大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新城簡易裁判所 平成17年(ハ)28号 判決 2007年10月15日

大阪市中央区南船場一丁目17番26号

原告

株式会社アプラス

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

愛知県●●●

被告

●●●

同訴訟代理人弁護士

牧野洋逸

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,57万8968円及びこれに対する平成17年1月6日から支払済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。

第2請求原因の要旨

別紙記載のとおり

第3請求の原因に対する認否等

1  請求の原因第1項については否認する。即ち,平成16年5月21日時点では,当該契約事項の全てが明確になっていなかった。

2  請求の原因第2ないし第5項については知らない。

3  (仮定抗弁)

仮に本件クレジット契約締結の事実が認められるとしても,被告の代理人(息子)である●●●が,平成16年6月7日を皮切りに,同月13日から14日にも,本件販売業者である株式会社ジェイ・シー・エス・インターナショナル(以下「本件販売業者」という。)に対して,本件売買契約の解除の意思表示〔特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)9条に基づくもの〕をしているので,抗弁権の接続により,当該効果の発生を原告に対する関係で主張する。

第4仮定抗弁事由に対する認否等

1  上記仮定抗弁事由については,否認ないし争う。即ち,当該意思表示がなされた時点で,代理関係及び当該意思表示の内容が明確でなかった。

2  (仮定再抗弁)

仮に上記契約解除の意思表示が有効になされた事実が認められるとしても,当該意思表示は,特定商取引法5条所定の書面の交付日から8日が経過した後になされており,また,口頭によるものであって,同法9条所定の要件を満たしていないので,当該契約解除は無効である。

第5仮定再抗弁事由に対する認否

上記仮定再抗弁事由については否認する。即ち,本件がクレジットを利用した訪問販売であることから,特定商取引法5条所定の記載内容のうちの「代金の支払方法に関する事項」に関しては,「立替払方式ではなく,提携ローン方式をとる旨」及び「取扱金融機関名」も必要的記載事項であると解されるが,「ご返済予定表」(乙2の2)その他の書面によっても,上記各内容は明確な形で通知されていない。また,その他の必要的記載事項のうち,「商品の販売価額」に関しては,値引き前の本来の商品価額及び下取りによる値引き額が明記されておらず,更に言えば,本件契約締結時には,特定商取引法5条所定の書面が交付されていない(「契約書面」ではなく「申込書面」しか交付されていない。)以上,クーリングオフが可能な期間は未だ進行していないことが明らかである。

仮に,上記「代金の支払方法に関する事項」の記載内容が明確な形で通知されていると認められるとしても,「ご返済予定表」(乙2の2)が被告側に届けられたのが平成16年6月11日であることから,同月7日や13日から14日になしたクーリングオフは有効である。

また,書面によらざるクーリングオフであることは認めるが,被告の代理人(息子)である●●●が本件販売業者に対して,代理関係を明らかにした上で,明確な意思表示をしたことにより,同効果は発生していると解すべきである。

第6当裁判所の判断

1  当事者間に争いのない事実及び証拠(甲第1号証,第4ないし第7号証,第10ないし第12号証,乙第1号証,第2号証の2,第7号証,第9号証,第11号証,証人●●●,同●●●の各供述)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  本件はクレジットを利用した訪問販売の事案であり,本件に関して被告側に交付された書面には,本件販売業者の担当者であった「●●●」の氏名が明記されていた。

(2)  平成16年5月21日時点で,被告は,本件販売業者から購入した商品の代金41万7900円に分割払手数料19万6413円(保証委託手数料15万4390円と支払利息4万2023円の合計)を加えた合計61万4313円を金融機関から借り入れる一切の処理を原告に委託し,金融機関である株式会社泉州銀行から上記金員を,次の約定により借り受けた。

① 上記元利金を,平成16年6月から,毎月27日限り金7300円ずつ(初回は8413円),集金代行業務を委託された原告に支払う。

② 上記支払いを1回でも怠ったときは,期限の利益を失う。

(3)  原告は,次の約定で被告の委託を受け,上記金融機関である株式会社泉州銀行に対し,前項の債務につき連帯保証した。

① 原告は,被告を代理して上記金融機関から上記借入金を受領し,上記分割払手数料を控除した金員を本件販売業者に支払う。

② 被告が前項の支払いを怠り,原告が20日以上の相当な期間を定めてその支払いを書面で催告したにもかかわらずその支払いをしないときは,被告は,原告が上記金融機関に代位弁済した額を原告に支払う。

(4)  原告は,上記金融機関から(2)記載の金員を受領し,内金41万7900円を本件販売業者に支払った。

(5)  原告は,被告に対し,平成16年11月20日到達の書面で支払期の過ぎた元利金を20日以内に支払うよう催告した。

(6)  原告は,平成17年1月5日,上記金融機関に対して,57万8968円を代位弁済した。

(7)  (2)の契約締結時点で,本件契約事項の全てが明確になっていなかったことは,被告が反論するとおりであるが,その後の手続きに関しては,昭和61年8月1日付け通商産業省産業政策局消費経済課長通知に基づいた処理(提携ローン方式をとる場合で,当該契約書面を消費者に交付する時点において利用する金融機関が未定であるため,同書面に金融機関名を記入することが困難な場合には,消費者に対し提携金融機関のリストを同書面に記入しておき,当該リストの中から利用する金融機関が決定されること並びに決定された金融機関の名称が消費者に通知される時期及び方法について説明しておくこと。そして,利用する金融機関が決定したときは,可及的速やかに当該金融機関の名称を書面により,支払請求より遅れることなく通知すること。)が,乙2の2の「ご返済予定表」(平成16年6月5日付け)を原告から被告宛に送付する方法によりなされた。

(8)  平成16年6月5日,●●●は,本件販売業者の本社に電話連絡を入れたが,対応に出た●●●から,被告本人によって同社名古屋支店宛に再度連絡を入れるように指示された。

(9)  同月7日に,●●●は,同社名古屋支店宛に3回(午前9時5分頃と同9時28分頃と同9時40分頃に,それぞれの通話時間が1分37秒,1分42秒,58.5秒)電話連絡を入れた。ちなみに,それらの電話連絡の際のやりとりに関しては,本件売買契約の解除を求めたのに対して,同社側の応対者がクーリングオフの期間経過を理由に全く取り合ってくれなかったため,「必要もないのに売るとはどういうことか。」,「契約の方法が強引ではないか。そういうやり方は違法ではないか。」という抗議に切り替えたが,それでも希望するような内容の回答は何らなされなかったというものであった。

(10)  同日,●●●は,原告のお客さま相談室に1回(午前10時37分頃で,通話時間が4分22.5秒)電話連絡を入れ,対応に出た社員から,クーリングオフの手続きをするにあたって必要な,委任状の作成や,内容証明郵便の送付等に関する具体的なアドバイスを受けた。

(11)  同日,●●●は本件販売業者の本社宛に電話連絡を入れ,対応に出た●●●との間でやりとりが交わされた結果,同社の「相談・苦情受付票」に,「(被告の)息子と名乗る者から,内容証明をJCSとアプラスに送り支払を止めると伝言あり。AM10:53(●●●)」とのメモが記録された。

(12)  本件の販売担当者であった●●●は,証人尋問において,被告側から苦情の申出があったことに関して会社側からは何も確認等されておらず,また,被告側からの電話連絡に対して,自分は一度も応対していなかった旨を明言した。

2  上記認定事実(1)ないし(7)によれば,請求原因事実が認められる。ちなみに,「ご返済予定表」(乙2の2)の記載内容が不明確である点は否定できないが,クレジット契約の申込み時点で被告に交付されていた書面中の「クレジットの仕組み」の説明事項の内容を加味して検討すると,通知すべき最低限度の記載内容は存するものと解するのが相当であると思料する。

3  次に,(仮定)抗弁事由に関してであるが,上記認定事実(9)ないし(11)によれば,平成16年6月7日の時点で,代理関係を明らかにしたうえで,口頭ではあるが,●●●から本件販売業者側に対して,本件売買契約を解除(クーリングオフ)する旨の意思表示が明確な形でなされた事実が十分に推認できると思料する。

4  そこで,(仮定)再抗弁事由に関してであるが,本件がクレジットを利用した訪問販売であることに照らせば,特定商取引法5条所定の記載内容のうちの「代金の支払方法に関する事項」に関しては,「立替払方式ではなく,提携ローン方式をとる旨」及び「取扱金融機関名」も必要的記載事項に含まれると解するのが相当であると思料するので,「ご返済予定表」(乙2の2。作成日付けは平成16年6月5日)が被告宛送付された時点からクーリングオフが可能な期間が進行を開始したこととなる以上,前項の結論を前提として判断すると,その余の主張事項について検討するまでもなく,上記クーリングオフが可能期間内になされたことは明らかであると結論付けられる。

最後に,書面によらざるクーリングオフである点について検討するに,そもそもクーリングオフの規定は消費者保護の規定であることに加えて,期間内に申込みの撤回ないし契約解除の意思表示が明確な形でなされた場合には,販売業者の不安定な地位を心配する必要はないと解される(付言しておくと,①本件販売業者から被告に対して交付された書面が明らかに特定商取引法所定の書面でないことや被告側からの苦情の申出に対して同社側で同法所定のクーリングオフの要件が充足されているか否かを詳細に検討したうえで応対した形跡が全く窺えないことに照らせば,本件販売業者の同法所定の各規定の理解不足による極めて不適切な対応であったと言えるか,更には,②販売担当者であった●●●が,被告側から苦情の連絡があったことについて,会社側からは何も確認等がなされていないだけでなく,自分は一度も被告側からの電話連絡に応対していない旨を明言したことに照らせば,極めて不誠実な応対しかしないといった同社全体の企業体質が推認できることからしても,同社の不安定な地位を心配する必要は全くないと解される)ことに照らせば,口頭による本件クーリングオフの有効性を認めるのが相当であると思料する。

5  結論

被告の代理人(息子)である●●●から本件販売業者に対してなされた本件売買契約解除の意思表示は有効であると結論付けられるので,抗弁権の接続により,本件請求には理由がないこととなる。

(裁判官 藤本憲司)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例