徳島家庭裁判所 昭和43年(家)277号 審判 1968年8月15日
申立人 広田俊夫(仮名)
事件本人 山下徹(仮名)
被相続人 山下政一(仮名)
主文
事件本人が被相続人の相続人たることを廃除する。
理由
申立代理人は主文と同旨の審判を求め、その実情とするところは、末尾添付の事件の実情と題する書面記載のとおりである。
本件記録中の各戸籍謄本、遺言公正証書謄本によれば、事件本人は被相続人の長男であるところ、被相続人は昭和二九年一一月二五日遺言により事件本人の推定相続人たることを廃除する意思を表示した後同四三年一月二二日に死亡したこと、申立人は右遺言により指定された遺言執行者であることが認められる。
ところで本件において事件本人の非行内容として申立人の主張する事実(遺言書摘示事実と同じ)は昭和二三年から同二九年にかけて発生したとされるもので、いずれも長年月を経たものであるのみでなく、その間のいきさつを知る被相続人およびその妻キミヨ(事件本人の義母)は共に死亡し、事件本人も現に所在不明であり、その他上記事実の有無を確かめるべき直接の手がかりはない。
しかし、家庭裁判所調査官作成の調査報告書、検察事務官作成の前科調書、○○医科大学附属○○病院長作成の回答書、資料一の受領証、書簡によると事件本人は(イ)昭和三〇年一二月一六日大阪地方裁判所で業務上横領、詐欺罪により懲役一〇月の実刑言渡を受け服役したこと、(ロ)同三七年頃、当時入院中の○○医科大学附属○○病院で同院患者自治会員の積立金約三〇万円を持逃げして、被相続人にその弁償をさせたこと、(ハ)前記の刑終了後同三四年一二月前記病院に入院するまでの間において、岡山県内の菓子店に勤務中店の金約四〇万円を横領したこと、(ニ)屡々女性問題のいざこざを起していたことの諸事実を認めることができるのであつて、これらの事実から、ひるがえつて前記申立人主張事実の存在を推認するに難くない。加えて本件の遺言はその方式として最も丁重な公正証書によるものであつて、非行事実の指摘も具体的になされており、この点からしても被相続人の決意の程と共に非行事実の蓋然性の高いことが知られる。
以上認定した遺言書作成時の前後に亘る事件本人の行動すなわち浪費、遊興、犯罪行為、女性問題等は一般に親としてほとほと手を焼く種類のものであつて、相続的協同関係を破壊するに足る著しい非行に該るといわなければならない。
そうすると本件申立は理由があるからこれを認容し主文のとおり審判する。
(家事審判官 山下巖)