徳島家庭裁判所 平成5年(少)1020号 決定 1994年8月26日
少年 D・H(昭49.9.18生)
主文
少年を中等少年院へ送致する。
理由
(非行事実)
少年は、
第1 A、Bと共謀の上、平成5年8月4日午後11時30分頃から翌5日午前零時30分頃までの間、徳島市○○×丁目××番地所在の○○○ビル北側路上に駐車中の普通乗用自動車(徳島××わ××-××)内において、興奮・幻覚又は麻酔の作用を有する劇物であって、政令で定めるトルエンを含有する接着剤キスターを所携のビニール袋に入れて吸引し、
第2 A、Cと共謀の上
1 Dが賭博開帳のことを警察に通報したことに憤慨し、平成5年11月16日午後10時項、徳島県板野郡○○町○○字○○○××番地×所在の○○アパート203号室甲方において、前記Dに対し、同室台所から持ってきた文化包丁(刃渡り16.5センチメートル)1本を突きつけて「エンコ詰めえ。わしらをチクった奴を許せると思うとんか。パクられるや分からんでないか」と怒鳴り、さらにこもごも「どうして、警察に言うたんな。」「お前のような奴は死ね。」等語気鋭く申し向けて、もって数人共同して脅迫し、
2 前同日午後10時頃から午後11時20分頃までの間、前記場所において、前記Dに対し、その顔面・頭部等を拳骨で数回殴り、その腹部・両足等を足蹴りにする暴行を加え、もって同人に対し、全治1週間を要する両側頭頂部、前額部、右上眼瞼、右頬部、両側胸部、両大腿側部、腰部打撲症、右上眼瞼、右頬部皮下出血の傷害を負わせ、
3 賭博の勝金名下に金員を喝取しようと企て、平成5年11月15日午前1時頃、徳島県鳴門市○○町○○○字○○×××番地所在の○○○マンション103号室乙方において、賭客のE、Fに対し、「お前ら払えるんか、マグロ漁船に100万円で売り飛ばしたろか。3か月あったら戻れるわ。払えなんだら親の所や親戚の所に行って追い込みかけるぞ。」「払えんのだったら指詰めるか。」「5本にするか。」「払うまで家に帰さんぞ。どない払うんな。払えんのだったらサラ金に連れていってやるけん借って払えだ。」等と怒鳴って、もしその要求に応じなければいかなる危害を加えられかも知れないと同人らを畏怖、困惑させて、
(1) 前同日午後2時15分頃、徳島市○○○町○×丁目××番地所在の○○ビル前路上において、Fから現金28万円の交付を受け、
(2) 前同日午後4時10分頃、上記ビルエレベーター内において、Eから現金30万円の交付を受け、
(3) 前同月16日午後5時5分頃、徳島市○○○町○×丁目××番地の×所在の○○ビル4階「○○」株式会社徳島店前通路において、Eから現金5万円の交付を受け、
(4) 前(3)同日午後6時5分頃、上記ビル前通路において、Eから現金3万円の交付を受けて、
それぞれこれを喝取し、
第3 平成6年4月9日午前5時29分頃,徳島県板野郡○○町○○字○○××番地の×地付近道路において,法定速度時速60キロメートルを44キロメートル超過する時速104キロメートルの速度で普通乗用自動車を運転し
第4 平成6年4月21日午後9時31分頃,徳島県三好郡○○○町○○×××番地の×付近道路において、指定速度時速50キロメートルを50キロメートル超過する時速100キロメートルの速度で軽4輪乗用車を運転し、
第5 法定の除外事由がないのに、平成6年7月11日午前3時頃、徳島県板野郡○○町○○字○○○×番地の××所在のA方において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン約0.03グラムを含有する水溶液を、自己の右腕部に注射し、もって覚せい剤を使用し、
第6 法定の除外事由がないのに、Aと共謀の上、上記第5記載の日時場所において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン約0.03グラムを含有する水溶液を、Aの右腕部に注射し、もって覚せい剤を使用したものである。
(法令の適用)
刑法204条、249条1項、60条、暴力行為等処罰に関する法律1条、覚せい剤取締法41条の3第1項1号、19条、毒物及び劇物取締法24条の3、第3条の3、同法施行令32条の2、道路交通法118条1項2号、22条1項、同法施行令11条
(処遇の理由)
一 本件非行に至る経緯
1 少年は、小学校1年生の頃に両親が離婚して母親の手一つで育てられてきた。少年は小学校3年生時に窃盗をして児童相談所に通告され、以後小学校、中学校を通じて少年の生活状況は芳しいものではなく、中学校3年生時には恐喝事件を起こして家庭裁判所に係属して不処分となった。
2 中学校を卒業した少年は、平成2年4月定時制高等学校に入学したが、入学早々に交通事故を起こして入院したことがきっかけとなって、退院後も登校せずに徒遊し、その間ガソリン窃盗、単車窃盗を犯したりして、右各窃盗非行が当庁に係属して、平成2年9月6日保護観察に処せられると共に、少年は学校を退学した。
3 保護観察中も少年の素行は収まらず、右肩、左手指に入れ墨を入れたり、シンナー吸引に耽ったりした挙げ句、平成2年11月22日に起こしたシンナー吸引事件で送致されて鑑別所に収容された。鑑別所に入所した少年は、退学した高等学校へ再入学を希望し、そのため入所2週間で観護措置を解かれて受験したが、結局入学試験は不合格となった。少年は、高等学校への入学には失敗したものの就職をして真面目に働き始め、生活状態も安定の兆しを見せ始めた上、母親も施設収容を希望しなかったので、少年の指導を継続中の保護観察に委ねて右シンナー吸引は不処分となった。
4 ところが少年は、右事件が不処分となると間もなく離職し、再び夜遊びやシンナー吸引、不良交遊に陥って生活を乱し、平成3年7月2日に有印私文書偽造、同行使、詐欺事件を犯して当庁に係属したが、係属当時就職していたことや実母が強く引取りを希望したこともあって、平成3年11月14日調査官による試験観察に付せられ、試験観察は良好に推移したため、平成4年3月23日再び継続中の保護観察に委ねて不処分となった。そして保護観察も平成4年10月21日に解除となった。
5 ところが、少年は、保護観察が解除となった後再び生活を乱し始め、暴走族の結成を計画したりした挙げ句、家にも寄りつかなくなり、職も離れ、本件共犯者Aとホストクラブの仕事をしたり、暴力団員のGと付き合いを深めたりする中で、本件第1及び第2の非行に及び、またその間覚せい剤を覚え、時折高知県へ覚せい剤を買いに行ったりしていた。そして、本件第2の非行で再び当庁へ係属し、少年院送致が検討されたが、母親が最後の機会として在宅での処遇を強く希望する等したために、平成5年12月28日再度調査官の試験観察に付された。試験観察中少年は、入れ墨を除去する手術を受ける等更生への気構えも見せたが、やがて本件第5、第6の覚せい剤使用に及んだ。
二 処遇の理由
1 上記非行に到る経緯に認定のとおり、少年は、小学校の頃の初発非行以来、生活も安定せず、問題行動を続けて現在に至っているものであり、その徒遊期間は相当長期に及ぶものである。また少年は、その間保護観察による指導を受けたり、試験観察による指導を繰り返し受けたりしたにも係わらず、改善が見られないばかりか、却ってその非行性は深化していると言わざるを得ない。当初から、少年の非行性については、鑑別結果等によってその根深さが指摘されていたところであるが、今日までの経緯は、少年の非行性の根深さを如実に示すものとなってしまった。もっともその間、少年自身に立ち直りの意欲がなかったとまで言うことはできない。事実、試験観察が良好に推移して保護観察も良好解除になった時期もあり、再度の試験観察中には入れ墨を除去する手術を受けるなど立ち直りの兆しが見られた時期もあった。しかし従来から、規制が掛かっているうちは、努力してある程度の成果を見せるが、規制がとれたり、規制が長期化してそれに慣れてしまったりすると再び生活を乱すというのが少年の行動傾向であり、その行動傾向に歯止めをかけることができなかった。
2 少年の犯した非行は、少年非行の典型である窃盗から始まり、生活の乱れが進行して暴力団員との付き合いが深まるに従い、暴力団まがいの手段による恐喝、傷害に拡大し、薬物嗜好の点でもシンナー吸引から覚せい剤へ移行しており、生活態度もホストクラブに勤めたり、暴力団員と親交を深めたりする等不良文化の中に定着しつつある。そして、少年の更生のためには、実母の力は既に及ばないことが明らかであり、また保護観察所や調査官による試験観察という方法も既に限界に来ている。むしろ、裁判所の対応が後手に回ってしまった感があり、結果論であるがもっと早期に施設収容をすべき少年であったと言える。少年の非行深度や少年の年令を考えると、この際少年を検察官に送致して成人として刑事責任を追求することも充分考えられるのであるが、少年の非行性はその社会的未熟さによるものであって、未だ教育による更生の可能性がないとまで言えないから、家庭裁判所として少年の更生のためになしうる最後の措置として、少年を少年院へ送致して長期間にわたる更生のための教育を与えるのがその保護を全うする所以であると考える。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判官 坂梨喬)
〔参考〕 抗告審決定(高松高 平成6年(く)16号 平6.9.5決定)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨は、少年作成の抗告申立書<省略>に記載のとおりであるから、これを引用する。
論旨は、要するに、少年は、<1>来る9月18日をもって成年に達するので、刑事処分を受けたい、<2>入れ墨除去手術を受けた跡がケロイドになっており、再手術をしなければならないので、少年院送致を免れないのであれば、医療少年院送致としてもらいたい、<3>早く社会に戻りたいので、一般短期処遇にしてほしい、以上のように希望しているから、事件を検察官に送致することなく、少年を中等少年院に送致し、しかも、短期処遇の勧告をしなかったため長期処遇となる原決定の処分は、著しく不当である、というものであると解せられる。
そこで、記録を調査して検討するのに、本件非行は、少年が、ほか2名と共謀の上、トルエンを含有する接着剤を吸入し(原判示第1)、ほか2名と共同して、自分らがしていた賭博開帳のことを警察に通報した者に対し、文化包丁を突きつけ、「エンコ詰めえ、わしらをチクった奴を許せると思うとんか、パクられるや分からんでないか。」などと語気鋭く迫って脅迫し(同第2の1)、ほか2名と共謀の上、右通報者に対し、顔面、頭部等を拳骨で数回殴り、腹部、両足等を足蹴りにする暴行を加えて、全治1週間を要する傷害を負わせ(同第2の2)、ほか2名と共謀の上、自分らがしていた賭博の賭客2名に対し、「お前ら払えるんか、マグロ漁船に100万円で売り飛ばしたろか。3か月あったら戻れるわ。払えなんだら親の所や親戚の所に行って追い込みかけるぞ。」「払えんのだったら指詰めるか。」などと怒鳴り、畏怖した右2名から、賭博勝金の名目で、4回にわたり現金合計66万円の交付を受けてこれを脅し取り(同第2の3)、法定最高速度を44キロメートル毎時こえる時速104キロメートルで普通乗用自動車を運転進行し(同第3)、指定最高速度を50キロメートル毎時こえる時速100キロメートルで軽4輪乗用自動車を運転進行し(同第4)、覚せい剤約0.03グラムを自己使用し(同第5)、ほか1名と共謀の上、覚せい剤約0.03グラムを共謀者に注射して使用した(同第6)、というものであって、多数回に及んでいる上、殆どが悪質なものであること、少年は、平成元年10月、恐喝の非行により不処分となり、同2年9月には、窃盗の非行により保護観察に付され、その後、トルエン吸入の非行を犯して、少年鑑別所送致の観護措置をとられ、結局、同3年4月、保護観察を継続することで不処分となり、更に、私文書偽造、同行使、詐欺の非行を犯し、試験観察を経た上、同4年3月、右同様に不処分となり、その間、立ち直ろうとする姿勢をみせたものの、長続きせず、原判示第1及び第2の非行を重ね、右同様の観護措置をとられた上、同5年12月、再び試験観察に付され、その後、働くのに支障となるため入れ墨除去手術を受け、立ち直りの兆しをみせたが、やはり節度を保ちきれず、また原判示第3ないし第6の非行を累行したものであって、規範意識に乏しく、非行性が深化しているといわざるを得ないこと、及び、記録によって認められる少年の性格行動傾向、家庭環境等を勘案すれば、少年の将来のため、この際、少年院に収容して専門的な見地からの矯正教育を受けさせるのが相当であると認められ、原決定の処分が著しく不当であるとは考えられない。原決定が処遇の理由として説示するところは、当裁判所においてもこれを相当として是認できる。所論にかんがみ付言すると、まず、少年が原決定当時19歳11か月であり間もなく満20年に達することは記録上明らかであるが、少年について、できる限り、その将来に悪影響を及ぼすおそれのある刑罰をもって臨むことを避け、保護処分をもって健全な育成、問題のある性格の矯正を図ろうとする少年法の趣旨から考えると、満20年に達する直前であっても、保護処分とすることが適当と認められるときは、刑事処分をもって臨むより、保護処分に付するべきであるところ、右説示の非行内容、非行歴、処分歴、性格行動傾向など、諸般の事情に照らすと、中等少年院において根本的な矯正教育を受けさせるのが本件少年のため最も適切、妥当な措置であると思料される。そして、記録を調査しても、現段階において直ちに手術跡の整形手術のため少年を医療少年院に送致するのを相当とするほどの事情があるとは認め難く、また、少年の非行性の程度や性格行動傾向などからすると、その矯正は短期の処遇によっては到底実効を期待し難いと考えられる。これらの点についての少年の希望を入れるわけにはいかず、論旨は採用できない。
よって、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 米田俊昭 裁判官 山脇正道 湯川哲嗣)