徳島地方裁判所脇町支部 昭和43年(ワ)24号・昭44年(ワ)12号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一 原告主張の請求原因一項の事実(本件死亡事故の発生)は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件死亡事故が被告藤原の過失によるものであるか否かについて検討するに、まず、右争いのない事実に<証拠>を総合すると、本件事故発生の経過として、次のような事実を認めることができる。すなわち、
(1) 本件工事は、県道小谷・西福山線の路肩のくずれを補修するため、長さ一〇メートルにわたつて下方の谷川敷からコンクリートブロック擁壁を積み上げる工事で、被告会社が徳島県土木部の設計に基づいて採用した工法は、正方形のコンクリートブロック(一辺の長さ〇、三五メートル、対角線の長さ〇、五メートル)をいわゆる抜き型枠の方法、つまり、まず裏型枠を立て、その表側を支えにしてブロックを対角線を垂直にして並べ、各ブロックと裏型枠との問題にセメントを詰めてブロックを固定し、次いで裏型枠をとりはずしてブロック壁と路体斜面との間隙に土石(バラス)を詰めて埋め戻す、という過程を反覆して次第に上方へ積み上げて行く方法であり、昭和四三年七月一一日から基礎工事たる床堀りを開始し、同月一八日からはブロックの積上げにとりかかり、本件事故の前日である同月二二日には工事は最終段階に至り、最上段すなわち路面の高さまでブロックの積み上げと固定を終つて翌二三日は、裏型枠を抜き取りながら最後の埋め戻しをすべき段取りになつていた。
(2) 本件工事においては、裏型枠として、高さ〇、五メートル、長さは四メートルのものと二メートルのものという二種類の型枠を用い、一〇メートルにわたつてブロックを積むために四メートルもの二枚、二メートルもの一枚を連ね、この二段分(高さ一米・ブロックは菱形に積むため型枠二段分に四段積めることになる)を積んでセメントを詰めるのが大体一日分の作業であり、翌日は前日積んだ分の型枠をとりはずしてバラスを埋め戻す段取りで作業が行われていた。ただ、七月二二日に行われたブロック積みにおいては、工事が最終段階に達した関係で、右の一日分の積み上げ量のほかに、最上段用のブロック(五角形)が一段多く積まれ(そのために型枠も一段多く使用)、なお、それまでの埋め戻し量が上流側と下流側とで差を生じていたため、七月二三日に埋め戻すべき高さは、上流部分で約一、二メートル、下流部分では一、四ないし一、五メートルになつていた。
(3) 裏型枠は、とりはずずまでの間は、路体斜面に切り張り棒(突つ張りの支柱)を施して倒れるのを防いでいたが、埋め戻しに際し、一〇メートルに亘つて一度に切り張り棒や型枠をとりはずすと、ブロックがその重みによつて倒壊する危険があるので、本件土地においては、現場監督たる被告藤原の指示によつて、枠板の長さ分づつとりはずしと埋め戻しを繰り返えすという方法をとつていた。
(4) 本件事故当日である七月二三日午前八時すぎ、現場監督である被告藤原、人夫である吉田月丸、森脇高雄、大泉コユキ、水野百合子、片山サクエ、原告森脇サダコ、被告会社の運転手松本忠幸らが現場近くの集合場所に集まり、小憩のあと被告藤原の「もう仕事にかかるか」との言葉に応じて、大泉、水野、片山、原告サダコら女性人夫は現場付近で型枠の切抜きや泥落しにとりかかり、男性人夫である吉田月丸と森脇高雄の二人(いずれも、ブロック工事の経験は殆どなかつたが、本件工事には最初から従事し、ブロック工脇田守を補助してブロックの運搬や型枠とりはずしなどの作業を行なつていた)が、裏型枠をとりはずすべく路体斜面との間の穴に入り、吉田は上流部分の、森脇は下流部分の、切り張り棒や裏型枠のとりはずしにかかつた。被告藤原は、前述の作業開始を告げたあと、現場から約三〇メートル離れた前記集合場所で着換をし、他の者より数分遅れて現場に至り、自らも裏型枠のとりはずしを行なうべく、穴の中央部付近に入り、吉田を助けて二人で型枠一枚を道路に上げたが、そのときはじめて、切り張り棒が殆ど全部とりはずされていて、森脇高雄が下流部分で底の方の切り張り棒をはずしていることに気づき倒壊の危険を感じて「危ない」と叫び、急いで道路に飛び出したところ、それと殆んど同時にブロック壁の上から六段目までの部分がほぼ一〇メートル全体に亘り路体斜面に向つて倒れかかり、浅い上流部分にいてしかもその部分の型枠のとりはずしを終えて道路に出かかつていた吉田月丸は危うく難をのがれたが、深い下流部分にいた森脇高雄は倒れてきたブロックに打たれ、脳挫創・頭蓋骨折の傷害を負つて、まもなく死亡した。
以上の認定を覆えすに足る証拠はない。<反証排斥略>
そこで、前記認定の事実関係によつてみるに、前記(2)(3)で認定したような本件工事の工法それ自体を不適当ということはできないにしても、かかる工法による場合には、切り張り棒や裏型枠を一度にとりはずすと倒壊の危険があることは容易に推測されるところであり、現場監督である被告藤原もこの危険を認識したうえ、常々枠板の長さ分ずつとりはずすよう指示し、かつ本件事故まではそのようにして工事を進めてきていたのであるから、工事監督者としては、人夫らが右の指示に従つて作業を進めているかを怠りなく注意し、安全を確認して、危険の発生を防止すべき注意義務があるといわなければらならない。まして、本件事故当時は、通常の工程よりも天張り分だけ一段多くブロックが積まれていて、それだけ倒壊の危険も増していたわけであるから、それまで以上の慎重な監督が必要であつたわけである。しかるに被告藤原は、着換をしていて現場に至るのが遅れ、人夫吉田、森脇らが従来の指示に反して切り張り棒や型枠を一応にとりはずしているのを早期に発見制止することができなかつたものであり、この点において被告藤原は工事監督上の過失の責めを免れないといわなければならない。<中略>
三 したがつて、被告藤原は自己の過失によつて森脇高雄を死に至らせた者として、民法七〇九条により、右死亡に基づく損害を賠償する義務がある。
(青野平)