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徳島地方裁判所 昭和40年(ワ)90号 判決 1968年4月30日

原告

瀬戸内運輸株式会社

被告

有限会社中央タクシー

主文

被告は、原告に対し、金七五五万八、三四〇円及び内金五八四万二、九五四円に対する昭和四〇年四月一〇日以降、内金一七一万五、三八六円に対する昭和四二年九月二二日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金二〇〇万円の担保を供するときは、その勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

一、原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金七八〇万円、及び、内金六〇〇万円に対する昭和四〇年四月一〇日以降、内金一八〇万円に対する昭和四二年九月二二日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「(一) 原告会社は、旅客自動車運送事業を営むもの、被告会社は、一般貸切旅客自動車運送事業をなすかたわら、徳一す三二六七号大型貨物自動車を使用して砂利の運搬業を営むものであり、また、訴外豊田和夫は、被告会社の従業員で、右自動車の運転の業務に従事していたものである。

(二) 右訴外豊田和夫は、昭和三七年三月一七日午前六時一五分頃、被告会社の事業である砂利運搬のため前記大型貨物自動車を運転して徳島県名東郡国府町和田の道路上を進行中、にわかに道路中央線を右側を超える同人の一方的な過失により、反対方向から乗客数十名を乗せて進行してきた原告会社所有の愛媛二あ五二一八号大型乗合自動車(訴外定成要運転)に右大型貨物自動車を激突させ、よつて、右乗合自動車を大破せしめるとともに、その乗客四名を死亡させ、一八名に重軽傷を負わしめ、右重傷者一名はその後その傷害に基く身心衰弱により昭和四〇年一月二四日死亡した。しかして、被告会社は、右大型貨物自動車の保有者として、また、右豊田和夫の使用者として、自動車損害賠償保障法第三条、民法第七一五条により、右事故によつて原告会社の蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

(三) 原告会社の蒙つた損害は次のとおりである。

1  金六〇〇万六、〇二三円(本訴提起までに生じた左記(1)ないし(4)の損害合計額)

(1)  原告会社は、本件事故による死亡者の遺族、負傷者の家族に対し、慰藉料、治療費、旅費等として合計金六一五万六、八一一円、死傷者の救護、その遺家族との連絡等のため社員を現地に派遣し、その旅費として合計金三四万六、六七五円をそれぞれ支出した。しかして、前者について保険金三六九万三、三四九円が給付されたので、差引金二八一万〇、一三七円が損害となる。

(2)  原告会社は、本件事故により破損した乗合自動車の修理費として金九〇万円を支出したが、これにつき保険金五七万六、六八三円が給付されたので、差引金三二万三、三一七円が損害となる。

(3)  右修理のため四四日間乗合自動車の使用が不能となつたが、これを使用運行しておれば一日平均金一万五、〇〇〇円の利益が得られたのであるから、原告会社は、右期間内に合計金六六万円の得べかりし利益を失つた。

(4)  本件乗合自動車は、原告会社が毎年春期に全国的に四国霊場巡拝客を募集して運行している観光バスであるが、昭和三七年度の本件事故によりその安全性に対する信用を著しく失墜した。しかして、原告会社は、従来の実績に照らし、昭和三八年度においては、右観光バスの運行により金四九七万〇、九七〇円(運行台数一八台、参加人員五一〇人)の利益を得ることが可能であつたが、右信用失墜により同年度は利益はわずかに金二七五万八、四〇一円(予定よりも運行台数八台減少、参加人員二二七名減少)にとどまり、その差額金二二一万二、五六九円の得べかりし利益を失つた。

2  金一八六万五、三八六円(本訴提起後生じた左記(1)、(2)の損害合計額)

(1)  本件事故により負傷した訴外山内住蔵は受傷に基づく心身衰弱により昭和四〇年一月二四日死亡したので、原告会社は、その遺族に対し慰藉料等として金一五〇万円を支払つた。

(2)  原告会社は、本件事故により負傷した訴外伊藤花子に対し、更に治療費、慰藉料等として合計金三六万五、三八六円を支払つた。

(四) よつて、原告は、被告に対し、右(三)、1の損害金のうち金六〇〇万円及びこれに対するその損害発生の後である昭和四〇年四月一〇日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金と同2の損害金のうち金一八〇万円及びこれに対する右同様昭和四二年九月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

と述べた。〔証拠関係略〕

二、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「(一) 請求原因(一)の事実のうち、被告会社が徳一す三二六七号大型貨物自動車を使用して砂利の運搬業を営なんでいるとの点及び訴外豊田和夫が被告会社の従業員であつたとの点に否認し、その余の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、原告主張の日時場所において同主張のような自動車衝突事故が発生したことは認めるが、事故の態様、結果及び豊田に過失があつたとの点は知らない。

(三) 同(三)の事実は争う。」

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一、原告会社が旅客自動車運送事業を営なむものであり、被告会社が一般貸切旅客自動車運送事業を営なむものであること、昭和三七年三月一七日午前六時一五分頃、徳島県名東郡国府町(現徳島市国府町)和田の道路上において、訴外豊田和夫(以下豊田という。)が砂利を積載して運転する徳一す三二六七号大型貨物自動車と、旅客数十名を乗せて訴外定成要の運転する原告会社所有の愛媛二あ五二一八号大型乗合自動車とが衝突事故を起こしたことは、当事者間に争いがない。そして、〔証拠略〕を総合すると、右交通事故は、豊田が、右貨物自動車を運転して前記道路を東進中、前方を同一方向に進行していた自転車を追い越そうとしてその自転車の動行にのみ気を奪われ、道路中心線の向つて右側を反対方向から進行してきた原告会社所有の右乗合自動車に対する注視を怠つた過失により、追越しの際右貨物自動車を道路中心線外側に進出させたために発生したものであること、右交通事故により、乗合自動車は大破し、別紙第一、二表のとおりその旅客五名が死亡し、一七名が重軽傷を負つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

二、そこで、右事故により生じた原告会社の損害につき、被告会社に原告主張のごとき民法第七一五条の使用者責任があるか否かを検討する。

徳島社会保険事務所長作成部分につき〔証拠略〕を総合すると

(一)  被告会社は、訴外和田吉郎(以下和田という。)及びその妻和田ミサヲ並びに兄和田常一の三名が社員となつて構成されている会社であるが、その実権は和田が掌握して他の二者はこれに従属し、商業登記簿上は和田ミサヲが代表取締役(和田が取締役、和田常一が監査役)となつているけれども、それは全く形式上のことであつて、同女は会社の運営には実質的に全く関与しておらず、専ら和田がその意思によつて被告会社を経営支配しているものであること。

(二)  訴外岡田幸市(以下岡田という。)は、和田と知合いであつたことから、昭和三六年二月頃被告会社のタクシー運転手として雇用され、これに従事しているうち、同年一〇月頃和田から「車(ダンプカー)を買いたいが、会社(被告会社)の名前にするのはタクシー会社の手前もあり、また大きい事故があつた場合金を取られたりして困るから君の名前を貸してほしい」旨依頼を受けてやむなくこれを承諾し、同人の手によつて購入した大型貨物自動車(ダンプカー=自動車検査証表示の使用者は岡田幸一名義)を使用して「岡田産業」なる名義で営む砂利の運搬の事業に従事したこと。

(三)  和田は、その頃、次々に徳島いすゞ自動車株式会社から合計七台の大型貨物自動車を岡田名義で購入(月賦払)して砂利運搬の用に供していたものであり、本件貨物自動車はそのうちの一台であるが、その購入代金は、頭金は和田振出名義の小切手、その後の分割弁済金の支払は、同人の息子振出名義の約束手形を利用し、実質上被告会社の営業資金、利益金が預託されている和田個人名義の銀行当座預金口座を通して決済され、しかも、その決済事務はすべて同人の命により被告会社の事務員が担当処理していたものであつて、これに岡田が関与したことは全くないこと。

(四)  「岡田産業」の右砂利運搬事業をするについては、砂利の採取販売を業とする四国日ノ出バラス会社の砂利の運搬を請負う必要があつたが、その請負の交渉は、和田が知人である阿部宝の仲介によつて自ら行ない、これについても岡田は全く関与していないこと。

(五)  右砂利運搬のため豊田ほか数名の運転手を雇入れたが、そのほとんどは、岡田が和田の依頼により知人等を物色して和田に紹介し、同人が本人と面接の上雇入れを決定した(特に豊田の場合がそうである。)ものであるのみならず、和田は、雇入れた運転手を被告会社の従業員であるとして健康保険及び厚生年金に加入させていたこと。

(六)  右砂利運搬事業の主たる収入源である前記四国日ノ出バラス会社から支払を受けるべき運搬料の受入れは、和田の命により、被告会社の事務員が集金に赴いて右会社から受領の上、これを被告会社の会計係へ納入し、前記和田の銀行預金口座に払込む方法で行なわれていたこと。

(七)  前記貨物自動車に係る税金、自動車損害賠償保険契約金及び右砂利運搬事業に要する諸経費も、すべて和田の指図により継続的に被告会社が出捐していたものであつて、岡田は当初より「岡田産業」の事業についてなんらの支出もせず、また、和田との関係において岡田の支出は予想されていなかつたこと。もつとも、被告会社の右諸経費出捐については、被告会社の経理上、それが被告会社の「岡田産業」に対する貸付金であるとし運搬料を受入れた際、その貸付金に対する返済があつたものとする取扱がなされていたが、これは、岡田の意思如何に拘らず、和田の指図で、一方的に行なわれていたにすぎなかつたこと。

(八)  和田は、砂利運搬に従事する運転手に対し、仕事に関する種々の指図をしていたし、終業後は、自動車置場がないことから、各運転手に前記貨物自動車を自宅に持ち帰らせて保管させていたものであり、豊田と本件貨物自動車についても同様であつたこと。

(九)  「岡田産業」なるものに別個独立の営業所はなく、その経営のための事務は、和田の指図により、すべて被告会社の営業所において被告会社の事務員の手で処理されていたものであり、「岡田産業」なる名称のもとに砂利運搬に従事する運転手の給料、賞与等の計算支給についても同様の取扱であつたこと。

(一〇)  岡田は、自ら貨物自動車を運転して砂利運搬に従事し、他の運転手と同様に一定の給料の支給を受けていたにすぎず、実質上、「岡田産業」なるものの経営者たる地位にはなかつたこと。

(一一)  豊田は、かかる実態を有する「岡田産業」なるものの砂利運搬事業に従事中に前叙のような交通事故を起こしたものであること。

等の事実が認められ、この認定に反する部分の〔証拠略〕は前掲各証言に照らして措信し難く、また〔証拠略〕は右認定を左右するに足りず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

以上認定の各事実を総合勘案すれば、「岡田産業」なるものは、表面的には一応岡田が経営主体であるとの外観を呈してはいるが、その実質上の経営主体は和田であり、しかも、和田は、被告会社の実権を握つてこれを全面的に支配していたことから、この立場を利用して、「岡田産業」なる名称のもとにおける砂利運搬事業を、事実上被告会社の組織の中で、その組織を通じて会社の実質上の代表者として人的、経済的に管理支配し、被告会社の本来の目的たるタクシー営業のかたわら、その利益のため事実上砂利運搬事業を営んでいたものであつて、客観的には、右砂利運搬事業が被告会社の事業活動の一部と認められる状態にあつたということができる。そして、実際上、豊田その他の運転手らは、和田を通じて、被告会社の組織の支配を受けこれに従属して運転手として事業に従事していたのであるから、被告会社の被用者と認めるを妨げず、被告会社は、豊田の起した本件事故につき同人の使用者として民法第七一五条第一項による責任を負うものと解するのが相当である。

三、進んで損害の点につき判断する。

〔証拠略〕を総合すると、

原告会社は、

(一)  本件事故による別紙第一表の1ないし4の四名の死亡者の遺族、別紙第二表の一七名の負傷者並びに生存中の右第一表5の山内住蔵及びその家族に対する慰藉料、治療費、旅費等、死傷者の救護並びに遺家族との連絡のため社員を現地に派遣した旅費等及びこれらに付帯関連する雑費用として、本訴提起の日(昭和四〇年三月一六日)までに合計金六三四万〇、四一七円(明細は別紙第三表のとおり)を支出し内金三六九万三、三四九円は保険金で填補されたこと(差引金二六四万七、〇六八円)。

(二)  本件事故により破損した乗合自動車の修理費として川崎航空機工業株式会社岐阜製作所に対し右本訴提起前に金九〇万円を支払いし、内金五七万六、六八三円は保険金で填補されたこと(差引金三二万三、三一七円)。

(三)  原告主張のとおり(請求原因(三)1の(3)、(4)のとおり)、合計金二八七万二、五六九円の得べかりし利益を失つたこと。(なお、右(3)の点については、甲第五六号証の証明書によれば乗合自動車の修理期間が昭和三七年三月三〇日から同年四月二九日までの三一日間であることが認められるが、本件事故発生が同年三月一七日であつて同日から右修理開始日までの間及び修理完了後搬送に要する期間を合わせると、使用不能期間は少なくとも原告主張のとおり四四日であつたと認められ、また、右(3)、(4)の逸失利益額については、甲第五八、五九号証の統計等に照らし、特に反証のない本件においては原告主張額は極めて蓋然性に富むものと認める。)

(四)  右(一)のほか、本訴提起後、本件事故に起因して死亡するに至つた被害者山内住蔵(別紙第一表の5)の遺族に対し昭和四一年一〇月二日頃慰藉料等として金一五〇万円、予想外に長期治療を要した本件事故による負傷者伊藤花子(別紙第二表の2)に対し更に昭和四〇年一一月一五日頃治療費、慰藉料等として金二一万五、三八六円、合計金一七一万五、三八六円を支払つたこと。

が認められ、これに反する証拠はない。なお、原告主張の損害額中、右認定額を超える金額については、これを認めるに足る証拠がない。(なお、〔証拠略〕によれば原告会社は地蔵尊建立費として金二〇万円を支出したことが窺われるが、右支出は本件事故と相当因果関係にある損害とは認め難い。)

ところで、右(二)、(三)の支出及び利益喪失が本件事故と相当因果関係のある通常の損害であることは明らかである。そして、右(一)、(四)の支出について考えるに、原告会社のごとき旅客自動車運送業者が旅客運送中の衝突事故により乗客に損害を及ぼした場合には、乗客は当然のこととして業者に対して損害の賠償を求めてくるのが通常であり、業者としては、顧客に対する信用保持の見地から、事故が衝突した相手方の過失により生じた場合でもそれを理由にその支払を拒むことは事際上困難であつて、結局自動車損害賠償保障法三条の趣旨に副つてその賠償をせざるを得ないものと思われ、〔証拠略〕によれば、右支出は、このような事情に加え、当初加害自動車の使用者と目されていた岡田に資力がなく、しかも同人が間もなく行方不明になつてその責任追及のすべがなくなつた情況において、やむなくなしたものと推認され、且つ、その金額も、本件事故の規模、態様、業者と顧客との関係、前掲証拠により認められる、乗客に関東地方の住民が相当いた事実その他本件に顕われた一切の事情から判断し相当なものとして首肯し得るから、原告会社の右支出も本件事故と相当因果関係のある通常の損害とみるのが相当である。

四、そうすると、被告会社は原告会社に対し、前項(一)、(二)、(三)の損害金合計五八四万二、九五四円及びこれに対する損害発生の後である昭和四〇年四月一〇日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金と同(四)の損害金一七一万五、三八六円及びこれに対する右同様の昭和四二年九月二二日以降年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、その限度で原告の本訴請求を正当として認容すべきであるが、その余の請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきである。

五、よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 深田源次 山脇正道 原田三郎)

(別紙)

第一表

<省略>

第二表

<省略>

第三表

<省略>

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