治令改正以前は、リコール投票につき争訟中は旧議員は身分を失わないとの規定があつたが、この規定はリコール制度を骨抜きにするので、昭和二十五年の改正により廃止された。)

而して以上のことは、後に争訟によつて無効と決定されるまでは有効なものとして存続するのであるから、前記高松高等裁判所の訴訟の結果を仮定的に想定して議論を進めることは無意味である。

(三) 自治法第一三条一項に関する申立人等の見解は独断に過ぎない。

議会とは議員によつて構成される行政機関であるから、議員が存在しておりさえすれば、それが議会として正常に活動していても、いなくても解散請求の対象となり得る。むしろ正常に活動していない場合こそ住民の批判の対象となることが多いであろう。

解散請求ができないのは、議員全員がなくなつた場合のみである(自治令一〇二条)

(参照長野士郎逐条地方自治法二〇六頁)

尚、申立人等を含む現議員が議会活動をしていることは後述第四点公共の福祉の項に述べる。

(四) 被申立委員会の委員長円乗栄二の妻キクエと委員株木三千蔵の妻ヒデノの両名が解散請求署名簿に署名し、この署名につき申立人等より、自署と認めがたいとの理由で異議申立があり、被申立委員会において審議の結果自署と認め、異議申立を却下した事実はあるが、解散請求署名簿に署名することは自治法第一八九条二項にいう一身上に関する事件又は業務に直接の利害関係ある事件に該当しないから除斥事由にならない。尚右両名はともに農業である。

(五) 申立人等主張の申立の原因第五項につき、昭和三十二年七月二十八日施行の解散投票手続について何等不正は行われていない。

又町長がどのように考えを持つているかは被申立委員会の関知するところではない。

又前述の通り高松高等裁判所の訴訟の結果を仮定的に想定して架空の議論を展開してもはじまらない。

尚申立人等は、自分等が選挙された昭和三十二年八月十八日の一般選挙が無効であると主張しているのであるから、今回のリコールによつて解散させられても何も失うものではない理屈となり、償うことのできない損害を招来することはあり得ないはずである。

申立人等の主張は矛盾も甚しい。

(六) 弁明書の問題について

自治令第一〇四条によると、選挙管理委員会が解散請求を受理したときは議会より弁明書を徴し、これを告示しなければならないことになつている。この弁明書は勿論議会の議決したものでなければ正式のものとはいえない。

昭和三十二年七月のリコールの際には、当時の議会には議長副議長もあり議員の欠員もなかつたので、正常な議決がなし得る状態であつたが、議会の議決を経ない、議員十六名の連署による弁明書が提出されたので、被申立委員会は、不適法としてこれを却下した。

ところが、今回のリコールにおいては、議会の議長、副議長がいまだ決定していないので会議を開いて弁明書を議決することがはじめから不可能な状態であつた。

そこで被申立委員会は、先ず議会宛に弁明書提出方の催告書を発し、尚別に念のため各議員宛にこの旨通知した。議会宛の催告書は議長に交付するのが本来であるが、議長がなく、又議会書記も昭和三十三年七月十一日頃辞任して欠員となつているので、町役場総務係長を兼務する助役に交付した。

被申立委員会の意図としては各議員に通知しておけば議会の会議を開く機会もあり得ると考えたのである。

これに対し議会側は両派議員が協議上、十一名宛の二派から各十一名の連署による弁明書各一通を提出した。

そもそも弁明書を徴する規定の趣旨は、住民より解散を要求された議会に防禦権を与えたものである。従つて前記二通の弁明書が自治令に規定する方式に適つたものでないとしてもともかく全議員の意思がこれらに表明されており、又これ以外に議会全体の意思を表明する方法がないとすれば、これを正式の弁明書に準ずるものとして取扱うのが法の目的にかなうものであると考え、被申立委員会はこの二通を受理して告示したものである。

昭和三十二年七月のリコールの時は一部議員から提出された弁明書であつたので却下したのであつて、今回と同一に論ずるわけにはいかない。

正式の弁明書を提出することが不可能だからとか、或は、解散投票が過半数であつても、解散を通知すべき議長が不存在なので通知できないからとの理由を以て解散請求そのものが無効だという申立人の理論は本末を顛倒したものである。

住民は、このようなかたわの議会だからこそ解散を要求しているのであつて、議会は住民の意思を尊重し、自らを反省しなければならない。

第三点

本件申請は行政事件訴訟特例法第一〇条二項に定める緊急の必要性がない。

解散請求の手続が進行して投票が終了しても申立人等は投票の効力に関する争訟並びに執行停止の途が開けている。

又申立人等が、われこそは町民の代表者であり町民多数の支持を得ていると信ずるのであれば却つて堂々と信を天下に問えばよいし、又解散となつた場合はこれに続く一般選挙に立候補して新議員に当選し、議員としての職場を執る機会を失わない。而も解散投票が無効となれば申立人等ははじめから議員の地位を失わなかつたことになる。

以上の理由により、本件解散投票が施行されても申立人等にとつて償うことのできない損害は生じない。

(参考 松江地方 二七、七、二一判決 行政事件裁判例集三巻六号)

第四点

本件解散投票の手続を停止すれば公共の福祉に重大な影響を及ぼすこと明かである。

昭和三十二年七月議会リコールが行われた理由は、町村合併問題につき県知事勧告の那賀川町合併案に賛成する議員(那賀川派)と、これに反対して小松島市合併案に賛成する議員(小松島派)の二派に分れて対立し、そのため合併問題以外の通常の議案審議も円滑に行われなくなつたため住民がこれを打開しようとしてリコールを行つたものであるが、これに続く同年八月十八日の一般選挙には皮肉にも那賀川派、小松島派全く同数の十一名宛が当選した。

町長は同年八月二十七日第一回の議会を召集し仮議長を定め先ず議長選任の審議に入つたが、両派同数のため議論紛糾し選任の方法が決らず会議は同年九月二日に延長された。

九月二日の議会においても議長問題は解決がつかなかつたが両派協議の末

(イ) 議長選任の件は今後両派が充分に協議し、話合の見通しがついた上で町長が議会を召集し、円満に決定すること。

(ロ) 町の通常の問題は全員協議会で決定し、町長専決処分の形式で執行すること。と町政処理の基本方針を満場一致で決定した。

右基本方針に基き同年九月二十日第一回の全員協議会を開き各種常任を選任し、爾来全員協議会は同年十一月八日(一般町政)、十二月十八日(同)、昭和三十三年一月十五日(議長問題)、二月四日(一般町政)、三月二十七日(議長問題)、四月十八日(一般町政)、四月二十四日(同)五月一日(同)五月六日(同)六月二十三日(同)七月十日(同)と回を重ね又各種委員会は昭和三十二年九月二十八日から昭和三十三年七月八日までの間に二十四回開き通常の町政は議会と町長との相談で行つて来た。

この間議長問題も両派及び民間有志の間で数えきれない位折衝を重ねて来たが遂に決定せず、かくして一年以上も変則な形の議会が続いて来た。従つて合併問題その他町の重要な問題は両派の意見の対立により審議できないまゝである。

ここに至つて住民はこのような議会の現状にあきたらず新しい議会によつて町政を正常に運営して貰いたいと念願し、再びリコールの請求が起り、有権者の半数近くの署名を得ていよいよ十一月二十四日に賛否投票を行うことと決定した。

前述の両派から提出された弁明書を見ても、那賀川派は解散賛成、小松島派は解散反対と議員の半数がリコールに賛成しているのである。

かかる状態において、もし解散投票の手続が停止されると訴訟が完結するまで(最高裁判所まで行くと数年かかる)町政の空白、混乱、両派の対立はますます続くのみならず大多数の町民の希望は失われ、民心は動揺し、どのような不祥事が起るかはかりしれないこと明白である。

以上の理由により本件執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすこと明白である。

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