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徳島地方裁判所 昭和43年(む)18号 決定 1968年1月20日

被疑者 元井靖

決  定 <被疑者氏名略>

右の者に対する贈賄被疑事件について、昭和四三年一月六日徳島地方裁判所裁判官田村承三がした接見等禁止一部解除の裁判に対し、同月一七日徳島地方検察庁検察官竹内陸郎から右裁判の取消を求める旨の準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の理由は、検察官提出にかかる準抗告申立書に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

二、本件勾留及び接見禁止等関係記録によると、被疑者は、昭和四三年一月一〇日、贈賄罪の容疑で徳島刑務所に勾留され、且つ、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして公訴提起に至るまで刑事訴訟法第三九条第一項に規定する者以外の者との接見並びに書類その他の物(但し、衣類、食糧、寝具、洗面具、チリ紙を除く)の授受を禁止されたこと、同月一六日徳島地方裁判所裁判官田村承三において、被疑者の弁護人藤川健の申出により、右接見等の禁止を一部解除し司馬遼太郎著「竜馬がゆく(立志篇)」(文芸春秋社版)など五冊の書籍の授受を許可する旨の裁判をしたことが明らかである。

三、そこで、まず本件準抗告申立の適法性について考えてみるに、接見等禁止の取消、解除は裁判所ないしは裁判官が職権によつてなすものであつて、当事者その他の者にその請求権がなく、当事者らの取消、解除の申出は職権発動を促すものにすぎないものであるが、このような現行法の建前から、右取消、解除の裁判に対しては不服申立の途がないとする見解もあり得るけれども、かかる見解は、被疑者の接見等の禁止につき検察官にその請求権が認められており(刑事訴訟法第二〇七条第一項、第八一条)、その取消、解除については犯罪捜査の職責を負う検察官が最も重大な利害関係を有することに鑑み、当を得ないものというべく、なお、文理上もその禁止の取消、解除の裁判が同法第四二九条第一項第二号の「勾留……に関する裁判」にあたると解することができるから、接見等禁止の取消、解除の裁判に不服のある検察官は右規定に基いて準抗告の申立をすることができるものと解するのが相当である。

四、よつて進んで本件準抗告申立の当否について検討するに、前述のとおり、本件接見等の禁止は公訴提起に至るまでに限つてなされているものであるところ、検察官が、被疑者に対する本件被疑事実につき昭和四三年一月一九日当裁判所に公訴を提起したことは当裁判所に顕著な事実であるから、それによつて本件接見等の禁止自体が自動的に解除されたものというべく、従つて、右公訴提起後の現在その一部解除の原裁判については、その当否を論ずるまでもなく、もはや準抗告をもつて争う利益はなくなつたと解するのが相当であり、本件準抗告の申立は理由なきに帰するといわざるをえない。

よつて、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 深田源次 原田三郎 山脇正道)

準抗告申立書<省略>

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