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徳島地方裁判所美馬支部 平成24年(ワ)57号 判決 2014年5月30日

甲事件原告

有限会社X1 他1名

乙事件原告

X2 他1名

甲・乙事件被告

主文

一  保険事務所及びX3社の請求をいずれも棄却する。

二  被告は、原告に対し、五四万九一二二円及びこれに対する平成二一年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、保険会社に対し、一七二万二五七七円及びこれに対する平成二三年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告及び保険会社のその余の請求はいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、甲事件については保険事務所及びX3社の負担とし、乙事件についてはこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告及び保険会社の負担とする。

六  この判決は、二項及び三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  甲事件

(1)  被告は、保険事務所に対し、二〇〇万円及びこれに対する平成二一年一二月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(2)  被告は、X3社に対し、八〇三万三〇〇〇円及びこれに対する平成二一年一二月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

(1)  被告は、原告に対し、二一八万四五三三円及びこれに対する平成二一年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  被告は、保険会社に対し、二五八万八五七七円及びこれに対する平成二三年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)と、被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が衝突した事故につき、原告が役員をしていた保険事務所及びX3社が、事故によって原告が仕事ができなくなったため損害を受けたとして、不法行為に基づく損害賠償を請求し(甲事件)、また原告が被告に対して不法行為に基づく損害賠償を請求するとともに、原告車を被保険自動車とする自動車損害保険契約を締結していた保険会社が被告に対して求償金を請求した(乙事件)事案であり、争点は事故の過失割合及び各損害額である。

一  前提事実

平成二一年一二月一五日午前五時ころ、徳島県海部郡海陽町四方原字多ル美七〇番地一先路上(国道五五線、以下「国道」といい、その付近を「現場」という。)を、南から北へ向けて進行していたX3社が所有し、原告が運転する原告車と、現場の国道の西側にあったコンビニの駐車場(以下「駐車場」という。)から国道に進出してきた被告が運転する被告車が衝突した(甲一、一三、以下「本件事故」という。)。

二  原告、X3社、保険会社及び保険事務所(以下併せて「原告ら」という。)の主張

(1)  被告は、幹線道路に侵入する際、一時停止し、右方の確認をして進行する注意義務があったのにこれを怠り、一時停止をせず、方向指示器もつけないままに被告車を幹線道路に進出させた過失により本件事故を発生させたものである。

(2)  原告は、本件事故により、頚部捻挫、外傷性頚肩腕症候群、右下顎関節頭部骨折、頬骨骨折、右顎関節症、√45MB破折、7/81歯牙破折の傷害を受け、a整形外科クリニック(以下「クリニック」という。)に平成二一年一二月一五日から平成二二年一月五日まで(実通院日数四日)、b病院(以下「病院」という。)に同月六日から同年八月一七日まで通院(実通院日数一〇九日)、c歯科医院(以下「歯科」という。)に同年一月二五日から同年五月二九日まで(実通院日数九日)各通院した。

(3)  原告の損害

ア 通院交通費 四一一〇円

イ 慰謝料 一六五万円

ウ X3社は、原告が電子カルテについての調査事業をするに当たって立ち上げた会社であるが、本件事故による受傷によって、原告による調査ができず、X3社は多額の損失を抱えたため、原告の役員報酬を一二〇万円減額したので、原告は同額の損害を被った。

(4)  ネットワークの損害

ア 原告車損害 一七〇万円

イ レッカー代 四万九〇〇〇円

ウ 登録費用 一七万円

エ 平成二一年三月二日、X3社は、株式会社d(以下「d社」という。)から徳島市内の病院における電子カルテ・レセコン市場の顧客分類・ターゲット設定及び分析を八三三万円で受注したが、原告が本件事故によって受傷したことによってその履行が不能となったので、X3社はd社に八〇三万三〇〇〇円を返金し、同額の損害を被った。なお、X3社とd社は、納期に間に合わなくなったため、いったん徳島市の調査費用の返金をしたが、その後再契約の合意をし、平成二一年秋口以降、徳島市内の病院の下調べや調査等をしていたが、本件事故が原因で病院の調査ができなくなり、X3社は上記金額の損害を被り、そのため原告の報酬の原資である前払金を返金せざるを得なくなり、原告の報酬も減額されたものである。

(5)  保険会社による支払

保険会社とAは、平成二一年一一月九日、原告を被保険者(原告車についてはX3社を被保険者)とする人身傷害保険(車両保険)を締結し(以下「保険契約」という。)、保険会社は、保険契約に基づき、平成二三年一二月一六日、原告に対して通院交通費四一一〇円、慰謝料六六万五四六七円、X3社に対して原告車の損害金一七〇万円、レッカー代四万九〇〇〇円、登録費用一七万円を支払った。

(6)  保険事務所の損害

保険事務所の平成二一年度から平成二三年度決算によると、売上が二〇〇万円減少しているが、それは、原告が本件事故により営業活動ができなくなったためである。よって、本件事故により、保険事務所は、同額の損害を受けた。

三  被告の主張

(1)  本件事故の過失割合は、原告二、被告八である。

(2)  損害について

ア 原告車の時価額は一一二万一〇〇〇円であり、同額が上限である。

イ 登録費用については、代位の対象となる損害賠償債権の存在が証明されたものとは言えない。

ウ X3社の業務遂行能力が不足していたため、d社との協議によりd社との契約が解除され、返金することになったものであり、返金額を原告が負担するいわれはなく、また、同様の理由で、仮に原告の役員報酬の減額がなされたとしても、被告が請求されるいわれはない。

エ 平成二二年四月以降の保険事務所の売上げの減少は、原告がX3社を設立したことに起因するものであり、また、保険事務所は、保険契約の契約手数料等を収入の柱としているところ、それが近時下落傾向にあることも影響していることが考えられる。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の過失割合について

(1)  証拠(甲一、一三、二六、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、現場の状況は別紙記載のとおりであること、被告は、被告車を国道の南方向に進行させるため、駐車場を南東方向に進め、駐車場から歩道に進出させたところ、国道の南方向をいちべつし、それからすぐに国道の北方向を確認するとともに加速をし、国道の北行き車線の真ん中付近まで被告車を進出させたところ、国道の北行き車線を北に向けて進行してきた原告車を発見し、ブレーキをかけたが間に合わずに被告車の左側面と原告車の右前部が衝突したことが認められる。

(2)  上記認定事実、被告車が国道に進出するについて徐行したとは認められないことその他諸般の事情によれば、本件事故の過失割合は、原告一、被告九とするのが相当である。

二  原告らの損害について

(1)  証拠(甲二(枝番省略、以下同じ。)ないし四、九、一〇ないし一二、一五、一六、二六、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

原告は、昭和五八年に保険事務所を設立し、取締役となるとともに、保険の営業を主にしていた(他には事務員が二人)。また、原告は、平成二一年一月にX3社を設立して代表取締役になり、X3社は、同年三月、X3社が徳島県内の医療機関、主に個人経営の診療所の市場調査をすることをd社から請け負い(以下「本件契約」という。)、原告が一人で徳島県美馬市近辺等から調査を開始し、それらについてはd社に調査結果を送付したが、阿南市、阿波市、小松島市、鳴門市、徳島市については原告に土地勘がないこと等の理由で業務が困難となり、順次、それらの地域については本件契約を解除し、事前にX3社が受け取っていた金銭を同年一二月三〇日までに順次返還することとし、X3社は、d社に対し、本件契約のうち徳島市の分については、同日に八〇三万三〇〇〇円を返金した。また、X3社は、平成二一年一月二三日から同年一二月三一日までの決算報告書(第一期)をしたが、その後は休業した。

原告は、本件事故により、頚部捻挫、外傷性頚肩腕症候群、右下顎関節頭部骨折、頬骨骨折、右顎関節症、√45MB破折、7/81歯牙破折の傷害を受け、クリニックに平成二一年一二月一五日から平成二二年一月五日まで(実通院日数四日)、病院に同月六日から同年八月一七日まで通院(実通院日数一〇九日)、歯科に同年一月二五日から同年五月二九日まで(実通院日数九日)各通院した。

(2)  原告の損害について

ア 上記認定事実、甲五及び弁論の全趣旨によれば、通院交通費として四一一〇円を認める。

イ 上記認定の原告の傷害、通院状況によれば、慰謝料は一三五万円を相当と認める。

ウ 甲六によれば、X3社の取締役会において、本件事故の影響で業務遂行に多大な支障が出たこと等から、平成二二年四月から同年一二月までの原告の役員報酬を三〇万円から二〇万円に減額すること、同年一月から同年三月までの原告の役員報酬を返還することを決議したことが認められる。

しかし、上記認定によれば、本件契約は、本件事故前にはX3社が履行済みの部分を除いてはX3社の能力不足のために解除されており、また、本件事故までの間にX3社とd社との間で再契約等ができていたと認めるに足りる証拠はなく(原告はd社との間で再契約ができていた等と述べるが、それを認めるに足りる客観的証拠もないし、その供述自体あいまいである上、上記認定の本件契約が解除された経緯によれば、容易にd社との間で再契約ができるとは思われず、その供述は採用できない。)、本件事故前からX3社が本件契約で約束した債務を履行することは難しい状況であったと推察されること、X3社は、設立から本件事故まで一年も経っておらず、本件事故前に本件契約に関わること以外に具体的な事業を行っていたとは認められず、元々その経営基盤は弱く、報酬の原資も明らかでないこと(平成二一年いっぱいでX3社は休業している。)等を併せ考慮すると、仮に原告が上記のとおりX3社からの報酬を減額されたとしても、本件事故と相当因果関係を有する損害とは認められない。

(3)  X3社の損害

ア 乙一及び弁論の全趣旨によれば、本件事故による原告車の損害額として一一二万一〇〇〇円を認める。

イ 甲七及び弁論の全趣旨によれば、レッカー代として四万九〇〇〇円を認める。

ウ 甲七には登録諸費用保険金として一七万円の記載があるが、これは、保険会社がX3社に対して保険金を支払うに当たり、保険契約に従って車両損害保険金の一〇パーセントに相当する額を一律に支払ったことを示すものに過ぎず、他方、被告は、原告が現実に被った損害について支払義務が生じるに過ぎないところ、本件事故により、X3社が登録費用としていくらの損害を被ったかを認めるに足りる証拠はないので、原告らの主張は認められない。

エ 上記二(2)ウの認定判断によれば、本件契約を解除し、X3社がd社に対して徳島市分として八〇三万三〇〇〇円を返金したことは、本件事故とは関係ないと解され、また本件事故前にX3社とd社との間で再契約ができていたとも認められないので、この点に関するX3社の主張は認められない。

(4)  保険事務所の損害

上記認定に証拠(甲一九、二二、二三、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、保険事務所の主な収入は代理店収入であること、代理店収入は、平成二〇年五月一日から平成二一年四月三〇日までの期間(第二六期)が一一〇八万〇八六三円、同年五月一日から平成二二年四月三〇日までの期間が一〇二七万九四二〇円、同年五月一日から平成二三年四月三〇日までの期間が九六九万九六五四円であったこと、第二〇期には一五〇〇万円を超え、それがピーク期であったこと、近時手数料ポイントも下がったことが認められる。

原告は、本件事故の影響で営業活動ができずに代理店収入が減少した等と述べるが、本件事故前後の期間における保険事務所の具体的な契約件数や手数料ポイントの推移等を認めるに足りる証拠はない上、上記認定によれば、本件事故前から代理店収入は減少傾向であったことがうかがわれること等からすると、本件事故後の代理店収入の上記減少が、本件事故と相当因果関係を有する損害と認めることは難しく、損害として二〇〇万円を求める保険事務所の請求は認められない。

(5)  上記認定判断によれば、原告の損害は一二一万八六九九円、X3社の損害は一〇五万三〇〇〇円となるところ、証拠(甲五、七、八)及び弁論の全趣旨によれば、保険会社とAは、平成二一年一一月九日、保険契約を締結したこと、保険会社は、保険契約に基づき、平成二三年一二月一六日、原告に対して通院交通費四一一〇円、慰謝料六六万五四六七円、X3社に対して原告車の損害金一七〇万円、レッカー代四万九〇〇〇円を支払ったことが認められる。そうすると、X3社は上記損害につき保険会社から填補を受けているので、その請求は理由がなく、原告の請求は、上記損害額から保険会社による填補を受けた額を控除した五四万九一二二円及びこれに対する平成二一年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で、保険会社の請求は、原告に支払った額とX3社の上記損害額を足した一七二万二五七七円及びこれに対する平成二三年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による支払を求める限度でそれぞれ理由がある。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 秋信治也)

別紙<省略>

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