徳島家庭裁判所 平成20年(家ホ)45号 2010年11月26日
主文
1 原告と被告とを離婚する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文各項同旨
第2 事案の概要
1 本件は,原告が被告との婚姻関係は既に破綻していると主張して,離婚を求めた事案である。
2 前提事実(括弧内の証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)
(1)原告と被告は,昭和59年4月27日に婚姻した(甲11,乙7)。
(2)原告と被告は,昭和60年4月*日,長女甲野秋子(以下「秋子」という。)をもうけた。秋子には,出生時から先天性心疾患,先天性両脛骨欠損,右多合指症等の障害があり,現在も常時介護が必要な状態である(甲11,乙6,7)。
(3)原告は,平成15年1月に徳島大学付属病院に入院し,2度目となる網膜剥離の手術を受けた。原告は,同年2月6日に同病院を退院した後,同月末まで自らが理事長を務める医療法人A会(以下「A会」という。)の運営する甲野病院に入院し,同年3月の退院後も同病院の病室で生活をした後,平成16年5月に賃貸マンションを借りて転居し,被告と完全に別居をした。
3 争点
(1)原告と被告の婚姻関係は破綻しているか。
(2)原告と被告の婚姻関係が破綻しているとした場合,その原因がもっぱら原告にあり,本訴請求が信義誠実の原則に反し許されないといえるか。
4 争点に対する当事者の主張
(1)婚姻関係破綻の有無について
(原告の主張)
原告と被告との間には,平成13年以降夫婦関係はなく,平成15年1月からは別居状態にある。また,原告と被告は,平成17年4月18日には,互いに同居 1 原告と被告とを離婚する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。義務,貞操保持義務に拘束されないことを認め合い,その時点で保有していた婚姻財産を2分の1ずつ分割して婚姻財産の清算をする内容の文書(以下「本件約定書」という。)を交わしている。
このように,原告と被告の婚姻関係は既に形骸化している。
(被告の主張)
原告と被告の婚姻関係が形骸化していることは認める。しかし,秋子は重い障害を持って生まれており,下肢全廃であって車いすの使用が必要であり,常時介護が必要な状況である。そのため,秋子の付添介護という観点から,婚姻を維持しなければならない特別の事情があると言わなければならない。
原告は,原告と被告が平成17年4月18日に同居義務,貞操保持義務に拘束されないことを認め合うこと等を内容とする本件約定書を交わしたと主張するが,原告は文言等に十分な注意を払うことなく,言われるままに署名押印したにすぎない。
(2)信義則違反の有無について
(被告の主張)
原告は,平成15年2月ころから乙川花子(以下「乙川」という。)と不貞関係にあったのであり,有責配偶者である。原告は,被告の不貞行為があるまでは秋子の病気はあったものの,家族全員が幸せに暮らしていると感じていたにもかかわらず,原告の不貞行為により絶望の淵に落とされたものである。
原告は,平成7年12月から甲野病院の仮設プレハブ建物で起居するようになり,このころから原告と被告はほとんど言葉を交わすこともなくなったと主張するが,原告が上記建物で起居するようになったのは秋子が入院したことや,新しく病院を建設することになったためであり,夫婦関係に問題があったものではない。被告は原告を労る言葉をよくかけていたし,原告も被告に対して「愛しているよ。」という労りの言葉をかけてくれていた。
最高裁判所は,有責配偶者からの離婚請求は,夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当長期間に及んでいること,夫婦の間に未成熟の子がいないこと,妻が離婚により精神的,社会的,経済的に極めて過酷な状態におかれるなど,離婚請求を認容することが著しく正義に反する特段の理由がない限りは,離婚請求も認容される場合があると判示している。本件では同居期間が原告の言い分を前提としても216か月であるのに対し,別居期間は訴え提起時まで67か月であり,別居期間は相当長期といえる状態ではない。また,秋子は成人しているものの,未成熟の子以上に療養,看護が必要な状態である。さらに,離婚が認められると,被告と秋子は医療面,住環境面,栄養面その他で精神的,社会的,経済的に極めて過酷な状況におかれることは明らかである。したがって,本件においては離婚を認めることが社会正義に反する特別な事情があるということができ,原告の離婚請求は認められるべきではない。
(原告の主張)
被告は元々勝ち気な性格だったが,秋子の出生後はその看護等による精神的ストレスが重なってか,仕事で疲れて帰宅する原告に対して「早く夕食を済ませてくれないと,後片付けに困る。」などと嫌みを言ったり,原告の母のことを「くそばばあ,早く死ね。」などと悪く言いふらし,たしなめた原告に食ってかかるような状態であった。次第に原告と被告との会話はなくなり,原告は被告と顔を合わせるのを疎ましく思い始めた。そのため,原告は平成7年12月から甲野病院の仮設プレハブ建物内で,平成9年5月からは新しく建築された病院の院長室のソファーで起居するようになり,このころには原告と被告はほとんど言葉を交わすこともなく,互いに相手を気遣うこともなかった。原告が平成15年3月に乙川と性交渉を持ったことは認めるが,それは原告と被告の婚姻破綻の原因ではなく,その結果である。
原告は,被告との離婚後も秋子及びその介護をする被告に対し,現在婚姻費用として支払っている金額と同額の生活費を支払い,経済的劣化状態を生じさせないことを約束する。また,被告と秋子は,原告が理事長を勤めるA会の所有する建物に居住しているところ,秋子の介護にとって被告の存在は必要であるから,離婚後も被告に退去を求める考えはない。したがって,離婚によって原告や秋子が精神的,社会的かつ経済的に極めて過酷な状況に陥ることはあり得ず,原告の本訴請求は信義則に反するものではない。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実,証拠(甲1,11,14,乙1ないし7,10,原告本人,被告本人(原被告本人については,後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)原告と被告は,B大学医学部の学生であった原告が参加していたゼミの研究室に,被告も研究助手として在籍していたことがきっかけで知り合い,昭和59年4月27日に被告と婚姻した。
(2)原告は,昭和58年3月に上記大学を卒業後,C病院で研修医として勤務を始めた。原告は,10年程度東京で経験を積んだ上で,徳島県鳴門市でA会を経営していた父親の跡を継ぐ予定だったが,同年5月に父親が入院したため,急遽被告と共に東京から徳島県鳴門市に戻り,A会の経営を引き継いだ。
(3)原告と被告は,鳴門市に戻った当初は原告の両親と同居していたが,秋子の生まれる前に同じ敷地内の別棟(以下「原被告宅」という。)に移って両親とは別居した。
(4)昭和60年4月*日,秋子が出生した。秋子は出生時から先天性心疾患,先天性両脛骨欠損,右多合指症等の障害があり,長期間,NICU(新生児集中治療室)に入院していたが,医師から1年程度しか生きられないので,退院して家族で過ごしてはどうかなどと告げられて退院し,原被告宅に戻った。秋子の看護は被告が主として行うことになり,被告の母親が同居をして被告を補助するようになった。秋子は心臓の頻脈発作や除脈発作により入退院を繰り返したほか,網膜剥離により入院することもあった。現在も秋子は言葉を発することができず,突然泣きわめいて2,3時間泣き続けることもあるなど,常時介護が必要な状態である。
(5)A会は,平成4年ころに甲野病院を建て替えることになった。そのために多額の借金を背負うことになったため,原告は経営に関し悩みを抱えるようになった。甲野病院の建替えは平成7年ころから始まり,原告は当直を兼ねて仮設のプレハブ建物で寝起きをし,診療行為を行うようになった。原告は,新しい病院が完成した平成9年5月からは,午後10時ころに病院から原被告宅に戻り,夕食を済ませた後に午前0時か1時ころまで仮眠を取り,その後病院に行って院長室で午前5時ころまで医療事務の残務をこなし,院長室のソファーで午前7時ころまで仮眠を取った後,原被告宅に戻って朝食を取り,再び病院に出勤するというような日常を送るようになった。
このような原告は自宅から病院に向かう際に被告に「愛しているよ。」と声をかけたり,電話で「愛しているからね。」と言うことがあったが,夫婦間の会話は減少し,平成13年以降は夫婦関係を持つことがなくなった。
(6)原告は,昭和51年に右眼の網膜剥離手術を受けていたところ,左眼も網膜剥離となり,平成14年7月に徳島大学付属病院で左眼の手術を受けた。ところが左眼の網膜剥離が再発したため,平成15年1月に同病院に入院して再出術を受けた。担当医師からは,視力を失うことも覚悟するように言われた。被告は,原告の入院中,頻繁に見舞いに訪れていた。
原告は同年2月6日に同病院を退院し,その後は甲野病院に入院していたところ,甲野病院の看護師である乙川と親しくなった。被告は,同月17日の午後10時過ぎ,真っ暗な人間ドックの病室から女性の声が聞こえたことからドアを開け,原告と乙川が二人で会っているのを見付けた。被告が何をしているのかと問いつめて室内に入ろうとすると,原告は「帰れ,帰れ」と言って被告を部屋の外へ押し出した。
(7)原告は,同月末に甲野病院を退院後も自宅には戻らず,甲野病院の自室で生活し,平成16年5月に賃貸マンションを借りて転居した。
(8)原告と被告は,平成17年4月18日,原告代理人の仲介で,概ね次の内容の本件約定書を交わした。
① 原告は平成15年3月から甲野病院内で起居し,平成16年5月からは院外に居を構えて被告と別居しており,この間原告は被告以外の女性との間で性交渉を持った。
② 原告と被告は,別居生活を維持し,法律上認められる夫婦間の義務をもって束縛しない。
③ 秋子の看護は従来どおり被告が行い,秋子の治療については原告が最大限に配慮をなし,治療費用を負担する。
④ 原告と被告は,今後も各々別途の生活を営むにあたり,現在の財産を原告につき約2898万円,被告につき約2730万円相当に区分して各自が受け取り,婚姻財産の清算をする。
⑤ 原告は被告に対し,秋子の看護に必要な自動車購入費用として200万円を支払い,被告はこれ以外に自動車購入費用の支払請求をしない。
⑥ 原告は被告の生活費への補填として月額18万円の支払をすることを約束する。
本件約定書を交わす過程で,被告が夫婦の預金や原告の生命保険を解約した金員,さらには原告の祖父の遺産である1500万円を先物取引に充てていたことが発覚した。また,原告は原告代理人を通じ,被告と秋子のためにマンションを借りるので原被告宅を出るように被告に求めたが,被告はこれを断り,原告とは離婚したくない旨述べた。
(9)原告は,平成19年8月から乙川と暮らし始め,現在も結婚を念頭に置いて同居している。
(10)原告は,被告との離婚を求める調停事件を当庁に提起したが,平成20年7月4日に不成立となり,同月15日本訴を提起した。
(11)原告及び被告の本人尋問後の平成21年9月9日,原告は被告に対して被告と秋子の住居,食事,医療環境並びに扶養料の支払いをこれまでどおりとするとともに,年金分割及び解決金として3000万円を支払うとの内容の和解案を提案したが,被告は離婚には応じられないとしてこの案には応じなかった。
2 婚姻関係破綻の有無について
原告と被告が,原告が徳島大学付属病院に入院した平成15年1月以後同居しておらず,同月以降は別居状態にあることは当事者間に争いがない。その期間は口頭弁論終結時までに6年9か月に達していること,原告は現在乙川と結婚を念頭に置いて同居しており,原告と被告との関係が修復される見込みはないことから,原告と被告との婚姻関係は既に破綻していると認められる。したがって,原被告間には婚姻を継続し難い重大な事由があるというべきである。
この点,被告は本件約定書を交わした時点では原告と被告は普通に生活をしており,引き返せないほど婚姻関係が破綻していたということはなく,原告が戻ってきてくれるのであればまた一緒に生活をしたいと思っていたと供述しており,現在でもそのような希望を抱いているものと察せられる。しかしながら,本件約定書を交わした時点で,原告と被告が共に生活をしなくなってから既に2年以上が経過していたこと,本件約定書の内容が夫婦が今後も別居を継続することを前提として夫婦の共有財産を清算する内容であることは,法的知識の十分ではない者であっても文言上理解可能であることからすると,被告に離婚に応じる意思はなく,いずれ別居が解消されることに希望を残していたとしても,その希望が実現することが容易ではないことは認識することができたとみることができる。そして,本件約定書を交わしてからさらに4年以上が経過した現在においては,客観的に見て,本件婚姻の修復が可能であるとは認められない。
また,被告は,秋子の付添看護が必要であることから本件については婚姻を維持しなければならない特別の事情があると主張するが,原告と被告とが離婚したとしても原告と秋子との間に親子関係があり,原告が秋子の扶養義務を負うことに変わりはないのであって,秋子の看護の必要性は離婚原因の判断自体に影響するものではない。ただし,秋子の看護の必要性については,信義則上原告の離婚請求が認められるか否かを判断するに当たっては重要な問題であり,後に検討することとする。
3 信義則違反の有無について
(1)原告の有責性の有無について
原告が平成15年2月17日に,甲野病院の人間ドック用の病室で乙川と会っているところを被告に目撃されたことに争いはない。
原告は,原告と被告との婚姻関係は,平成7年12月から原告が病院の仮設プレハブ建物,平成9年5月からは新しく建築された病院の院長室で起居するようになってから次第に希薄になり,平成13年ころからは夫婦関係を持つこともなくなっており既に形骸化していたのであるから,乙川との関係はその結果生じたものであり,婚姻破綻の原因ではない旨主張する。しかしながら,病院で起居することになった後も,原告は朝食と夕食については原被告宅においてとっていたのであって,病院において過ごす時間が長かったとしてもそれは原告の仕事上必要に迫られてのものであったものと認められる。病院に起居するようになった後の平成13年ころまでは夫婦関係を営んでいたことからも,原告が病院で起居していたとしても被告との婚姻関係が既に破綻していたとは言い難い。また,夫婦の性交渉は婚姻関係の重要な要素であるとしても必須のものとも言えないから,平成13年以降夫婦の性的関係が途絶えていたとしても直ちに婚姻関係が破綻していたとも言えない。
証拠(甲11,原告本人)によれば,原告が開業医として極めて多忙な生活を送る中で網膜剥離を煩い,いつ失明するかもしれないという精神的な不安につきまとわれ,新しい病院の建設のために借財を抱えたA会の経営者としての重圧にも苦しむなど,精神的に追い込まれていたにもかかわらず,秋子の介護に追われる被告に悩みを打ち明けることもできず逆にストレスをぶつけられることもあったために,被告への不満を募らせていたことは認めることができる。もっとも,原告がそのような不満を被告に打ち明けて,別居をするなど夫婦の生活を変化させることについて話し合うといった具体的な行動をとった事実は認められない。原告は,被告の問いかけに答えて「愛している。」との言葉をかけることすらあり,被告は原告が平成15年1月に網膜剥離の手術を受けた前後にも徳島大学付属病院や甲野病院に原告を見舞っていたのであるから,同年2月6日に原告と乙川が夜間に暗い病室で2人で会っているところを目撃するまでは,夫婦関係は大きな波風が立つことはなく推移していたものである。したがって,原告と乙川との関係が本件婚姻が破綻する原因となったことは明らかである。
したがって,原告はいわゆる有責配偶者であるというべきである。
(2)離婚請求を認容することの可否について
有責配偶者からされた離婚請求については,①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるか否か,②その間に未成熟の子が存在するか否か,③相手方配偶者が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情が存するか否か等の諸点を総合的に考慮して,当該請求が信義誠実の原則に反するといえないときには,当該請求を認容することができると解するのが相当である(最高裁判所昭和62年9月2日大法廷判決参照)。
本件婚姻についてみるに,原告と被告との別居期間は,原告が甲野病院を退院した後も原被告宅に戻らなかった平成15年2月末日から口頭弁論終結時である平成21年10月16日に至るまで6年7か月余りであり,双方の年齢(口頭弁論終結時において原告が52歳,被告が51歳)や同居期間(約19年)に照らして必ずしも相当の長期間に及んでいるものではない(なお,原告及び被告は原告が入院した平成15年1月から同居していないが,原告が被告との別居を決意したのは入院後に乙川との関係を深めたことによると認められるから,別居期間の起算点としては退院後に原被告宅に戻らず甲野病院に止まった時点とみるべきである。)。また,原告と被告との間には,成人しているものの障害を抱えて医療面,住環境面,栄養面等で配慮を要し,24時間の付添介護を必要とする秋子が存在する。
一方,原告は,被告及び秋子に対し,A会の理事長として同会が所有し原告が無償で借りている原被告宅に今後も居住し続けることを認め,生活費についてもこれまで婚姻費用として支払っていた43万円を払い続け,医療等の面においてもこれまでと変わりのないようにする旨供述している。原告は同内容の和解案も被告に提案しており,この供述を信用することができる。また,A会は原告がその父親から引き継いで理事長を務めている法人であること,本件約定書から窺える原告の資産状況等に照らせば,原告の提案には十分な実現可能性があると認められる。したがって,原告と被告の離婚により,被告及び秋子が経済的に極めて過酷な状況に置かれるとは認められない。
精神的な影響についてみると,原告の不貞行為により,見知らぬ土地で,重い障害を抱えた秋子の介護に明け暮れながら築いた家庭を失うことになった被告の精神的な苦痛は察するに余りあり,離婚を認めることが被告にとって相当な精神的打撃となることは認められる。しかしながら,被告は6年7か月を超える別居期間を過ごし,平成17年4月18日には財産関係の清算も済ませる中で,ある程度心の整理を付けることも可能であったということができる。秋子についても,両親の離婚ということが容易には受け入れ難いものであるとは察せられるものの,今後も原告が父親であり,被告が母親であることには変わりはなく,慣れ親しんだ生活環境,医療環境等もそのまま維持されるものである。したがって,原告と被告の離婚を認めることが被告及び秋子に与える精神的影響は重大であるとしても,極めて過酷とまで認めることはできない。
また,原告に乙川との関係によって本件婚姻を破綻させた責任があることは前記のとおりであり,その時点で原告が経営者としての重圧や失明の不安などを抱えて厳しい精神状況にあったことは察せられるとしても,被告に精神的な打撃を与えた責任が減じられるものではない。もっとも,原告は,被告が夫婦共有財産や原告の祖父の遺産から多額の金員を先物取引に充てたことを知りながらも本件約定書により被告に約2730万円の財産分与をし,今後もこれまでと同様の経済的支援を行うことを約束するなど,経済的な面ついては十分な対応を行っていることが認められる。このような原告について,有責配偶者であり別居期間が6年7か月程度に止まるからといって,既に心のつながりという本質を失った婚姻関係に懲罰的につなぎ止めることも,厳格に過ぎるというべきである。
これらの事情を総合考慮すると,原告の離婚請求が信義誠実の原則に反するとまでは認め難く,これを認容することが相当である。
第4 結論
以上の次第で,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。