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徳島地方裁判所 昭和56年(ワ)377号 判決 1985年1月22日

甲事件原告・乙事件被告

阿波急行運輸株式会社

甲事件被告・告知人、乙事件原告

関西設備工業株式会社

乙事件被告、甲事件被告知人

田中仁志

ほか二名

主文

一  甲事件被告・乙事件原告は、甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸株式会社に対し、金一六三万二六一〇円及びこれに対する昭和五六年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸株式会社のその余の請求を棄却する。

三  甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸株式会社、乙事件被告濱田恭二は、甲事件被告・乙事件原告に対し、各自金一三万七七九三円及びこれに対する昭和五六年八月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  甲事件被告・乙事件原告の、甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸株式会社、乙事件被告濱田恭二に対するその余の賠償請求及び乙事件被告田中仁志・同片山建設株式会社に対する賠償請求を棄却する。

五  甲事件被告・乙事件原告の乙事件被告片山建設株式会社、同濱田恭二に対する本件求償請求に関する訴えを却下する。

六  訴訟費用中、甲事件に関する費用は、これを一〇分し、その七を甲事件被告・乙事件原告の負担とし、その余は甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸株式会社の負担とする。乙事件に関する費用は、甲事件被告・乙事件原告と甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸株式会社、乙事件被告濱田恭二との間においては、前者に生じた費用の二分の一と後二者に生じた費用との合算額の一〇分の三を後二者の負担とし、その余を前者の負担とし、甲事件被告・乙事件原告と乙事件被告田中仁志、同片山建設株式会社との間においては、全部前者の負担とする。

七  この判決の第一項は、甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸株式会社が甲事件被告・乙事件原告に対し金五〇万円の担保を供するときは甲事件被告・乙事件原告に対して、同第三項は、甲事件被告・乙事件原告が甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸株式会社、乙事件被告濱田恭二に対しそれぞれ金四万円の担保を供するときはその被担保提供者に対して、仮に執行することができる。

事実

(甲事件)

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1 甲事件被告は、甲事件原告に対し、金二三三万二三〇〇円及びこれに対する昭和五六年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は甲事件被告の負担とする。

3 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 甲事件原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は甲事件原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1 事故の発生

(一) 日時 昭和五六年八月六日午前二時二〇分ころ

(二) 場所 高速自動車国道名神高速道路上り京都南1C~京都東IC間の中間付近(以下「本件事故現場」)

(三) 加害車 訴外多久島博(以下「訴外多久島」)運転の普通乗用自動車(以下「B車」)

(四) 被害車 訴外原田幸一(以下「訴外原田」)運転の営業用貨物自動車(以下「D車」)

(五) 態様 本件事故現場は、内側より順に追越し車線・走行車線・登坂車線からなる片側三車線である。訴外多久島は、右追越し車線上を時速約一〇〇キロメートルの高速度でほか事を考えながらB車を運転して前方注視を怠つたため進路前方右端に停止していた乙事件被告濱田恭二(以下「乙事件被告濱田」)運転の普通乗用自動車(以下「A車」)に追突し走行車線内に突き出て横向きに停止したにもかかわらず、何らの危険防止措置を講じないで放置したため、それから五分ほど後に時速約七〇キロメートルで走行車線上を走行してきたD車をしてB車の後部に追突大破せしめた。

2 責任原因

本件事故は、甲事件被告の従業員たる訴外多久島がその業務執行中に安全運転義務に違反し、かつ、危険防止措置を講じなかつた過失によつて発生したものである。

3 損害 二三三万二三〇〇円

甲事件原告は、本件事故により、次のとおり損害を被つた。

(一) 一四五万円 D車の廃車による損害

(二) 九万五八〇〇円 本件事故現場からD車を前記車道以外の場所に移動させるのに要した費用

(三) 八万六五〇〇円 D車の積み荷につき、代替車両による運送を余儀無くされたことによつて要した費用

(四) 七〇万円 D車の代替車両購入までの運行休止期間三五日間における一日二万円の割合による補償費

よつて、甲事件原告は、甲事件被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、金二三三万二三〇〇円及びこれに対する弁済期の経過した後である昭和五六年一一月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実のうち、(五)は争い、その余は認める。

2 同2の事実のうち、本件事故当時訴外多久島が甲事件被告の従業員であつたことは認め、その余は否認する。訴外多久島は、本件事故直後失神していて危険防止措置を講じることは不可能であつた。

3 同3の事実は否認する。

三  抗弁

仮に甲事件被告に過失があるとしても、訴外原田には、大型貨物自動車のD車を時速七〇キロメートルで運転進行中、右前方一〇〇メートルの進路上に停止中のA車に気をとられて、前方注視を欠いたまま漫然進行を継続し、ほとんど衝突の瞬間までB車を発見できなかつた重大な過失がある。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実のうち、訴外原田の過失の点を否認し、その余は認める。

(乙事件)

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1 乙事件被告らは、乙事件原告に対し、各自金四五万九三一二円及びこれに対する昭和五六年八月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 乙事件被告片山建設株式会社(以下「乙事件被告片山建設」)、乙事件被告濱田は、乙事件原告に対し、乙事件原告が甲事件原告に金二三三万二三〇〇円を支払うのを条件として、各自金二三三万二三〇〇円を支払え。

3 訴訟費用は乙事件被告らの負担とする。

4 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 乙事件被告阿波急行運輸株式会社(以下「乙事件被告阿波急行運輸」)

乙事件原告の請求を棄却する。

2 その余の乙事件被告ら

(一) 乙事件原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は乙事件原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1 賠償請求

(一) 事故の発生

(1) 日時・場所 甲事件請求原因(1)の(一)(二)と同旨

(2) 加害車 A車・D車のほか乙事件被告田中仁志(以下「乙事件被告田中」)運転の普通乗用自動車(以下「C車」)

(3) 被害車 B車

(4) 態様 本件事故現場の道路状況は、甲事件請求原因1の(五)と同旨であつて、まずA車が追越し車線上に停止し、そのA車の左後部に同車線上を走行してきたB車の右前部が接触した後走行車線上に前部を北にして横向きに停止し、そのB車の左前部と同車線上を走行してきたC車の右側後部とが衝突し、右B車の左側面と同車線上を走行してきたD車の前部とが衝突し、その結果B車が大破し廃車となつた。

(二) 責任原因

(1) 乙事件被告阿波急行運輸は、訴外原田の使用者である。訴外原田は、その業務執行中に前方不注視の過失により本件事故を発生させた。

(2) 乙事件被告田中は、前方不注視の過失によりC車をもつてB車との衝突事故を発生させ、かつ、B車の運転者(訴外多久島)が重傷を受け、意識もうろうとしていて危険防止措置を期待できない状況にあつたのに、B車の危険防止措置を講じなかつた。

(3) 乙事件被告片山建設は、乙事件被告濱田の使用者であり、日ごろA車を自己の業務に使用していた。このような事情下に、右濱田は、外形的に見て右片山建設の業務の執行としてA車を運転中、追越し車線上に停止しながら何らの危険防止措置を講じなかつた過失により本件事故を発生させた。

(4) 乙事件原告が被つた損害については、A車・C車・D車の三車によつて引き起こされた一連の事故によるものであるから、右三車の運転者・使用者の共同不法行為責任を構成する。

(三) 損害 四五万九三一二円

B車は、本件事故により大破して修理不能となり、乙事件原告は、その時価相当額四五万九三一二円の損害を被つた。

よつて、乙事件原告は、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、乙事件被告らに対し、各自金四五万九三一二円及びこれに対する昭和五六年八月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 求償請求

(一) 乙事件原告は、甲事件において、甲事件原告から、前記B車とD車の衝突事故により二三三万二三〇〇円の損害を被つたとして賠償請求を受けている。

(二) 乙事件原告が、甲事件において敗訴し、右請求金額を支払うことを条件として、共同不法行為者である乙事件被告片山建設・同濱田に対する求償請求権の行使としてあらかじめ本訴求償請求をなす必要がある。

よつて、乙事件原告は、将来発生すべき求償請求権に基づき、乙事件被告片山建設・同濱田に対し、乙事件原告が甲事件原告に金二三三万二三〇〇円を支払うのを条件として、各自金二三三万二三〇〇円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 乙事件被告阿波急行運輸

(一) 請求原因1の(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、(4)は争い、その余は認める。

(三) 同(三)の事実のうち、B車破損の点を認め、その余は不知。

2 乙事件被告田中

(一) 請求原因1の(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、(2)は否認し、(4)は争い、その余は不知。

(三) 同(三)の事実は不知。

3 乙事件被告片山建設・同濱田

(一) 請求原因1の(一)の(1)ないし(3)の事実は認める。同(4)の事実のうち、B車とA車については、B車右前部がA車左後部に激突し、B車とC車については、C車右側後部とB車左前部とが接触したのであり、その余は認める。

(二) 同(二)の(3)のうち、乙事件被告片山建設が乙事件被告濱田の使用者であることは認め、その余は否認する。同(二)のその余の事実は争う。

(三) 同(三)の事実は不知。

(四) 請求原因2の事実は争う。

三  抗弁(請求原因1に対する)

本件事故の発生については、乙事件被告らに過去があるとしても、乙事件原告にも、前方注視及び危険防止措置を怠つた過失がある。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

(証拠)

証拠の関係は、甲乙各事件訴訟記録中の書証・証人等各目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  衝突事故の発生状況について

昭和五六年八月六日午前二時二〇分ころ、本件事故現場について、A車・B車・C車・D車の四車による一連の衝突事故が発生したこと、本件事故現場は、内側より順に追越し車線・走行車線・登坂車線からなる片側三車線であること、は当事者間に争いがない。

成立に争いない甲事件乙第一号証の一・二、第二ないし第五号証、第六号証の一・二、第七、第八号証、第九及び第一〇号証の各一ないし四、第一一ないし第一七号証、第一八号証の一ないし五、第一九ないし第二三号証、乙事件甲第六号証の一・二、第七ないし第一〇号証、第一一号証の一・二、第一二、第一三号証、第一四及び第一五号証の各一ないし四、第一六ないし第二二号証、第二三号証の一ないし五、第二四ないし第二八号証、第三六、第三七号証、証人原田幸一・多久島博の各証言を総合すると、本件事故現場は、見通しの良好なアスフアルト舗装の直線路で、追越し車線・走行車線は各三・七メートル、登坂車線は三・五メートルの幅員を有し、付近には照明等がなくて夜間は非常に暗く、前照灯の照射を下向きにした走行自動車から前方停止自動車の尾灯によりその停止状況を確認しうる距離は七〇メートル強(前照灯の照射を上向きにしていた訴外原田は約一〇〇メートル前方から発見しえている。)であり、最高速度は時速八〇キロメートルに指定され、本件事故当時晴れで路面は乾燥し、交通量は少なくて比較的閑散としていたこと、乙事件被告濱田は、建設現場監督として乙事件被告片山建設に勤務し、自己所有のA車(白色)を勤務外で私的利用に供していたこと、右濱田は、酔余、気晴らしにドライブしたくなり、本件事故当日午前二時二〇分ころ、A車を運転して本件事故現場付近に差し掛かつた際、自車のスピードメーターをいちべつして時速一〇〇キロメートルであることを確認し、視線を正面に戻したところ、先行車が停止しようとして減速にかかつているのに気付き、急停止の措置に出たが及ばず、A車の前部を先行車の後部に追突させ、その衝撃によつてA車がエンジンの故障を起こして追越し車線の右端寄りに停止したこと、そこで、右濱田は、右方向指示器と尾灯を点灯して下車し、それから若干間を置いてA車の後部左側にB車の前部右側が追突したこと、訴外多久島は、甲事件被告・乙事件原告の従業員であつたが、本件事故当日午前二時二〇分ころ、日ごろ私用を含め自己の専用車として使用していた甲事件被告・乙事件原告所有のB車を運転し、追越し車線上を前照灯の照射を下向きにし、時速約一〇〇キロメートルで本件事故現場付近に差し掛かつた際、借金返済の件で友人に会つての帰途のこととてそのことで思い悩み、前方に停止中のA車に約二〇メートルに接近して初めてこれに気付き、何らのなすすべも無くB車をもつて前記A車との衝突を生じ、更に右側ガードレールに衝突後転回して前部を大きく走行車線内に突つ込んでほとんど横向きの状態で停止したこと、その際、右多久島は、右足膝部に重傷を負つたが、自力でB車より降り立ち、駈け付けてきた乙事件被告濱田に連れられて中央分離帯に避難し、それから若干間を置いて走行車線上を走行してきたC車の右側面後部フエンダーがB車の左側前部付近を擦過し、それから二、三分して走行車線上を走行してきたD車の運転席右側ステツプ付近がB車の左側前部フエンダーに衝突したこと、乙事件被告田中は、C車を運転して、走行車線上を時速七、八〇キロメートルで進行中、行く手に立ちふさがつているB車に一〇メートルほどに接近して初めてこれに気付き、左に急ハンドルを切つたが及ばず、前記B車とC車との擦過事故を生じ、C車に軽微な擦過損を被つたこと、訴外原田は、甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸に自動車運転手として勤務する者で、本件事故当日午前二時二〇分ころ、右勤務先所有のD車を運転して業務に従事中、走行車線上を前照灯の照射を上向きにして時速約七〇キロメートルで本件事故現場付近に差し掛かつた際、進路右前方約一〇〇メートルの地点にA車が停止しているのに気付いてこれにかなり気をとられ、再度視線を正面に傾注したところ、行く手間近に立ちふさがつているB車に気付き、急停止の措置に出ると同時に左に急ハンドルを切つたが及ばず、前記D車とB車との衝突を生じ、更にD車は左前部を左側端ガードレールに衝突させたこと、が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によると、A車の運転者たる乙事件被告濱田は、酔余の高速道路での運転により追突事故を起こしてA車を停止させ、その付近が非常に暗い場所であるのに、尾灯と右方向指示器を点灯したのみであつた点において過失を免れないのであるが、A車に追突したB車の運転者たる訴外多久島は、A車が追越し車線の右端寄りに停止し、視認しやすい白色で、尾灯・右方向指示器の点灯がなされていたのであるから、制限速度を順守し、前方注視を怠らなければ衝突を回避することが決して不可能ではなかつたのに、制限速度を二〇キロメートルも超過した時速一〇〇キロメートルの高速度で運転し、しかもほか事の考えにふけつて前方注視を怠り、いわば衝突すべくして衝突したといわざるをえないような挙に出た点においてより重大な過失があつたというべきであり、右両者の過失割合は、前者の三〇パーセントに対し後者が七〇パーセントであると見るのが相当である。また、B車とC車やD車との関係においては、B車の運転者たる訴外多久島は、乙事件被告濱田に依頼するなどして夜間用停止表示器材による停止表示など危険防止に必要な措置を講ずることが不可能ではなかつたにもかかわらず、これを怠つて他車から発見を著しく困難ならしめた点においてその過失は重大であり、C車の運転者たる乙事件被告田中やD車の運転者たる訴外原田の前方注視が不十分であつた点等を考慮して、右三者の過失割合は、前者が七〇パーセント、後二者が各三〇パーセントであると見るのが相当である。

二  甲事件

1  請求原因について

請求原因1の事実のうち(一)ないし(四)及び同2の事実のうち本件事故当時訴外多久島が甲事件被告の従業員であつたことは当事者間に争いがなく、右1・2のその余の事実は前記一の事実により主張のとおり認められる。

証人小長谷正樹の証言及びこれにより成立を認めうる甲事件甲第一号証、証人井上昌男の証言及びこれにより成立を認めうる同甲第二号証、証人藪内隆・小池良知の各証言及びこれにより成立を認めうる同甲第三号証の一・二、甲事件原告代表者尋問の結果及びこれにより成立を認めうる同甲第四、第五号証、成立に争いない乙事件甲第三一ないし第三五号証を総合すると、D車がB車との衝突を余儀無くされたことによつて甲事件原告が被つた損害は、請求原因3のとおり合計二三三万二三〇〇円を下らないものと認められる。右認定に反する甲事件乙第二四号証(弁論の全趣旨により成立を認めうる。)は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  抗弁について

前記一判示の過失割合(甲事件原告三〇パーセント、甲事件被告七〇パーセント)に従い過失相殺を行うと、右甲事件原告の被つた損害額は一六三万二六一〇円となる。

3  そうすると、甲事件被告は、甲事件原告に対し、金一六三万二六一〇円及びこれに対する弁済期の経過した後である昭和五六年一一月七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

三  乙事件(賠償請求)

1  乙事件原告は、B車の被つた損害に対するA車・C車・D車の各運転者・その使用者による共同不法行為責任を主張する。

しかし、前記一の事実によると、右各運転者ら各自の行為が客観的に関連し共同しているものとは認められない。また、C車が軽微な擦過損を受けたにとどまることから推して、それ以上の損傷がB車に生じたものとは認め難く、したがつてB車の廃車損害とC車による擦過事故との間には相当因果関係がないことは明らかである。そして、C車との擦過事故によつてB車が被つた損害額については、これを認めるべき証拠がなく、乙事件原告の乙事件被告田中に対する請求は理由がない。ただ、B車の廃車損害がA車とD車のいずれによつて生ぜしめられたかを知ることはできない。

ところで、乙事件被告片山建設が乙事件被告濱田の使用者であることは、当事者間に争いがない。しかし、前記一の事実から明らかなごとく、A車は右濱田の私有車であつて、本件事故の際における利用は全く職務との関連性がなく、また平素の利用が職務遂行の手段として許容された形跡もなく、その他右濱田の職務内容等を併せ考えると、本件事故の際における右濱田のA車利用行為をもつて、使用者たる右片山建設の監督義務の範囲内にあるとは到底認め難く、したがつて乙事件原告主張のごとく外形的にとらえて客観的に右片山建設の業務の執行としてなされたものと見ることはできない。そうすると、右濱田のA車運転行為は事業の執行につきなされたものとは認められないから、乙事件原告の右片山建設に対する請求は理由がない。

以上によると、乙事件被告阿波急行運輸・同濱田の両名が乙事件原告に対して民法七一九条一項後段の共同不法行為責任を負うものというべきである。

2  証人宮川昭の証言及びこれにより成立を認めうる乙事件甲第三〇号証の一・二(甲事件乙第二五号証の一・二)によると、前記1の共同不法行為によつてB車の所有者たる乙事件原告の被つた損害は四五万九三一二円であることが認められる。右の金額につき、前記一判示の過失割合(乙事件原告七〇パーセント、乙事件被告阿波急行運輸・同濱田各三〇パーセント)に従い過失相殺を行うと、乙事件原告の被つた損害は一三万七七九三円(円未満切捨て)となる。

3  そうすると、乙事件被告阿波急行運輸・同濱田は、乙事件原告に対し、各自金一三万七七九三円及びこれに対する弁済期である昭和五六年八月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

四  乙事件(求償請求の訴え)

1  将来給付の請求は、その請求権につきその基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し、その継続が予想されるとともに、右請求権の成否及び内容につき債務者に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動としては、あらかじめ明確に予測しうる事由に限られ、しかも、その事由については、請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止しうるという負担を債務者に課しても格別不当とはいえない場合であつて初めて許されるものである(最高裁昭和五六年一二月一六日判決・民集三五巻一〇号一三六九頁参照)。

これを本訴求償請求の求償請求権について見るに、右請求権が発生するか否か及びその範囲は、乙事件原告が将来現実に弁済するか否かにかかつている。そして、本訴請求の口頭弁論終結時に存在する事実関係及び法律関係が継続するというだけでは右求償権が発生するか否かは全く未定の状態に置かれているというべきであり、いまだ、将来請求を可能ならしめるに足りるだけの基礎となるべき事実関係及び法律関係は存在しないものというべきである。

そうだとすると、本訴求償請求は、将来の給付の訴えの適法要件を欠くものとして不適法である。

2  また、債務名義は、当該債務名義自体に金額が明記されているか、又は当該債務名義自体から金額を算定できることが必要である。

これを本訴求償請求について見るに、乙事件原告が求める判決は、債務名義としての適格性を欠く内容のものであり、このような判決を求める申立ては不適法である。

3  以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、本訴求償請求に関する訴えは却下を免れない。

五  以上の事実によると、甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸の甲事件被告・乙事件原告に対する本訴請求は金一六三万二六一〇円及びこれに対する昭和五六年一一月七日から民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、甲事件被告・乙事件原告の甲事件原告・乙事件被告阿波急行運輸・乙事件被告濱田に対する本訴賠償請求は各自金一三万七七九三円及びこれに対する昭和五六年八月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余及び甲事件被告・乙事件原告の乙事件被告片山建設・同田中に対する本訴賠償請求は理由がないからこれを棄却し、甲事件被告・乙事件原告の乙事件被告片山建設・同濱田に対する本件求償請求に関する訴えは不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条・九二条・九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上野利隆)

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